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第一章 《這う前に〈How many?〉》
〈0〉
おはよう。
今日もいい朝だね。
ああ、そうそう、
愛してる。
〈1〉
局外荘での朝も、もう数えきれない程になる。と言っても、これはぼくのいい加減な性格故のサボり癖であって、実際には一ヶ月を過ぎたくらいの時期だ。
オンボロアパート局外荘(きょくがいそう)。
風呂なし、洗面所なし、トイレ共同、駐車場付き。一階建て。右から一〇一号室、一〇二号室、一〇三号室、一〇四号室。以上四部屋。その全てが三畳間ときている。
ちなみにぼく、木井園樹の部屋は一〇三号室。
今にも崩れそうなその外見と、およそ一般的な生活とはかけはなれた生活スペースの狭さ。しかしなんと、家賃はびっくり五千円。九州からコッチ(埼玉)に来たとき、早速契約した理由がそれだ。
まあ、ぼくはクールでスマートな性格だから、部屋が狭いとか、外観がボロボロだとか、住人のメンツが濃すぎるだとか、そんな程度のものは大して気にしてはいない。
さて、と。ぼくはようやくまぶたを起こす。実をいうと目覚まし時計は随分前に電子音を鳴らしていて、ぼくの意識はとうに目覚めていたのだが、昨日の夜はぼくの親愛なるマイワイフと寝る間も惜しんでイチャラブしたので、今朝はいまいち寝不足だったのだ。
………後半は嘘だった。
「────と、ぼくの脳は今日も正常に働いております」
呟いて、ぼくは畳から、ゆっくりと体を起こした。
三畳間。シミのある薄い壁。窓から差し込む朝の光が、部屋中に舞うほこりを照らす。完膚なきまでにがらんどうな空間。おかげで三畳間でも、少しだけ広々とした気分になれる、そんな部屋。
ぼくは右腕に巻いてある腕時計を確認する。液晶画面には、角張った字体で「十時四十」と写っていた。
「………なんと、昼じゃないか」
ぼくは寝起きの頭をかきむしりながら、つたない足で玄関のドアを開ける。
まだ寝間着のパジャマ姿(そもそもぼくはパジャマを持っていなかったので、薄地のルームウェアだったのだが)で家の外に出たのには、しっかりとした訳がある。
ぼくの部屋には洗濯機なるものが一つも置いてなく、ぼくの服は昨日のうちに、隣の部屋、洗濯機を所有する一〇四号室の住人に預けておいたのだ。無論ぼくは断ったので、決して図々しい真似ではないのだが、お相手さんが、人助けの精神。つまりはボランティアでやっているとのことで、聞かなかった。
事実、局外荘の住人のほとんどは、一〇四号室の住人に洗濯を任せている。
自室である一〇三号室をあとにして三秒後、ぼくは彼女の住む一〇四号室に着いた。
ぼくはいつもと変わらぬ風に、あくまで平常心を保ちながら「コンコン」とノックをする。
しばらくしないうちにドアが開いた。
「おはようございます」「ノックは三回」
間髪入れずに、改行入れずに、そんなことを言われた。
「二回ノックはトイレだよ。それともなんだ? きー坊お前、《Water Closet》と《Woman is Chamber》を掛けた上でやったことなのか? それが面白いと思っているのなら、それは女性に対するこれ以上ないまでの冒涜だから、今すぐ辞めることを強く勧めるよ」
もちろん、そんなつもりではなかった。
葛瀬むいみさん。ぼくと一つ違いで二十歳のおねいさん。説教好きで喧嘩っ早い。しかしずば抜けて面倒見がいい。そんな性格。
昼だから当たり前だが、私服に着替えているようで、上から下まで自衛隊のような迷彩服だった。(これがむいみさんのデフォルトコスチュームだ)
「………洗濯物を受け取りに来ました」