悪魔がいない街
切り忘れたテレビの音で目が覚めた
少しの居眠りだった為、自動消灯は稼働しておらず液晶には神妙な面持ちをしたニュースキャスターが映し出されている
『今日未明、〇〇県の〇〇町にて遺棄された二十代男性の遺体が発見されました』
『この県では半年前から――』
テレビの電源を消す
寝起きから嫌なニュースだ。ふらふらした足取りで冷蔵庫に向かうと飲み物が切れていたので、コンビニに行こうと私は財布と携帯を持ち玄関に向かう
「あ、鍵忘れた、まぁいいや。」
別に盗られて困るものもないし、物に対して執着もないし。
そんなことを心の中で呟き、私は家の鍵も閉めずに家を出た
「ねぇ、隣町のあの事件、また被害者が出たんだって。」
「あーさっきラインニュースで見た、いい加減こっちに来そうで怖いよなー」
そんな話をして通行人は私の横を通り過ぎる
この県には、悪魔がいる。
私が住んでいる、この街以外に。
買い物を終えコンビニを出るとなんとなく向かいにあるビルが目につく
テナントに出されていて人は出入りしない、少し古いため興味を持つ人すら居ない小さな建物だ。
私は少し溜息をついて階段を登った
重い扉を開けると少しだけ生ぬるい風が皮膚に触れる
この建物は古いので屋上はボロボロだ、でもそんな屋上に登り景色を見るのが私のちょっとした楽しみだった
そうしていると、足音が聞こえてきた
「あ、いた!最近よく居るよね。好きなの?ここ」
女の子はそう聞いてくる
「…割と」
「割とかー、その割にはいる気がするけどね」
話しかけて来た女の子は、最近この屋上で会うようになった女の子だ
「暇なの?私と話してよ」と女の子が声をかけてきて、それから私と彼女はよくここで無駄話をすることが多くなった。
私とはまるっきり合わないタイプだし、いつもこの子が一方的に話しかけてくる感じだが、なんとなく嫌いではない時間だった。
「君、いっつもここにいるよね、友達とかいないの?」
「友達なんて高校卒業したらいなくなったよ。…そもそも、私は人と馴れ合いたくない」
「中二病引きずってるタイプ?いい加減やめなよー。」
彼女はニヤニヤしながらそういう
「元からよ。こんな性格」
「ふーん、…でも、私は割と好きだな、他人に流されないっていうか、」
「…そう。」
手すりに手を置き街を眺める
「今日はいつもに増してつまんなさそうだね。嫌なことでもあったの?」
彼女は私の顔を覗き込んで聞いてくる
「……そうかもね」
「…隣町の殺人事件とか、”悪魔”とか。気が滅入る話が好きよね。人って。」
「疲れた。」
そう呟くと、彼女は表情を変えず聞いてくる
「君はさ、天国があるならどんな場所だと思う?」
変な質問だ。
「……天国なんてないよ」
「死んだら悪人も良い人になるとか、天国は楽しいとか」
「人間ってそれぞれズレあるし、そのせいで仲悪くなるし」
「それが全て矯正されて皆仲良くなるなんて、そんなの自分じゃない。もし天国があるなら、そこは間違いなく地獄だよ。」
普通の人なら宗教を疑ってもおかしくないような話に私はそう返す
「ふーん、…君ってほんと変な子だね」
彼女は少し嬉しそうに返す
「…でもさ」
彼女はぽつりと落とすように
「もし天国があるなら、何かの奇跡の重なりで皆が幸せな世界があるならさ」
「今のこの時間みたいな感じなのかもね。」
と呟く
「……そうかもね。」
頭がボーッとする
言葉一つ一つをこぼしていく度に目の前に霧がかかる
「……。」
「ねえ、――」
私は口を開く
「ん?」
彼女は微笑む
「……わたし、死にたいなぁ。」
私が呟くと、彼女はニコッと笑って手を差し伸べる
彼女の手を取ると、彼女は私を抱きしめた
(……あれ)
(私、この子の名前、知ってたっけ…。)
(……まぁ、いいや。)
きっと私は、この街の最初の犠牲者だ。
コメント
2件
この女の子が「悪魔」なんですか、、いや、傍から見たら悪魔なだけで、この物語の主人公にとっては、きっと天使なんでしょうか。それにもしかしたら、女の子は最初から存在すらしていなくて、主人公のイマジナリーフレンドだったり。なかなか人に吐き出せないような(吐き出す相手すらいない)感情を女の子に伝えて、「自害したっていい」と自分に言い聞かせて… あらすじの「私が住んでいる街以外に悪魔がいる」というのは…🤔