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練習試合の相手は、県内でも屈指の強豪校。コート脇に並んだ相手チームの威圧感に、部員たちの間に緊張が走る。
「……よし、行くよ。紗南ちゃん、見てて」
凌先輩がコートに入ると、ベンチからは女子部員たちの黄色い声が上がった。
その期待に応えるように、凌先輩は鮮やかなサービスエースを連発する。無駄のないフォーム、相手の逆を突く正確なショット。それはまさに「華麗」という言葉がぴったりだった。
「……チッ、あんなの見せ球だっつーの」
隣で出番を待つ遥が、ラケットのガットを強く叩きながら吐き捨てた。
「えっ、でも凌先輩、すごく安定してるよ?」
「安定じゃねーよ、あんなの安全圏で遊んでるだけだ。見てろ、俺が本当のテニスを教えてやる」
遥の番が回ってくると、彼は最初からフルスロットルだった。
相手の強烈なサーブを、逃げるどころか一歩踏み込んで力技で叩き返す。
「らぁっ!!」
咆哮と共に放たれるショットは、確かに威力がある。けれど、その気負いすぎたプレースタイルは、素人の私が見ても危なっかしかった。
「遥、そんなに突っ込んだら……!」
私の不安が的中した。遥は際どいコースに放たれたボールを無理やり拾おうとして、大きく体勢を崩した。
「アウト! 15-40(フィフティーン・フォーティ)!」
審判のコールが響く。遥は膝をつき、肩で荒い息をつきながら自分の右足首をちらっと見た。
「……おい、遥。無理すんなって言っただろ」
隣のコートから凌先輩が声をかけるが、遥はそれを無視して立ち上がる。
「……うるせー。まだやれる」
その頑なな後ろ姿を、小谷先生が審判台から無表情で見下ろしている。
スコアを書き込む私の手は、不安で小さく震えていた。遥の足が、明らかにさっきから引きずっているように見えたから。