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#溺愛
桜咲かな
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桜咲かな
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#百合
第四十二話 残された違和感
駅の名前を調べてから、数日が経った。
彼は、あの日からずっと気になっていた。
写真に写っていた駅。
そこへ続く道。
そして、自分の中にある、説明できない感覚。
知らない場所のはずなのに、なぜか知っている。
そんな感覚が、最近になって増えていた。
その日の夜。
いつものようにサイトを開く。
彼女からメッセージが届いていた。
『あの駅、調べてみた』
『何か分かった?』
『昔の写真が少し出てきた』
彼女から、何枚かの写真が送られてくる。
駅の外観。
ホーム。
周辺の道。
どれも今とは少し違っている。
彼は一枚ずつ確認した。
そして、ある写真で指が止まった。
駅前のベンチ。
写真の端に、小さな傷がある。
昨日見た写真と同じだった。
『このベンチ』
『うん』
『前に見た写真にも写ってた』
『やっぱり同じ場所なんだね』
二人は写真を見比べる。
偶然にしては、重なりすぎている。
彼は何かを思い出そうとした。
けれど、頭の中に浮かんだのは、
ほんの一瞬の光景だけだった。
夕方。
駅のホーム。
誰かが隣にいる。
その人が何かを言っている。
「大丈夫だから」
そこで、映像が途切れた。
彼は目を開いた。
『今、少し思い出した』
『何を?』
『駅にいた気がする』
『誰と?』
その質問を見て、彼は手を止めた。
分からない。
いや――
分からないというより、
思い出したくても思い出せない。
『分からない』
そう送る。
彼女からは、すぐに返事が来なかった。
しばらくして、
『無理に思い出さなくてもいいよ』
と届いた。
彼はその言葉を見て、少しだけ安心した。
『ありがとう』
『でも、気になるよね』
『うん』
『私も』
二人はそれ以上、過去について話さなかった。
代わりに、いつものような話をした。
学校のこと。
最近見つけた面白いもの。
くだらない話。
そんな時間が、彼には心地よかった。
だからこそ、不思議だった。
まだ顔も知らない相手なのに。
なぜこんなにも安心するのだろう。
その夜。
彼はスマートフォンを置いて、
部屋の明かりを消した。
眠りにつく直前。
また、あの声が聞こえた。
「忘れないで」
誰の声なのか分からない。
でも、その言葉だけは妙に胸に残った。
彼は目を開けた。
暗い部屋を見つめる。
そして、自分でも気づかないほど小さな声で呟いた。
「……誰のこと?」
答える声は、どこにもなかった。
コメント
1件
うわぁ……このエピソード、すごく静かで切ない空気が流れてた🥀 「知らない場所のはずなのに、知ってる」って感覚、すごく分かる気がする。記憶の奥にしまい込んだ何かが、そっと顔を出す感じ。 そして「まだ顔も知らない相手なのに、なぜこんなにも安心するのだろう」ってところ、胸がぎゅってなったよ。クラリスさんの描く距離感、すごく繊細で好き。 最後の「忘れないで」って声も、何か大事なことを伝えようとしてるみたいで気になる……。次の話、絶対読みます🌙🤍