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#溺愛
桜咲かな
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桜咲かな
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#百合
第四十三話 思い出せない理由
翌日。
彼は昨日の夜に見た夢のことが、
ずっと頭から離れなかった。
「忘れないで」
あの声。
誰が言ったのか。
何を忘れないでほしいのか。
どれだけ考えても分からない。
学校から帰ると、彼は机の上に写真を並べた。
交差点。
店。
ベンチ。
そして、駅。
一枚ずつ見ていると、あることに気づいた。
全部、同じ日の出来事らしい。
でも、その日の記憶だけが、
自分の中ではところどころ抜けている。
「……なんでだろ」
写真をめくる。
そこには、自分が写っているものもあった。
けれど、隣にいる人物はどれも顔が分からない。
意図的に隠されているようにも見える。
彼は一枚の写真を手に取った。
駅へ続く道。
その写真を見ると、また頭の奥が痛んだ。
今度は、さっきまでとは違う。
誰かと歩いている。
その人が笑っている。
自分も笑っている。
会話の内容は聞こえない。
ただ、二人の間に流れていた空気だけは、
不思議なくらい温かかった。
そして――
急に景色が途切れた。
彼は写真を机に置いた。
「……まただ」
最近、何度も同じことが起きる。
思い出せそうになる。
でも、そこから先だけがない。
彼はスマートフォンを手に取った。
『昨日の駅の写真、もう一回見せてもらえる?』
しばらくして、彼女から返事が来た。
『もちろん』
写真が送られてくる。
彼は自分の写真と並べて見比べた。
すると、二枚の写真の隅に
同じものが写っていることに気づいた。
小さな青い看板。
『これ、同じ場所じゃない?』
『ほんとだ』
『駅に行く途中にあるみたい』
『じゃあ、ここを通ってたのかな』
『たぶん』
二人は写真を見ながら、少しずつ道を繋げていった。
交差点から店。
店からベンチ。
ベンチから駅。
まだ確かなことは何も分からない。
それでも、少しずつ形になっていく。
『ねえ』
彼女が送ってきた。
『うん』
『あの日のこと、思い出したい?』
彼は画面を見つめた。
すぐには答えられなかった。
思い出したい。
でも、少し怖い。
理由は分からない。
ただ、思い出そうとすると胸の奥がざわつく。
『分からない』
正直に送った。
『そっか』
『でも、いつかは知りたい』
『私も』
それだけの会話だった。
けれど、彼はその言葉を何度も読み返した。
「いつかは知りたい」
その気持ちは、少しずつ強くなっていた。
その夜。
彼は昔の自分のことを調べてみた。
写真。
記録。
残っているものを一つずつ確認する。
そして、古いデータの中に
一つだけ見覚えのないファイルを見つけた。
日付は、写真に写っていた日の翌日。
ファイル名は、
「病院」
それだけだった。
彼はしばらく、そのファイルを開けずにいた。
なぜ自分がその名前を見て怖くなったのか。
その理由すら、まだ思い出せなかった。
コメント
1件
第43話、読ませてもらいました……。 記憶の隙間を埋めようとするたびに、胸の奥がざわつく感じ、すごく伝わってきました。写真を並べて少しずつ形になっていく過程も、青い看板みたいな小さな手がかりも、不気味なくらい丁寧で……最後の「病院」ってファイル名、一瞬息が止まりました。思い出したい気持ちと怖い気持ち、両方あるのがすごくリアルで、続きが気になって仕方ないです🤍🥀