テラーノベル
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2人の神様の気に充てられて気絶した俺をクロノアさんが運んでくれたようだった。
自分が寝てる寝台で目を覚ました時、そばで腕を組んで目を閉じてる姿を見て神様も寝るんだなとか、やっぱり綺麗な顔してるんだなとか思っていた。
「(昔から美しいものなどに対して畏れを感じるとは言うけど、この人のはまさにそんな感じだよな)」
まじまじと見ていると、ぱっと瞼が開き翡翠と至近距離で目が合った。
「わっ」
「…起きたんだね。体は大丈夫?」
驚きもせず俺を見るクロノアさん。
クラクラするような感じはない。
頭もぼーっとしてないようで小さく頷いた。
「よかった。…ごめんね、俺とあの人の言い争いに巻き込んじゃって」
「ぇ、いえ…元々俺がなんかやらかしちゃったのが悪いんでしょうし、あなたが……クロノアさんが謝ることなんて何も…」
「……」
つい、と目元を撫でられる。
ヒトとやはり違う冷たい手に目をきゅっと閉じた。
「優しいんだね」
「いや…俺は…、こんな捨て置けばいい俺のことをここに置いてくれたままのあなたの方が優しいですよ」
「俺が?」
「生かさず殺さず、ですけど…本来ならすぐに追い出されててもおかしくないのに。…男の俺には何もしてあげれることないですし」
「……あぁ、そういう」
生贄には気娘だというのは古い考えだと思うけど、男でしかもこんな普通で何の取り柄もない平凡な俺を置いたままにする理由が分からない。
ただの気まぐれなのか、何か意味があるのか。
「確かに俺は最初、トラゾーに興味もなかったし正直面倒なもの押し付けられたって思ってたよ。ここで死ぬのだけは変わらず駄目だけど。ここを出た後のことは知らないって」
「言ってましたもんね…」
心底どうでもいいという顔。
それが今じゃ、こんなに近い距離で話すくらいになっていた。
「…トラゾーと、ともだちになりたいんだ俺」
「お、れと…?」
「ぺいんとほどの仲になれるとは思ってない。あいつは本当にすごい奴だしね」
目元を撫でていた手が頬を撫でる。
「っ、ン…」
「トラゾーは俺のことを、まだ怖い?そんな俺とともだちになるのは嫌?」
困ったように下がる眉と寂しそうにする翡翠色に首を振った。
「……俺、あなたのことが分からなくて、死ぬってことが怖くて……それに今まで友人と言える存在がいなったし、こんなに誰かと一緒にいたことがなくて…戸惑ってるんです…」
周りにいる村人たちは俺のことを腫れ物、化け物扱い。
努力はしてきたけど、結局無駄なことなら、傷付くだけならしない方がいい。
結果が体のいい厄介払いだ。
少しでも打ち解けたのかと思ってたのは俺1人だけだったし。
「クロノアさんに対して、まだ信じきれてないと言いますか…俺自身が、…駄目なんです」
一方的に思いを向けても結果裏切られる。
ぺいんとはそんなことしないって勝手に思い込んでるだけでいつか飽きたわ、とか言われて来なくなるかもしれない。
「……トラゾーが怖いのはひとりになることでしょ」
「!!」
「ヒトが死ぬことに恐怖を感じるのは当たり前のことだよ。忘れられてしまうということも、…それはカミも同じだよ」
「信仰されなければ、廃れてしまう、という…?」
「そうだね。消えていくか、荒神になるかのどっちかかな」
クロノアさんがずっとこの姿でいるのは、この人のことを信仰し続ける人間がいるから。
それはきっとぺいんとも、らっだぁさんも。
「俺はトラゾーをひとりになんかしないよ。ぺいんとだって友達できたって喜んでるし」
怖い。
それを信じていいのかが。
「…気まぐれで、言ってるんじゃないですか…?」
「ぺいんとたちにはそう言われるけど、俺って結構一途だよ?」
「ともだち…」
ここを出た時、俺はまたひとりになる。
出ようと思ってもやはり外には出れないし、出方を聞いてもはぐらかされる。
あんなに勝手にすればと言われてたのに。
どのくらいここにいるか感覚としても分からないほど長くいる気がする。
そのせいで、ここから出ることを惜しいなと思う自分がいるのも事実だ。
「…やっぱり嫌?怖い俺とはなりたくない?」
すっと離れていく手。
俺はそれを慌て握った。
「え…?」
「嫌じゃ、ないです…」
ここを出てしまったら、本当に待っているのが”死”だけになる。
自分の村がどうなったのかも分からず、かと言って確認することもできず。
「本当に?」
この神様の真意は人間の俺には読み取れない。
けど、怖い怖いと逃げようとばかりする俺から逃げずこうやって向き合ってくれている。
ここで突っぱねて、じゃあもういいよと追い出されたら。
「(嫌だ…)」
結局、ひとりになるのが怖い俺自身の為に。
人間は自分が1番可愛いのだ。
自分さえ良ければ他人なんてどうなろうがどうでもいい。
それは、村人たちによって身を以て感じさせられた。
「クロノアさんと、仲良くなりたいです」
神様を利用しようとするなんて罰当たりもいいとこだ。
でも俺の中の空っぽになってるものを埋めてくれるなら、誰でもいい。
埋めてくれる人が増えるならそれはそれで嬉しいことだから。
最低なことをしてる。
けどこの神様から俺に向けられる”なにか”が戸惑いはあれど嬉しくて。
「…じゃあ、俺とトラゾーは今日からともだちだね?」
「はい、ぇっと…よろしくお願いします」
どう言っていいか困りながらも笑うと、クロノアさんも笑い返してくれた。
そんな微笑む顔も綺麗だった。
─────────────────
トラゾーと”ともだち”になれた。
ひとりが怖いだけの彼を俺自身に縛りつける為に、確実に少しづつことを進めていかなければならない。
初めて見せてくれた笑った顔は可愛いかった。
戸惑い気味ではあったけど、俺にだけ向けてくれたものだったから。
自分でも驚くくらいトラゾーに執着している。
この初めての感情を教えてくれた彼のことを手放したくない。
段々といろんなものが曖昧になってきているトラゾーをコチラ側に引き込む絶好の機会だった。
「いや、単純に嫉妬しただけなんだけどね」
全てを俺が握っている。
俺が飽きたと言ってトラゾーをここから追い出すのも、自身と”同じモノ”にしてここへ永遠に縛り付けるのも。
「俺次第だ」
自分の知らなかった一面をどんどん知っていって面白い。
これも全てトラゾーのお陰だ。
厄介なものと思ったのは訂正しなきゃね。
そもそもトラゾーは俺に捧げられた生贄なんだから。
俺が彼に何をしようが誰も文句は言えない。
生も死も、全部俺の自由だ。
「笑顔だけは壊さないようにしねぇと。ぺいんとが怒ったら面倒だし」
優しいって言ってくれたのもトラゾーが初めてだ。
「カミに優しさなんてないのに。俺たちは自分の思うがまましてるだけだよ」
それを”優しい”と言えるのは人間だからなんだろうな。
感性のズレが出るのは仕方のないことだし、そのうちトラゾーの方が俺と同じになる。
同じにさせる。
「”ともだち”の為だからね」
同じにするにはヒトの身体に負担がかかるけど、丈夫そうな彼ならきっと耐えれる。
そうなれば俺の名前だってたくさん呼んでくれる。
笑顔は壊さないようにする。
トラゾー自身が壊れない程度にはね。
ぺいんとも笑ってる顔が見れれば、いいってことだろうし。
作り物の笑顔に俺も興味がないから、そこのとこはうまいことするつもりではいる。
どんなカオで俺のことを呼んでくれるのか。
きっと最初は嫌がるだろうけど段々と抵抗もしなくなるだろう。
きっとその顔も可愛いんだろうな。
「…あっそういえば、猫以外で可愛いって思ったのもトラゾーが初めてだ」
愛玩動物とはまた違う意味で、可愛いと思ってるけど。
「…それなら早い方がいいな」
気に充てられただけで気絶されたら、直接注ぎ込むとなったら大変だから。
手っ取り早くトラゾーの身体を慣らさせないと。
「俺にこんな感情教えてくれたお礼もしなきゃいけないからね」
その為にトラゾーをあの場所へ連れていかないと。
流石に俺の神域にはらっだぁさんも入れないから。
──────────────
ある日、クロノアさんに連れて行きたい場所があると言われて疑問に思いながら引かれる手をそのままにしていた。
トラゾーだけ特別に連れて行ってあげると言われて、元々あった好奇心が負けた。
入っちゃ駄目だと言われていた場所へも、絶対に駄目なとこ以外は出入りしてもいいと言われるようになって俺に心を許してくれたってことなのかなと少なからず感動していた。
それに対して俺もきちんと誠意ある態度を取らないといけないと、少しずつクロノアさんのことを信頼していった。
手を引かれて山の中へと入っていき、気付いた時には神社でいう奥の院。
神域と言われるような、建物の前まで来ていた。
どうやって来たのかは覚えていない。
「ここですか?」
「うん。そうだよ」
建物の周りには季節関係なく様々な花が咲いている。
あの池で見たこの世のものではない花も咲いていた。
「桜と藤が一緒に咲いてる…すごい綺麗…」
淡い薄桃の色をした桜と濃淡の紫の藤が重なるようにして咲き誇っていた。
微かに吹く風で揺れる桜の花弁がちらちら散っている。
藤の花は互いを絡ませながら揺れていた。
ただ、満開の花びらたちは減ることはなくその圧倒的な美しさをその場で魅せていた。
「俺をこんな綺麗な場所に連れて来てよかったんですか」
「トラゾーにだけは特別に教えてあげたかったんだ。俺が見ても咲いてるなぁくらいにしか思わないけど、きっときみなら喜んでくれると思ったんだ」
微笑むクロノアさんに笑顔でお礼を言う。
「すごい綺麗です…。こんな美しい桜も藤も初めて見た……ありがとうございます、本当に嬉しい…」
「喜んでもらえてよかった。連れて来てよかったよ」
花に酔うとはこういうことだ。
ふらりと、少し眩暈がしてよろめいた。
「おっ、と…大丈夫?桜とか見上げすぎたのかな?」
「ごめんなさい…なんか、頭がぼーっとして…」
「…ちょっと中で休もうか」
肩を支えられながら建物の中へと誘導される。
建物の中はクロノアさんが使っている寝室とよく似ていた。
一度だけ手の離せなかったクロノアさんの代わりに頼まれた物を取りに行った時に入ったから。
「よっ」
寝台に寝かしつけられ少し落ち着く。
「…知ってる?ここって俺が1番自分の神力出せる場所なんだ」
「神社の奥の院…みたいだからですか…?」
「人界で言うね」
許された者しか立ち入れない神聖な場所。
神域であるここに、俺が立ち入ってよかったのだろうか。
「俺入ってよかったんですか…?」
「特別だよって言っただろ。俺が許してるからいいんだよ」
「そう、ですか……あの、本当にありがとうございます…あと、えっと…今まで不躾な態度をとってしまってすみませんでした…」
「トラゾーは悪くないでしょ?当たり前の態度だよ。それに俺も態度悪かったし。おあいこ。ね?」
微笑む顔は優しくて。
もっと早く心開いていたら、よかった。
「それでトラゾーにお願いしたいことがあるんだ」
矢継ぎ早に言われながらもなんだろうとクロノアさんの方を向く。
「?こんな素晴らしいものを見せてもらったんです。俺にできることならなんだってしますよ」
「じゃあ、俺の番になって」
「…………えっ、つ、がい…?」
番?
夫婦ということ?
「そう。俺とずっとここにいて」
きゅっと細くなる翡翠。
見覚えのあるそれ。
「俺に心ってものを教えてくれたトラゾーのことが好きになっちゃった。慈愛とか友愛じゃないよ?俺のモノにしたいくらい愛しちゃったんだ」
「あ、ッ⁈」
寝ていた寝台に縫い付けられ、クロノアさんに覆い被さられる。
「大丈夫。初めは身体が驚くかもしれないけどそのうち慣れて、トラゾーなら気持ちよくなれるよ」
「ゃ!やだっ…そ、そんな…ッ」
「それにきみは元々俺の生贄、供物でしょ?だったら俺がそれをどうしようが俺の勝手だろ。…そう思わない?」
「ぁ…あ、…」
そうだった。
俺は初めからこのカミサマのモノとして捧げられた。
生きることも死ぬこともクロノアさん次第だった。
「既にヒトから離れてるトラゾーを留める為にも神気を注がなきゃきみは自身を保てなくなる。ここまで保ったのはトラゾーが混ざりモノだから」
らっだぁさんが言ってたやつだった。
「普通は女の人に憑く犬神がきみに憑いちゃったんだよ。男であるからトラゾーは正気を保ててた。突然目が緑色になったのはそういうことだよ」
「ぅそ…」
村人が言ってた化け物っていうのは本当のことだった。
「俺のとこにずっといたから憑いてる犬神もトラゾーと完全に同化しちゃったっぽいけどね」
にこりと笑っていたクロノアさんが無表情に変わる。
「けど所詮はヒトだ。心身のカタチが保てなくなっていずれか”きみ”は消える」
「っ、!」
「俺ならそれを止めれる。だから俺の番になろうね?」
はい、分かりました。なんて言えない。
頭が追いつかない。
「俺とトラゾーの為に、ここに俺の注いであげる」
肌蹴た着物の上から下腹部を撫でられる。
「ひぅっ…!」
「なんでもするって言ったのはトラゾーだろ?それに1番最初に言ってくれたよね?何か手伝いをさせてくださいって」
薄れていた記憶が呼び起こされる。
出会った時、俺は確かにそう言った。
「今の俺には必要なことだから手伝ってくれるよね?」
俺を見下ろす翡翠に怯えた自身が映る。
「トラゾー」
「ッ、ぁ…」
「これが、カミというモノだよ」
コメント
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桜の花言葉 →純潔(散ってるということは…?) 藤の花言葉 →決して離れない(ツルが頑丈に絡みあうさまから、ということは…?)