ん?なんか後ろから人の気配が…?
「ねぇ、そこの君」
突然後ろから甘い女性の声が聞こえて、俺は思わず震えた。甘い声…俺は咄嗟に彩さんを思い浮かべたのだけれど、あの人なら俺のことを「君」なんて今更呼ばないし、こんな震えるような声はでない。
「どちら様ですか…?」
「…ふふ。びっくりした?私、静野魅麗って言うんだけど…」
「は、はぁ…」
これもしかして、逆ナンか怪しい勧誘…?
お姉さんは、俺と大して変わらない身長で、スタイルが良かった。黒い服に身を包み、光の無い赤い瞳が、妖しさを増す。
「君、うちのビスメルを助けてくれたんですってね。どうも、ありがとう」
「いや、当たり前のことをしただけなので…」
ということは、この人、イポクリジーアの人ってことかな?
「いやいや、そんな。あの子は今日あなたに忙しくて会えないから、代わりに私とお茶でもどう?美味しいお店知ってるの」
「へ、へぇ…」
「遠慮しなくていいのよ。お礼だもの」
まぁ、そこまで言われちゃ、ね…せっかく暇だし。
というか、この人といるとなんか頭がくらくらするような…?やっぱりところどころ彩さんみたいな感じが…
「じゃあ、お言葉に甘えて…」
「ちょっと待ったぁー!!」
「え?」
「チッ」
後ろから聞こえたのは、あどけない少女の声…いや、彩さんでした。なぜここに?
と言うかさっきお姉さん舌打ちしましたよね!?
「凪野くん…私は、あなたの上司として、そして水梨ちゃんの上司としてその人とお茶をすることを許すわけにはいかないの!」
「はい?」
なんで水梨が出てくるんですか、そこで。
「あら。久しぶりじゃない、紅花魁。あなたはちっとも変わってないのね」
あれ?お知り合い?
「どう言う意味よっ。柘榴花魁。あなたちょっと老けたんじゃない?」
「はぁっ!?そっちは相変わらず子供みたいな見た目で…男が釣れないんじゃない?」
「失礼な。これでも吉原一の花魁だったのよ。あなた、私がいなくなってから売れ出したんだっけ?埋もれてたんでしょー?」
「あたしは埋もれてなんかないわよ!!ただ、どうしてスタイルのいいあたしより、あんたを選ぶのかって…男ってみんなどうせ、あたしみたいな女性が好きなんだから!ねっ、君!!」
「お、俺ですか…?ま、まぁ、嫌いでは…」
「ひどい!凪野くん私を裏切るっての!?」
やばい。完全に女の戦いに巻き込まれてる…よし、逃げよう。
「んでぇ?結局紅花魁、永遠を共にする殿方は見つかったの?」
「ゔっ。ま、まだ…だって都月様、私と約束したのに、見つけてくれないんだもん…」
「ふーん?ほら、所詮はあいつだって一夜の戯れで酔ってただけなのよ!!」
「なっ!と、都月様はそんな軽薄な男じゃないもん!!」
「わからないじゃない、そんなの」
「だってぇ…」
やばい、彩さんが圧されてる…まぁ斗癸さんにも口喧嘩で勝ててなかったもんな…
どうしよう。これは止めるべきなのか?逃げるべきなのか?いや、あの二人がここでガチバトルし始めたらやばいぞこれ…
街が崩壊しかけない!!
「だって、と、都月様は、私に…」
「声が小さい。聞こえないんだけどー?」
「私に新しい名前をくれたもんっ!だから紅花魁って呼ばないでくれる!?」
「私だって名前もらったから!!もう柘榴じゃないの!」
「はぁーん!?ほんとはもらってないんでしょ!!張り合おうとしちゃって!」
「も、もらったもんっ!静野魅麗っていう素敵な名前!」
「私だって、甘愛彩っていう名前もらったもん…」
やばい、これはやばいぞ…
いや、どっちの方向に進んでるのこれは!!
「何かお困りのようだね…凪野くん…」
「あ、と、都月さん!?そうなんです、あの二人が…」
「あー…任せて。君は先に帰ってていいから」
「いいんですか?」
「まかせて」
大丈夫なのか…?こんな温厚な人に恐ろしい女の戦いを止められるのか…?いやでも、トップだし…??
とヒヤヒヤしながら見ていると、都月さんは二人の元へ…
「こらこら、彩。僕の言った任務は喧嘩じゃないでしょ?凪野くんと彼女の接触を避けること」
「はっ!と、都月様ぁぁ…ごめんなさい。だってあの女がぁ…」
「はいはい、後で聞くよ」
「都月様!!一生ついていきますっ!」
チョロっ。
いやこれは相手が相手なのか…??
「ふん!でも待ってなさいよっ!今から半年後くらいのハロウィーンの日に、あたしたちはあんたたちをぶっ潰すんだから!!」
えっ。
「覚えてなさいよっ!!」
と言い残し、お姉さんは消えた。
「ハロウィーン…?」
「な、凪野くんはもう帰ってて!」
「あ、はい…」
「都月様…」
「どうやらこっちも、対策を練らないとね。さ、会議の準備ー」
「その前に私の話も聞いてくださいっ!あの女がぁ…」
「はいはい」
駄々をこねる子供のような彩と一緒に、都月は本部へと戻ったのでした。
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