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「えっ。玲央のことって。私だって結局は玲央にフラれてるから。恨まれるようなことしてないけどな。美里が好きだったこと、知らなかったよ」
美里が玲央のことを……?
高校当時、玲央とは時間が合ったら一緒に帰ったりしていた。
そういう姿を見て、嫌な気持ちになっていたのかな。
うーんと考えながら
「私が心に余裕ないから。卑屈な考えになっちゃうんだけど。本当なら、子どもだってほしいよ。焦ってる自分もいる。不妊治療勧められたけど、その前に、生活をなんとかしなきゃ。子どもだって授かれないよね」
美里のことを愚痴るつもりじゃなかったのに。
私、いつからこんな嫌な女になったんだろう。
私が隼人を選んだから、今の生活になっているのに。
嫌だったら、別れたら良いだけの話だ。
「こっちは大変だって言っているのに。今は専業主婦で好きなことしている?子どもは預けてカフェ巡りが趣味?それでマイホームも検討中?完璧、旦那の経済力があってこそじゃん」
旦那の経済力があってこそか。
私も結婚式だって本当はやりたかった。
隼人が仕事を辞めるって言いだして。結婚式どころじゃなくなった。
相談しても<金かかるだけじゃん>の一言で終わっちゃったし。
それこそ経済力って、大切なのかも。
私がもっと稼げれば良いんだけど、そう簡単にいかないからな。
「あー。なんかイライラしてきた。もっと穂乃果もお酒飲みなよ。たまにはさ。最近、我慢してたんじゃないの?」
私の空になりそうなグラスを見て、有栖は勝手に追加でビールを頼んでくれた。
心のモヤモヤ、わかってくれる友達がいて良かった。
隼人との問題が解決したわけじゃないけど、話せてすっきりした気がする。
昔だったら隼人に相談してたことでも、今はなんか話すのを遠慮しちゃうし。一回、隼人とちゃんと向き合わなきゃ。
そのあと、有栖に勧められ、お酒をガンガン飲んだ。
どうせしばらくこんな機会はないだろう。
隼人は私に隠れてお酒を買って飲んでいることは知っているし、個展やライブの打ち合わせとかで仲間と飲み会に出かけていたから。
親のお金でよくお酒を飲めるなって思っていたけれど、たまには私だって良いよね。自分で働いて稼いだお金だもん。たまには息抜きしたって。
そんな時
「となり良いですか?」
距離を詰めて座ってきた男性二人組がいた。
「どうぞー」
有栖が答えると
「良かったら一緒に飲みましょう」
そう声をかけられた。
せっかく二人で楽しく飲んでいたのに。
ちょっと嫌な気持ちになっていたら
「ごめんなさい。席は隣でもいいですけど。一緒には飲めません」
有栖がぴしゃっと答えてくれた。
「えっ。どうしてですかー?いいじゃないですか」
男性が絡んでくると
「結婚しているんで」
素っ気なく彼女が答えた。
「俺たち、別に気にしませんよ」
ああ、もうしつこいな。
「迷惑です。店員さん、呼びますよ」
お酒が入っているためか、いつにもなく強気な言葉が私の中から簡単に出てくる。
「あー。俺たち、お姉さんじゃなくて。そっちのお姉さんがタイプなんだよ。そっちこそ邪魔しないでくれる?」
私を見て、違う違うと手で空を仰いでいる。
カチンときた私は
「だからこの子だって、あんたたちのことタイプじゃないって言ってるの!そっちこそどっか行ってよ」
店員さんを呼ぶためのボタンを押した。
彼らは「チッ」と舌打ちをして、席から離れていく。
店員さんに説明をすると
「何か困ったらまた教えてください。こっちも注意できるので」
そんな優しい言葉をかけてくれた。
そのあと、店の中で彼らが話しかけてくることはなく、かなりお酒が進んだ私たちは、帰宅することにした。
「なんか途中で嫌な気分になったけど、結局は楽しかったね」
「そうだねー。また飲もうねー」
ああ、身体がふわふわする。
有栖は私よりも飲んでいるのに、あまり酔っていない。
昔から、お酒、強かったもんな。
お会計を済ませ、外に出る。
駅近くともあり、まだ人通りは多い。
「終電乗れそうー?」
「うん、大丈夫―」
有栖はこの近くに住んでいるから、歩いて帰れると言っている。
私は電車で帰らなきゃ。
「じゃあ、またねー」
ゆっくり帰ろうと思っていた時
「おい。お姉さん。さっきはよくもバカにしてくれたね」
居酒屋で声をかけてきた男性二人がいつの間にかうしろにいた。
「えっ? どうして」
「穂乃果!」
私を見ていた有栖がかけつけようとしてくれたけれど
「お前みたいな女。タイプじゃないし。勘違いするなよ」
ハハッと笑いながら、一人の男が逃げようとしていた私の手を取る。
勢いよく捕まれ、私は転んでしまった。
「痛い」
立ち上がろうとするも
「バーカ」
男が私に接近した時――。
「おい」
背の高い男性が、男の手を押さえている。
「警察に通報した」
低い声で男たちにそう告げると、彼らは
「マジかよ」
そう言いながら、千鳥足でその場を去った。
ああ、酷いことをされそうになった。
男の人からあんなことされそうになったことがないから、怖い。
まだ震えている。
立ち上がろうとしたら
「ほら。手」
私を助けてくれた男性が手を差し出してくれた。
ああ、頭がくらくらする。
「ありがとうございます」
私は男性の手を取って、立ち上がり、彼の顔をしっかりと見た。
真っ黒なマッシュ系の前髪サラサラの髪型に柔らかいフォルムの輪郭、瞳が大きくて、肌はとても綺麗。
ピシッとしたシワがないスーツを着ているイケメン……。
あれ?あれあれあれ?
この人、どっかで見たことがある気がする。
じーと彼を見つめていると、近くにいた有栖が
「夏目くんっ?」
口を押さえながら、名前を呼んだ。
夏目くん……。
んっ?
夏目くんって。
「|夏目玲央《なつめれお》?えっ、玲央?ええっ、玲央なの?」
私が驚いていると
「人の名前、何回呼ぶんだよ。穂乃果」
フッと彼が笑った。
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コメント
1件
うわ、まさか玲央が出てくるとは…!第1話の「私の夫」ってタイトルが今になって効いてくる構成、好きです。居酒屋での有栖とのやり取り、ああいう「友達にしか言えない本音」の描写がすごくリアルで、穂乃果の心情がじんわり伝わってきました。そして悪質ナンパからの玲央の登場、タイミングが完璧すぎる。彼、ずっと何か知ってて動いてる気がするんだけど…続きが気になりすぎます。煉彩さんの心情描写、今回も沁みました。