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第七話 願いの底
冬木の地下には、空がない。
当然のことだった。
だが、そこへ降りていくほどに、衛宮士郎は妙な息苦しさを覚えていた。
天井が低いわけではない。
道幅が狭いわけでもない。
むしろ地下霊脈深層へ続く通路は、人間が造ったものとは思えないほど広く、巨大で、深かった。
石造りの壁には神代の文字が刻まれている。
地面には魔力の血管のような赤い線が走り、奥へ進むほどその光は黒く濁っていく。
ここは、冬木という街の底だ。
かつて大聖杯が据えられていた場所より、さらに深い領域。
聖杯戦争の傷跡と、神杯戦争の根が絡み合う場所。
願いの底。
遠坂凛は宝石板を片手に、慎重に歩いていた。
「……やっぱりおかしい」
凛の声は小さい。
だが、全員に聞こえた。
士郎は振り返る。
「何がだ」
「霊脈の流れよ。普通、霊脈は地形に沿って流れる。川みたいにね。でもここは違う。流れが全部、中心に吸われてる」
「神杯に?」
「ええ。しかもただ吸ってるだけじゃない。願い、記憶、未練、後悔……そういう形のないものまで魔力に変換してる」
凛は唇を噛む。
「最悪よ。こんなの、魔術炉じゃなくて感情の処刑場だわ」
士郎は黙った。
言葉にすると軽くなる気がした。
この地下には、声にならないものが溜まっている。
救えなかった者の後悔。
叶わなかった願い。
届かなかった手。
言えなかった言葉。
それらが全部、黒い杯へ流れている。
ならばイリヤも、その一部にされようとしているのだろう。
再会したいという願い。
終わりたいという疲れ。
自分で選びたいという祈り。
その全部を、神杯は燃料にする。
セイバーは士郎の隣を歩いていた。
黄金の聖剣は、再び風王結界に包まれている。
不可視の刃。
だが、彼女の表情は隠せていない。
静かな怒りがあった。
「この場所は、似ています」
「何に?」
士郎が問う。
セイバーは少しだけ目を伏せた。
「聖杯の内側に。願いを叶えると言いながら、人の願いを別の形に歪める器に」
アーチャーが後方で小さく息を吐く。
「願望機というものは、どれも似たような悪趣味に行き着くらしい」
リチャード一世は軽口を叩かなかった。
いつもの明るい笑みはある。
だが、その目は真剣だった。
「王として言うなら、民の願いを勝手に束ねる器などろくなものではないな。願いは一人一人が持つから重い。まとめて燃やせば、ただの火種だ」
エルキドゥは通路の壁に手を触れた。
緑の髪が、地下の魔力に微かに揺れる。
「この奥に、彼女がいる」
「イリヤが?」
士郎が問う。
エルキドゥは頷いた。
「うん。終末神も一緒だ。でも、それだけじゃない。神杯が彼女の願いを根に繋ごうとしている」
凛が険しい顔になる。
「どれくらい時間がある?」
「分からない。けれど、長くはない」
その時、後方から黄金の気配が近づいた。
ギルガメッシュは腕を組み、ひどく不機嫌そうに歩いている。
地下を歩く王というものがよほど気に入らないのか、眉間に皺が寄っていた。
「まったく、なぜ我がこのような湿った穴蔵を歩かねばならん」
凛が半眼で見る。
「来るって言ったの、あんたでしょ」
「我は見届けると言った。穴掘り鼠のように地下を進むとは聞いておらん」
「神杯の根が地下なんだから仕方ないでしょ」
「ふん。根なら引き抜けばよい」
士郎はギルガメッシュを見る。
「簡単に言うな」
「簡単だ。根を残すからまた腐る」
その声には、不思議なほどの実感があった。
ギルガメッシュは黒く濁った霊脈を見下ろす。
「願いを束ねた器、か。愚かしい。人は願うから人だ。神も器も、それを集めて意味を作ろうとする。実にくだらん」
エルキドゥが穏やかに言う。
「ギルは、願いを集めるのが嫌いだよね」
「当然だ。願いなど、持ち主が抱えてこそ価値がある。他者が勝手に束ねた時点で、それは願いではなく管理だ」
士郎はその言葉を胸に刻んだ。
願いは、持ち主のもの。
ならばイリヤの願いも、神杯のものではない。
士郎のものでもない。
イリヤ自身が選ばなければならない。
助けるとは、彼女の願いを奪うことではない。
それを分かっていても、士郎の足は急ぎそうになる。
早く会いたい。
早く連れ戻したい。
早く、もう大丈夫だと言いたい。
だが、言葉だけでは届かない。
イリヤにそう言われた。
士郎は右手を握った。
令呪と神紋が、地下の魔力に反応して微かに熱を持っている。
その熱は、不吉だった。
◆
地下霊脈深層の中心部は、巨大な空洞だった。
天井は見えないほど高く、地面には黒い水が浅く張っている。
その水面には、星のような光が浮かんでは消えていた。
願いの残滓だ。
誰かがかつて望んだもの。
誰かが諦めたもの。
誰かが、最後まで手放せなかったもの。
それらが星屑のように沈んでいる。
空洞の中央には、黒い樹があった。
樹、としか呼びようがない。
根は霊脈に食い込み、幹は空へ伸び、その先で杯の形へ枝分かれしている。
地上に浮かぶ黒い神杯は、この地下の根から生えているのだ。
神杯の根。
その根元に、白い少女が立っていた。
イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。
銀の髪。
赤い瞳。
白いドレス。
彼女は黒い水の上に裸足で立ち、静かにこちらを見ていた。
その背後には、終末神。
黒い外套のような影。
星の終わりを思わせる瞳。
手には黒い輪を宿す杖。
終わりを告げる神が、少女の傍らにいる。
イリヤは微笑んだ。
「来てくれたんだ」
士郎は一歩前へ出た。
「来るに決まってる」
「うん。知ってた」
イリヤは嬉しそうに笑う。
けれど、その笑顔はどこか薄い。
今にも水面に溶けてしまいそうな笑顔だった。
凛が小さく息を呑む。
「イリヤ……その腕」
イリヤの右腕には、黒い神紋が広がっていた。
以前は手の甲だけだった紋様が、今は肘を越え、肩にまで届きかけている。
それは刺青のようではなく、ひび割れのようだった。
彼女という器に、神杯の黒が流し込まれている。
士郎の胸が痛む。
「痛いのか」
イリヤは首を傾げた。
「ううん。痛くはないよ」
「本当に?」
「うん」
彼女は少しだけ考えてから言った。
「痛くないのが、ちょっと怖いかな」
士郎は歯を食いしばった。
セイバーが剣を構える。
アーチャーは弓を出す。
凛は宝石を握る。
リチャードは剣に手をかけ、エルキドゥは静かに鎖を伸ばす準備をする。
ギルガメッシュだけが、腕を組んだまま動かない。
イリヤは全員を見回した。
「すごいね、お兄ちゃん。こんなにたくさん連れてきたんだ」
「お前を助けるためだ」
「助ける」
イリヤはその言葉を繰り返した。
笑顔は消えなかった。
けれど、赤い瞳が揺れる。
「ねえ、お兄ちゃん。私を助けるって、どういうこと?」
士郎は答えようとして、止まった。
以前なら即答していた。
生かすこと。
連れ戻すこと。
神杯から切り離すこと。
でも、それだけでは足りない。
イリヤが望まない救いを押しつければ、それは神杯と同じだ。
士郎はゆっくり息を吸う。
「分からない」
凛がわずかに目を見開く。
イリヤも、少し驚いた顔をした。
士郎は続ける。
「正直、まだ分からない。お前を神杯から切り離す方法は探してる。でも、それが本当にお前を助けることなのか、俺一人じゃ決められない」
イリヤの笑顔が薄れる。
「……じゃあ、どうするの?」
「聞きに来た」
士郎は真っ直ぐにイリヤを見る。
「イリヤ。お前は本当は、どうしたい?」
空洞に、静寂が落ちた。
黒い水面に浮かぶ星屑が、ひとつ消える。
イリヤは、士郎を見つめていた。
長い時間、何も言わなかった。
やがて、彼女は小さく笑った。
「それ、ずるいなぁ」
「ずるい?」
「うん。お兄ちゃんが助けるって言って、私がそれを拒むだけなら簡単だったのに。そんなふうに聞かれたら、私が考えなきゃいけなくなる」
「考えてくれ」
「考えたくないよ」
イリヤの声が、初めて震えた。
「考えたら、分かっちゃうもん」
「何が」
「私が、何を望んでるのか」
終末神が一歩前へ出る。
その瞬間、空洞の温度が下がった。
終末神の声が響く。
「契約者の精神動揺を確認。神杯接続、安定化へ移行」
凛が叫ぶ。
「来るわよ!」
黒い根がうねった。
神杯の根から、無数の黒い糸が伸びる。
それらはイリヤの腕へ、肩へ、背中へ絡みつこうとする。
士郎が走り出す。
だが、イリヤの前に終末神が立ちはだかった。
杖の黒い輪が回る。
周囲の水面に、無数の終わりが映った。
折れる剣。
燃え尽きる星。
閉じられる扉。
誰にも読まれない手紙。
呼ばれなかった名前。
終末神の神域が、地下空洞へ広がっていく。
「神域展開」
終末神が告げる。
「終末庭園・ラグナレム――第二層」
世界が塗り替わる。
地下空洞は荒野にならなかった。
今回は違う。
そこに現れたのは、無数の部屋だった。
白い部屋。
雪の部屋。
実験室。
城の廊下。
森の中。
衛宮邸の門前。
冬の庭。
イリヤの記憶が、終末の神域に並べられている。
凛が息を呑む。
「記憶領域……! 終末神がイリヤの記憶を神域化してる!」
アーチャーが弓を引く。
「悪趣味な真似を」
終末神は杖を掲げた。
部屋の扉が一斉に開く。
そこから、黒い影が現れた。
人形のような影。
ホムンクルスの影。
白い城の従者たちの影。
戦争の記憶。
過去の敵。
終わったはずの痛み。
それらが士郎たちへ向かってくる。
セイバーが前へ出る。
「突破します!」
不可視の剣が走る。
影が斬られ、黒い水となって散る。
だが散った水は床に染み、また別の影として立ち上がる。
凛の宝石魔術が炸裂する。
赤い弾丸が影を撃ち抜き、青い氷が足元を固める。
しかし、終末神の神域内では術式の寿命が早い。
凍った影はすぐに氷の終わりを迎え、崩れてまた動き出す。
アーチャーは投影剣を雨のように放つ。
だが、終末の力が剣を次々と朽ちさせる。
リチャードは笑みを浮かべながらも、剣筋は鋭かった。
「記憶が敵になるとはな。これは王の戦場というより、心の裁判だ」
エルキドゥの鎖が伸びる。
黒い根へ絡みつく。
神杯とイリヤを繋ぐ糸を縛ろうとする。
だが、終末神の杖がそれを阻む。
黒い輪が回転し、鎖の先端が役目を終えたように崩れた。
エルキドゥは眉を寄せる。
「やっぱり簡単には縛れない。終末神が接続線の番人になっている」
ギルガメッシュの背後に黄金の門が開く。
「ならば番人ごと消し飛ばせばよい」
宝具が放たれる。
黄金の雨が終末神へ殺到する。
だが、黒い輪が回った瞬間、その半数が空中で古び、錆び、力を失って水面へ落ちた。
残る半数は終末神へ届く。
黒い影が裂ける。
しかし傷はすぐに終わり、元へ戻る。
ギルガメッシュの目が細くなる。
「不快な権能だ」
アーチャーが言う。
「倒すには、終末神の出力を契約者側から揺らすしかない」
「つまり、イリヤの心を揺らせってことね」
凛は宝石を砕きながら叫ぶ。
「士郎!」
「ああ!」
士郎は影の群れを抜け、イリヤへ向かう。
だが、彼の前に一つの扉が開いた。
白い部屋。
その中に、小さなイリヤがいた。
今よりも幼い少女。
白い実験台の上に座り、誰もいない部屋で足を揺らしている。
幻影だ。
分かっている。
だが、足が止まった。
幼いイリヤは、虚空へ向かって呟いた。
「ねえ、私は何のために生まれたの?」
返事はない。
少女は笑う。
「聖杯になるため?」
返事はない。
「じゃあ、聖杯になれなかったら、私は何になるの?」
士郎の胸が締め付けられる。
幻影だ。
過去だ。
終わった記憶だ。
それでも、そこにある痛みは本物だった。
士郎は歯を食いしばって進む。
次の扉が開く。
冬の森。
イリヤがバーサーカーの肩に座っている。
彼女は楽しそうに笑っている。
けれど、その笑顔の端にはいつも寂しさがあった。
「バーサーカーは、ずっと一緒にいてくれる?」
巨人は答えない。
ただ、低く唸る。
イリヤは笑う。
「そっか。うん。そうだよね」
士郎は進む。
さらに扉が開く。
暗い場所。
イリヤが一人で立っている。
その胸には大きな空洞があるように見えた。
肉体の傷ではない。
人生の中心を奪われた者の空洞。
彼女は言う。
「みんな、私を器って呼ぶの」
士郎は足を止めない。
「アインツベルンも」
一歩。
「聖杯も」
一歩。
「神杯も」
一歩。
「でも、お兄ちゃんだけは、私をイリヤって呼んでくれた」
士郎は息を詰まらせた。
幻影のイリヤがこちらを見る。
「だから会いたかったの」
その声に、士郎の足が止まりかける。
だが、止まらない。
止まれば、また届かない。
彼は走った。
影が迫る。
士郎は双剣を投影する。
「投影、開始!」
干将・莫耶。
黒白の双剣が影を切り払う。
一本が終わる。
もう一本を作る。
砕ける。
また作る。
終末神の神域では、投影剣の寿命が短い。
だが短くてもいい。
一歩分、道を作れればいい。
アーチャーの矢が士郎の前方を掃く。
「行け、衛宮士郎!」
凛の宝石が彼の足元に魔力の足場を作る。
「止まったら怒るから!」
セイバーの剣が横から影を切り伏せる。
「シロウ、前へ!」
リチャードが笑いながら影の群れに切り込む。
「道なら王が開こう!」
エルキドゥの鎖が、黒い根の一本を縛り上げる。
「少しだけ、接続が緩んだ!」
ギルガメッシュの宝具が、終末神の杖へ向かう。
「雑種。泣き言を言う暇は与えんぞ」
士郎は駆ける。
イリヤは、黒い根の前に立っていた。
彼女の腕から肩へ、黒い紋様がさらに広がっている。
イリヤは士郎を見ていた。
逃げない。
けれど、近づいてもこない。
「来ないで」
小さな声だった。
士郎は止まらない。
「来るなって言われて、止まれるか」
「止まってよ!」
イリヤの声が叫びになる。
終末神の神域が揺れる。
影たちの動きが一瞬止まった。
「どうして止まってくれないの!? どうしていつも、そんなふうに来ちゃうの!?」
士郎は数歩先で立ち止まった。
イリヤの顔が歪んでいる。
怒っている。
泣きそうになっている。
怖がっている。
「私、終わっていいって思ったの」
イリヤは胸を押さえる。
「やっと終わったんだって思ったの。もう器にならなくていい。誰かのために壊れなくていい。戦わなくていい。待たなくていい。寂しくても、痛くても、もう何も感じなくていいって」
黒い水面が揺れる。
イリヤの声が震える。
「なのに、神杯が聞いてきたの。会いたいかって。もう一度、お兄ちゃんに会いたいかって」
士郎は黙って聞く。
「会いたかったよ」
イリヤの目から涙がこぼれた。
「会いたかったに決まってるじゃん……! 言いたいこと、いっぱいあったもん。怒りたかった。甘えたかった。なんで助けてくれなかったのって言いたかった。でも、そんなこと言ったらお兄ちゃんが傷つくって分かってたから、言えなかった」
士郎の胸が痛む。
イリヤは泣きながら笑った。
「だから、終わりたかったの。会いたいって思う自分ごと、終わらせたかった」
終末神の黒い輪が強く回る。
神域がさらに深くなる。
終わりの雨が降り始めた。
触れた影が消え、術式が消え、投影剣が朽ちる。
凛が叫ぶ。
「士郎! 長く保たない!」
士郎は一歩前へ出る。
「イリヤ」
「来ないで!」
「嫌だ」
「なんで!」
「聞くって決めたからだ」
士郎はイリヤを見る。
「今、ちゃんと聞いてる。お前が怒ってることも、寂しかったことも、終わりたかったことも」
イリヤは唇を噛む。
「だったら、分かってよ……!」
「分かった」
士郎は頷いた。
「でも、それでも俺は、お前に終わってほしくない」
イリヤの表情が崩れる。
「それは、お兄ちゃんの願いでしょ」
「ああ」
士郎は認めた。
「俺の願いだ。俺はお前に終わってほしくない。もう一度会えたなら、今度こそ一緒にいたい。謝りたいし、話したいし、飯も食わせたいし、くだらないことで喧嘩もしたい」
彼の声も震えていた。
「俺は、お前に生きてほしい」
「……ずるい」
イリヤが泣く。
「そんなこと言われたら、私だって……」
声が途切れる。
士郎は待った。
急かさなかった。
凛も、セイバーも、アーチャーも、誰も言葉を挟まなかった。
終末の雨の中で、イリヤはようやく声を絞り出した。
「私だって、生きたかったよ」
その言葉が、神域を震わせた。
終末神が動きを止める。
黒い根が軋む。
神杯の鼓動が乱れた。
イリヤは泣きながら叫ぶ。
「生きたかった! 普通に朝起きて、ご飯食べて、誰かにおはようって言って、寒いねって笑って、くだらないことで怒って、眠くなったら寝て……そういうの、したかった!」
士郎は歯を食いしばった。
イリヤの本当の願い。
終わりたい、ではなかった。
終わらなければ耐えられないほど、生きたかったのだ。
イリヤは両手で顔を覆う。
「でも、もう遅いじゃん……! 私は死んだんだよ。終わったんだよ。今ここにいる私は、神杯に繋がってないと消えちゃうんでしょ? だったら、どうしたらいいの? 生きたいって言ったら、また誰かの器になるしかないの?」
士郎は答えようとする。
だが、その前に凛が叫んだ。
「違う!」
凛は終末の雨を宝石障壁で防ぎながら、必死に立っていた。
「まだ確定じゃない! 代替霊基を作れば、神杯から切り離しても存在を維持できる可能性がある!」
イリヤが顔を上げる。
「代替、霊基……?」
メディアの声が、どこからともなく響いた。
「そうよ」
紫の魔術陣が空洞の端に展開される。
現れたのはキャスター、メディア。
彼女は転移陣の上に立ち、呆れたようにため息をついた。
「まったく、無茶苦茶な面子ね。英雄王に神造兵器までいるなんて、魔女の出番が霞むじゃない」
凛が叫ぶ。
「キャスター! 遅い!」
「来てあげただけ感謝なさい。神杯の防衛層を抜けるのに手間取ったのよ」
メディアはイリヤを見た。
「イリヤスフィール。貴女を完全に人間として戻す方法は、今のところない」
士郎が睨む。
「キャスター!」
「嘘をついてどうするの」
メディアの声は冷たい。
だが、その冷たさは誠実でもあった。
「完全な蘇生は無理。死者の魂を何の代償もなく戻すなど、神でも魔術師でも簡単にはできない。けれど、神杯に接続された仮初めの霊基を、別の器へ移すことはできるかもしれない」
イリヤは震える声で問う。
「それって、私は私なの?」
メディアは少し黙った。
そして答える。
「それは貴女が決めることよ」
イリヤの瞳が揺れる。
メディアは続ける。
「肉体が変われば別人か。霊基が変われば偽物か。死を越えた存在は生きていないのか。そんなもの、外野が決めることではないわ」
彼女の声に、わずかな痛みが混じる。
「魔女と呼ばれようが、裏切り者と語られようが、私は私だった。なら、貴女もそうすればいい」
イリヤは言葉を失った。
終末神の黒い輪が激しく回転する。
「契約者の願望変質を確認。神杯中核への接続、強制移行」
黒い根が一斉にイリヤへ伸びる。
士郎が叫ぶ。
「させるか!」
セイバーが走る。
アーチャーが矢を放つ。
エルキドゥの鎖が根を縛る。
ギルガメッシュの宝具が根を砕く。
リチャードが剣で黒い糸を切り裂く。
凛とメディアが同時に術式を展開する。
「遠坂の娘、合わせなさい!」
「命令しないで!」
「なら勝手に合わせなさい!」
「そうするわよ!」
凛の宝石魔術が、神杯の接続線を可視化する。
メディアの神代魔術が、その線を一時的に固定する。
白い光の糸。
イリヤと神杯を繋ぐ接続線。
その周囲に、黒い終末神の権能が絡みついている。
エルキドゥが叫ぶ。
「僕が縛る!」
天の鎖が白い糸へ絡みつく。
神性を縛る鎖は、終末神の権能を一瞬だけ押さえ込んだ。
だが、終末神が杖を掲げる。
黒い輪が巨大化する。
終わりの波が広がり、鎖が軋む。
エルキドゥの表情が苦痛に歪む。
「長くは、保たない……!」
ギルガメッシュが苛立たしげに宝具を放つ。
「耐えろ、エルキドゥ!」
「言われなくても!」
セイバーが終末神へ斬りかかる。
不可視の剣が黒い外套を裂く。
終末神の影が揺らぐ。
アーチャーの矢が杖の黒い輪を狙う。
しかし、矢は輪に触れる前に寿命を終える。
リチャードが横から飛び込む。
「ならば王の剣で!」
彼の斬撃が杖の柄を打つ。
終末神が初めて明確に後退した。
だが、完全には止まらない。
終末神の声が響く。
「契約者は終わりを望んだ。終末は救済である」
士郎は叫ぶ。
「違う!」
終末神が士郎を見る。
「何が違う」
「イリヤは終わりたいんじゃない!」
士郎は双剣を握る。
「生きたかったんだ!」
その言葉に、イリヤが涙をこぼす。
終末神の影がわずかに揺らいだ。
契約の根が揺れている。
凛が叫ぶ。
「士郎、今! イリヤ本人に選ばせて!」
士郎はイリヤへ手を伸ばす。
「イリヤ!」
黒い根が彼の前に迫る。
士郎は投影する。
剣を。
盾を。
また剣を。
次々と壊れ、次々と作る。
終末の波が彼の投影を奪う。
右腕が焼けるように痛む。
それでも進む。
一歩。
一歩。
一歩。
イリヤは震えながら士郎を見ていた。
「お兄ちゃん……」
「選べ、イリヤ!」
士郎は叫ぶ。
「終わりじゃなくていい! 神杯の願いじゃなくていい! 俺の願いでもなくていい! お前が、今、どうしたいかを選べ!」
イリヤは泣いていた。
黒い神紋が彼女の首元まで迫っている。
終末神は杖を掲げる。
神杯の根が、彼女を飲み込もうとする。
その瞬間。
遠くで、咆哮が響いた。
「■■■■■■■■■■――――!」
地下空洞全体が震える。
凛が目を見開く。
「この反応……!」
黒い壁を破って、巨人が現れた。
ヘラクレス。
狂化した大英雄。
全身に傷を負いながらも、彼は斧剣を握り、神杯の根を砕いて突入してきた。
誰も呼んでいない。
道などなかったはずだ。
だが、彼は来た。
イリヤの声が、願いが、涙が、届いたのかもしれない。
巨人はイリヤを見た。
その瞳に理性はない。
だが、そこには確かに守護があった。
「バーサーカー……」
イリヤが呟く。
ヘラクレスは黒い根へ斧剣を振るった。
一撃。
神杯の根が砕ける。
二撃。
終末神の神域が揺らぐ。
三撃。
イリヤを拘束しようとしていた黒い糸が弾け飛ぶ。
終末神がヘラクレスへ杖を向ける。
「守護者。貴方の役目は既に終わっている」
ヘラクレスは答えない。
ただ、咆哮する。
「■■■■■■■■!」
終わっていない。
その叫びは、そう言っているようだった。
イリヤが泣き崩れそうになる。
「バーサーカー、私……」
ヘラクレスは振り返らない。
背中だけを見せる。
かつてと同じように。
守るために、前に立つ。
士郎はその背中を見て、胸の奥が熱くなった。
そうだ。
彼もイリヤに選ばせようとしている。
終わりに沈むか。
生きる苦しさを選ぶか。
ヘラクレスは言葉を持たない。
だから、背中で示している。
まだ守る、と。
イリヤは両手で涙を拭った。
黒い神紋が、彼女の頬にまで伸びかけている。
けれど、彼女は顔を上げた。
「私……」
声は小さい。
それでも、空洞全体に響いた。
「終わりたくない」
神杯の鼓動が乱れる。
終末神が停止する。
イリヤは叫んだ。
「生きたい! 怖いけど、痛いけど、また寂しくなるかもしれないけど……それでも、私は生きたい!」
その瞬間、白い光が彼女の胸から溢れた。
神杯に利用されていた願いが、形を変える。
終わりへの願いではない。
再会だけの願いでもない。
生きたいという、あまりにも単純で、あまりにも強い願い。
凛が叫ぶ。
「接続線が変質した! 今なら切れる!」
メディアが杖を掲げる。
「代替霊基の仮組みを開始するわ! 遠坂の娘、補助!」
「分かってる!」
凛とメディアの術式が重なる。
宝石の光と神代の紫が、イリヤの周囲に輪を作る。
エルキドゥの鎖が神杯の根を縛る。
ギルガメッシュの宝具が黒い糸を撃ち抜く。
セイバーとリチャードが終末神を抑える。
アーチャーは士郎の背中を守るように矢を放ち続ける。
ヘラクレスは、イリヤの前に立って神杯の根を砕き続けている。
士郎は手を伸ばした。
イリヤも、手を伸ばす。
今度は止まらない。
黒い神紋が二人の間で暴れる。
終末神が叫ぶように告げる。
「契約破棄は契約者の崩壊を招く」
「させないわよ!」
凛が叫ぶ。
「崩れる前に受け皿を作る!」
「不完全よ!」
メディアが言う。
「けれど不完全でも、無いよりはましでしょう!」
士郎の手が、イリヤの手を掴んだ。
冷たい。
驚くほど冷たい手だった。
けれど、そこには確かに温もりがあった。
「イリヤ」
「お兄ちゃん」
「帰るぞ」
イリヤは泣きながら笑った。
「うん」
凛とメディアの術式が完成する。
エルキドゥの鎖が接続線を固定する。
ギルガメッシュの宝具が神杯の根を穿つ。
セイバーの剣が終末神の杖を弾く。
ヘラクレスの斧剣が黒い根を叩き割る。
そして士郎は、イリヤの手を引いた。
白い接続線が、音もなく切れる。
イリヤの身体が光に包まれる。
黒い神紋が砕け散る。
終末神の影が大きく揺らいだ。
神杯の鼓動が、激しく乱れる。
黒い水面に浮かぶ無数の星屑が、一斉に弾けた。
◆
崩壊は一瞬だった。
神域が剥がれ、記憶の部屋が消え、終末の雨が霧散する。
地下空洞が戻ってくる。
イリヤは士郎の腕の中に倒れ込んだ。
身体は軽い。
あまりにも軽い。
凛が駆け寄り、すぐに脈と魔力反応を確認する。
「存在は維持してる……! でも不安定。長くは持たない。すぐに安定化処置が必要!」
「衛宮邸に戻るぞ!」
士郎が叫ぶ。
メディアが息を切らしながら杖を掲げる。
「転移陣を開くわ。けれど神杯が邪魔を――」
黒い根が再び蠢く。
神杯はイリヤを取り戻そうとしている。
その前に、ヘラクレスが立ちはだかった。
巨人は斧剣を構える。
全身に黒い糸が絡みつく。
それでも動かない。
イリヤが薄く目を開ける。
「バーサーカー……?」
ヘラクレスは振り返らない。
ただ、背を向けたまま立っている。
イリヤを逃がすために。
士郎は叫ぶ。
「バーサーカー、お前も来い!」
ヘラクレスは動かない。
凛が苦しそうに言う。
「無理よ! あの巨体と霊基を一緒に転移させるには魔力が足りない!」
「でも!」
イリヤが士郎の服を弱く掴んだ。
「お兄ちゃん……」
彼女は震える声で言った。
「バーサーカーは、分かってる」
士郎は言葉を失う。
ヘラクレスは一歩前へ出る。
神杯の根が迫る。
巨人は咆哮した。
それは怒りではなかった。
別れの言葉のようだった。
イリヤの目から涙がこぼれる。
「ありがとう、バーサーカー」
ヘラクレスの背中が、ほんの少しだけ静かになった。
答えはない。
けれど、届いた。
メディアの転移陣が開く。
セイバーが士郎とイリヤを守るように立つ。
アーチャーが最後の矢を放ち、神杯の根を押し返す。
ギルガメッシュとエルキドゥが撤退路を塞ぐ黒い糸を破壊する。
リチャードが剣を掲げる。
「守護の巨人に敬礼を」
彼は短くそう言った。
転移の光が全員を包む。
視界が白く染まる直前、士郎は見た。
ヘラクレスが、黒い根の海へ向かって斧剣を振り上げる姿を。
その背中は、最後までイリヤの前にあった。
◆
衛宮邸。
転移の光が弾け、士郎たちは居間へ崩れ込んだ。
凛はすぐに結界を展開する。
メディアも迷わず術式を重ねた。
畳の上に、イリヤが横たえられる。
白い顔。
細い呼吸。
薄く光る仮初めの霊基。
士郎は膝をつき、彼女の手を握った。
「イリヤ」
返事はない。
だが、手は消えていない。
冷たいけれど、確かにそこにある。
凛が必死に術式を走らせる。
「霊基安定化、始めるわ! 士郎、手を離さないで。イリヤの意識が戻るまで、縁を繋ぐ!」
「分かった」
メディアが補助術式を構築する。
「遠坂の娘、宝石を三つ。赤、青、白」
「使うなら返しなさいよ!」
「生き残ったら考えるわ」
「絶対返す気ないでしょ!」
口では言い合いながら、二人の術式は完璧に噛み合っていた。
士郎はイリヤの手を握り続ける。
セイバーが隣に立ち、静かに見守る。
アーチャーは壁際で目を伏せる。
リチャードは剣を鞘に収め、珍しく黙っている。
エルキドゥは窓の外を見ている。
ギルガメッシュは腕を組み、不機嫌そうにしていた。
時間が過ぎる。
一分か。
十分か。
もっと長かったのか。
やがて、イリヤの指が微かに動いた。
士郎は息を呑む。
「イリヤ」
白い少女は、ゆっくりと目を開けた。
赤い瞳が、ぼんやりと士郎を映す。
「……お兄ちゃん」
「ああ」
士郎の声が震えた。
「ここは?」
「衛宮邸だ」
「そっか」
イリヤは小さく笑った。
「来ちゃったんだ」
「ああ。帰ってきた」
「私、まだ……いる?」
士郎は彼女の手を強く握る。
「いる。ここにいる」
イリヤの目に涙が浮かぶ。
彼女は少しだけ笑って、弱々しく言った。
「おはようって、言ってもいい?」
士郎は息を詰まらせた。
それは、彼女が望んだ普通の一つだった。
朝起きて、誰かにおはようと言うこと。
たったそれだけのことが、彼女には届かなかった。
士郎は涙をこらえながら笑った。
「ああ」
イリヤは、かすれた声で言った。
「おはよう、お兄ちゃん」
士郎は答える。
「おはよう、イリヤ」
その瞬間、イリヤは泣いた。
声を上げる力もなく、ただ涙を流した。
士郎はその手を離さなかった。
凛は顔を背けた。
セイバーは静かに目を閉じた。
アーチャーは何も言わなかった。
メディアだけが、小さく呟いた。
「……ひとまず、成功ね」
救えた。
完全ではない。
不安定で、問題は山ほど残っている。
それでも、今この瞬間、イリヤは神杯の根から切り離された。
終わりではなく、生きたいという願いを選んだ。
◆
だが、神杯戦争は終わらない。
その夜。
冬木の上空で、黒い神杯が激しく脈動した。
失われた鍵を取り戻すように。
奪われた器へ怒るように。
地上の人々は、それを見なかった。
魔術師たちだけが、空の異常に気づく。
神杯の根が傷ついた。
イリヤスフィールが切り離された。
それは神杯戦争において、初めて人間側が儀式そのものへ傷をつけた瞬間だった。
そして地下深く。
終末神は、黒い根の前に立っていた。
契約者を失った神格。
だが消えてはいない。
むしろ、その影は以前より濃くなっていた。
神杯の黒い根が、終末神へ絡みつく。
新たな契約ではない。
強制接続。
終末神は静かに顔を上げた。
「契約者の離脱を確認」
黒い杯の奥から、声が響く。
『ならば、終末そのものを器とする』
終末神の黒い輪が、赤く染まる。
神杯が、契約者を介さず神格を直接支配し始めていた。
それは本来、あり得ない。
神を使い魔として器に落とすだけでも異常なのに、その神を杯の根へ直接接続するなど、儀式の自壊に等しい。
だが神杯は止まらない。
願いの核が傷ついた今、神杯はより強い終わりを求めている。
終末神の影が膨れ上がる。
地下霊脈に、黒い波が広がる。
それは冬木全域へ向かって伸びていく。
終末神は、もはやイリヤのサーヴァリアントではない。
神杯そのものの防衛機構。
終わりを撒く黒い番人。
◆
衛宮邸。
イリヤは眠っていた。
凛とメディアの結界に守られ、薄い毛布をかけられている。
呼吸は浅いが、安定していた。
士郎はその隣に座っていた。
手はまだ繋いだままだ。
凛が静かに言う。
「今夜は眠らせてあげて。霊基が不安定だから、無理に起こすと危ない」
「ああ」
「士郎も休みなさい」
「俺は大丈夫だ」
「それ、大丈夫じゃない人の台詞」
凛はため息をつく。
だが、強くは言わなかった。
セイバーが士郎の隣に座る。
「シロウ」
「何だ」
「彼女は帰ってきました」
「ああ」
「ですが、戦いは続きます」
「分かってる」
士郎は眠るイリヤを見つめる。
助けた。
けれど終わっていない。
ヘラクレスは地下に残った。
終末神は神杯に取り込まれた。
神杯は怒っている。
そして、イリヤの存在はまだ不安定だ。
それでも。
今日、彼女は「生きたい」と言った。
その一言だけで、戦う理由は十分だった。
アーチャーが壁際から言う。
「衛宮士郎」
「何だ」
「よくやった」
士郎は驚いて顔を上げた。
アーチャーは視線を逸らす。
「二度は言わん」
凛が少し笑った。
「素直じゃないわね」
「君に言われたくはない」
リチャードは縁側で夜空を見上げていた。
「神杯は次に何をすると思う?」
エルキドゥが答える。
「奪われた鍵を補おうとするはずだ。終末神を直接使うか、別の願いを核へ引き寄せる」
ギルガメッシュが鼻を鳴らす。
「ならば、次に狙うべきは神杯の核だ。根を断ち、器を砕く」
凛は宝石板を見つめる。
「それには、まだ情報が足りない。イリヤを切り離したことで構造図はかなり読めるようになったけど、核そのものには複数の願いが絡んでる」
「複数?」
士郎が問う。
凛は頷く。
「イリヤの願いは、その一つにすぎなかった。神杯の核には、他にも強い未練がある」
メディアが静かに言う。
「次に表に出るでしょうね。器を失った神杯は、別の願いを引きずり上げる」
その時、宝石板が淡く光った。
新たな反応。
凛の表情が変わる。
「……また?」
画面には、港湾区の反応が映っている。
サーヴァント反応。
ライダー。
さらに、神格反応。
凛は目を細めた。
「港に、イスカンダルの反応。それから……酒神クラス?」
リチャードが眉を上げる。
「征服王と酒の神か。随分と賑やかな組み合わせだな」
アーチャーが呟く。
「放置すれば街が宴会場では済まんな」
だが、凛の顔は笑っていなかった。
「違う。もう一つある」
「何が」
士郎が問う。
「港の霊脈に、神杯の黒い波が向かってる」
エルキドゥが静かに言う。
「終末神だ」
部屋の空気が変わった。
イリヤを失った終末神が、神杯の防衛機構として動き始めた。
その最初の標的が、港湾区。
そこにいるのは、征服王イスカンダル。
そして酒神。
士郎は眠るイリヤの手をそっと布団の中へ戻した。
「行くの?」
凛が問う。
士郎は立ち上がる。
「行く」
セイバーも立つ。
「私も」
アーチャーが弓を作る。
「当然だな」
リチャードは剣を抜く。
「征服王と酒神、それに終末の神。これはまた派手な夜になりそうだ」
ギルガメッシュは不快そうに黒い杯を見上げる。
「終末神ごときが我らの戦場を汚すか。よかろう」
エルキドゥは静かに頷く。
「今度は、神杯の防衛機構としての終末神を止める」
士郎は最後にイリヤを見る。
彼女は眠っている。
小さな寝息が聞こえる。
生きている。
それだけで、士郎の胸に力が戻った。
「戻ってくる」
士郎は小さく言った。
「おはようの次は、おやすみを言わせる」
誰も笑わなかった。
それは、この夜の中で最も確かな約束だった。
神杯戦争、第七夜。
白い少女は終わりではなく、生を選んだ。
だがその代償として、終末神は神杯に奪われた。
次なる戦場は港湾区。
征服王の轍と、酒神の祝祭。
そして、終末の黒い波。
願いの底から救い上げた命を守るため、士郎たちは再び夜へ走る。
第八話へ続く。
コメント
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はい。第7話、読み終わりました。 「ずるい」って言いながら、本当は生きたいって叫んだイリヤのシーン、胸がギュッとなりました。ずっと終わりたかったわけじゃなくて、終わらなきゃやってられないほど生きたかったんだなあって……そこにバーサーカーが割って入ってくるところ、熱かったです。悲しくて、でもどこか報われたような気持ちになりました。 神杯の根からイリヤを引きはがせたのは大きな一歩だけど、代わりに終末神が取り込まれちゃって、まだ油断できないラストですね。次が気になります。