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期末テストを前に、俺と氷室は彼の部屋で勉強会をすることになった。モダンな家具が配置される氷室の部屋の落ち着いた空気の中、並んで机に向かうだけで緊張してしまう。
「奏、この問題解けるか?」
「ううっ、えっと……」
ノートに視線を落とし、必死にペンを走らせる。氷室の視線が真横から突き刺さって、集中できそうでできない。
数分後、震える手でノートを差し出すと、彼はそれをじっと見つめ――ふっと笑った。
「正解だ。よくできたな」
褒められただけでも嬉しいのにその瞬間、頬に柔らかな感触が落ちた。
「っ!? れ、蓮!?」
「ご褒美だ」
さらりと告げる彼の笑顔に、心臓が一気に跳ね上がる。
「ご褒美って……そんなルール、聞いてない!」
「今決めた。次はもっと難しい問題だ。見事正解したら――」
耳元に唇が触れるほど近づき、甘やかに囁かれる。
「今度は唇、だな」
真っ赤になった俺は、変な方向にやる気を出してしまう。必死こいて問題を解き、正解を告げた氷室の唇に、すぐに口づけられた。
「……ん……ぅっ」
短いキスのはずなのに、頭までぼんやりしてしまう。そんな俺を見て、氷室は満足げにほほ笑んだ。
「奏、もっと解け」
「こ、こんなんじゃ、勉強にならないよ……」
「いいや。君は俺に集中できてる。充分だ」
その後、正解するたびに彼は額に、こめかみに、唇に、何度もキスを落としてくる。やがて俺は机に突っ伏して、情けない声をあげてしまった。
「もう無理。キャパオーバーだよ。これ以上頭に入らない……」
「じゃあ、暗記カードの分だけキスするか?」
「はぁ!? なにそれっ」
「君が眠そうな顔をしてるのに、俺が放っておけると思うか?」
俺に容赦のない氷室は得意げに言って、机の上の暗記カードを一枚めくる。それを覚えるたびに、唇を重ねる始末。カードが減っていけばいくほど、当然俺の理性もどんどん削られていき――最後にはもう、彼の腕に縋ってしまった。
「奏、君は本当によく頑張ってる」
「……っ、れ、蓮……」
「大丈夫だ。テストも俺が一緒に乗り越えさせる。だから今日は、俺に甘えていい」
低い声に囁かれ、優しく抱きしめられる。その胸の鼓動に耳を預けていたら不思議と安心して、眠気が襲ってきた。
「……ん……蓮……」
「おやすみ、奏」
最後に額へ落とされたキスが、甘くて温かくて――俺はそのまま眠りに落ちた。
***
全教科の答案が返却された。赤点は一つもなし。自分でも信じられなくて、答案用紙を何度も見返しては、ため息のような笑いをこぼした。
「こんなの初めてだよ。やった! やったぁぁ!」
放課後、人の少ない空き教室で氷室に報告すると、彼は一瞬ぽかんとした後、ふっと笑った。
「奏……」
「ほ、本当だよ! 見て、これ!」
学年1位に見せる結果じゃないけど、思いきって答案用紙を差し出すと、氷室は受け取るよりも先に、俺の手首をぐっと引いて抱き寄せた。
「れっ、蓮?」
「よく頑張ったな。本当に」
低い声で囁かれて、胸の奥が熱くなる。頭を撫でられ、背中をさすられ、まるで子どもみたいにあやされて――気づけばその優しさで、涙が滲んでしまった。
「奏、泣くな。褒めてるのに」
「だ、だって……俺、いつも赤点ばっかで……」
「もう違うだろう? 全部自分で乗り越えたんだ」
胸に響く声音で言いながら、氷室は頬に唇を落とす。それだけじゃ終わらず、瞼、こめかみ、額と、まるで宝物を扱うみたいに、優しいキスをたくさんくれる。
「蓮っ……」
「奏にご褒美だ。いくらでもやる」
吐息混じりの声に震えて、思わず彼の胸に顔を埋める。するとさらに強く抱きしめられ、髪を撫でられ、耳元で甘い声が落ちる。
「奏……愛してる。俺に君以上の誇りはない」
「っ、俺もだよ」
そのまま何度も唇を塞がれ、息もできないくらいに甘やかされる。試験の点数なんてどうでもよくなるくらい、胸がいっぱいで――とっても幸せで。
――でも、何事もやりすぎっていけないと思うんだ。
「蓮ってば、もうご褒美いらないっ! すっごく恥ずかしいんだってば!」
顔が熱すぎて、思わず突っぱねるように言ってしまった。けれど氷室は眉一つ動かさず、むしろ口元を緩めて――。
「そう言うときの奏が、一番かわいい」
ニヤけながら、さらに強く抱きしめられた。俺には逃げ場なんてなくて、氷室の腕の中でぎゅうっと包まれて、頬や首筋にまで次々とキスが降ってくる。
「ひゃっ……っ、蓮、やめ……んっ!」
「やめない。君が拗ねるほど、もっとご褒美をやりたくなる」
「ず、ずるい!」
「ずるくていい。君を甘やかすのは、俺の特権だからな」
耳元で低く囁かれた瞬間、抵抗なんて全部溶けていく。結局俺は彼の胸に身を委ね、撫でられ、抱きしめられ、キスを降らされ続けた。
冬の夕暮れ。期末テストを乗り越えた俺へのご褒美は――氷室の溺愛そのものだった。
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