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「えっと…校舎のほうはこんな感じ。なんか気になるとこあった?」
放課後、屋上の階段の踊り場。
狼牙さんの説明はわかりやすいものばかりだった。
「ううん、特にないよ。ありがとう、…狼牙ちゃん」
狼牙さん、と口にするのは、少し戸惑った。
かと言って、転校生のわたしが急に馴れ馴れしく呼ぶのもな、と悩んだ結果がこれだ。
「あっ、刹那って呼んで。えっと…呼夏?」
名前を覚えてくれてたことに、嬉しさを覚える。
「えと、せつなちゃん、でいい?」
「うん。じゃあ部活見に行くか!気になるとこある?」
「ううん、特には。…刹那ちゃんのおすすめある?」
「おすすめか……」
刹那ちゃんは、少し悩んで口にした。
「バレー部って、どうかな」
「あっ、やっほー刹那ちゃん」
体育館に着くや否や、チャラそうな人が刹那ちゃんに挨拶した。
「…こんにちは」
刹那ちゃんは、少しだけ間を空けて、無表情で言った。
…この人のこと、苦手なのかな。
「その子はどうしたの?ファンの子?」
「違います。転校生で入ってきた子です」
「えっ、転校生なんだ!」
「……そうって言ったんですが」
「あっ、ごめん」
刹那ちゃんの冷たい態度とは裏腹に、先輩らしき人は頭をぽりぽりとかいている。
「名前は?」
わたしが答えようとすると、刹那ちゃんが遮った。
「あの、この子は別にバレー部に入るわけではないんですよ?
しつこく聞いてどうするつもりです?」
「えっ…どうするとか、別にないんだけど」
「じゃあ聞かなくても良いんじゃないですか?
行こう、……水鳥さん」
毅然とした態度で対応する刹那ちゃん。
水鳥さん、確かにわたしをそう呼んだ。
なんでだろう。
「…ごめんね、呼夏。あの先輩、ちょっと頭いっちゃってんの」
「えっ?あ、あぁ…そ、そうなの?」
「うん。でも、バレーはすげえ上手いの。だから、我慢してあげて」
そういうことか。
「わたし、別に嫌とは思ってないよ。
守ろうとしてくれたんだ。ありがとう」
わたしが素直にお礼を述べると、刹那ちゃんは少し赤くなる。
「べ……別に。守ろうとしたっていうか、バレー部、入ってほしいし…」
刹那ちゃんはおくれ毛を指先でくるくるした後、
「その…あたしとマネージャーやってみない?」
と言い出した。
「えっ」
話が飛躍しすぎて、驚く。
「あー、ごめん、急すぎるよね」
「べ、別に良いけど…」
「えっ?」
「えっ」
「え、」
「……え?」
二人とも口を閉じて黙りこくる。
先に口を開いたのは刹那ちゃんだった。
「えと、じゃあ……なんだっけ、入部…」
「あ、うん。書いておくね…えっと……?」
「こ、これからよろしく?」
「こちらこそ」
そして、また沈黙。
刹那ちゃんを見たら、目があう。
その瞬間、私たちは急に笑い出していた。
笑ってしまった。
別に何が面白い、とかはないけど、
確実に、幸せだった。
生ぬるい日差しを浴びながら、私たちはたぶん、友達になった。
水鳥呼夏 みとりこなつ
狼牙刹那 ろうがせつな