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あかりたちの許に戻り、残りのコーヒーを飲んでいると、レイと堀様たちが帰っていくのが見えた。


あかりも駐車場が見える位置に座っていたが、横を向いて、話していて気づいていないようだった。


「青葉、なにぼうっとしてるの」

と寿々花に突っ込まれ、反射的に、何故だか、レイがいたことを隠そうとしてしまった青葉は、思わず、


「あ、いや、そこに堀様とやらがいて――」

ともう誰もいなくなった駐車場を指差し、言ってしまった。


「えっ? 堀様っ?」

「何処っ?」

「何処なのっ?」

とカンナを除く女性陣がガラス窓に張り付く。


そして、あかりたちだけではなく、特にファンではないらしい真希絵にまで、

「見てたのなら、早く言ってっ」

と怒られてしまった。




「前から思ってたんだが」


日向が寝てしまった帰り道、青葉はいろいろ考えながら、あかりに言った。


「お前、堀とかいう奴の顔が好みなら、俺は全然好みじゃないよな」


あかりは笑う。


「言ったじゃないですか。

青葉さんの顔は好みじゃなかったです。


……でも、


なんか一番好きだった」


ちょうど、あかりの実家の前にとまったところだった。


思わず、身を乗り出して後部座席のあかりにキスしようとしたが、


「いやっ。

お母さんたちいるんでっ。


お母さんたちいるんでっ」

と後ろについた車を振り返り、あかりは叫ぶ。


いなかったら、いいのだろうか、と思いながら、かなり迷って青葉は訊いた。


「……お前、レイってやつ知ってるか」


「れい?

何処のれいさんですか?」

とあかりは、きょとんとしている。


知らないのか。


そうか、と思いながらも、ホッとはできなかった。


心の扉を閉めても閉めても、湧き出してくる記憶。


それは頭の中で、ほんとうはもう、ハッキリと見えていた。


そうだ。


あのとき、思ったんだ――。


あかりにこのことを追求して、揉めたらやだな、と。


あの人の方が好きなんです、も。


元カレなんです、も聞きたくない。


仕事の途中、たまたま、あかりの家の前を通った。


ちょっとだけでも顔が見られたら、とウキウキしていつものあの道を通った自分は見てしまったのだ。


いつも自分にするみたいに。


あかりが笑顔であの金のノブのついた白い扉を開け、違う男を出迎えているところを――。


驚くほど綺麗な顔をした、細身で長身のその男は、雑誌から抜け出たようなファッションで目立っていた。


……目立って当たり前か。


あの子たちが言っていた。


あの男は、世界的に活躍しているハーフモデルのレイなんだと。


あのとき、あかりに声をかけて、

「その男は誰だ」

と訊くべきだった。


だが、楽しそうに話しながら、家の中に入っていく二人をただ見送ることしかできなかった。


そして、そのあと、あの事故に遭った。


ああ、全部忘れたい。


さっき見たもの忘れたい。


追求して可愛いあかりに、逆ギレされて、別れるとか嫌だ。


さっき見たもの、全部忘れたい――。




……まさか、ほんとうに忘れるとは。


っていうか、あかりごと全部忘れるとは……。


ただ単にあの男のことを訊きたくなかっただけなのに。


ああ、でも、完全に思い出してしまったぞ。


困った。

追求せずにいられない。


「あのー、青葉さん。

車動かさないと、みんなが入れませんが……」


でも、こいつ、レイの名を出しても、なんの反応もなかったんだよな。


もしかして、あれ、道を訊かれただけだったとか?


地図をとりに家に入るのに、あの男も連れて入っただけだったとか、と思いながら、青葉はもう一度訊いてみた。


「ほんとうに知らないのか? モデルのレイを」


あかりは自分たちが家の前にとまったままなので、庭に入れない後ろの車を気にしていたが、


「……モデルのレイ?」

と口の中で呟いたあとで、あーっ、と声を上げた。


「そういえば、嶺太郎れいたろうさんって、モデルでしたね」

と呑気な口調で言い出す。


「フィンランドで住んでた家、実は嶺太郎さんの家なんですよ」


いや、嶺太郎さん、誰なんだ……。


「あの人、あちこちに家持ってるんで。

たまには、風通した方がいいからって、家、貸してくれてたんです。


でもあの、なんで私と知り合いって知ってるんですか?」


「……その嶺太郎とやら、さっき、お前の堀サマと一緒にいたぞ」


ええっ!?

と叫んだあかりは、


「なんで、嶺太郎さんが、堀様とっ!」

と慌てふためく。


「いや……モデルだからだろ」


「えっ? でもっ。

あっ、いや、そうかっ。


えーっ?

モデルって、堀様と接点あったりするんだっ?」


「芸能人だからあるんじゃないか?」


「いや~、私の中では、嶺太郎さん、芸能人のくくりに入ってなくて」


どういう知り合いなんだか知らないが。


あれだけのオーラがある人に、こいつ、ひどいな……、と思う。


「あの人、堀サマと仲良いらしいぞ」


知らなかった~っ! とあかりは悶絶する。


「うわっ。

全然、思いつかなかったですっ、そのルートッ。


わたしの中では、嶺太郎さんは、なんかたまに雑誌に載ってる人、くらいの認識だったんで。


最近、ほとんど海外にいるんで、日本のテレビやショーで見ることないですから」


お母さんっ、寿々花さんっ、とあかりは車を降りて、後ろの二人に嶺太郎の話をはじめる。


「なんですって?

なんで早く言わないのよっ」

と寿々花がわめくのが聞こえてきた。


「嶺太郎さん、私も知らないわけじゃないけど。

そんなに接点ないのよ。


あなた知り合いなら、早く言いなさいよっ」


「いや、知り合いって言っても。

おばあちゃんが、昔、嶺太郎さんのご家族にお茶を教えてただけなんですけど」


「なんでもいいわよっ。

今度、堀様と一緒に嶺太郎さんを呼んできなさいっ」


それからしばらくして戻ってきたあかりはドアを開け、自分に訊いてきた。


「すみません。

お待たせして。


ところで、なんで、嶺太郎さんがレストランにいただけで、私と嶺太郎さんが知り合いってわかったんですか?」


「……今か」

と言いながら、なんかもう別に訊かなくてもいい気がしてきたぞ、と青葉は思う。


俺の口からレイの名前が出たことよりも。


嶺太郎が、堀サマと友だちだったことの方が、こいつにとって、おおごとだった時点でもう――。


「……思い出したんだよ。

フィンランドにいた頃、その嶺太郎、お前んちに訪ねてきたことあるよな?」


「あ、はい。

確か置いてた荷物をとりにいらしたことが……。


って、あれっ?

記憶戻ったんですかっ!?」

と叫び、驚くあかりに、


「……よかったよ。

嶺太郎と堀サマが友だちだったことに比べたら、そんなことどうでもいい、とか言われなくて」


そう嫌味まじりに呟いてみた。



ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

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