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鳴り響くスマホのアラームを止め、布団の中で寝返りを打つ。時間を確認すると、午前六時半。今日は午前は授業で午後は自習だったっけ、とぼんやりとした頭で考えながら布団から出る。
朝食や着替えなどを済ませ、髪を縛っているところでふと熱を測っていなかったことを思い出す。頭痛も咳も治まっているとはいえ、一応測っておかねば。体温計で熱を測ると、三十六度四分。
「平熱だ。よかったぁ」
昨日、私は風邪を引いて熱を出してしまい、棘くんが付きっきりで看病してくれたのだ。まぁ、その、熱を出している間に色々とやらかしてしまったけど。でも、棘くんのおかげで風邪治ったし!よかったよかった!
完全復活したことを伝えておこうと、スマホで棘くんにメッセージを送る。すぐに既読が付き、返信が来る。私はそれを見て昨日の自分を殴りたくなった。
《よかった》
《あ、昨日俺が言ったこと覚えてるよね?》
《放課後、俺の部屋来てね》
《宣言通りいっぱい可愛がってあげるから》
「言われたなぁ、そんなこと……」
棘くんの可愛がるは私の身と心臓がもたないと思うのだけど、そこの所どうなのだろうか。とりあえずキスと痕付けられるのは確定だろうなぁ。高専の制服が首が隠れるタイプのやつでよかった。
それにしても熱で少しおかしくなっていたとはいえ、薬が苦いからと口直しにキスしたり、もう一度キスしようとしたら拒否られたからと拗ねてキスマークを付けようとするのは如何なものか。改めて思い出してみると結構恥ずかしい。私もあんなことするんだな…。
しかし、過ぎたことは気にしても仕方ないので諦めて受け入れるしかない。思春期男子を煽ったら、そりゃあそうなるよなぁ。とは言え、棘くんはどこまでやるつもりなんだろう。漫画とかネットで得た知識はあれどやったことは無いし…。彼氏出来たの初めてだから当たり前だけど。
「………って、朝から何考えてんの私」
そりゃあ彼氏から「可愛がってあげる」とか言われたら期待してしまいますけど。私だって思春期なので。でも朝っぱらから考える内容ではないよな。うん。
「その時になったら考えよう」
─✻─✻─✻─✻─✻─✻─
全ての授業が終わり放課後になる。ついにこの時が来てしまったか、と考えながら教科書とノートなどを鞄に詰め込んでいると真希ちゃんに声を掛けられる。
「おい、硝子さんが呼んでるぞ」
「え?」
教室の出入り口の方を見ると、家入さんが手招きをしているのが見えた。もしかして昨日の熱のことかな?廊下に出て家入さんに「こんにちは!」と言うと、体調はどうかと訊ねられる。
「棘くんのおかげで元気です!」
「そうか、なら良かったよ。……あと、これを渡そうと思ってな」
そう言って白衣のポケットからとある物を取り出して私に握らせる彼女。何だと思いながらそれを見た瞬間、自分の顔が真っ赤になっていくのが分かった。
「はっ、え!?家入さん!?」
「昨日の狗巻の様子を見るに必要かと思って」
「そ、れはさすがに…無いって言い切れないな……」
「どっちにしろあるに越したことはないだろう。持っておけ」
どこか楽しんでいる様子でそう言う家入さん。棘くんじゃなくて私に渡すのか…。マジか。いや、まぁ、確かにあるに越したことはないですけど。戸惑い気味にお礼を言って、ソレをスカートのポケットに入れる。これ保管場所に困るな。棘くんにあげればいいのか?でもそれはそれで棘くんが困惑しそうだし……。
じゃあな、と微笑んで保健室に戻っていく家入さんを見送り教室に入ると、棘くんに家入さんと何の話をしていたのかと聞かれる。
「もう体調は大丈夫かって聞かれただけだよ」
「こんぶ?」
「うん、それだけ」
本当はそれだけじゃないけどね!とんでもねぇもんを渡されましたけどね!でもさすがに言えないので黙っておく。嘘ついてごめん棘くん。
「じゃあ行こっか」と棘くんに手を引かれ、教室を出て彼の部屋へと向かった。
部屋に入ると同時にネックウォーマーを脱ぐ棘くん。相変わらず呪印が大変えっちです。もう既に胸とお腹がいっぱいです。だがしかし。ここで棘くんが帰してくれるわけもなく。ベッドに腰かけると、自身の足の上に私を座らせる棘くん。いわゆる対面座位である。あれ、この座り方昨日もやったな?薄らと記憶にあるぞ。
私の顔を見て微笑むと、ふに、と唇を触る棘くん。「いい?」と聞くその表情はやけに色っぽくて。私の前でしかこんな表情しないんだよなぁ、と少しだけ優越感を抱く。
「…いいよ、棘くんの好きにして」
そう言って首に腕を回すと、棘くんは噛み付くようにキスをしてくる。右手で私の後頭部をがっちりと押さえ付け、左手は私の腰に回されている。前回した時よりも一回のキスの時間が長い。何度も顔の角度を変えつつキスしていると、不意に顔が離れる。そしてなぜか舌を出す棘くん。よく分からないまま彼の真似をして私も舌を出すと、それを絡め取られるようにキスされる。
「んんッ」
私のよりも少し分厚い棘くんの舌によって口内を犯されていく。舌の動きは最初は優しく、次第に激しく。棘くんにも気持ちよくなって欲しいと、棘くんの舌の動きに合わせて自身の舌を絡める。大丈夫かな、上手く出来てるかな。
「……ん、はぁ、…ぁ」
「…ん」
今まで感じたことのない快楽に、思わず身体から力が抜ける。唇を離すと、互いの舌から銀色の糸を引いているのが見えた。それを掬い取るようにちゅ、と音を立ててキスをされる。そしてまだ足りないと言うように腰に回されている手に力が入り、グッと抱き寄せられる。
「ツナマヨ」
「えっ、私から!?」
「しゃけ」
次はそっちからキスして、と言って舌を出す棘くん。恐る恐る棘くんの舌に吸い付くようにキスをし、自分の舌を侵入させる。先程の棘くんほど上手くは出来ないが自分なりにやっていると、突然舌を甘噛みされた。
「はっ、え、……んむっ」
驚いて口を開けた瞬間、ニヤッと笑った棘くんが再び私の口内に舌を入れられる。上あごや歯の裏側などを舌先でゆっくりとなぞられるのがかなり気持ち良くて、頭から足先まで痺れるような感覚に襲われる。気が付くと、後頭部と腰に回されていた手は私の両耳を塞いでおり、そのせいで頭の中にいやらしい水音が響く。
「んッ、……ふ、ぁ……」
最後に舌先をちゅうっと吸われ、唇が離れる。私の耳を触りながら「可愛い」と口パクで言う棘くん。どんなお菓子よりも甘いその言葉に、下腹部がキュンと疼くのが分かった。…あは、これ私の方が我慢出来なくなりそう。棘くんとのキスで気持ちが昂ったのか、どうやら欲張りになってしまったようだ。
制服のボタンに手をかけ上着を脱ぎ、ブラウスも第二ボタンまで開けて棘くんを見る。突然上着を脱いだ私に彼は目を丸くして驚いていた。
「痕付けるなら制服の首元が邪魔じゃん」
「……しゃけ」
「ねぇ、とーげくん」
「…ッ、た、かな」
再び棘くんの首に腕を回すと、私は出来るだけ妖艶に見えるように笑って言う。
「いっぱい痕付けていーよ♡」
いっぱい痕付けて♡と誘惑すると、棘くんは私の肩に頭を乗せて大きく息を吐く。そして私と視線を合わせて必死に何かを耐えているような顔で言う。
「……明太子、いくら?」
───歯止めきかなくなるけど、いいの?
その質問にいいよと答えると同時に、鎖骨を甘噛みされる。そして首筋を舌先で舐められたかと思えば、痛くない程度にちゅう、と吸われる。綺麗に痕が付けられたのか、その部分を指先でなぞり満足そうな顔をする棘くん。その後も首筋だけでなく手首などにもいくつかキスマークを付けられる。
「……こんぶ。すじこ」
「別にいいよ。いっぱい付けてって言ったの私だし。…ねぇ、私も棘くんに痕付けていい?」
そう言って棘くんの制服の上着のボタンに手をかけると、どことなく嬉しそうな顔で「高菜、ツナマヨ(どうせならいっぱい付けてよ)」と言われる。
制服の襟を軽く引っ張り、首筋に顔を埋めて、先程の棘くん同様にいくつか痕を付ける。
(……なんか、『私の』って感じがする)
呪術高専には女子生徒は私と真希ちゃんぐらいしかいないため、嫉妬することなど無いに等しい。だが、こうして彼は自分のだと主張するかのように痕を付けるのはなかなか悪くないかもしれない。棘くんはいつもは口元まで隠しているから主張にはならないけど。
棘くんの鎖骨を右手の人差し指でなぞりながらそんなことを考えていると、黙り込んだ私を不思議に思ったのか棘くんが顔を覗き込んでくる。
「明太子?」
「んー、こうやって痕付けるの『私の』って感じがしてすごいイイなぁ…って。何だろ、優越感?独占欲?」
どちらにせよ、入学してからずっと推し続けていた棘くんに、まさかこんな感情を抱く日が来るとは思ってもみなかった。ここまで夢中になるなんて誰が想像出来ただろうか。
「高菜、こんぶ」
「あはっ、確かにそうだね!…ふふふっ。ねぇ棘くん」
「?」
「大好きだよ」
「……!しゃけ。ツナマヨ」
─✻─✻─✻─✻─✻─✻─
その日の夜、部屋の洗面所で、鏡越しに自分の首に付けられたキスマークを見る。思ってたよりも多いな。
「『ならコレは君が俺のって証だね』か…。何日か経つと消えちゃうの勿体ないなぁ」
思わず、そう呟く。
今まで三次元の男に興味が無かった私がこうやって普通の女の子みたいに恋愛する日が来るなんて考えたことも無かった。おまけに、まだ学生とは言え呪術師として月に何度か任務に行く私達は常に死と隣り合わせなのだ。非術師の人達みたいに、こんな普通の恋愛が出来るなんて思っていなかった。
死にたくない、とはずっと思ってはいる。今までは、この漫画の最終巻を読むまでは死ねない!とかそんな理由だった。けれど棘くんと出会って、恋人になって、今まで以上に死にたくないと思うようになった。棘くんに比べたら私はまだまだ弱いから、先に死ぬならたぶん私。けど、もしかしたら私よりも危険な任務に行くことが多い棘くんかもしれない。
「それは嫌だなぁ」
置いていきたくはないし、置いていかれたくもない。願わくば、おばあちゃんになっても隣にいたい。ならばもっと強くならなければ。
「もっと頑張らなきゃ」
今度、真希ちゃんに稽古付けてもらおうかな。身体の使い方なら私よりも上だし。そんな決意を胸に、私は布団へと潜り込んだ。
✻主人公✻
→いっぱい可愛がられた人。途中スイッチ入っちゃって「いっぱい痕付けて♡」っておねだりした。
硝子さんがくれたのはいわゆるえっちの時に使うゴム的なアレ。思わず二度見した。たぶんそのうち使う。
お風呂場で真希さんとすれ違った時に首元を見られ綺麗に二度見された。
✻棘くん✻
→いっぱい可愛がった人。作者は勝手にキス上手そうだなって思ってる。ド偏見。
いっぱいキスしたし、いっぱい痕付けた。キスしてる時の主人公の声がえっちすぎた。思春期男子には刺激が強い。
お風呂場で髪乾かしてたら乙骨くんに首元を見られて五度見された。「えっ、それ、キスマ……え?」って顔を真っ赤にして狼狽えてたのがちょっと面白かった。
✻硝子さん✻
→作者のせいで愉快犯になった。前日の棘くんの様子を見て「近いうちに必要になるのでは?」と考えて渡しに行った。あのカップル見てると癒される。
✻真希さん&乙骨くん✻
→お風呂場でとんでもねぇもんを見てしまった二人。次の日、棘くんを見て挙動不審になる乙骨くんにまさかと思って風呂場で何か見たのかと聞いたら、そのまさかだった。高専の制服が首元隠れるやつでよかったな!
「狗巻くんは何か分かるけど、彼女も痕付けたりするんだね……」
「二人が互いのこと大好きなのは分かった」
二〇一八年二月二十六日。N県のA山付近にて確認された二級一体と三級二体の呪霊祓除に高専生二名が派遣。うち一名が意識不明の重体。