テラーノベル
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あの日からぐち逸を見かけるとなんだか少し恥ずかしいような感覚になると同時に、躍るように胸が弾む。この気持ちの謎はまだ分かっていない。
「これから会議だってさ。」
「最近会議多くないすか?」
「まぁまぁ、この前六法色々変わってそれの共有とかだからそんなに時間かかんないでしょ。」
ミンドリーが前に立って話し始める。予想通り街の決まり事云々の話が中心で、たまたま気が向いて六法を読み込んでから出勤したぺいんは後半は半分ボーッとしながら聞いていた。
「…えー、これで六法についての共有は以上かな。あと最後にもう1つ、空架ぐち逸についてなんだけど。」
「は!?ぐち逸!?!?」
「なにぺいん?何かある?」
「…ぁえっ!?あーいやなんでもない、ごめん。続きどうぞ。」
もはや名前を聞くだけで過剰に反応してしまう。いかんいかんと首を振って話に集中するもぺいんには耳が痛い内容だった。
「彼に救助されて極端な高額請求された人っている?」
「いや、いつも救急隊と同じ値段です。」
「むしろ救急隊より安い時もあったかも…」
「2000万って言われて嘘だった事ある。ね、ボイラさん。」
「あぁそんな事もあったな。」
「ぐち逸さんってそういう冗談とか言うんだ…」
「そこがまた厄介なんだよね、詐欺罪でもないし警察官助けるのは逃走補助ではないし。でも救急隊も困ってるから何かしら対策を取らないとって事で、今後ぐち逸に救助されても請求は拒否するように。」
いつか何かしらの対策がされると思ってはいたが流石にそれは酷いんじゃないか。考える前に口が動いた。
「ちょっと良いですか?たぶんぐち逸は治療費払わなくても目の前に倒れてる人がいる限り助け続けるよ。」
「まぁそうだとは思う、実際俺が拒否し続けても何回も助けられてるし。でも警察全体の意思表示としてあなたからの救助は望んでませんって伝える手段としては現状これぐらいしかできないからさ。」
「でも危険な中助けてくれるんだよ?犯罪者側からの通知で来るしそっち助けたほうが得だろうに。それを無下にするのはどうなの?」
「だって俺らは頼んでないのにあっちが勝手にやってる事だよ。それで救急隊も迷惑してるんだから。それともぺいんが説得でもしてくれる?」
「それはっ……たぶん無理だけど…皆は賛成なの?」
シンと静まり返った中パラパラと手が挙がり始める。一人一人の真意は分からない中、最終的に半数以上が賛成の意志を示していた。
「じゃあこれは決定事項で。あと現場介入してきたら公務執行妨害と無免許なのは確実だから、誰をピックしてようが撃っちゃって良いからね。」
「……はい…」
終わってみれば何故あんなに庇ったのか、頭の中を整理しきれていない。警察、救急にとって厄介なのは分かっているつもりでもそれ以上にぐち逸がただの迷惑個人医だと認識されたくない、酷い目に遭ってほしくない、そして自分がぐち逸から嫌われたくないという思いが錯乱している。
「ぺいん先輩宝石店一緒に行きません?」
「ごめん俺もう退勤するわー、頑張れ。…はぁ、もっかい話したいな。」
こんな気持ちで仕事する気にはなれず、退勤して気晴らしにドライブに出てみるも逆効果だった。家に着くとシャワーを浴びる気力も無くベッドに倒れ、ミンドリーが話していた事を思い出すと無性にイライラしてきてしまった。
「あー、やめやめ!ぐち逸はこんぐらいでへこたれたりしないよ、うん。……なんなんだろなー、なんか前と違うんだよなー…ぐち逸……空架、ぐち逸……うわああぁぁ!!」
頭に焼き付いているあの照れたような顔がまた胸を高鳴らせる。途端にベッドの上をゴロゴロ転がったり布団をバシバシ叩いたり、興奮冷め止まずその日は眠れなかった。
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