「……じゃあ、次は若井、俺とやってみる?」
 
 
 
 元貴のその言葉に、部屋の空気が一段と熱を帯びる。
若井は、どこか挑むような目で元貴を見た。
 
 
 
 「……いいよ。お前と勝負だな」
 
 
 
 静かに、でも確かに。
若井の声は、火を灯した。
 元貴がソファから少し身を乗り出す。
2人の距離は、さっきまでとは違う。
互いに全てを見せ合うような、真剣なまなざしだった。
 
 
 
 「……下、反応してたら負けな」
 
 
 
 そう囁いたのは、若井。
ふっと笑ったその瞬間、元貴の唇に口づけが落ちた。
 ——甘くて、熱くて、強引で。
 最初から、探るような軽さはなかった。
舌がすぐに入り込んでくる。
歯をかすめ、奥へと侵入してくる。
そのたびに、元貴の体が小さく跳ねた。
 
 
 
 「……っ、あ……」
 
 
 
 唇の端から漏れる吐息。
その音すら、若井を刺激しているようだった。
動きはどんどん激しくなっていく。
舌を絡め、唇を吸い、呼吸すら忘れるほど深くキスを交わす。
 けれど——
元貴は、乱されながらも優しく応えた。
 舌を絡められても、逃げない。
押し込まれても、抵抗しない。
むしろ、包み込むように、受け止める。
触れるたびに、丁寧に。
あたたかくて、艶のあるキス。
 
 
 
 「……んっ、ふ……」
 
 
 
 耳元で吐息が絡む。
頬にそっと手を添えられた瞬間、若井はドキリとした。
 目を開けると、すぐ目の前。
潤んだ元貴の瞳が、自分をまっすぐ見ている。
その視線が、まるで心を奪ってくるようで。
 
 
 
 (……やばい。持っていかれる)
 
 
 
 キスは、もう“ゲーム”の域を越えていた。
口づけるたびに、体の奥が熱を帯びる。
反応するのを我慢しようとするが、すでに遅い。
 
 
 
 「……っ、元貴、お前……反応してるじゃん」
 
 
 
 ようやく唇が離れて、若井が少しだけ息を整えながら呟く。
元貴は、ふわりと笑った。
 
 
 
 「……そういう若井こそ、ね?」
 
 
 
 お互いに、もう言い逃れできない。
身体は、正直だった。
 見つめ合ったまま、どちらも笑いながら黙り込んだそのとき——
 
 
 
 「はいはい! ストップストップ!!」
 
 
 
 勢いよく声を上げたのは、藤澤だった。
 
 
 
 「2人の負けね! 完全に反応してたし、見ててこっちが恥ずかしいわ!」
 「え、ちょ……涼ちゃん?」
 
 
 
 若井が驚く間もなく、藤澤は腕を組んでドヤ顔。
 
 
 
 「従って!俺の勝ち!!」
 「ずるくない!? 不戦勝みたいなもんじゃん!」
 「いや、そもそもゲームなのに本気出しすぎなの! なんで俺、キスで脳まで支配されたと思ったら、次のターンでイチャつきMAX見せられなきゃいけないの!?」
 
 
 
 元貴はくすくすと笑いながら、身体を起こす。
 
 
 
 「ねぇ、涼ちゃん」
 「……なに」
 「俺らと、もっとキスしようよ?」
 「……やだ!!! 絶対ハメられる!!!」
 
 
 
 藤澤が全力で首を振ると、3人の笑いが部屋いっぱいに広がった。
さくらんぼの茎は、もう乾いてしおれている。
けれど、今夜の熱は、まだほんのりと空気に残っていた。
 
 
 
 END
 
 
 
コメント
2件
終わっちゃったー!!悲しいような?うれしいような感じがするー!!!!!!!