テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「おはよう、花梨ちゃん」
「……」
「まだ寝てるの?」
「……」
「寂しいからさ、早く起きてよ」
「……」
「…ご飯作ってくるね。待ってて」
最近花梨ちゃんはなかなか起きない。
私が寝た後にこっそり起きてるのかもしれないと、監視カメラを設置してみても花梨ちゃんは起きていなかった。
「できたよ~…起きた、?」
「……」
「まだか…」
「いただきます…」
ご飯を食べながら、過去を思い出す。
花梨ちゃんと学校で出会ったこと。
授業中に先生に隠れて話したこと。
体育の授業で二人一組になったこと。
体育祭で同じチームになったこと
文化祭を一緒に回ったこと
放課後、スタバに行ったこと
クレープを食べに行ったこと
一日中遊園地で遊びまくったこと
観覧車に乗ったこと
お互いの家に行ってお泊まり会をしたこと
二人旅に行ったこと
くだらないことで喧嘩したこと
告白したこと
少しずつ大人になっていったこと
嫉妬したこと
束縛気味になった時のこと
愛が歪んできたこと
花梨ちゃんが浮気をしたこと。
──嫌なことを思い出した…
それについては解決したことなんだから考えるのはやめよう。
「花梨ちゃん…起きた?」
「……」
目元に掛かっている髪を手で避ける。
今日も開かない花梨ちゃんの瞼。
「花梨ちゃん、、」
「ごめんね…」
「……」
目から出てきた涙は止まることを知らないらしい。
1滴、2滴、とどんどん頬を伝う。
我慢をしようとするけど余計に溢れてくるだけだった。
こんなに苦しくても花梨ちゃんは声をかけるどころか、目すら開けてくれない。
そんなことに慣れなきゃいけないはずなのに…
前より辛さが増している。
最愛の人の声を聴けない、話せない、出掛けられない、一方通行な愛しか渡せない。
こんな状況でも私が生きていられるのは花梨ちゃんのお陰でもあり、花梨ちゃんの所為でもある。
『音ちゃんのこと、誰よりも愛してる!一生一緒だよっ?』
『私が音ちゃんを置いてどっかに行くわけないじゃん!』
『…でも、あるとしたら、音ちゃんに捨てられた時かなぁ』
花梨ちゃんは「私を置いてどこにも行かない」と言った。約束した。
なのに、いなくなるの?
他の誰かに私たちの関係をどうこう言われた?
それとも私を試してるだけ?
本当にいなくなったらどういう反応をするのか。
10分ほどで涙は収まったが、苦しいのは変わらない。
「ねぇ花梨ちゃん」
「私、また花梨ちゃんと遊園地行きたい」
「ジェットコースター乗って、コーヒーカップ乗って、チュロス食べてさ」
「……」
どんな話をしても花梨ちゃんが耳を傾けてくれることはもうない。
「初デートしたあの観覧車にまた乗るって約束、覚えてる?」
「毎年記念日になったら乗ろって言ってくれたこと、昨日のことみたいに、はっきり鮮明に思い出せる」
「……」
この思い出話をするのは何度目だろう…。
花梨ちゃんは一度も頷いてくれたことはないんだけど
それでも少しの希望と我儘を持ち、ふいに話し出してしまう。
「私は嬉しかった。花梨ちゃんとの関係が何年も続くものになったのが。」
「花梨ちゃんもそうだと嬉しいなぁ、、」
「……」
「…ゆっくり寝てていいからね」
それから何日も私は花梨ちゃんの隣に座っていた。
「早川 音さん、あなたを誘拐、監禁致死傷罪の容疑で逮捕します。」
警察が来たのは、花梨ちゃんが目を覚まさなくなって2年経った頃だ。
理由はわかっている。
「…花梨ちゃんは?」
「こちらで引き取らせてもらう」
「花梨ちゃんと一緒にいたいです」
「残念ながらそれはできません」
「そうですか。ならいいです」
私は常備していたナイフを胸に振り下ろした。
警察の人は驚いたような表情をしている
「花梨ちゃん、これでずっと一緒だね」
花梨ちゃんがいない現実なんて現実じゃない。
生きている意味なんかない。
『 一生一緒だよっ? 』
「…笑」
「死んでも逃がさないから。覚悟しておいて?…」
目を閉じると、瞳の裏で走馬灯が流れた。
花梨ちゃんと初めて話した日のこと。
初めて遊びに行った場所。
花梨ちゃんが泣いたこと。
笑ったこと。
怒ったこと。
部屋に閉じ込めたこと。
恐怖に満ちた顔。
快楽を求める声。
深緑色の瞳。
力の抜けた足。
必死に此方へ伸ばす手。
花梨ちゃんの綺麗で汚れた身体。
全てを私のものにするためにしたこと。
一切の悔いはない。
今回は、それに天罰が下っただけ。
花梨ちゃんを、人を殺した罰が。
深紅に染まった私のドレスと
赤い薔薇の飾りを付けた花梨ちゃんのドレス
どちらも綺麗な赤色だった。
アイシテル 。
コレカラモゼッタイハナサナイ … …