テラーノベル
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仁人が俺の部屋に来たのは、夜の11時過ぎだった。
インターホン鳴った瞬間、ドア開ける前から、仁人がもう無理そうだなって分かった。
『おいで』
そう言って玄関で腕を広げたら、仁人は一瞬だけ迷って、それから何も言わずに胸に顔を押しつけてきた。
そのまま背中に手を回すと、やっと呼吸が落ち着いてくるのが分かる。
「…今日さ」
『うん』
「仕事終わりに、また連絡きて」
『また?』
「うん。なんか、返信しないと怒ったみたいになってて」
俺は仁人の頭に顎を乗せたまま、天井を見る。
胸の奥に、じわじわと苛立ちが溜まっていく感じがした。
『どんな?』
「今日何時に帰るの、とか、今誰といるの、とか」
『それ全く仕事関係ないよな』
「ね、」
分かってるのに、立場のせいで拒否できない、その状況に上手く漬け込むあいつに腹が立つ。
その日は何もせず、二人で同じベッドに入った。
俺は仁人を抱き寄せて、背中を撫でながら、寝息が整うまで離れなかった。
次の日から、状況は目に見えて悪くなった。
現場に行くと、必ず仁人の近くにその人がいる。
スタッフに囲まれてるふりをしながら、やたら距離が近い。
「今日いつもと違う匂い?柔軟剤変えたの?」
冗談みたいな口調で言う。
仁人は笑って流すけど、その笑顔が固かった。
俺は自然を装って間に入る。
『俺ん家の匂いですよ。泊まってたんで。それより仁人、次…』
「うん」
仁人が俺の方を見る時、ほんの一瞬だけ安心した顔をするのが分かって、胸が締めつけられた。
その日の夜、仁人から来たLINEはいつもより長かった。
「さすがに怖いかも。 さっき、俺のことどう思ってるか聞かれてさ、 冗談っぽかったけど、目が笑ってなかった」
俺はすぐに電話をかけた。
『明日から、俺なるべく一緒にいるから』
「迷惑じゃない?」
『迷惑なわけないだろ』
少し強く言ったら、電話の向こうで小さく息を吸う音がした。
それから本当に、ほぼ一緒にいた。
楽屋も、移動も、待ち時間も。
周りから見たら、ただ仲いい二人にしか見えないはずだけど、俺の中ではより一層警戒する。
それでも、相手は止まらなかった。
夜中に何通も送られてくるメッセージ。
「今なにしてる?」
「返事ないと寂しい」
「俺のこと嫌い?」
その中に混じる、明らかに越えてる言葉。
「抱きしめたら細そうだよね」
「キスしたらどんな顔するんだろ」
仁人は見せないようにしてたけど、俺は全部見た。
スマホを握る手が震えてるのを、見逃すわけがなかった。
『…我慢しなくていいんだからな、』
「でもさ」
『仕事は仕事。でも、これは違う』
仁人は少し黙って、それから小さく頷いた。
その数日後、事件は起きた。
夜、俺が自分の家で台本読んでた時、仁人から電話がきた。
出た瞬間、声が震えてるのが分かる。
「勇斗、来れる?」
『どした』
「…家の前に、いる」
一瞬で血の気が引いた。
『開けんな、今すぐ行くからちょっと待ってろ』
心臓がうるさいくらい鳴ってる。
頭の中で、最悪の想像がいくつも浮かぶ。
仁人の家に着いた時、玄関の前に立ってる影が見え、 迷わず間に入る。
『なにしてんの』
冷静さを保つために感情を押し殺した。
相手は驚いた顔をした後にすぐに笑った。
「心配性だね」
その瞬間、マジで殴りそうになった。
でも、ここでやったら仁人が困る。
それだけで踏みとどまった。
『現場といい、メッセージといい…仁人嫌がってんのわからないんすか?』
「仁人くんが可哀想だよ」
『…は?』
「こんなに縛られて」
フツフツと怒りが湧いていく。
こいつに仁人の何がわかんだ。
「仁人くん!聞こえるかな?こんなやつよりも俺の方がいいだろう?」
相手の挑発にそろっと仁人がドアを開けた。
男は空いたドアに気づき一瞬のまもなく、ドアに手をかけて力ずくでこじ開ける。
次の瞬間には、男は仁人の手首を掴んで引っ張っていた。
やっとの事で押さえ込んでいた冷静さなんて、もう微塵もなくなった。
『触んな』
「?」
仁人も一瞬震え上がったのが分かった。
相手に近づいて、仁人には罵詈雑言なんて聞かせたくないから、耳打ちするように言う。
『お前ほんとに殺されてぇの?警察行ったら人生詰むぞ?今の立場に戻れなくしてやっから。』
事の大きさにやっと気付いた相手は渋々帰っていった。
ドアが閉まった瞬間、その場にしゃがみ込む仁人を 俺は何も言わずに抱きしめる。
『ごめん、怖かったろ…今日俺このまま泊まってくから、一緒に寝よ』
仁人は小さく「うん」と返事をして俺の服を掴んだ。
それからというもの、マネージャーに相談し、色々手配をしてもらった。
もちろん、連絡網は跡形もなく消し、関わることもなくなった。
「流石にあの時の勇斗怖かったなぁ笑」
『え?』
「ほら、家来た時さ」
『あー、悪ぃ笑いや、頑張って抑えようとしてたんだけど、無理だったわ笑』
「笑笑」
『てか、今日泊まりに来れば?俺ん家』
「え、なんで?もう終わったじゃん」
『俺が一緒に寝たいの』
「まぁいいけど、笑」
end.
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