TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

拝啓、全てを忘れ去った貴方へ

一覧ページ

「拝啓、全てを忘れ去った貴方へ」のメインビジュアル

拝啓、全てを忘れ去った貴方へ

1 - 拝啓、全てを忘れ去った貴方へ

♥

136

2024年04月30日

シェアするシェアする
報告する

はい皆さんこんばんは、からです。今回ね、くおんさんがやってるコンテストに参加しようかなと思いまして!


コンテストやってるの気付いたのが数日前なんでまっじで底クオですがぜひ見てくれたら嬉しいです。それと忠告ですがあり得ないぐらい長いです、ほんとに。大丈夫な方だけどぞ!



・コネメイン

・忌み子ネタあり

・軍パロ



転載・通報は禁止でお願いします

こちらの作品はご本人様とはなんの関係もございません





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





眩しいほどに輝く太陽が遥か彼方で地上に沈んでいく時、そこには虚ろに煌る空色の瞳をした貴方がいた。

話しかけると悲しげな目をこちらに向けて呟く。



「あの、すいません…先程から話してるとこ申し訳ないんですけど…誰、ですか?」


これは、大切なものを無くした青年のお話。



ーーー




「記憶、喪失…?」

「うん…多分その怪我と相手の能力が原因だと思う。噂では聞いてたんだよ、記憶を操るやつがいるって」

「じゃあそいつ捕まえて能力解除させればシッマは戻るん…?」

「そうだと思うけど、そいつもうあの戦争の中で死んでるんだよね…だから多分、もう…」



軍本部の会議室、そこには今コネシマを除く全員が集まっていた。話の内容はコネシマの事。つい先日起こった戦争は敵国も中々に強く全員が全力で戦った。ようやく流れがこちらに傾きそろそろ勝てると油断した時、事件は起きた。


「大先生、そっちも終わったか?」

「やーっと終わったわ、ほんまに疲れる…」

「おし、じゃあ戻るで」

「おん、行こか……ッシッマ危ない!!」

「え?」


その瞬間一つの銃声と能力詠唱の声が響いた。視界には銃を構えたまま倒れて行く敵兵と、苦悶の表情を浮かべながら膝をつくコネシマがいた。


「シッマ、シッマ…!?」

「ッ…だい、じょぶや…そんな深いとこ、は、当たってへん…ッ…」

「喋らんでええ、今運ぶから…!」

「ッすまん、大先生…あと、頼んだで…?」


そう言ってぱたりと倒れてしまったシッマを何とか本部まで運んだものの、しばらく目を覚まさず、今日やっと目を覚ましたのだが…


「ん…ここは…」

「っ!よかった、やっと目ぇ覚ました…お前な、どんだけ心配したと思ってん?」

「あの…すんません…誰、ですか?あなた…」

「っえ、?いやいや、お前何言ってん…笑 俺は俺や、お前の相棒やろ…?」

「……えっと、そう、なんすね…?」

「…ほんまに分からへんの?」

「…はい、すいません…」


そして今に至る。ぺ神曰く、シッマの中から俺たちの事は綺麗さっぱり消えてしまっているらしい。覚えているのは軍に来る直前の事まで。…よりによってあの記憶はあって俺らは覚えてないんか…

一旦コネシマを病室で待機させたまま話し合いをしに来たは良いがこれからどうするかそう簡単に決まる訳もなく、一時間半近くかけて漸く今後の対応が決まった。…俺たちはあいつの事ちゃんと「コネシマ」として見れるんか…?




ーーー




一番最後の記憶は脇腹に走る激痛と誰かが何かを叫ぶ声。目を覚ましたそこは俺の知っている場所ではなかった。目の前で俺に手を差し出しながら話し続けているこいつは一体誰なのだろうか。


「あの…すんません…誰、ですか?あなた…」


そう言った時の彼の顔は酷く悲しげだった。その後、金髪の眼鏡をかけた男が現れて、話をしてくるから暫く待っていろと言われた。どこだかわからない場所で待っていろと言われて、はいそうですかと待つ訳にもいかず部屋を出ようとした時、顔に「神」という文字の書かれた用紙を貼っている男に出て行かないよう釘を刺されてしまった。



する事もないままかれこれ二時間近くぼーっと過ごしていると、入り口の方から物音がする。やっと来たかと思って目を向けると、先程より遥かに多い人数の集団が入ってきた。


「一応確認しておく、お前はコネシマだな?」

「…せやけど、あんたらは誰なん?」

「そうか、本当に覚えていないんだな…では改めて私たち全員の紹介と今後についての話をさせてもらおう」


そう言うと金髪の眼鏡をかけた男、グルッペンを始め他の八名もそれぞれが自分の名前だけを俺に教えた。それが終わるとグルッペンは今俺に起こっている事を説明した。俺がここ…我々国という国の幹部でこいつらの仲間であった事、先日行われた戦争の際に喰らった敵兵の能力で俺がこの国に来てから数日前までの十年間の記憶が失われている事、そしてこれから俺がどう過ごしていくか。


「とりあえず今日は三日振りに目を覚ましたばかりやからな、しっかり休んでもらうで。明日からは俺たちがここの案内するからちゃんと起きて来ぃや?」

「案内…?」


途中から説明をするのがグルッペンから変わった。この黒髪の眼鏡は確か…トントン、やったか…?


「そ、記憶が無いっちゅうことはここの構造も覚えとらんゆう事やからな、不便やろ?」

「いやそうやなくて、俺ここにおる事んなったん…?」

「ん?当たり前やろ、俺らの仲間やで?」

「…そか。分かった、じゃあ明日の朝はどうすれば?」

「とりあえず朝は誰かが起こしに行くから一緒に食堂まで来てくれ」


分かったと返すとトントンは安心したように微笑んだ。その後グルッペンに「コネシマ」が使っていた部屋の場所を教えてもらい、波乱の一日が終わった。




「仲間、か…」


再び一人になり静かな空間に自分の声だけが響く。一番記憶に新しい出来事は″あれ“で止まっているにも関わらず、十年近く経っていると言う事は漠然とわかる。けど、それでも、


「“お前“は本当にそう思っとったん…?」


あの頃の自分がどう変わろうと、仲間なんてものに浮かれられるほど俺は…綺麗じゃない。なぁ、せやろ…?




ーーー




「……っ、…っま…、シッマ!」


扉を叩く音と恐らく自分のものであろう名前を呼ぶ声で目を覚ます。どうやら疲れでいつの間にか眠っていたらしい。まだ完全には覚醒していない脳のままドアを開けるときっちりと洋服を着けたトントン。


「お前その顔、さては爆睡しとったなぁ…?ったく、五分以上ドア叩いて起きひんって眠り深過ぎるやろ、羨ましいわ!」

「ん…すまん…」

「まあええわ、着替えてから食堂行くで?みんなもう集まっとるからな」


まだ眠たい目を擦りながら着替えを済ませ食堂に辿り着くと、そこには既にトントンと俺以外の全員が揃っていた。


「おぉ、重役出勤やなシッマ」

「まー、昨日の今日やからしゃーないやろ」


途端に食堂がざわつき始める。トントンに促されるままに食事を受け取り空いている席に座るとグルッペンから声をかけられた。


「よく眠れたようだな」

「まあはい、おかげさまで?」

「午前中は俺とトン氏…あぁ、トントンが案内をする。午後からはロボロとシャオロンだな」


軽い会話を交わしながら朝食を食べ終わり、食堂を出る二人の後を追う。着いた先は総統室。前を歩く二人は何の躊躇いもなく入って行くが、一応元仲間とは言え現状は何も知らない俺がここに入っていいのだろうか?


「あの…」

「ん、何をしている?早く中に入れ」


そう言われてしまえば逆らえず、大人しく足を踏み入れる。中は想像していたよりも沢山の資料が山積みになっていて圧倒される。


「グルッペンはこの資料全部一人でやっとるん?」

「そうしてくれたら楽なんやけどなぁ、グルさんよぉ?」

「…とりあえずお前はそこに座っておいてくれ。何か見たい資料があれば言ってくれれば取って来るから今はこの施設の地図でも見ておくといい」


何か思い当たる節でもあるのか少しぎこちない返事のグルッペンを横目に、言われた通りソファに腰掛ける。地図を見ていると数分もしないうちに両者共に静かになった。不思議に思って表情を伺うとどちらも真剣な顔をしている。恐らく大切な資料なのだろう。…邪魔する訳にもいかへんし、黙っとくかな。そう思った瞬間、


「おいコネシマ、確かそこの棚に×月の○国と戦争した時の資料があるから取ってくれ」

「え、?えーと、…」

「ッ…!あ、あぁ、すまない、そうだったな…つい癖で、すまないな…」


部屋の中に先ほどのものとは違う沈黙が流れる。どことなく流れる重い空気に耐え切れず、午後までの残りの時間は地図を見ておくと言って部屋に逃げて込んでしまった。



時計の短針が一時を回った頃、部屋がノックされる。


「お、出てきた。じゃあ行くでシッマ、午後からは俺ら二人が案内やからな!」


ドアの先にいた「天」と書かれた紙を顔に着けた男、ロボロと豚のヘアピンを着けた男、シャオロンに連れられ辿り着いた先は訓練場と書かれたプレートのある扉の前。


「訓練場…?」

「せや、俺ら一人一人の戦闘力上げるために二日に一回のペースで入れ替わりで訓練しとる。今日は俺とシャオロンの訓練日やからな、折角やしお前にも見せとこう思ってな」


こっちが武器庫や、と言いながら進むロボロに着いて行くとそこには大量の武器。一般人でも見ればわかる代表的な武器や本の中でさえ見たことのないような武器までありとあらゆる武器がそこにはあった。


「ちなみに俺が得意なのこれ!かっこええやろー!」

「おぉ、すご…」

「やろ?」


そう言ってシャオロンが見せてきたのは銃。ライフルよりは少し小さいから恐らく中距離用の武器なのだろう。対するロボロは剣。そう長くはないため、こちらも恐らく中距離用。


「俺ら今から訓練の試合するけどシッマも俺らが終わったらやってみる?」

「…なあ、さっきから気になっとったんやけどさ、そのシッマっての…」

「あぁ、あだ名みたいなもんやで?俺の他にも呼んどるやつおるけど…嫌やった…?」

「っあ、いや、ただ気になっただけや…!訓練…は一旦二人の見てから考えるわ」

「分かった!じゃあ俺がロボロに勝つとこしっかり見とってや!」

「はぁ〜?勝つの俺やけど?」


正直銃と剣だったら銃の方が圧勝やろな…。そう思いながら二人を目で追いかける。お互い少し離れた場所に位置どり、恐らく開戦の合図であろう音が鳴った瞬間に一気に互いの距離が詰まる。そこからはどちらも一歩も譲らない接戦だった。シャオロンのエイムが悪いわけではないはずなのにロボロは的確に銃弾を避けながら距離を詰めて行く。かと言ってシャオロンもロボロの剣の軌道を見切ってしっかり避けていた。


「すごいな…」


思わず声が漏れるほどに二人の戦いは凄まじかった。これが本当に訓練なのだろうか。


「ッコネシマ危ない!」

「え?」


見惚れていた刹那、ロボロの大声とともに視界の端を何かが掠めていった。後ろの壁を見るとそこには先ほどまでロボロが握っていた筈の剣が刺さっていた。


「すまんコネシマ、大丈夫か!?」

「あ、あぁ…当たっとらんから平気や」

「シッマごめんな!いつもなら場外に飛んでった武器でも皆避けたり跳ね返したりするからいつもの癖で飛ばしてもうて…」

「…いや、ほんまに大丈夫やで?けど流石に肝冷えたから今日はもう部屋で休んどくわ」

「…おん、怪我とかあったら言ってな…?」


何か言いたげなシャオロンを横目に自分の部屋に戻る。扉を開けるとそこはまた一人の空間。


「…夕飯、要らんって言っとかな…」


ベットに体を預けると身体的なものかはたまた精神的なものか、疲れが体内を蝕んでゆく。大した事もしていない筈の体は、ゆっくりと夢の世界へ誘われて行った。





ーーー





「コネシマさん?おーいコネシマさ〜ん」


先日よりも少しだけはっきりと目が覚める。ドアを開けるとまた二人の人物。


「あ、やっぱりまだ寝てました?起こしちゃってすみません!今日は朝ご飯が食堂で食べる日ではないので、今日の午前中私達が案内するなら一緒にどうですか?」

「エミさんのおすすめの店のめっちゃ美味いパン買ってきたから一緒食おうや!」

「おん、じゃあ着替えてくるからちょっと待ってな?」


確か色素の薄い瞳の方がエーミール、パーカーで目元が隠れてるのがゾムやったか。着替えて二人に着いて行くと図書室に着く。いや、図書室と呼んでいいのだろうか。もはや部屋では無いのではないかと言うほどに広いその空間に思わず足を止める。


「ふふっ、ここ凄いでしょう?普通の小説から世界の情勢が乗っている資料まで、色んな本があるんですよ?」

「…こんな大量の本、初めて見た…」

「なあエミさーん、ええからはよ食おーや、腹減ったー」


部屋の中央のテーブルを見るとこちらもあり得ないぐらい大量のパン。これ三人の飯で買ってくる量ちゃうやろ…


「な、なぁ…これ全部食うん…?」

「当たり前やろ!シッマも手伝ってもらうで〜?」

「え゛っ…」


そこからはほとんど拷問だった。食っても食っても目の前に運ばれてくるパン達。無理だと言っても次々と口の目の前に持ってこられては断る事もできない。遂に吐き気が押し寄せてきて口元を抑えると、ゾムがはっとしたような顔で手を止める。


「あ、シッマすまん、大丈夫か…?俺…その、いつもあいつらにやっとる癖で…」

「コネシマさん、大丈夫ですか?水、持ってきましょうか?袋とかもありますけど…」

「いや、大丈夫や…ちょっと部屋戻らせてもらうな…?」



悲しげに俺の後ろ姿を見送るゾムに気付かないまま部屋に向かって歩いていると、前から二人組が歩いてくる。


「あ、部長!どこ行ってたんすか?」

「部長…?」

「あ〜そっか、えーっと、ワイとチーノが勝手にたまに呼んでるんすけど、嫌ならやめます」

「んや、別にやめへんくてもええんやけどさ、びっくりしただけや」

「そっすか、で、どこ行ってたんすか?」

「えっと、さっきまで図書室でエミさんとゾム、さん…?と飯食っとったけど…」


そう言うと明らかに可哀想な視線をこちらに向ける。この様子からするとあれはこいつらにとって日常茶飯事なんやろな…


「あ〜食害っすか…災難でしたね…?」

「気分転換と言っては何ですけど遊戯室行きません?色んなゲームありますよ!」

「へぇ、じゃあ行こかな…」

「よーし決まりー!しょっぴ〜、部長にDDRさせようや!」

「ええなそれ笑」


遊戯室に着くとまた新たな驚きに襲われる。そこにはビリヤード台やら何やら、とにかく色んな種類のゲームがあった。チーノに引っ張られた先にあるのはゲーム台。


「部長これやりましょ!」


覚えてないとは言っても前の俺がやっとったんならちょっとはできるかも…


「お、おう…!」


結果、惨敗。なんなら盛大に転んで色んなところをぶつけた挙げ句にチーノにめちゃくちゃ負けた。


「いやぁ、わざわざ僕に勝たせてくれるなんてやっぱり部長は優しいですね〜!」

「流石、鬱兄さんと一緒におるだけありますわ!」


想像していなかった二人の煽りに驚く。俺、後輩からもこんなに慕われてなかったんやな…


「おん、そか…」


俺が短く返すと、慌てたような様子でチーノが話し出す。


「えっ、あっ…!えーとコネシマさんこれは違くてですね…えと、そう!いつも通りに煽りながら接したら記憶戻るかなと思いまして、」

「バカ、チーノ!」

「別に大丈夫やで、実際負けとるしな…笑」

「「部長…」」

「食った後に動いて疲れたし俺はもう部屋で休むわ、誘ってくれてありがとな」


二人の返答を待たずに遊戯室を出る。途中すれ違ったトントンが何か言いたそうな顔をしていたが、何を言いたいかなんて大体分かっている。昨日と同じようにベットに倒れ込む。


「…結局、また逃げてもうたな…」


あいつらがいい奴なのは分かっとる。記憶の無い俺にも優しくして気遣ってる時点でそれは知っとる。だから、


「はよ、決めんとな…」






ーーー






目を開けるとそこは暗闇。伸ばした手の先すらも見えないほどの暗闇の中に俺はいる。ここはどこだろう。迂闊に動く事もできずに辺りを見回すと一つだけぽつんと光る何かがあった。その光の横に誰かが立っている。あの人に話を聞かなければ…


「あの、すんませ…」


光の方向へ一歩踏み出した瞬間だった。


「コネシマ」

「っ、…!?なん、で…ここに、?」


「“母さん“…」


「お前が憎いからだよ、コネシマ。お前さえいなければあの人に捨てられる事もなかったのに…お前みたいな子がいたから…!」

「っやめて、ごめんなさい…もう話しかけへんから、ごめんなさい、ごめんなさい…!」

「うるさいね、お前は!…そうか、お前みたいな子、捨ててしまえば邪魔にならない…!」

「っ嫌だ!お願いします、母さん…!何でもするから捨てへんでっ…」

「黙れ!何でもするならもう私の邪魔をするんじゃないよ!」


目の前の母は離れて行く。伸ばした手が届くことはない。


「ッ嫌や、もう一人は嫌や…置いて、いかないで…」


そうやって、後ろから差し伸べられた暖かな光に気が付けないまま落ちていく。どこまでも深くまで、






ーーー







「ッ……ッは…」


目を開けると見覚えのある天井。ここ数日ずっと使っているベット。それを見て漸く先程の出来事が夢だったと気付く。体を起こすと着ていたシャツは汗で濡れていた。


「っはぁ、…夢、ね…」


そういえば今は何時なのだろう。ふと気になって時計を見ると午前十時。ショッピ達と分かれたのは昼前だったから約一日も眠っていたことになる。


「どんだけ寝とんねん…」


今日の案内担当であった筈の鬱先生に申し訳なく思いつつ慌てて着替えを済ませ食堂に向かう。扉を開けると何人かのメンバーがいるが、彼の姿はなかった。


「おーおー、どしたシッマ、そんな慌てて?」

「いや、今日の案内鬱先生なんやけど、今起きて慌てて探しに…」


なるほどと呟きながらトントンが指差したのは食堂の奥のベランダ。


「大先生探すならとりあえずあそこ行ってみ?暇な時大体あそこおるで」

「わかった、ありがとな」


言われた通りベランダの扉を開けるが、そこに彼の姿はなかった。何か仕事をしているのだろうか。見つかるまでの間は一人で色々見て回ろう。

総統室、訓練場、図書室、遊戯室…つい先日あいつらに案内された場所を通り過ぎる。…やっぱり駄目だ、ここにいたら決心が揺らぐ。自分の部屋に戻ろうと踵を返した時、一つのドアが目に入る。その横には喫煙室の文字。なんとなく、本当になんとなく、そこに彼がいる気がした。


「ん…?ああ、なんやシッマか」


扉の先には本当に彼がいた。鬱先生は入ってきた俺に対して驚くでもなく、再び吸っていた煙草に視線を移す。


「誰かに聞いたんか?俺がここにおるん」

「あ〜、いや…なんちゅうか…なんとなくここかなって思ったらいた、みたいな…?」

「…ふはっ、なんやそれ笑」


自分でさえ本当になんでここにいると思ったのかわからないのに、こいつは否定するでもなんでもなくただ笑い飛ばしてくれた。それがなんだか心地よく感じて不思議な気持ちになる。


「シッマは吸わへんの?」

「まぁ、持ってきとらんからな…それにほら、今一応感覚的にはまだ未成年やし…?笑」

「ほ〜ん…ならこれやるわ」

「え?」

「お前がよう吸うとったやつ、一本余っとったから。試しに吸うてみ」

「…わかった」


言われた通りに煙草に火を付けて思い切って吸い込むと肺の中に煙が入ってくるのが分かる。“俺“の中での初煙草はあまりにも苦くて、思わず咽せ返る。


「ッごほ…ぅえ゛、まっず…」

「ははっ、引っかかったな笑」

「はぁ…?」

「それ、お前が一番嫌ってたやんやねん笑」

「なん…何でわざわざんなもんを…」

「う〜ん…何でやろな、嫌がらせ?」

「んなあほな…何のやねん…」



「…まぁ、ちょっとした仕返しやで」



再び愉快そうに笑う目の前の男が何だか可笑しくて、小さく呟かれた一言が俺の耳に入ることはなかった。


「すまんかったって笑、はいこれ、まじでお前がいつも吸うとったやつ」

「…ほんまやろな?」

「まじやってば笑」


半信半疑で吸ったその煙草はやっぱり少し苦くて、けれどさっき吸ったものとは違って自分の中にすとんと入ってきた。


「あ、うまい…かも」

「やろ?言うたやん」


その後俺たちは特に何かを話すわけでもなく、それぞれが三本ほどの煙草を灰にするまでそこにいた。普通なら一言も会話を交わさないなんて気まずくて耐えられない筈なのに、何故だかそんな事は一ミリもなかった。そして鬱先生が 四本目に火を付けようとしたタイミングで思い切って話しかける。

「なあ、鬱先生」

「…んー?何、シッマ」

「俺って記憶無くす前までどんな感じやったん…?」


一瞬きょとんとした表情になったあと、少しだけ微笑みながら鬱先生は返す。


「なあシッマ、お前が何を心配しとるかは知らんけど…お前は記憶無くす前も今もシッマやで」

「そ、か…おん、ありがとな」


そんな短い会話だったけれど、俺の中では確かに大事な決断がなされた。明日にはここを出よう。これ以上ここにいてもあいつらに、…仲間に迷惑かけるだけや。






ーーー






夜、ふと目を覚ます。時計を見るとまだ夜中の一時過ぎ。ここに来てからは夜中に起きることなんて一度もなかったのに。…やっぱりまだ覚悟が曖昧なんやろな、外の空気でも吸お。

庭への入り口へ向かって歩いて行くと、廊下に差し込む小さな明かりに気付く。光の元を辿ると会議室の扉の小さな隙間からそれは出ていた。


「こんな時間に…誰か話しとるんか?」


物音を立てないようにそっと隙間から覗くと、そこには俺以外の九名が皆揃っていた。小さな声で話しているため耳を澄ませる。


「…それで、この三日間を通してお前達はどう思った?あいつをここに置いておくべきかどうか」


グルッペンの発言に思わず息を呑む。


「ッ…なんや、そういうことか…」


分かっていた。一緒にいた記憶の無い俺などただの部外者でしかないと。いつか追い出されることなんて、とっくに知っていた。だからこそ自分からここを出る覚悟を決めた。その筈なのに。


「なんでやろな、少し寂しいとか…」


会話の続きが聞こえてきてそちらに意識を集中させる。


「俺とトン氏は話してみたが…正直言ってまだ分からん。どちらがあいつにとって一番いいのか」

「…俺とロボロは、その、シッマはここにいるべきじゃないと、思う…」

「ほお…?」

「もちろん、出来るならずっといて欲しいで?けど…俺たちと一緒におる時のシッマずっと辛そうな顔しとる。隠しとるつもりなんやろうけど、多分自分に非があると思っとるんやろな」

「それは同感だな。あいつを見ている限り、無理をしてこちらに気を遣わせないようにしている。」

「それに…今のコネシマが悪いって言うわけとちゃうけど、前のあいつと違って他人との距離感がえぐいな。まあ、俺たちと一緒におった十年の記憶なくてあの出来事の後っちゅう体感ならわからん事もないけど…正直俺ら二人はあいつと一緒におっても今まで通りに接する自信はない。多分余計傷つけてまう」


最後のロボロの一言に思わず目を見開く。…こいつら全員、俺のあの事知っとんのか…?いくら信用してたとしても俺が自分で言うと思えへん…


「申し訳ないけど、俺とエミさんもお前らと同じ意見や…」

「コネシマさん、表面上は笑っていましたけど、ずっと辛そうでしたから…それにたとえ彼がもしこの事を吹っ切って今まで通りに私たちと接したとしても私たちは…少なくとも私は彼を傷つけるのは怖いです」

「ワイとチーノも同じっす。正直…あの部長と喋ってたら多分、余計なこと言って傷つける」

「成程な、つまり今の所俺たち二人と鬱以外は同意見でコネシマを出すべきだ、と…」


それでいい。もしお前らに情けで一緒に居さして貰ったとしても、俺はもう、お前らの知っとる“コネシマ“として話す事はできひんねんから。どっちも辛くなるぐらいならその役目は俺だけでいい。


「さて、あとはお前だけだが…どうだ、鬱」

「あ?んなもん答えなんて決まっとうやろ」


その通りだ、早く、明日の朝にでも…


「お前らが何と言おうとここに居させる」



…え、?



「え、いや大先生、それって…」

「しゃおちゃん達が言うとる事も分かるよ。このままここにおったらあいつが辛くなる時が来るかもしれへんって事もちゃんと分かっとる。でも、俺はお前らが何と言おうと…シッマが出て行きたいって言ったとしても、無理矢理にでもここに居させる」

「いや無理矢理は…!」

「じゃあ一つ聞くでお前ら。例えばほんまにあいつがここ出て行きたいと思っとるとして、そんでお前らもあいつに出ていって欲しいと思っとるとして…なんでお互い分かれた後にきつそうな顔しとるん?」

「ッ…それ、は…」

「もうお前らも分かっとるんやろ?お前らもあいつも、出て行って欲しいなんて思っとらんし出て行きたいとも思っとらん」


そんな訳がない。俺にとってはお前らは全く知らない連中で。訳もわからないまま目が覚めたら仲間だったなんて言われて信じられる訳なくて。現に今も俺の出て行きたいって思いなんて無視しとるくせに。


「今日あいつと喫煙所で話したで。まあ話した言うてもほんまにちょっとやけどな。あいつ部屋出る前に俺に聞きよったよ、前までの俺はどんな感じだったか、って」

「…大先生はなんて答えたん?」

「今と変わらんって言うた。そしたらあいつ、記憶なくしてから今日までで一番ええ顔しとったで?」

「…そか」

「俺やって不安がないわけちゃうよ。多分あいつが俺たちにまた本当に心開いてくれるまでに相当な時間かかると思うし、その途中で何があるかも分からん。けどな、腹立つねんあいつ」

「へ…?鬱先生?」

「そう、それや。なんか改まった感じで鬱先生って呼んでくるのきもいねん。あいつは馬鹿みたいに人の事煽って大声で大先生って叫んどる方が似合っとる」

「…ははっ、確かに…笑」

「せやろ?やからあいつがそうなるまで、何があろうと一緒におる。」


…もう、やめてくれ。折角押し込んだのに。やっとの思いで、気持ちに蓋をしたのに。


「文句があるなら誰でも受け付けるで。戦闘で決めるんでも仕事押し付けるんでも何でも構わん。お前ら全員がちゃんと納得してあいつの事受け入れるまで俺は諦めへんからな」


俺は、お前らのために自分を殺したのに。そのためなら何でもすると決めたのに。


「そんなことせぇへんでや…」


思わずよろけてしまいドアにぶつかって転ぶ。物音に気付いたあいつらが駆け寄ってこちらを覗く。隠れる暇なんてなくて呆気なく見つかってしまった。


「シッマどした…って、は?何、シッマどっか痛いんか!?ぺ神のとこ行くか?」

「…え?」

「いやだってお前泣いとるから…」


自分の目の下を触ると指先が濡れる。いつの間にか泣いていたらしい。


「いや、これは、その、違くて…」

「…聞いとったんやろ、シッマ?」

「あ、…そうなん?」

「…ッほんまごめん、盗み聞きするつもりはなくて、ただ覗いてしもただけで…」

「…どっから聞いとったん?」

「えっと…多分、最初から…」


自分に向けられる視線が痛い。やっぱり俺は…


「…ッシッマ、ほんまごめん!」

「ぅえ…?」

「俺、いや俺たち全員シッマのこと全然考えとらんくて、自分勝手で…!やからさ、シッマが良かったでええんやけどここにおってくれん…?」


なんで…そんな事言うねん…


「なんで…?」

「え?」

「俺はお前らの事考えて…記憶ない俺なんて部外者やからお前らの関係邪魔しないように出て行こうと思っとったんに…!」

「だからそれは…!」

「俺にとってもお前らは他人やねん!」

「ッ…」


そう言った瞬間その場が凍りつく。言い返そうとしていたシャオロンでさえ口を噤んでしまった。


「当たり前やろ、目ぇ覚めたら急にお前は記憶喪失だ、そんで記憶無くす前までは仲間やったって言われて素直に信じ切れる奴おると思うか?だから俺はここを…」

「それ本気で言うとるんやったらぶん殴るでシッマ」

「……何でや?」

「…なんで記憶も無くして辛い思いしてる一番の被害者のお前が自分の気持ちにまで嘘つかなあかんねん」

「俺は嘘なんか…」

「じゃあ、何でさっきからずっと泣いとるん?お前がほんまに出て行きたいんならそれこそ俺らが出ていって欲しい言うとるんはラッキーやん。なのになんでその話聞いて泣いとるん?」

「違、これは…」


座り込んでいる俺に目線を合わせて屈みつつ、今までで一番優しい声色で鬱先生が続ける。


「なあシッマ、もう自分を大事にしてええんやで。ここにはお前をいらんって言う奴も、お前を置いて一人にする奴もおらんから、な?ちゃんと聞かせてや、お前の本音」

「ッ…俺、俺は」


堪えようとした涙が溢れて止まらなくなる。


「俺は、ここにいたいッ…」

「…うん、せやな」

「お前らの事なんも覚えてへんくて知らないやつの筈なのに、他人なんて信じてもいつかは裏切られるって分かってるのに…ッお前らだけは疑えへん…」


頭上から鼻を啜る音や嗚咽を抑える声が聞こえる。恐らくシャオロンやチーノあたりだろう。


「“ここ“は暖かい、お前らは俺にとって暖かすぎる…俺みたいなんが一緒におったら迷惑かけるって分かっとる。人を信じれない俺が一緒やったらいつか邪魔になるって分かっとる。…なのに、っごほ、え“ほっ…」

「ええよ、ゆっくりで。みんなちゃんと聞いとるから」


咽せてしまった俺の背中をさすりながらトントンが呟く。


「ッ俺はお前らを信じてる…自分じゃどうしようもないぐらいにもう、信用してもうてる。だから余計に怖い…いつか俺がお前らを裏切ってしまうような事があったら、俺のせいでお前らが傷付く事があったら…そん時は俺は多分耐えられへん…」


俺が話し終えるとみんな何も言わなくなってしまった。訪れた沈黙を破ったのは鬱先生だった。


「…そんなん、ここじゃ日常茶飯事やで笑」

「…え?」

「俺ら基本的に戦争の傷も多いけどちっさい怪我の割合で言うたら圧倒的に内ゲバのが多いし、な?」

「まあそれはそうやなぁ…笑」

「それに、裏切るなんてそんな事しないしさせへん。その為にここに集まったんや、俺たちは」


やからさ、とこちらを真っ直ぐ見据えながら手を差し出す。


「お前も信じてみ、俺らが信じとるお前を。ここにおってくれ、シッマ」

「…ッ、おうよ…!逆にお前らが出て行ってくれって言うまでいといたるわ…!」


俺が鬱先生の右手を握った瞬間、他のメンバーもわらわらとその手を握る。あの日取ることのできなかった彼の右手は、伸ばすことのできなかった俺の右手は今、他の八名の手によってしっかりと結ばれた。







ーーー







「おーいシッマー?そろそろ行くで〜?」

「おー、シャオロン!すまんちょっと待ってくれ、財布忘れた!」

「はぁ?ったく、しゃーねーなぁ…」


白く輝く太陽が遠くで顔を出し始める。そこには空色に煌めく瞳を光らせる貴方がいた。


「ん?大先生何しとるん、もう行くで?」

「…わかっとるよ、ちょっと考え事しとっただけや」

「ふ〜ん…?まあええわ、来ないなら先行っとくで!」


返事をすると不思議そうに、けれどどこか嬉しそうにこちらを一瞥してシャオロンの元へ走って行く。俺たちの間を涼しい風が吹き抜けた。





拝啓、全てを忘れ去った貴方へ。


あの十年間が戻る事はないけれど。それでも今の貴方はもう決して一人なんかじゃないから、どうかこれからもその暖かな道を共に進んでくれますか?






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




めちゃくちゃ長いのお疲れ様でした!ほんとに大変だった…



時間なさ過ぎて改行気にしてる暇がなかったので一旦投稿して後から落ち着いたら直しときます…



書いてるうちに楽しくなっちゃって余計な情報書き込んでたら一万字超えちゃった…笑



これ読んだ人はぜひくおんさんの作品も読んでください!もうほんとにいいので!


気に入った方は♡、コメントしてくれると嬉しいです!



てことでまた次のお話でお会いしましょう、からでした!

この作品はいかがでしたか?

136

loading
チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚