テラーノベル
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ガゴォォォン!!! 塔の壁が破れ、苦塊の黒い触手が一気に部屋に乱入してきた。
闇のようで、でも渦のようでもあって、形がどんどん変わる。
触手の先が私に向かって伸びてきて——
「来ないで!!」
思わず叫んだ瞬間、ミルが前に飛びだした。
透明なフィルムみたいな“甘い光”がミルの体から広がって、私を包む。
「危ないよ、のあちゃん……! 苦塊は、甘さを持ってる人を優先して狙うの!」
「じゃあ、ミルは……!」
「私は、甘さそのものだもん!」
触手がミルに襲いかかり、甘い光を削り取ろうとする。
ミルは歯を食いしばりながら踏ん張った。
「ミル!! 無理しないで!!」
「へーき! のあちゃんのほうが大事だから!」
その言葉に胸がぎゅっと締めつけられた。
(どうしてそこまで……)
すると、後ろでリンが立ち上がる。
「ミル、下がって……! ぼくが——」
「リンはダメ!! きみが力を使ったら、あいつもっと強くなる!」
リンは悔しそうに唇を噛んだ。
「じゃあ……じゃあどうすれば……」
苦塊がミルの防御をどんどん食い破り始める。
甘かった光が灰色になり、ちぎれ、霧のように消えていく。
(このままじゃミルが……!
リンも力を使えない……!
私にできることなんて……)
いや。
一つだけある。
「ミル! 少しだけ下がって!!」
「のあちゃん!? 危ないって!」
「いいからっ!!」
私は自分でも無謀だと思いながら、苦塊の目の前へ一歩踏み出した。
黒い渦が、まるで“味を確かめるように”私へ触れようと伸びてくる。
怖い。
足が震える。
でも——
(リンの“苦さ”なんだよね。
なら……話せるかもしれない。)
私は深く息を吸い、苦塊に向かって叫んだ。
「やめて!!
リンは……あなたを捨てたいんじゃない!!
苦さがあることを、ちゃんとわかりたいだけなの!!」
黒い渦がピタッと止まった。
まるで“聞いている”みたいに。
私は続ける。
「苦しい気持ちって、なくしちゃいけないものだよ!
私だって……いっぱいあるもん!
友だちとうまくいかない日もある。
失敗して、恥ずかしくて寝れない日もある。
誰にも言えないモヤモヤだって、ある!」
ミルとリンが息をのむのがわかった。
「でもそれ全部、私の大事な気持ちなんだよ!!
リンの苦しさだって……きっと大事なんだよ!!
だから……!」
震える足で、もう一歩前へ。
「だから、リンから全部奪わないで!!
“苦さ”だってリンの一部なんだから!!」
その瞬間——
苦塊が、まるで泣き出したみたいに震え始めた。
黒い色が少しずつ薄れ、灰色に近づいていく。
リンが目を見開いた。
「……のあ……
聞こえてる……のか……?」
「うん……届いてるよ!」
ミルが震える声で呟いた。
「のあちゃん……もしかして……
苦塊に“甘さ”じゃなくて、“言葉”を渡してる……?」
自分ではよくわからない。
でも、たしかに苦塊は動きを止め、何かを聞こうとしていた。