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それでは3話です。「甘えてもいいかな」は一気に出したいと思います、笑どうぞ
楽屋の空気は、昨日よりは静かだった。
けれど、完全に元通りというわけでもない。
仁人はソファの端に座り、スマホを見ているふりをしている。
画面はほとんど動いていない。
ドアが開く音。
太智が入ってくる。
「……おはよ」
いつもより少し低い声。
仁人は一瞬だけ顔を上げて、すぐ逸らす。
「おはよう」
それだけ。
それ以上の言葉が、なかなか出てこない。
少しの沈黙。
太智は仁人の向かいの椅子に座る。
昨日みたいに詰め寄ったりはしない。
「昨日さ」
仁人の肩がわずかに揺れる。
「……ん?」
「言い過ぎたわ。たぶん」
仁人は驚いたように顔を上げる。
まっすぐ視線がぶつかる。
「別に……俺も言い過ぎたし」
強がるでもなく、素直でもなく。
ちょうど中間くらいの声。
太智は小さく息を吐く。
「なんか、ああなるつもりちゃうかってんけどな」
仁人の指先が、ぎゅっとスマホを握る。
「俺も。あんなことで怒りたくなかった」
ぽつりと零れた本音。
昨日は言えなかった言葉。
太智は少しだけ笑う。
「やっと本音出たやん」
「うるさい」
けれど声は柔らかい。
また少し沈黙。
でも昨日の重たい沈黙とは違う。
太智が立ち上がり、仁人の隣に座る。
距離は拳ひとつ分。
「なあ」
「なに」
「怒ってる顔より、普通にしてる顔のほうがええで」
仁人は一瞬固まって、そっぽを向く。
「……太智に言われたくない」
でも頬は少し緩んでいる。
太智はその横顔を見て、わざとらしく肩をぶつける。
「ほら、戻ってきたやん」
「戻ってないし」
言いながら、逃げない。
昨日より、距離は近い。
まだ完全じゃない。
でも確実に、前よりは隣にいる。
仁人は小さく息を吐く。
――こんなことで離れたくない。
声には出さない。
けれど、その想いはもう隠しきれなくなっていた。
太智は何も言わないまま、隣にいる。
それだけで、十分だった。
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