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ウクライナを満喫した私達はプラネット号でのんびり過ごして翌日の訪米に備えた。先ずは私達二人が降下して現地入りし、場所を選定してフェルの転送魔法でボイジャーを二機とも運ぶ予定だ。昨晩ジョンさんとの話し合いで異星人対策室本部にある中庭を使えないかと打診されたし、現地を見てみたい。ビルも良いけど、まるで昔の貴族のお屋敷みたいな本部も趣があって好きだ。
ただ、屋敷と聞いて畳の部屋とか和風庭園とかを思い浮かべてしまうのは前世が日本人だからかもしれないね。西洋のお屋敷も良いよ。花壇には色とりどりのお花が植えてあって、何より広い。よくジャッキー=ニシムラ(当たり前だが猫耳装備)さんが中心にある噴水に佇んでいるのが特徴かな。
何故かスク水着て、噴水口の真上に仁王立ちしてることが多い。恍惚とした顔をしてるし、フェルには見せないようにしないと。知らなくて良い世界があるんだ。そっとしておくのが正解だよ。
「ティナ、準備は出来ましたか?」
「うん、フェルはどうかな?」
「いつでも行けますよ」
「じゃあ、行こっか。アリア、プラネット号はこのまま待機ね」
『畏まりました』
アリアに管理やらを全部任せているのはちょっと気が引けるけど、性能的にはアードでも最高峰らしいので頼らせてもらう。
「いつもごめんね」
『私はサポートAIです、ティナ。貴女のサポートが私の存在理由です』
「ありがとう」
アリアだって大切な仲間だ。道具として扱うつもりなんて無い。
いつものように異星人対策室のビルの方へ転移した。場所は一階ホールにある小さな個室。私達以外は立ち入り禁止にしているので、事故を防ぐことが出来る。最初は簡易転送ポートを設置しようかと考えていたんだけど、フェルのチートっぷりに甘えることにした。フェルが転移出来なくても、ギャラクシー号を使えば良いし。手間は掛かるけど、ギャラクシー号で飛ぶのは嫌いじゃないからね。
前もって伝えていたからか、部屋から出たら金髪の美人さんが迎えてくれた。
って!
「「メリルさん!?」」
「ティナちゃん、フェルちゃん。久しぶりね。元気にしてたかしら?」
「はい!メリルさんこそ、身体は大丈夫ですか?」
ジョンさんからは、メリルさんはちょっと体調を崩したって聞いていたから心配だったんだ。まさか私がプレゼントした栄養スティックが原因かと考えたけど、昔からの持病らしくて関係性はないんだとか。
メリルさんにもおせわになったし、何とかしてあげたいな。
「ふふっ、大丈夫よ。兄さんから聞いてるわ。心配させてしまって、ごめんなさいね。正式に異星人対策室の職員になったから、これからもボディーガードをさせてくれるかしら?」
「もちろんです!」
「私も嬉しいです」
知らない人よりメリルさんが傍に居てくれた方がずっと気軽だよ。イエローストーン国立公園ではジャッキーさんに頼りっぱなしだったし。
「やあ、ティナ。フェル。数日ぶりかな?」
メリルさんと少し雑談していると、ジョンさんが爽やかな笑顔でやってきた。
「ジョンさん!」
「二人とも元気そうで何よりだよ。宇宙の旅はどうだったかな?」
「特に問題もなく回収できました。今から運びましょうか?」
「そうだね、出来ればお願いしたい。近日中に君達の功績として公表するつもりだ」
「功績だなんて……」
実際の回収作業簡単に終わった。確かにボイジャーは速かったけど、宇宙の規模から言えばまだまだ太陽系の傍だ。見付けるのは簡単だったし。
「我々が依頼して君達が成し遂げてくれた。その成果を示したいんだろう。まあ、政治と言うものだ。あまり気にしないで良いよ」
「分かりました。それで皆さんのお仕事がスムーズに進むようになるなら構いません」
お世話になりっぱなしで、しかも迷惑ばっかりかけてる。少しでもお返しが出来たら良いな。
私達はそのまま本部のお屋敷の中庭へ移動した。そこには白衣の皆さんはもちろん、天文学の権威と呼ばれる人が何人も集まっていた。
「んほぉおおーーーーっっ!!!!!ぉおおおうぃえぇーーーッッ!!!!」
うん、噴水の噴出口の真上に腕組して仁王立ちしながら叫んでるジャッキー=ニシムラ(ブーメランパンツのみ着用)さんは気にしないことにした。結構勢いよく水が出てるけど、お尻大丈夫かな?
「じゃあ、お願い出来るかな?」
「分かりました。フェル」
「はい」
フェルが目を閉じて手を翳すと、大きな魔法陣が現れて私達が回収したボイジャー1号と2号が用意されたスペースに転送されてきた。
「「「おおぉーーッッ!!」」」
学者の皆さんから歓声が挙がる。特に天文学者さん達は興奮気味だ。
うん?一人だけ明らかに年配の人が居る。車椅子に座ったおじいさんが、じっとボイジャーを見上げているね。
「彼は、プロジェクトに参加した最後の一人なんだ。既に100歳を越えている」
「えっ!?」
ボイジャーの計画に参加してた人!?まだ生きている人が居るの!?
いや、私が生きていた時代から考えるともう100歳を越えていても不思議じゃない。
「長く生きていたが……今日ほど長生きして良かったと思える日は二度と訪れないだろう。ボイジャー、任務ご苦労だった。君を送り出した最後の一人として、その旅の終点に立ち会えたことを誇りに思う。おかえりなさい、そしてありがとう、ボイジャー」
おじいさんはまるで我が子を見るような優しい目でボイジャーの機体を撫でた。その光景は涙を誘う。何人も涙を流して、私も涙が溢れてしまった。
ボイジャーの旅を終わらせてしまったことは残念だけど、連れ帰って良かったと心から思う。
「ありがとう、ティナ。君達のお陰で、私達は大切なものを取り戻せたようだ」
「私は依頼を引き受けただけですよ、ジョンさん」
早速ドクターを中心にボイジャー2機の調査が始まった。お披露目をするためにちょっとしたお掃除もするみたいで、先程のおじいさんは少し離れた場所から作業を見守っている。
「アンテナの一部が透明になっているが、どう言うことだろうな?何等かの星間物質の影響か?」
調べていたドクターことエドワード=ホップス教授の呟きに私は冷や汗を流した。
「ドクター、出来れば気にしないで欲しい。いつもの案件のようだ」
ジョンさんが私の反応を見て困ったような笑顔を浮かべてる。私は静かに膝をついて、手をついて頭を下げた。
石畳の上でする土下座は、ひんやりした冷たさと痛さが混じりあっていた……。