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ティナが地球で静かに土下座している頃、惑星アードでも小さな動きが起きていた。

姉であるティリスの依頼を受けた政務局長のパトラウスは、あくまでも個人的な私信として地球の為政者に宛てた書簡を認めていた。地球から持ち込んだ食べ物は大変美味であり、またデータは少ないがアード人の人口問題の解決策になる可能性が確認されたためである。

「姉上、こちらになります」

政務局を訪れたティリスにパトラウスは小さなカードを手渡す。これがいわゆるデータチップであり、起動することで中身を読むことが出来る。

「おー、早いね?☆」

「早いもなにも、それを見越して政務局長へ顔を出したのでしょう?」

「バレた?☆」

ウインクする姉にため息を漏らし、パトラウスは話を続ける。 

「中身はあくまでも個人的な私信です。交流を認可するものではありませんし、なにかを地球に要求するものではありません。地球の食物に関する感想を記しただけです」

「それで良いよ。お互いに未知の存在なんだから、先ずはコミュニケーションを取らないと☆」

「ただし、それを渡す代わりに条件がございます」

「おやおやぁ?お姉ちゃんに何をして欲しいのかな?☆」

弟の言葉に、ティリスは益々笑みを深める。いくら私信とは言え現在の政局を考えれば、パトラウスの立場を危うくさせる可能性はあるのだ。

弟に危ない橋を渡らせる以上、タダ働きをさせるつもりなど無かったし、見返りを要求された方が話も早いのだ。

「これは私信とは言えアード政務局長ものです。間違っても誤りがあってはなりません。信頼できる人材によって届けて貰う必要があります」

「ティナちゃんは信頼できる人材じゃないんだ?」

「姉上相手に遠慮は無用と考え敢えて申し上げるが、彼女は異端だ。善人ではあるが、何処か読めぬ部分もある」

「ふむふむ」

「故に、これは姉上に預けたいと思っております。姉上が責任をもって彼方の首長へ届けていただきたいのです」

パトラウスの言葉に、ティリスはふざけた雰囲気を引っ込め薄く笑みを浮かべながら興味深そうに弟を見据える。

「つまり、私に地球へ向かえと?」

「左様でございます。無論姉上が不在の間ドルワの里については私が責任を持ちましょう。里の者達には不自由はさせませぬ」

「ふぅん?」

「それともうひとつあります」

「欲張りだね」

「自覚はあります。姉上の地球来訪に関することですが、交流を本格化させる場合地球の技術や環境などの研究が必要不可欠となります」

「だろうね?」

「その研究責任者として、ティアンナ女史を任命したい。本人の了承を取り付けていただけますな?」

「忘れたの?パトラウス。ティアンナちゃんはティナちゃんの母親だよ。打診するまでもなく、もう動き始めているよ。そろそろ予算の申請が上がってくるんじゃないかな?」

「なんと、既に始めておりましたか。では、地球訪問についてご了解頂けますかな?」

「うーん……興味はあるけどなぁ」

わざとらしく迷いを見せる姉を見て、パトラウスはもうひとつの懸念を口にした。

「それに、例の件もあります。地球、いやあの星系……太陽系でしたか。そちらの調査にも好都合では?」

パトラウスの言葉を聞き、ティリスは不愉快そうに眉を潜める。

「……やっぱりキツい?」

「残念ながら、正式な抗議の形を取られている以上無視はできませぬ。判断を誤れば、リーフとの関係悪化に繋がります」

「あのミドリムシ共、本当にロクなことをしないね」

ティナがラーナ星系から救い出した凡そ二百名のアード人達。若い女性と幼い子供達で構成された彼女達はドルワの里付近に新設された浮き島で生活を始めていた。

管轄としてはドルワの里に帰属し、ティリスが里長として取りまとめている。

だが星を閉ざして以来数百年ぶりに外部から帰還した同胞達に対してアード人の大半は冷ややかな視線を向け、避難民達は変わってしまった同胞達に戸惑いを感じていた。

ティリスが間に立ち少なくともドルワの里の者達は早速交流を深めているが、ドルワの里以外とは疎遠となってしまっている。

女王の命により保護することは決定事項である。しかしアード人の大半にとって宇宙から逃げ延びてきた彼等は、同時にセンチネルを招き寄せる危険がある存在に写ってしまったのだ。

つまり、楽園にとっての異物に見えた。これは排他的なアード人らしい反応でもある。

双方のすれ違いを招く最大の要因は、隠蔽魔法が完璧で今後も破られることはないと大半のアード人が信じていることである。

この溝に目を付けたのがリーフ人上層部である。セレスティナ女王の決定があるとは言え、彼等にとってフェルの存在は許せるものではない。

そこで彼等はこのアード側の問題に目を付けたのだ。双方のすれ違いを上手く利用して、避難民を招いた張本人であるティナの行動へ疑問を呈したのだ。フェルを保護しているティナの存在もまた彼等からすれば許せるものではない。

ティナがアード人であるため公然と否定するような発言こそ無いが、突如として楽園に発生した問題を上手く利用して排除しようと画策していた。

「つまり、あのミドリムシ共は遠回しな嫌がらせをしてるわけだ。絶滅させた方が良いんじゃない?」

「言葉が過ぎますぞ、姉上」

「あいつら、私達の足を引っ張るだけじゃん。私達がリーフ人にしてきたことはたくさんあるけど、逆はほとんど無いよね?」

「とは言え、正式な意見を出されたのです。無視はできませぬ」

「ふん、ミドリムシにとってラーナ星系の生き残りなんかどうでもいいんだよ。フェルちゃんが生きてるのが気に入らないんだ」

「フェラルーシア嬢については女王陛下の御認可を受けております。それ故に、ティナへ目を向けたのでしょうな」

「本当に気に入らない」

「故にこそ、調査のために姉上自らが現地へ向かうのが最適かと。彼女達を守るならば、アード以外の場所を見つけねばなりません。幸い、これまでのデータを見る限り太陽系にはテラフォーミングが可能な惑星が存在しますし、地球にも多少は余裕があると見受けます」

「はぁ、居住は最後の手段なんだけどね……分かったよ。異文化交流ついでに色々調べておく。ティナちゃんが戻るまでに手配をお願いするよ」

「御意」

「あとついでに、ミドリムシ共に釘を刺しといて。誰に喧嘩を売ってるかちゃんとアメーバ以下の頭で考えろってさ」

姉の言葉を耳にして、パトラウスは苦笑いを浮かべる。

「姉上を敵に回すくらいならば直ぐに命乞いをしますな。ほど程に」

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