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こんなにも気遣ってくれる樹に感謝しながら、私達は2人でいろんな話をした。
きっと私が退屈しないように、ちょっと無理して頑張ってくれてるんだろう。そのおかげで、穏やかでゆったりとした時間を過ごすことができた。
それから1時間くらい経った頃、ようやく「そろそろ他のところも案内する」と、樹が言った。
リビングを出た右側の部屋のドアを開けたら、そこにはベッドが置かれ、綺麗にベッドメイキングされていた。
ホテルの客室みたいな白を基調とした部屋。広くて素敵な空間、清潔感があって一目で気に入った。
「ここは、客間だけど、まだ誰も使ってないから自由にしていい」
「あ、ありがとう、本当にいいの? こんな素敵なお部屋……」
「このマンションは柊が用意してくれたけど、俺1人で使うにはもったいないくらい広い。クローゼットとか部屋の物は全て好きに使ってくれ。荷物を片付けたらリビングに来て。他のところも案内する。お風呂の準備もしておくから、着替えも……」
樹はそう言って、部屋を出た。
お風呂の準備、着替え、何だか恥ずかしいワードが出て戸惑った。私はさっさと簡単に片付けてから、パジャマや下着を小さめのバッグに入れた。
リビングに戻ったら、樹はキッチンで食器を洗っていた。
「あっ、それ、私がやるよ」
「いいよ、こんなのすぐ終わる。これからも気を遣うな。気付いた方、手が空いた方がやればいいんだ。俺、アメリカでずっと自炊してたから。だから、一通り何でもできるし。家事は嫌いじゃないんだ」
樹が微笑んだ。
出会ってすぐは気づきもしなかった優しさに、感謝が溢れた。
「自炊してたなんてすごいね。じゃあ、うん、ありがとう。そうさせてもらうね」
「あと、バイト先まで遠くなったのは悪いな」
「大丈夫だよ。電車ですぐだし。自分のマンションの様子も見てこれるし」
「そうか。でも、通勤は気をつけろよ」
「うん」
樹は、それからキッチンやバスルームなんかも案内してくれ、何でも自由に使って、自由にくつろいでいいからと言ってくれた。
リビングのかなり大きな窓からは、大パノラマのように景色が広がり、この、何もかもが新鮮で、過ごしたことの無い優雅な時間に心から癒された。
ここに来て良かった――と、心が自然に感じていた。
私は樹に勧められ、先にお風呂に入らせてもらった。
バスルームまでが高級ホテルの雰囲気で、乳白色の入浴剤がまるで本物のミルクみたいだった。
樹の気遣いに気分が上がる。
確かに、洗顔してすっぴんになるのはすごく恥ずかしかったけど、でも、それでもし樹が私を嫌いになったとしても、その時はその時だと思った。
これが私なんだから仕方ない。
すっぴんの顔を、柊君は可愛いって言ってくれた。
あの言葉、嘘じゃなかったって信じたい。
だけど、今となったらもう確かめられない。
やだ、私、また柊君のこと考えてる。
本当にいつまでも勝手に頭の中に出てくるの、止めてほしい……
私は、新しく買ったパジャマに着替えて、ドライヤーで髪を乾かしてから、リビングのドアをゆっくり開けた。
「ご、ごめんね、樹。先にお風呂入っちゃって」