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紅の焼殺

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紅の焼殺

19 - 第19話

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2025年03月12日

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「稲垣恵理、懐かしいな。どうやって殺す、とかは決まってるのか?」

「そうだな、まあいつも通りな感じではあるが……彼女は少し厄介なんだ。だから、タイミングはしっかり見図らないといけない」

「厄介……?そんな友達多いタイプじゃなかったと思うけど」

「友達は、な。流石に彼氏にも隠してはいたのか」

「どういうことだ?」

「稲垣恵理は、所謂パパ活女子だ」







「よし、今日も5万ゲット」


商学部に所属する稲垣恵理は、今日も毎日の日課であるお小遣いを無事ゲットし、推しの元へと歩みを進めていた。

恵理が行っているのはパパ活。

パパとは言っても、実際は彼女いない歴イコール年齢のジジイばっかが集まっている。

そんなジジイに一瞬だけ隙を見せれば、蟻の巣をつついたときのようにあっという間に集まり、年頃女子という女王アリのために切磋琢磨して金を貢ぐ亡者の出来上がり。

女王のために自らを殺し、本番なんて出来やしないのにありもしない夢に向かって沼にはまっていく馬鹿どもを見るのはとっても滑稽だが、時折申し訳なくなることもある。

しかし、そんな時はあの時、あの頃の私よりは遥かにましだろと、自分に言い聞かせて平静を保っている。






少し前まで、恵理にはお付き合いしている人がいた。

名は東本幸十。

学部も違う彼だったが、思わずその顔面偏差値と性格の明るさに惹かれ、気付けば告白し、私の彼氏兼推しになっていた。

彼の凄さといえば、もし隠し事をしていても全くそれを感じさせず、なんならもっと素敵になったのでは?

と思わせるほど、嘘が上手かったことだ。

その話術は詐欺師でもやっていたのかと思ってしまうほどで、恵理もそのテクニックにどっぷりはまってしまった。


結論から言えば、東本には元カノがたくさん居て、それも全て「飽きた」という理由で分かれていたらしい。

しかも飽きた、と明確に言ったのではなく、あの話術で言葉巧みに断ったのだとか。


しかし、それを友達から聞いたとき、恵理はもう手遅れの所まで進んでしまっていた。


東本にもっと好かれるために買った高いコスメに、ブランド物のバッグ、遊園地へのチケット代、その他諸々。

そう、恵理は東本向けの買い物で所持金がとても減っていた。

急いで東本と別れたがもう遅い。

このままでは大学生活を送る資金もないし、退学になるかもしれない。

でも退学になった所で、恵理は東本のせいでちゃんと大学に行っていなかったし、資格もないからまともに働けそうにもない。

とにかく簡単に速くお金を稼ぎたい……!

そう思った恵理の前に舞い降りてきたのがパパ活という選択肢だったのだ。

東本のためのコスメでなんとなくおめかしし、加工をごりごりにつけた恵理の姿は、我ながらいけそうだと感じた。


結果、恵理はパパ活界隈でもそこそこの位置に落ち着き、大学生活もなんとか続けられている。

でも、恵理はパパ活によって話術も巧みになり、まるで東本のようになりつつあった。

このままではヤバイと思わなくもないが、それでも恵理にはパパ活を続ける理由があった。

それが推しのホスト、竜治くんである。


ホストは普通本名を使わず、女の子から好かれるような名前である源氏名を使う。無論、竜治くんも源氏名であって、本名は多分もっと地味だろう。

でもそんなことはどうだっていい。恵理は竜治くんが好きなのだ。

竜治くんはお店のナンバーワンで、当然恵理のライバルは沢山いるし、恵理よりお金を持ってる人もたくさんいると思う。

それでも恵理がホス狂いでいられるのは、お金を貢いだら確実に進歩があるから。


東本の時は、たくさんお金を使ったけれど結局別れてしまい、お金を実質溝に捨てるようなことになってしまった。

でも、ホストはお金をもらえば何かしらしてくれる。

お話を聞いてくれたりしてくれたり、ナンバーワンに押し上げられたり、ありがとうと言ってくれたり、一緒にお酒を飲んでくれたり。

お店をやめない限り、お金を使えば100%いいことが起きる。

これって凄いことだ。恵理は過去からそういう考えを持つようになった。


だから、恵理は例えそのいいことがほんの小さなことでもホストに貢ぐことを止められなかった。

当然恵理は客の中でもお金を落とさない方だろうが、それでも恵理はお金の重要さ、そしてホストの凄さを客のなかで一番分かっている自信があった。


さて、そんな恵理は店まで向かったが、今日はどうやら竜治くんは休みらしい。

竜治くんはいつもフル出勤だし、ちょっとくらい休みが欲しいだろうし、無理ないか。

結構暇だし、帰りの電車内で動画でも見てよう、なんて思った恵理は、急いで駅へ向かった。







夏休み終了とはいえ、外はもう日も変わるというのに相変わらず暑い。冷房が効いた電車内との寒暖差で、恵理は頭が痛くなりそうだった。

恵理の住んでいる所は駅近ではあるものの、その駅が坂ノ束大学からかなり離れている。

しかも無人駅と来た。

恵理は家賃の安さに目が眩んで、立地が最悪な物件を選んでしまったので、こんな無人駅が最寄り駅になってしまっている。

そもそも人がいないせいか、防犯カメラはなく、なんなら鍵も使ったことがない。

だってこの辺はジジババしかいないからだ。パパ活で相手できないレベルの、いやお前もう死ぬぞみたいな年齢のジジババ。

豊かな自然を活かした老人ホームと、誰が使ってるかわからない森の公園という名の蚊と熊のオンパレード。

そのせいで恵理は友達と一緒に帰るみたいなことをしたことがない。


電車が駅についた。

この時間帯ってこともあり、基本一緒に降りる人などいない。

今は夏休み期間でダイアも改正され、電車がしょっちゅうここに止まるが、実際人が降りてくるのは3本に一回くらいだ。

しかし今回は違った。

恵理と同じ駅で、同じ扉で降りてくる奴がいた。

年齢は恵理と同じくらいで、フードに顔を隠した、全身真っ黒の変な男。

普通の人は不審者と思うのかもしれないが、恵理は夜の街に慣れすぎるあまり、特段違和感を感じなかった。


次のターゲットをスマホで探す恵理。

前面には電車のホームが広がる。

線路の横にあるはずの一時避難用の空間は、当然こんな無人駅に存在しない。

背後にはあの男。


「二番線に、快特 桜ノ宮公園行きの電車が参ります

ーー」


そのアナウンスが聞こえた瞬間、男は動き出していた。


『1発3万でどうかな?場所は烏ノ坂公園で!』


送信ボタンをタップし、ため息をついた恵理は、スマホに気を取られるあまり、背後の男の動向に気付けなかった。

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