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俺はターゲットを目の前に捉えて、そいつに向かってナイフを振りかぶった。
無人なだけあって、駅の中には草後の掠れ合う音と風の音しか響いていない。
次に聞こえたのはナイフを肉に突き刺すグロい音――ではなく、甲高い悲鳴がそこらじゅうの音を支配した。
「っ…クソ!!」
ナイフには血が着いている、だが、たしかにその手応えがない。
腹部を狙ったはずだ。なぜだ、どうして…!!
疑問と焦りで脳内が埋め尽くされ、冷たい汗が背中を伝う。
こいつを逃す訳には行かない。それしか俺の脳には考えられなくなっていた。
幸いなことに無人駅だ。悲鳴ではバレていないだろう。
殺るしかねえ、見つかる前に。
勘。ただそれだけだった。
背筋の凍るような嫌な予感が走り、スマホから顔を上げるとあの男がすぐ後ろにいた。
夜の街に入り浸っているからか、”関わっちゃダメな人”を見分けるのが少し上手だったのかもしれない。
本能的に体をよじらせる。
ナイフは腹部を狙っていたのだろうか。そのナイフは私の腕を直線状に切り裂いた。
腕に走る鋭い痛みと熱いような感覚、全身に流れる冷や汗。目の前には殺人犯。
思わず悲鳴をあげた所で思い出した。
ここは無人駅だったということを。
スマホを見てもそこに映るのは小汚いおじさんばかり。悲鳴でも気づかれないとしたら……
考えを巡らせる。多分1秒ぐらいだけど、脳内ではスローモーションのように時間が過ぎていく。
――逃げるしかない。
たどり着いた答えはこれだ。電車が来るまで持ちこたえる。
家に着いたところで、あんな家じゃきっと入られて殺されて終わりだろう。
なにより駅の階段がハイヒールの私ではきつい。
私はバッと体の方向を変え走り出した。
俺の動揺の隙をついてターゲットは走り出した。
俺もその後を追う。俺はとても運動ができると言えない方なこともあり、この状況は避けたかった。
普通の女だと逃げられてしまう。だがこいつはロングスカートにハイヒールというなんとも走りづらい服装だったため、距離は段々と縮まっていく。
線路側の角へと追いやる。
ターゲットは周りを見渡し逃げ道を探しているようだった。
もうどこに逃げてもナイフで殺れる距離まで追い詰めたんだ。今度こそ殺す。
今度は確実に、いつもより力と殺意を込めてナイフを斜めから振りかぶる。
ターゲットはナイフを避けるように横へと動いた。
俺にとってもそれは意外な行動だった。
きっとこいつは気付いていなかったんだろう。
その先に地面はなく、下に広がっているのは線路だけだということに。
そいつがたしかに線路に落ちたことを確認した直後、電車の来るアラームが鳴った。
遠くに見える電車を認識した後、俺はそそくさとその場から立ち去った。
少ししたあと、スマホで『――駅、人身事故』で検索をする。
先程自殺と思われる女性が線路で倒れていたところに電車が来た……よくある人身事故だ。
ニュースの内容からして疑われてはないと思うことにしよう。
そのままLINEで殺したことを報告し、ひとまず殺せたことに安堵した。
この場所に用はないし、帰るか。
駅へ向かおうと体を回転させる。
「……あ、」
今あの駅で人身事故…駅はここが最寄り……ここは田舎……
俺、どうやって帰ったらいいんだ。これ。