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第七話:語られる過去、空白の8年間
ロシアとの語らいから数日後、ソルグとルーナは、二人の思い出の場所である丘に登っていた。そこからは、二人が暮らす小さな国が一望できる。
☀「ルーナ、覚えているか?この丘でよく遊んだよな」
🌙「…うん…」
ルーナはソルグの言葉に、小さく頷いた。彼女の表情は、以前よりもずっと穏やかだ。日本、アメリカ、中国、そしてロシアとの交流が、彼女の閉ざされた心に少しずつ光を灯していた。
☀「ルーナ…今日は、俺が話す番だ。俺たちの、空白の8年間について…」
ソルグはそう言うと、静かに語り始めた。
8年前。ソルグは父親に連れられて、裕福な生活を送ることになった。豪華な屋敷、美味しい食事、そして最先端の軍事技術。父親はソルグに、陸軍と空軍を統治する者として、厳しくも愛情を持って教育を施した。
父「ソルグ。お前は将来、この国を背負って立つ存在になる。強くなければ、大切なものは守れない。大切な妹を守るためにも、強くなれ」
父親はいつもそう言っていた。ソルグは、ルーナを守るために、必死に勉強し、訓練に励んだ。しかし、心のどこかで、ルーナと一緒にいられない寂しさを感じていた。
☀「ルーナは、今どうしているだろう…貧しい生活で、辛い思いをしていないだろうか…」
ソルグは、ルーナに手紙を書こうとしたこともあったが、父親に止められた。
父「ルーナのことは心配するな。あの子にはあの子の、お前にはお前の道がある。今は、お前のすべきことに集中するんだ」
ソルグは、父親の言葉に従い、ひたすら自分を磨くことに専念した。それは、いつかルーナを迎えに行く日のために。二人で一つの国を統治するために。
一方、ルーナは母親と二人きりで、貧しい生活を送っていた。母親は、ソルグたちが裕福な生活を送っていることに嫉妬し、ルーナに八つ当たりをするようになった。
母「あんたの兄さんは、あんなに幸せな暮らしをしているのに…どうしてあんたは、こんなに出来損ないなんだ…!」
母親の罵倒と暴力は、日に日に激しくなっていった。ルーナは、恐怖と孤独に耐えながら、ひたすら部屋の隅で震えていた。そんな彼女の唯一の心の拠り所は、父親が残してくれた、古びた海軍の戦術書だった。
🌙(もし、私が指揮官になれたら…)
ルーナは、戦術書を何度も何度も読み返した。敵の動きを予測し、最適な場所に艦隊を配置する。その緻密な戦術を考えることが、彼女にとって唯一の逃げ道であり、希望だった。
孤独な8年間が、彼女に海軍の指揮能力という、かけがえのない才能を与えた。しかし同時に、母親からの虐待は、彼女の心を深く傷つけ、人と話すことを怖がらせるようになった。
☀「…俺は、ルーナが苦しんでいることを、知らなかった…知ろうとしなかった…!」
ソルグは、涙を流しながらそう言った。ルーナは、そんなソルグの顔を静かに見つめていた。そして、ソルグの頬にそっと手を伸ばし、優しく拭った。
🌙「…ソルグ…泣かないで…」
ルーナの言葉に、ソルグは驚き、彼女の顔を見つめた。
☀「…ルーナ…お前…」
🌙「…もう、大丈夫だよ。ソルグが、私を見つけてくれたから…」
ルーナは、初めて自分から、ソルグに抱きついた。彼女の小さな体からは、もう恐怖は感じられない。
🌙「…ソルグがいたから、頑張れたんだよ。いつかソルグが迎えに来てくれるって…信じてたから…」
ルーナの言葉に、ソルグは嗚咽を漏らした。彼は、ルーナを抱きしめ、二度と離さないと改めて心に誓った。
二人の空白の8年間が、ようやく一つになった瞬間だった。
(続く)