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𝐀𝐘𝐀_

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メイ
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第五章 はるにぃとのおしゃべり
社長室へ戻ると、ふわりとコーヒーの香りが漂っていた。
大きな窓から差し込む夕日が部屋を優しく照らし、穏やかな時間が流れている。
「ちーちゃん、こっちおいで。」
遥がソファをぽんぽんと叩く。
「うん。」
千弥はくぅちゃんを抱いたまま、遥の隣へちょこんと座った。
すると千景が、テーブルの上に用意されていた紅茶とクッキーを並べる。
「今日のおやつだよ。」
「わぁ……。」
千弥の目がきらきらと輝く。
「くまさんのクッキー!」
丸い耳がついたテディベアの形のクッキーだった。
「かわいい……。」
すぐには食べず、しばらく眺める。
「食べないの?」
遥が笑って尋ねると、
「かわいくて、もったいない……。」
真剣な表情で答える。
その一言に、千景も遥も思わず笑ってしまった。
「じゃあ写真を撮ってから食べようか。」
「うん!」
千弥は嬉しそうに頷き、くぅちゃんを隣に並べて写真を撮る。
「これでだいじょうぶ。」
そう言って、小さく「いただきます」と手を合わせた。
おやつを食べ終えた頃、千景のデスクの電話が鳴った。
「失礼。」
受話器を取る。
「……分かりました。今向かいます。」
電話を切ると、少し困ったように笑った。
「ちーちゃん、ごめんね。」
「?」
「役員さんと少しだけ打ち合わせをしてくる。」
「おしごと?」
「うん。三十分くらいで戻るよ。」
千弥はこくんと頷く。
「いってらっしゃい。」
「待っててくれる?」
「うん。」
千景は優しく頭を撫でる。
「はる。」
「任せて。」
「お願い。」
「大丈夫。」
二人は短く言葉を交わす。
長年の付き合いだからこその信頼だった。
「じゃあ、行ってくる。」
社長室のドアが静かに閉まる。
部屋には千弥と遥、二人きりになった。
静かな空気が流れる。
「ちーちゃん。」
「ん?」
「紅茶、おかわりいる?」
「ほしい。」
「少し待ってね。」
遥は温かい紅茶を注ぎ、千弥の前へ置いた。
「ありがとう、はるにぃ。」
「どういたしまして。」
千弥は両手でカップを包み込み、ほっと息をつく。
「おいしい。」
「よかった。」
しばらく、二人で窓の外を眺める。
夕焼けに染まる街並みはとても綺麗だった。
「はるにぃ。」
「なあに?」
「おしごと、たいへん?」
遥は少し考えてから微笑んだ。
「大変な日もあるよ。」
「そっかぁ。」
「でもね。」
「?」
「ちーちゃんが会社へ来てくれる日は、みんな元気になるんだ。」
「ちぃで?」
「うん。」
千弥は首を傾げる。
「なんで?」
「優しいから。」
「……?」
「いつも笑ってくれるでしょう?」
「うん。」
「ありがとうって言ってくれるでしょう?」
「うん。」
「それだけで嬉しい人がたくさんいるんだよ。」
千弥は少し照れくさそうに笑った。
「そうなんだ。」
しばらくして、千弥は小さな声で尋ねた。
「ねぇ、はるにぃ。」
「うん?」
「にぃに、おしごと、むりしてない?」
遥は一瞬驚いた。
「どうしてそう思ったの?」
「このまえね。」
「うん。」
「ねるの、おそかった。」
「……。」
「おしごと、いっぱい?」
遥は優しく頷いた。
「そういう日もあるね。」
「にぃに、ちゃんとねてほしい。」
その言葉には、兄を思う気持ちがまっすぐに込められていた。
遥は優しく笑う。
「大丈夫。」
「ほんと?」
「うん。ちかは、ちーちゃんのためにもちゃんと休もうって頑張ってるから。」
「そっか。」
安心したように笑う千弥。
遥はそんな姿を見つめながら、心の中で思った。
(ちーちゃんは、本当に優しい子だ。)
「はるにぃ。」
「ん?」
「にぃにね。」
「うん。」
「すごいんだよ。」
「知ってるよ。」
「でもね。」
千弥は誇らしそうに胸を張る。
「おりょうりもできる!」
遥は思わず吹き出した。
「それも知ってる。」
「おそうじも!」
「知ってる。」
「おせんたくも!」
「うん。」
「なんでもできる!」
「そうだね。」
千弥はにこにこと笑う。
「にぃに、せかいいち。」
その一言に、遥は少しだけ切ない笑みを浮かべた。
(本当に、世界一なんだろうな。ちーちゃんにとっては。)
自分も千景のそんな優しさに惹かれ続けている。
けれど、その想いは胸の奥にしまったまま。
今は、この穏やかな時間を守りたい。
それだけで十分だった。
コンコン。
社長室のドアがノックされる。
「ただいま。」
千景が戻ってきた。
「にぃに!」
千弥はぱっと立ち上がり、小走りで駆け寄る。
「おかえり。」
「待っててくれてありがとう。」
千景は優しく抱きしめる。
「寂しくなかった?」
「ううん。」
「はるにぃと、おはなししてた。」
「そうなんだ。」
遥が笑う。
「ちーちゃんに、世界一って褒められたよ。」
「え?」
「料理も掃除も洗濯もできるって。」
千景は少し照れたように笑った。
「そんなこと話してたの?」
「うん!」
「にぃには、すごいもん。」
そのまっすぐな言葉に、千景は嬉しそうに千弥の頭を撫でる。
「ありがとう、ちーちゃん。」
社長室には、三人の穏やかな笑い声が響いていた。
その時間は、誰にとってもかけがえのない、大切なひとときだった。
第五章 おわり
第六章へ続く
コメント
2件
第五章をお読みいただきありがとうございます!
わあ、第五章読ませていただきました〜!📖✨ くまさんのクッキーを「かわいくてもったいない」って言う千弥ちゃん、もう愛おしすぎます……!写真撮ってから食べるその丁寧さに、子どもの純粋な感性がぎゅっと詰まっていて、思わずこちらまであったかい気持ちになりました🧸💕 それから、はるにぃとの二人きりの時間。千弥ちゃんが「にぃに、おしごとむりしてない?」って聞くシーン、胸がじんわりしました。小さな子が夜遅くまで働くお兄ちゃんをちゃんと見ているんだなって。千景さんの優しさを受け継いで育っているのがよくわかります。 最後の遥さんの「想いは胸の奥にしまったまま」っていう一節……これはまた深いですね。静かな夕方の社長室の空気感が、とても心地よかったです。続きが気になります!🌇✨