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𝐀𝐘𝐀_

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メイ
124
第六章 優しい帰り道
午後六時。
社長室の窓から見える空は、夕焼けから少しずつ藍色へと変わり始めていた。
「今日はここまでにしよう。」
千景が時計を見て立ち上がる。
「ちーちゃん、お待たせ。」
「おわった?」
「うん。」
「かえれる?」
「帰ろうか。」
その言葉を聞いた千弥は、嬉しそうにくぅちゃんをぎゅっと抱きしめた。
「やったぁ。」
その様子を見ていた遥も自然と笑顔になる。
「僕も今日は一緒に駐車場まで行くよ。」
「はるにぃも?」
「うん。」
「やった!」
社長室を出ると、社員たちが次々と声をかけてきた。
「ちーちゃん、お疲れさま!」
「また来てね。」
「くぅちゃんもバイバイ。」
千弥は一人ひとりに丁寧に手を振る。
「ばいばい。」
「またくるね。」
「おしごと、がんばって。」
その一言だけで、社員たちは思わず笑みをこぼす。
「ありがとう。」
「明日も頑張れるよ。」
「癒やされたなぁ。」
ある女性社員が小さく言う。
「社長。」
「ん?」
「ちーちゃん、本当に優しいですね。」
千景は少し照れながら頷いた。
「ありがとうございます。」
その表情は、どこか誇らしげだった。
エレベーターの中。
三人だけの静かな空間。
千弥は千景の隣にぴったりと寄り添い、眠そうに目をこすっている。
「眠くなってきた?」
「……うん。」
「今日は朝早かったもんね。」
「ぽやぽや。」
千景は優しく頭を撫でた。
「家まで少し寝てもいいよ。」
「うん……。」
その小さな体が、こてん、と千景の肩へ寄りかかる。
「……。」
遥はその光景を見て、思わず微笑んだ。
「安心しきってるね。」
「僕の肩が好きなんだ。」
「知ってる。」
「小さい頃から変わらない。」
「うん。」
エレベーターが一階へ到着するまで、千弥は静かに目を閉じていた。
地下駐車場。
車に乗り込むと、千弥は後部座席ではなく、いつもの助手席へ座る。
「シートベルト。」
「できた。」
「えらい。」
「えへへ。」
エンジンが静かにかかる。
「じゃあ、帰ろう。」
「うん。」
遥は自分の車へ向かう前に窓を軽く叩いた。
「ちーちゃん。」
「ん?」
「また明日ね。」
「はるにぃも、おしごとがんばって。」
「ありがとう。」
「またあそぼうね。」
「もちろん。」
遥は笑顔で手を振った。
「じゃあ、またね。」
「ばいばい!」
千景も軽く手を上げ、車を走らせた。
車内には穏やかな音楽が流れている。
「にぃに。」
「どうしたの?」
「きょうね。」
「うん。」
「たのしかった。」
「大学?」
「うん。」
「会社も。」
「そっか。」
「みんな、やさしかった。」
千景は優しく微笑む。
「みんな、ちーちゃんが大好きだからね。」
「ちぃも、みんなすき。」
「それを聞いたら、みんな喜ぶよ。」
千弥は満足そうに頷いた。
しかし数分後。
「……。」
返事がない。
信号待ちで隣を見ると――。
「ふふ。」
千弥はくぅちゃんを抱いたまま、すやすやと眠っていた。
シートベルトに守られ、小さく規則正しい寝息を立てている。
「今日はいっぱい頑張ったね。」
赤信号の間に、千景はそっと前髪を整えた。
「おやすみ、ちーちゃん。」
三十分後。
車は結城家へ到着した。
「ちひろ。」
「……。」
「着いたよ。」
「……ん。」
「起きられる?」
「……むぅ。」
まだ夢の中。
千景は苦笑する。
「今日は完全に寝ちゃったね。」
助手席のドアを開ける。
「失礼します。」
そう小さく呟くと、千弥をそっと抱き上げた。
「……にぃに。」
眠ったまま、小さく呟く。
「ここにいるよ。」
安心したように千景の胸へ顔を寄せる千弥。
「重くなったなぁ。」
そう言いながらも、その声はとても嬉しそうだった。
家へ入ると、リビングには柔らかな明かりが灯っていた。
千景は千弥をソファへ寝かせようとした。
しかし。
「……。」
ぎゅっ。
服を掴まれた。
「ん?」
眠ったまま離してくれない。
「抱っこがいいの?」
「……にぃに。」
小さな寝言。
千景は優しく笑った。
「はいはい。」
結局そのまましばらく抱っこを続けることになった。
「今日は甘えんぼだね。」
くぅちゃんも千弥の腕の中で大切そうに抱えられたまま。
結城家には、今日も穏やかで優しい時間が流れていた。
第六章 おわり
第七章へ続く
コメント
2件
第六章をお読みいただきありがとうございます!
はい、読ませていただきました! 第六章、とっても温かい気持ちになりました🧡 社員さんたちに「またくるね」「おしごとがんばって」って言えるちーちゃん、本当に優しい子だなあ。それで社員さんたちが「癒やされた」って呟くのも分かります。 それに、眠ったちーちゃんが服を掴んで離さなくて、結局そのまま抱っこし続ける千景さんの「はいはい」がもう…お兄ちゃんの愛を感じました。 日常のふとした瞬間にこういう優しさが詰まっているのが、この作品の素敵なところだなって思います。第七章も楽しみにしていますね🌷