今回はもしも日向が、自傷行為をしてたら、、、、です。
どうぞ
“ソレ”が発覚したのは、梟谷グループ主催の合宿中のことだった。
日 うっ……俺は!!おれはいちゃいけなかった!!!!!!こんなっ…こんな役立たずの付属品はッ!!
死ぬ“べき”なんだよ!!!
ボロボロとあふれ出た大粒の涙が、日向の頰をすべり落ちていく。
時を遡ることーーーーーー1日前。
西 聞いたかー!?あの梟谷と、俺らと!!合宿があるんだってよーーー!!!!
田 うぇ!?マジか、のやっさんっ!?
西 おう!!音駒ともやるから、3校合同合宿だな!!!
日 みんなスゲー喜んでんなー!!まっ、もちろん俺だってうれしすぎてぶっ倒れそうだけどっ!!!
月 そんな興奮するコト?あぁ、おチビは小さすぎて体内の血液が回るのが早いから?
山 でも血液の量もそしたら少なくなるんじゃ……
月 うるさい山口
山 ごめんツッキー!!
ーーーその日の夜
はぁ…今日も思ったようなプレーができなかったなぁ…。
あの日。俺のスパイクが決まらず、負けてしまった白鳥沢との試合から俺は、
こうして自己嫌悪する時間が増えた。
唇を血が出るほど噛み締めながら、涙をこらえるスガさんの姿。
険しい顔をしながら、己のせいだと自分を責める大地さん。
そしてーーあの瞬間、決まらなかったスパイクを打った自分。
なんて、なんて無力なんだ、俺は。
もともとのスペックが悪いことを補うかのような運動量も、所詮全国レベルの学校では努力で磨けるもの。
高い運動能力だって、そのへんのバケモノ達は生まれもって持ち合わせている。
影山の超人的なトスが無ければ、俺なんてそこら辺に埋もれていた。
スゴイ仲間に囲まれているから自分もスゴイ一員なんだ、と思い上がっていただけだったんだ。
影山という相棒がいなければ、俺は活躍ができない。
レシーブだって出来ないし、みんなを明るくできます?
気分を変えられます?
笑わせるな。
所詮俺は、影山の天才さにくっついているだけのコバンザメにすぎない。
影山という……とてつもない才能の持ち主に、頼り切って甘えているだけの付属品にすぎない。
俺に大地さんやのやっさんみたいなレシーブはできるか?
月島のようなブロックは?
影山みたいに正確なトスはあげられるのか?
スガさんみたいな…長年の経験と、チームを正確にアドバイスできるほどの実力はあるか?
旭さんみたいに…大事な場面で決められる、力はあるか?
俺なんていらない。
そう思ってからは、カッターで自分の手首を切ることで、なんとか耐えぬいていた。
ーーーーーーツーッぷくりっ………………
日 ーッ………あぁ、またやっちゃった……
血の玉が、ぷくりと膨れ上がり…やがて一筋の線となって流れ落ちる。
その際の痛みが、たまらなく刺激的だった。
無意味な俺が、呼吸して、存在して、この体に血が巡って
ーーーーーーあぁ、生きてるんだな、と
そう思えるのは、自傷行為をしている瞬間だけだった。
だんだん傷あとが増えてくると、さすがに不審に思われてしまう。
そう思い、あえて手首に包帯を巻いた。
ガーゼを傷口にあてて、その上からシップを覆うように貼り付ける。
こうすれば、捻挫をしている「ふう」によそおうことができるだろう。
実際、傷口が開きかけると痛みが襲ってくるし、腕を隠すクセがついてしまった。
『軽い捻挫だったから、医者の運動許可も出たんッス』
そう言ってしまえば、気づかれる筈がない。
もちろん利き手ではない方を傷つけたので、スパイクの練習だってできる。
反対側の手だから、という理屈はかなりそれっぽかった。
ーーー合宿当日
菅 ちょ、ええええ!?日向、手!!どうしたっ!?
日 あ、はははっ……スンマセン、やっぱ目立ちますよね…軽く捻挫しちゃったみたいで
菅 え?合宿しても大丈夫なのか、それ?
日 ウッス!軽くなら大丈夫って言われました!!利き手じゃなかったので良かったッス!!
菅 そう、か…?まぁ、無理はするなよ?なんかあったらすぐに言ってくれ!
日 ウッス!
研 翔陽、ひさしぶり
日 あぁあぁあ!研磨ぁ〜〜!!ひっさしぶりだな!!!
研 うん、そうだね。相変わらず翔陽は元気そ、、、、
日 ん?どした…あぁ、コレのこと?
手首を持ち上げてみせると、食い入るように見つめていた研磨がこくこくと頷く。
日 これなー、ちょっと妹が階段から落ちかけちゃって、
それを止めた反動で……こうなったんだ…
研 でも、合宿なんて参加したら悪化するんじゃ……
日 それは大丈夫!捻挫っていっても軽いヤツらしくて、医者にも許可もらってっから!!
研 …そう?ならいいか
傍からみたら、お互いを思いやるほんわかとした会話なのだろうが、俺にとっては、内心冷や汗がとまらない会話だった。
研磨は観察眼がとても鋭いため、気づかれてはマズい。
とりあえず、第一関門は突破できたな、なんて思う自分が嫌になってくる。
研磨は心配してくれてるのに、悪者みたいに解釈して、スガさんにも大地さんにも嘘ばっかついて………
ほんと俺、さ最悪だ。
影 日向!!
影山が、俺に向かってあげた、精密でカンペキで、しかも俺の癖に合わせた、百点満点のトス。
一瞬、あのときを思い出して足がすくんだものの、気を取り直して思いっきりボールに手を叩きつける。
ピッ!!
よかった、入った……!!
以前はボールの当たる感触に感動したり、誰よりも高い位置に自分がいる達成感。
決めた瞬間は、たくさんの感情が溢れ出してきていた。
が、今はちがう。
得点が入った、“安心感・安堵感”
外れなくて、良かった。俺はまだ必要とされているんだ。
そんな感情しか湧いてこなくて、まったくバレーが楽しく感じられなかった。
でも、みんなが求めている『日向翔陽』はこんな反応をする。
日 うおっしゃああぁあっ!!!!
片手を高らかに上げ、だれよりも楽しそうにニカッと口角を吊り上げる。
日 見たか、影山ぁ!!!俺はケガしてても強いスパイク打てんだよぉーーー!!!!
影 うっせ、自己管理がたりてねぇ
日 いいんですぅー!夏がケガしてないから俺の勝ちー!
黒 ったく、おたくのチビちゃんは真のバレー馬鹿だねー
兎 ヘイヘイヘーイ!!前より強くなったかー?日向ー!
澤 あぁ、日向は今、片手を捻挫してるんだよ。利き手じゃないほうだから、合宿にも出るって聞かなくてなぁ
黒 オイオイオイ、頭のネジぶっ飛んでんじゃねーのー?すっげぇ熱量だな。
研磨にも見習っていただきたい
兎 ウッソだろぉっ!?捻挫でアレかー!?
ハァッ、ハァッ……ゔ………やべ、きのうッ゙、切りすぎた……
貧血なのか、すうっと頭の奥がつめたくなっていく……。
??? ひなた?日向、大丈夫?、、、
思考がまとまらず、話しかけてきている人は誰なのかすらも分からない………。
??? っ!!日向ッ!?大丈夫かッっ?
だんだんとぼやけた視界がクリアになり、話しかけていた人の顔が見えるようにまで回復した。
日 ……あ、か、あし、、、さん、
赤 どうした、貧血?顔が真っ青だけど
日 、なん…な…んだろ…?きゅうに……あたま、つめたくなって……?
赤 それにしても酷い顔色だよ?ちょっと休んでおこう?
日 い、いえ!!ご心配かけて、申し訳ありませんッ!!!!まだ、俺はやれるので…!!
赤 あ、!ちょ…!!
逃げるように飛び出し、フラつきながらも、なんとか初日の練習は乗り切ることができた。
黒 ちびちゃーん、自主練だよーー……て顔色わっる!?
研 …翔陽、顔がまっしろ。貧血なの?
マズい。非常にマズい。このままだと、研磨にも気づかれて黒尾さんにもバレる……!!
そうなると、もう参加させてもらえなくなってしまう…!
ここは……休んでおいて、明日に備えよう。
今日は初日だから、バレると何もできないお荷物になってしまう。そんなのは嫌だ!!!
日 ぁー、なんかちょっと……体調ゎるい…ぽくて……
今日の自主練は…やめときます、…
黒 !?おう、気をつけろよー
研 ……お大事にね」
風呂のときも、包帯を外さない俺に驚いたのか、みんな口々に声をかけてきたのだが……
日 ちょっと、練習できる条件が腕を固定し続けることって言われたんで、
外せないんすよ……だから汗で気持ち悪くて……
顔をしかめてみせると、同情したようにみんなから励ましの声がかけられた。
終わります