続きです
ーーーそして、夜
みんなが寝静まった頃、カッターを取り出して俺は部屋から抜け出した。
日 …おれは、なんもできてないっ……
ーーザシュッ!!!
木兎さんは軽々とブロックをはねのけるし、黒尾さんも強固なブロックで守りの音駒らしいゲームをする。
研磨だって、すこし見ないあいだにトスが読めなくなってきているし、赤葦さんにはたくさん木兎さんとの連携を見せつけられた。
みんな、少しずつ進化している。なのに………………………………
俺はッ、なんにも変わってない!!
影山のトスに応えられないのがこわくて、みんなの期待が恐ろしくなって………
こんなお荷物、いなくなったほうがいい。
なにがっ…!“最強の囮”だぁッ!!!!こんなのっ…こんなのっ、ただの役立たずだろっ!!!
ザシュッッ!!グシャッ!!!!
びちゃ、びちゃり………と、今までに無いほどの血液が、手首から流れ落ちていく。
はやくッ…、……、はやく、死なせてくれ。
血液が失われていくと同時に、薄れゆく意識の中、そう強く願った。
こちらは自主練のあと、少ししてからの会話である。
兎 なーくろおー、今日の日向、なんかおかしくなかったかーー?
黒 今日のチビちゃんかー?あぁ、たしかになーんか元気なさげというか、無理して笑ってたよな
研 翔陽、たぶん烏野が前に負けた試合から自分を責めてると思う
兎 あー、青葉城西とのあれかー!!
ありゃあトラウマになるわ…自分のスパイクがドシャットされちまって、そのまま負けだからな……
兎 おれも見てたぞ、その試合。なかなか粘ったとおもうけどなー。ありゃーおれ、しばらくバレーしたくなくなる
赤 ボソ木兎さんは定期的にしょぼくれてるじゃないですか
兎 あかーし!?なんか言ったかー?
赤 いえ、なにも
赤 それにしても、日向、すごい顔が真っ青でしたよ
黒 あ、俺が見たときも真っ青通り越して真っ白だったぞ
研 ねぇ、あの手首の包帯さ………血、滲んでなかった?
「「「はっ!?」」」
研 さっき、自主練誘おうとしてたとき……うっすらだけど、血が滲んでるふうに見えた
黒 てことは、あの包帯は捻挫じゃなく…………!!!
赤 思い詰めた日向が………自傷行為、してるって可能性も、あるよね
兎 んじゃあ!!今から、さーむらに…!!
赤 駄目です!!今、日向に烏野の人たちが何を言っても逆効果だと思います。どうせ、気を使ってるんだろ、とね
日 うん、赤葦の言う通り。ここは僕たちが翔陽を止めるべきだと思う
黒 俺がチビちゃんなら、夜中にやるかなー。誰にもそんな姿、見られたかないし、、、
兎 おれもそうするかな
赤 それでは、夜中に落ち合うことにしましょう
黒 チビちゃん、いねーな………まじかよ……
兎 嘘ならよかった、けどなー………日向…………
研 翔陽、危険かもしれない。急ご
こっそりと烏野の部屋を覗き込むも、やはりオレンジ色の頭は見当たらない。
どこかへ行ってしまったようだ。
赤 保健室に行ってみてはどうでしょうか?
兎 んー、なんで?
赤 保健室の前で木兎さん、声量はどうするようにしてます?
兎 静かーにしろって言われる!!あっ、そか!!
赤 そうです。誰にもバレたくなければ、体調不良者のいない保健室に行けばいいんですよ
コンコンコン、と、軽くドアをノックする。
と、誰かがヒュッと息を飲むような音が聞こえた。
「「日向ッ!!!!」」
黒 チビちゃん!!!!!
研 翔陽!!!!!!!!!
「「「「ッッ!?」」」」
みんなが、その場の光景に唖然とする。
手首にカッターを突きつけ、涙を流す日向。
その足元に…………跡をつくる、赤黒いシミ。
また、ポタ、ぽたりと手首から鮮血があふれているのが分かった。
研 っ!?何してるのっ、翔陽っ!??!!
日 イヤだっ!!やめて、はなしてっ!!
カッターから手を離させようとする研磨から逃げるように、日向は後ずさり、泣き叫ぶ。
日 うっ……俺は!!おれはいちゃいけなかった!!!!!!こんなっ…こんな役立たずの付属品はッ!!
死ぬ“べき”なんだよ!!!
日 そンなことっ!!そんなのっ!!!
かってに翔陽がッ!!自分が役立たずとかっ!!死ぬべきとカッ!!!決めないでよおっ!!!!!!!」
がッと、日向の腕からカッターを殴るように奪い取り、研磨は涙をこぼしながら叫ぶ。
兎 っ、、、あかーしッ!!止血っっ!!!
普段静かな研磨の、ものすごい剣幕に驚き、固まっていた赤葦に木兎が言葉を飛ばす。
かなり出血が多い………現に日向の顔色は真っ白で、体はものすごくつめたかった。
すると、黒尾が近くに置いてあったブランケットを引っ掴み、研磨ごと日向をくるんだ。
黒 なぁー…チビちゃん。俺は、ミドルブロッカーだからな、チビちゃんの気持ちもわかる。ブロックできなかったときゃ、俺には何もできないって、役立たずなんだって、死にたくなるほどイヤになる
日向の背中を木兎が優しくさすって、ぎゅうっと抱きついた。
兎 ひなたぁー。ツラかったなぁ…でもな、ひなたが死んでも、なんも変わんないんだぜ?ひなたが死んだら、これ以上強くなれないし、もしツッキーとかが自殺しちまったら…どう思うか?
日 うっ、ゔっ……!!やだっておもい、ます…
ワシャワシャと日向の頭を、黒尾と木兎で撫で回した。
兎 だろー?俺たちだってそう思う。なら、さーむら達みんなは、もっともっと悲しくなって、俺も死んじゃおって思っちまうかもしんねー
日 うっ…そ、れはイヤ…!!ヤですっ…!!!
兎 うん。だから、死のうとしちゃダメだ!!ひなたは、おれやあかーしと戦って、くろお達ともまた合宿して、そんで強くなって!!!白鳥沢を見返して、まだまだたっくさーん、みんなと笑うんだ
黒 研磨…?ほら、チビちゃんに何か言うことは?
研 まだ…まだ、死んじゃダメだよしょうよー……!!
おれ、しょうようとまだ試合、したいよ……
日 …けんま……ぁりが……と……
ーーーーガクッと、日向の体から力が抜けた。
「「日向っ!?」」
兎 血ィ止まってるか、赤葦っ!!
赤 ハイッ!!!恐らくですが、たぶん安心して一時的に意識が飛んだんだと思います
眠るように瞼を閉じた日向にたじろぐ木兎だが、気を失っただけだとさとされて、ホッと息をついた。
日 んぅ………あ、れ
研 翔陽……!!!おきた、?
日 あ…けんま……
大きな猫目に、うすい涙の膜が張っていることに気づき、日向はぐぅっと息に詰まった。
黒 おーチビちゃんー、水飲んどけよー
赤 ハイ、ゆっくりでいいから、どうぞ
日 ありがとう…ござい、ます
研 まだ顔色戻ってないね、無理しなくていいよ?
日 ううん、ホントにへーきだよ、研磨。ゴメンな、、、
涙を溢れさせて、自分を止めてくれた研磨に申し訳がたたない。
腕には、丁寧に包帯が巻きなおされており、自分の犯した過ちをあらためて感じた。
研 あのね、翔陽は自分を責めてたみたいだけど、
どんな強豪にもこの身長から“飛べる”選手はどこにも存在しない
日 うん、でも…
研 でもじゃないっ…!翔陽は、いつも明るくて、元気で!みんなの士気をあげてる!!それにっ………
日 ?それに?
研 人一倍、努力もしてるっ!!身長は変わらなくても、体力で負けることはない!!
影山くんだって、あの早いトスに“合わせられる”のは翔陽だけだよ…!!!
俺…が、影山にあわせて…る?
研 っだから!もっと自信をもって!!翔陽は、太陽みたいに輝いて、光ってるんだよ!!コートの上で!!!
日 …!?け、んまぁああああっーーーー!!!!!!!
研 うぉわっ!!ちょ、しょ、翔陽ッ!?
日 もゔ、じぬどがぃ゙わなぃ゙よお゙!!!!ごめんっごめんよぉ゙っっ!!!!
研 ふふっ…わかればいいんだよ、翔陽…
黒 みてみてー、ウチの、ウチの研磨がっ…!!
兎 ったく親ばかは困んなぁーー!!
赤 このこと、澤村さんに報告しなくていいんですか?
兎 おーよ!
黒 だって…!
黒 もうチビちゃんはあんなことしない。自分が死んだら他の人が少なくとも悲しむってことが分かったからだ
赤 だからって、癖になってしまうかのうせいはっ…
兎 もっかいだけ、チャンスをやろーぜ?あかーし。
きっと日向は、人の痛みにちゃんと気づける人間だとおれは思うんだよ
日 あのっ!!止めてくれて、ありがとうございましたっ!!!!おれ、バレーまだしたいって思えたから!!
兎 ほらな?あかーし。おまえが思うよりずっと、太陽はすぐに昇ってくんだぞー?
赤 そう…かもしれない、ですね
いえ!そうですね、木兎さん。俺の心配が間違いだったみたいです
そう。
沈んでも沈んでも、太陽が昇らないことはないのだから。
終わります!
3758字!我ながら、、疲れた!
コメント
13件
表現が素敵すぎます!