テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
こと
1,236
3,365
勇人side
あれからあっという間に2年が経ち、俺は後期研修に入って相変わらず忙しい日々を過ごしていた。
切りそびれて伸びた髪をワックスで固めてから念入りに歯磨きをする。
クローゼットからキレイ目のジャケットを引っ張り出して鏡の前に立つと、いつもくたびれている自分が少しはマシに見える気がした。
店員「いらっしゃいませ。どのようなお花をご希望ですか?」
「白の…イメージで花束を」
桜の蕾が膨らみ始めた並木道を歩く。
校門からちょうど卒業生が出てくるところだった。
ジロジロ見られて居心地悪く俯いていると遠くから懐かしい声が聞こえてくる。
🤍「舜…泣き過ぎだって」
❤️「だって、柔と一緒に卒業できるなんて…俺…」
🤍「舜が勉強教えてくれたお陰だよ。ありがとな」
❤️「そうかもだけど、柔が頑張ったから…」
同級生と肩を組んで戯れ合う姿に思わず笑みが溢れた。
元気そうでよかった。
❤️「あれ、柔…校門のとこ…」
🤍「え…?」
顔を上げた柔太朗と視線が交わる。
柔太朗の手から鞄が落ちた。
🤍「…勇…ちゃん?」
「…よぉ。ひさしぶり」
さびれた喫茶店に入ると硬いソファに向かい合って腰を下ろした。
あの頃と同じ華奢な体ではあるけど、髪は伸びて耳にかける仕草が色っぽい。
🤍「来てくれると思わなかったから、びっくりした」
「来るよ、そりゃ。可愛い俺の患者だし」
🤍「…担当外れたくせに」
「それは…仕方ねーだろ。大人の事情ってやつ」
見つめあって笑う。
まだ少しお互い笑顔がぎこちない。
でも、嫌じゃない。
「卒業おめでとう」
🤍「ありがとう」
花束を渡すと匂いを嗅いでからもう一度くしゃっと笑った。
俺のよく知るあの笑顔だった。
🤍「勇ちゃん今どうしてるの?」
「俺の話は…今日はいいだろ」
🤍「嫌だ、久しぶりだし聞きたい!」
「俺はお前のことが知りたい」
お互い譲らなくて睨めっこをすること数分。
柔太朗の笑いを堪える顔に我慢できず吹き出した。
…そうだ。
柔太朗は笑うのを我慢する時、唇を噛んで鼻の下を伸ばす変な癖があるんだった。
「…俺、お前のその顔ダメなんだよ…」
🤍「じゃあ、俺の勝ちってことで」
顔に手を当てて笑いを噛み殺してから柔太朗が得意げな顔で身を乗り出してきた。
…この顔が、表情と仕草が好きだった。
それから俺たちは近況を話し合った。
会えなかった時間を取り戻すかのように話が尽きることはなくて、2杯目のジンジャーエールを飲み干してから俺の家に場所を移した。
🤍「お邪魔しまーす」
「どーぞ」
🤍「意外と狭いね…」
「寝に帰るだけだからな」
🤍「あ、この写真…」
「断髪式。懐かしいだろ」
🤍「勇ちゃんの坊主姿マジで学生にしか見えなかったんだよね…」
テレビボードに置かれた写真のひとつを手に取って柔太朗が笑った。
坊主頭で笑い合うふたり。
髪が抜けるのが耐えられないと泣く柔太朗が可愛くて、病室でお互い髪をバリカンで剃り合った時のものだ。
🤍「嬉しかったな、あの時。本当にありがとう」
「いや、俺も…楽しかったよ」
🤍「…電話のこと、ごめんね。ずっと言いたかった。勇ちゃんがすごい気にしてたって、後からお母さんに聞いた」
「あれは…マジで今も後悔してる」
🤍「違うよ!眠れなくて勇ちゃんの声が聞きたくなったから電話しただけ。
で、運悪く転んじゃってさ。自業自得…」
「でもよ…」
写真を元に戻すと柔太朗が真剣な顔をして俺を見た。
🤍「…あの頃、俺、勇ちゃんのことが好きだったんだ」
そう言ってから自嘲気味に笑って俯く。
🤍「だから…目が覚めた時、もう勇ちゃんがいなくて。
別の人が担当になってんのが悲しくて素直になれなくてさ…
ずっと連絡できなかった」
何度かメッセージ書いたんだけどね…と聞こえないくらい小さく呟く。
俺も同じだった。
カルテで柔太朗の様子を常に追っていたけど、怖くて会いに行けなかった。
退院の時もこっそり屋上から見送っていたくらいだ。
「そのわりに俺の同期とは仲良くなってんじゃん。あいつからお前のことめっちゃ聞かされたわ」
🤍「仁人先生?」
「そう」
🤍「…仁人先生はゲーム仲間だから。
あ、もしかして今日のことも仁人先生から聞いたの?」
「まぁな。で、偶然休みだったし来た」
🤍「そっか…でも、嬉しいよ。会いたかったし」
…嘘だ。
本当は仁人から話を聞いて、会いたくて休みを代わってもらった。
なんでこんな時までカッコつけてんだ、俺。
マジでだせぇ…
「あのさ、俺は…柔太朗のこと今も好きなんだけど。
お前はもう過去形?」
コメント
2件
初コメ失礼します!!🙇 一気見させてもらったんですけど、最高すぎました!😭💖3080可愛すぎます😇 花束を手に笑う🤍は本当に心臓に悪い!!💘