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柔太朗side
医師「お疲れ様。治療はこれで終わり。よく頑張ったね」
定期受診の日。
採血結果を見て先生が穏やかに言った。
長かった治療が終わった瞬間だった。
嬉しくて目頭が熱くなったけど、ぐっと堪える。
…まだ泣きたくない。
病院を出るとすぐにスマホを取り出す。
メッセージを送るとすぐに恋人から電話がかかってきた。
「勇ちゃん、俺…」
🩷「柔太朗!今、どこ?」
「え?正面玄関だけど…」
返事の途中で電話が切れる。
何だったんだ…と訝しんでいたら後ろの方から声が聞こえた。
🩷「柔太朗っ!」
振り返ると走って来た勇ちゃんに力いっぱい抱きしめられる。
「ちょっ…苦し…」
🩷「やったなぁ!!」
俺の抗議を無視して勇ちゃんはそのまま俺を抱き上げるとグルグルとその場で3回転した。
見上げた勇ちゃんの目からは涙が次から次へと溢れて頬を伝っていく。
だから俺も我慢できなくなって一緒に泣いた。
ひとしきり泣いたら急に周囲の視線が気になってきた。
「も…おろして」
そうお願いすると、次の瞬間とんでもない発言が降ってきた。
🩷「これで…ヤレるな」
「ちょっ……と!!」
慌てて勇ちゃんの口を手で押さえたけど時すでに遅し。
近くにいた人たちから生暖かい笑みをもらってしまった。
…マジで穴があったら入りたい。
勇ちゃんは時々人目を気にしなさすぎて困る。
スポーツトレーナーを目指し大学へ進学してからも白血病の治療は続いた。
コロナ禍で配信の授業が多かったことに助けられたのもあるけど…
一緒に新居へ引っ越してくれた勇ちゃんにはずいぶん支えてもらった。
治療中はすぐ風邪をひくし、流行りの感染症にはもれなく感染する俺。
その度に勇ちゃんは文句ひとつ言わず優しく看病してくれた。
自分も忙しくてそれどころじゃないのにね。
しかもその間は免疫力の低下した俺に合わせて恋人っぽいことも全部お預けで…
いっぱい我慢させてたね、本当にごめん。
🩷「今日は早く帰るから…待ってて」
そう耳元で言われて心臓が大きくドクンと跳ねた。
そう…だよね、遂に…
文字通り身も心も結ばれるってやつ?
ちょっと…怖い
けどその倍、期待している自分がいた。
ひとりで百面相をしていたら勇ちゃんに鼻をつままれる。
🩷「気をつけて帰れよ」
「…うん。大人しく待ってる」
家について両親と祖父母に連絡を入れると泣いて喜んでくれた。
今すぐ栃木の実家から祝いに来ると言われた時は焦ったけど、今日は恋人とゆっくり過ごしたいって言ったら諦めてくれた。
実は勇ちゃんと一緒に住むって決めた時、両親にはすごく反対された。
でも勇ちゃんが仕事終わりに毎日説得に来てくれて、それでついにお父さんが根負けしたんだよね。
部屋の掃除を簡単に済ませて洗濯物を取り込む。
勇ちゃんまだかな…
そうだ、ちょっとだけ予習しておこう…
ローテーブルにパソコンを置きソファの前で正座する。
適当に動画を選んで再生すると激しく絡み合うラブシーンが流れた。
…
……む…
………無理…かも…
あれ、見る動画間違えた?
みんなこんなすごいことしてるの?
いきなり俺にこれはハードルが高すぎるよ…
画面を横目で見ながら頭を抱える。
🩷「…それがいいんじゃない?」
「あ、これ?」
指された動画を開こうとして体が固まる。
…ちょっと待って、今の声…
勢いよくノートパソコンを閉じる。
恐る恐る振り返るとニヤニヤ笑う勇ちゃんと目が合った。
🩷「…どうした?見ないの?」
「……うわぁっ!!」
びっくりして心臓が飛び跳ねる。
「…い、いつからいたの?」
🩷「んー…柔太朗が割とハードな動画を見て目を白黒させてるあたりかな」
「…最悪だ…」
床に両手をついてうずくまると、勇ちゃんが隣に腰を下ろして覗き込んできた。
🩷「そんなに俺としたかった?」
「…だって、勇ちゃんが変なこと言うから」
くしゃくしゃっと俺の髪をかき混ぜるように撫でてから、優しく肩を引き寄せられる。
🩷「期待してるところ悪ぃんだけど、俺もこんなアクロバットみたいなの流石にできねーから」
「…しなくていいし」
恥ずかしくてそっぽを向いて答えたら、急に体がふわっと浮く。
抱き上げられると静かにソファの上に降ろされて、見たことない顔した勇ちゃんが覆い被さってきた。
🩷「変に考えなくていいから、今日は俺に任せて…」
「…俺、痛いのは嫌だよ…」
🩷「バカ。医者舐めんな」
そう言うと軽く唇に触れて、それから大人の長くて甘いキスをくれた。
初めてのそれはブレスケアの味がした。
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