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(どうしよう。いきなりのことで、頭がついていかないよ……)
「う~ん、雅輝の良さをワンランク上げるスーツはすぐに決まったのに、ネクタイが決まらないなんてな」
困惑しまくりの宮本をよそに、橋本は難しい顔をしながらネクタイを手にして、恋人に当てたり外したりを繰り返していた。
事の発端は本日。あらかじめでかけることが、橋本によって決められていた。
「イブの日の夜、空けておけ。美味いもの食わせてやる」
「わーい! 陽さんと、クリスマスイブデートっスね☆」
喜びを表すように目をキラキラさせて橋本を見つめると、なぜだか少しだけ表情を曇らせた。
「ただちょっとばかり、テーブルマナーが必要なところでさ。そこに合わせて、スーツ買ってやる。それがクリスマスプレゼントだ」
「いやいや、スーツくらい持ってますし」
頭をポリポリ掻きながら、橋本が贈るであろう高そうなプレゼントを、やんわりと断った矢先だった。
「断ってくれるな。せっかくいい格好するついでに、俺の実家に顔を出すぞ。雅輝を家族に紹介したい」
「Σ(lliд゚ノ)ノ ンヵ゙ぁッ!!!」
その衝撃的なセリフは、宮本の思考をこれでもかと混乱させたのである。
「なぁこの深緑と青、どっちがいい?」
試着したスーツに、深緑と青のネクタイを交互に当てながら、目の前にある鏡とにらめっこする橋本。本来なら同じように鏡を見て、自分に似合うであろうネクタイのチョイスをしなければならないのに、宮本の視線は隣にいる橋本に釘付けだった。
眉根を寄せて眉間にしわを作る、難しい表情の橋本を見て、濃厚に絡み合う行為の最中を思い出す。ここのところお互い忙しくて、なかなか逢う機会がなく、肌に触れていないせいで回想してしまった。
『あっ…んあっ……そんなに激しく擦るなって、壊れ、る、んっ!』
(陽さんを後ろからぎゅっと抱きしめて、これでもかと貫いたあの日は、いつだったっけ?)
「おい、雅輝」
「…………」
「雅輝ってば。ヨダレ垂れてるぞ」
かけられた言葉にはっとして、無意識に口元を拭う。
「嘘だよ」
「陽さんってば、もう!」
「文句を言いたいのは俺のほうだ。こんなところで目尻を下げて、何を考えてた?」
ここで反抗したら、ハイキックが繰り出される恐れがある。腰に手を当てて睨む橋本がおっかなくて、素直に答えずにはいられなかった。
「何って、そりゃあ決まってるっていうか……」
「俺が質問してるのに、すぐに答えなかったろ、なあ?」
イケメンが怒ると、通常の二割増しで怖いことを知っているゆえに、宮本は肩を竦めて躰を小さくしながら謝罪するしか手がなかった。
「ごめんなさい……」
前カレもイケメンだったせいで、その迫力に恐れおののいた記憶が、頭の片隅に流れる。
「まったく。雅輝はすぐに顔に出るんだから、俺の実家でも気をつけろよ」
「はぁい」
「そんなに俺が食いたきゃ、あとからちゃんと食わせてやるし!」
爽やかに笑って頭を撫でながら告げられた橋本の言葉は、一気にヤル気へと導くものだった。しょげていた顔が、ぱあぁっと華やぐものに変化する。
「さっきのネクタイ、もう一度当ててみてください。すぐに選びます!」
「ぉ、おう。最初からそうしてくれたら、良かったのに」
宮本のハイテンションに、橋本は若干おどおどしつつも、胸元にネクタイを交互に当てていく。どっちのネクタイも宮本の顔を引き締める色合いだったため、簡単に選ぶことができなかった。
「陽さんのご家族にいい印象を与えるのは、どっちでしょうね」
「……おまえはなにを着ても、いい印象を与えるって」
橋本が思いもしないことを口走ったため、ギョッとして横を向くと、目尻に笑い皺を作って優しく自分を見つめる恋人と目が合った。
「よ、陽さんってば、見た目がモブキャラレベルの俺を持ち上げても、お得感ゼロですよ」
告げられたことや、橋本にじっと見つめられるせいで、宮本の頬が自然と熱を持つ。
(こんな顔してたらいい印象よりも、エロいことを考えてる印象を与えてしまう気が激しくする)
「雅輝の顔から人の良さが滲み出てるお蔭で、コイツは信用しても大丈夫だって思えるんだ。それは俺だけじゃなく、俺の家族にも伝わると思う。お得感がどうのと言われたところで、説得力の欠片すらないぞ」
「陽さん、大好き……」
ドキドキしながら呟くように告白した途端に、橋本の頬がぶわっと赤く染まる。瞳を右往左往させてから、左手に持っていた青のネクタイごと、宮本の胸元を強くパンチした。
「このクソガキが。こんなところで、恥ずかしいこと言うな。ほらよ、この青にしとけ」
「はい。インプの色に似てる、これにします」
ほくほくする気持ちで青のネクタイを大切に両手で受け取り、上目遣いで橋本を見つめた。
「ねぇ陽さん」
「なんだ?」
「この青のネクタイを陽さんの手首に巻きつけて、動けなくした状態でヤりたいって言ったら、してくれる?」
「駄目に決まってるだろ。スーツに合わせて、わざわざ買うっていうのに」
何言ってるんだという、困惑しまくりの表情になったのを目の当たりにしても、訊ねずにはいられなかった。顔をそっと橋本に寄せる。
「俺が自費でもう一本、同じのを買うって言ったら?」
「なっ!?」
宮本は意味深な笑みを唇に湛えながら、耳元で甘やかに囁いた。
「陽さんの腕をぐるぐる巻きにぎゅっと縛って、奥深くをいっぱい貫きたいんだけど」
耳まで真っ赤に染まった、橋本の答えは――。
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