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それは、放課後だった。
🐬「まなと」
呼び止められた声に、足が止まる。
振り返らなくても分かる。
でも、このまま無視したらきっと、もう終わる。
ゆっくり振り向くと、そこにそうたがいた。
真っ直ぐ、こっちを見てる。
逃げられない目。
🐬「ちょっと来い」
短く言って、歩き出す。
拒否する理由もなくて、黙ってついていく。
連れてこられたのは、人気のない校舎裏。
風の音だけが、やけに響く。
🐬「……で」
先に口を開いたのは、そうただった。
🐬「なんなんだよ、最近」
やっぱり、それか。
分かってた。
🐧「別に」
同じ言葉を繰り返す。
もう何回目だろう。
🐬「それやめろって言ってんだろ」
声が強くなる。
🐬「避けてるのバレバレなんだよ」
🐧「避けてないよ」
反射的に返す。
でも、自分でも嘘だって分かってる。
🐬「じゃあなんでだよ!」
そうたの声が、はっきり怒りを帯びる。
🐬「なんで急に、あんなこと言うんだよ」
あんなこと。
胸がチクッと痛む。
🐧「彼女といろ、ってやつ?」
🐧「……事実だろ」
小さく返す。
🐧「そうた、彼女いるんだから」
🐬「だからってお前と離れる理由になんねえだろ!」
強い声。
思わず、息が止まる。
🐬「なんで勝手に距離置こうとしてんだよ」
一歩、近づいてくる。
逃げられない距離。
🐬「意味わかんねえんだよ」
分からないよな。
そりゃ。
分かるわけない。
🐧「……分かんなくていい」
絞り出すように言う。
🐬「なんだよそれ」
🐧「そのまんまだよ」
これ以上、踏み込むな。
そう言いたいのに、うまく言葉にならない。
🐬「なんもないなら、普通にしろよ」
できるわけないだろ。
🐧「無理」
気づいたら、そう言っていた。
一瞬、空気が止まる。
そうたの表情が変わる。
🐬「……なんで」
低い声。
さっきまでの怒りとは違う、何か。
🐬「理由、言えよ」
言えるわけない。
でも、もう限界だった。
これ以上抑えてたら、本当に壊れる。
🐧「……言ったら」
声が震える。
🐧「言ったら、そうたどうすんの」
そうたが一瞬黙る。
🐬「は?」
🐧「どうすんのって聞いてる」
自分でも驚くくらい、感情が溢れてくる。
止められない。
🐧「今の関係、壊れてもいいの?」
空気が、張り詰める。
🐬「……は?」
そうたが眉を寄せる。
🐬「壊れるわけねえだろ」
簡単に言うなよ。
🐧「壊れるんだよ」
強く言い返す。
🐧「壊れるに決まってんだろ」
🐬「だからなんでだよ!」
ぶつかる声。
もう引けない。
🐧「――そうたが好きだからだよ」
一瞬で、全部が止まった。
風の音さえ、消えたみたいに。
言ってしまった。
一番、言いたくなかったことを。
戻れない。
もう、戻れない。
🐬「……は」
そうたが、小さく息を漏らす。
理解が追いついてない顔。
当たり前だ。
🐬「……なに、それ」
絞り出すような声。
🐬「意味、分かんねえ」
そうだよな。
普通、そうなるよな。
🐧「だから言いたくなかったんだよ」
笑おうとして、うまくいかない。
🐧「分かんだろ、これで」
全部終わりだって。
🐧「……ずっとだよ」
言葉が止まらない。
🐧「ずっと好きだった」
今さら止めても、もう遅い。
🐧「お前が誰と話しても、誰好きになっても」
🐧「全部、嫌だった」
息が荒くなる。
胸が苦しい。
🐧「でも言えなかった」
🐧「言ったら終わるって分かってたから」
全部吐き出す。
全部。
🐧「……だから距離置いた」
🐧「これ以上無理だったから」
沈黙。
重い沈黙。
そうたは、何も言わない。
ただ、固まったまま。
その顔を見るのが怖くて、視線を落とす。
🐧「……最低だろ」
自嘲気味に笑う。
🐧「親友のくせに」
何やってんだろ。
ほんとに。
🐧「……帰るわ」
それだけ言って、背を向ける。
もういい。
これで終わりでいい。
これ以上、傷つく前に――
🐬「待てよ!」
腕を掴まれる。
強く。
驚いて振り向く。
そうたの顔が、すぐ近くにあった。
さっきまでと違う。
混乱してる顔。
でも、それだけじゃない。
🐬「……ちょっと待て」
低い声。
必死に何か考えてるみたいな。
🐬「今の、どういう意味だよ」
さっき全部言っただろ。
🐧「そのまんまだよ」
🐬「いや、そうじゃなくて」
言葉が詰まる。
こんなそうた、初めて見る。
🐬「まなとが、俺を?」
確認するみたいに言う。
🐧「……そうだよ」
もう隠さない。
隠せない。
そうたが、黙る。
何秒か分からない沈黙のあと。
🐬「……無理だろ」
その一言が、落ちる。
やっぱりな。
分かってた。
分かってたのにちゃんと、痛い。
🐬「俺、今彼女いるし」
追い打ちみたいな言葉。
🐬「そういうの、分かんねえし」
視線が揺れる。
🐬「急にそんなこと言われても」
――ああ、もういい。
🐧「分かってる」
遮る。
それ以上聞きたくない。
🐧「分かってるから、距離置いてたんだろ」
声が少しだけ震える。
🐧「これで満足?」
強がりでもいい。
崩れるよりマシだ。
🐧「……帰る」
今度こそ振り払って、歩き出す。
止める気配は、なかった。
⸻
後ろを振り返らなかった。
振り返ったら、終わる気がしたから。