菓子さんからのリク。
めっちゃ遅れてごめんね…。
原曲 アプリコット
ウパさん単体 性別は非固定
嘔吐、病み表現注意
相変わらず解釈違い注意
後半支離滅裂な上に急展開すぎ…
ごめんね…
小さい頃から、宝箱に宝物を集めるのが好きだった。
公園で拾ったつやつやのどんぐり。キラキラと光る、ガラスのビー玉。まんまるとした、形のいい小石。
中でもお気に入りだったのが、お母さんから貰った、薄い緑の手鏡だった。
薄い緑のカバーの周りに、白い薔薇の装飾がおしゃれに施されたそれで、自分の可愛い姿を見るのが大好きだった。
手鏡を顔の前に持ってきて、にこりと微笑む。それだけで、そこには無垢で愛らしい天使が存在していた。
小学校でだって、私の愛らしさは他の子より群を抜いていた。
「ウパさんって、すっごくきれー!」
「ねー!すっごくきれい!」
「いーなー!わたしも、ウパさんみたいな顔だったらなぁ」
「オレもウパさんみたいな顔が良かった!」
皆んな、口々に私をそう褒め称えた。
同じクラスのルカさんより、隣のクラスで一番可愛いめめさんより、一つ上の学年で美人と評判のラテさんより、私は魅力的だった。
私が歩けば、あんずの香りがふわりと舞って、皆んなが右回れして、私の事を見ていた。
私は、自分が大好きだった。
私の体は指先から頭まで、何もかもが完璧で何よりも愛らしかった。
早く大人になりたい。早く自分のもっと綺麗になった姿を見たい。はやる気持ちを心の中で温めて、今日はどれくらい大人になれたかな、と毎日手鏡で自分の顔を眺めていた。
___でも、大人になるってことは、私が望んでいたものなんかじゃなかった。
違和感を感じ始めたのは、中学生の時だった。
今まで集めてた宝物達に、汚い手垢がついてしまったような、無垢から大人までの片道切符を使ってしまったような、〝無垢で愛らしい子供〟では居られなくなる。そんな気配がひしひしと伝わってきた。
きっと、小学生の私が思っていた〝大人〟は今までと同じで、純粋で、綺麗な物だった。
でも現実は、〝大人〟は汚くて醜くなっていく物だった。私は大人がどんどん大嫌いになっていった。
___いつか、私も〝大人〟になるの?
まだ大丈夫。大丈夫、大丈夫。
そう言い聞かせて、気持ちを落ち着かせる。
大きくなった体。大丈夫、大丈夫。
低くなった声。大丈夫、大丈夫。
許されなくなったイタズラ。大丈夫、大丈夫。
知りたくなかった汚い事。大丈夫、大丈夫。
小さくなった公園。大丈夫、大丈夫。
大丈夫。まだ子供。まだ私は、可愛い子供。
だって、ちゃんと覚えてる。
この公園で、いつも遊んでた事、遊んだ後には必ず、お呪いをかけてた事。お呪いだって、まだ言える。ええっと……そうだ。
___あした、天気になあれ。
カアカアカアカアカアカアカア。
喧しく叫ぶカラスの鳴き声が、私の神経を逆撫でする。
いつの間にか辺りは真っ赤に染まっており、太陽が地平線に消えようとしていた。この公園に着いた時はお昼時だったのに、そんなに長い間言い聞かせていたのだろうか。
もう子供は帰る時間だから、帰らなきゃ。そう、私は子供。大丈夫、手鏡を見れば。手鏡を見れば、まだそこには、無垢な天使がいるはず。
ふらふらとおぼつかない足取りで、家までの帰路を辿る。急ぎたいのに、足がうまく動かない。
どうにか家にたどり着いて、宝箱だった箱から手鏡を取り出して、顔の前にかざした。
そこに、いたのは。
無垢で愛らしい天使なんかではなくて。
そこに、そこにいたのは。
虚な目をした〝大人〟になりかけてる私だった。
「ゔっ……ぉ、え゛…」
胃の奥から熱くて酸っぱい物が迫り上げてくる。強烈な嘔吐感が襲ってきて、トイレへ駆け込む。
「ゔぇえ゛ぇ…っ」
胃の中の内容物を便器の中へとぶち撒け、それと同時に生理的な涙が滲む。
無理だ。耐えられない。あんな、あんな…。私が〝大人〟になるなんて。醜くなっていくなんて。
爛れた時間で、私の顔も同じように爛れていく。想像しただけで、また嘔吐感が襲う。
ふらふらと今にも倒れそうな足取りで自室へと戻る。その時に、あの手鏡がまた目に入った。
やめて。映さないで。やめて、やめてやめて。やめてって。やめて。やめろ。やめろ、やめろやめろ。この手鏡が。これが、悪いんだ。これの、これのせいで私は。
バキ、と音がした時にはもう遅かった。
お気に入りだった手鏡の鏡の部分は、ひびが入り割れてしまって、もう使えそうにはなかった。
もうこんなの、宝物でもなんでもない。
無残な姿になった手鏡を見て、心底そう思った。馬鹿馬鹿しい。何が宝物だ。
今になって見返せば、私が大事に集めていた宝物なんて、全部ゴミじゃないか。大好きなんてお世辞にも言えはしない、ただのゴミ。
そう思いながら、心が濁っていくのを感じる。もう、私は綺麗でも無垢でもない。
___やがて来たるその日から、逃げなきゃ。
でももし、〝大人〟になった私も愛せたら。
___そしたら、私は___。
そんな淡い希望を抱いた瞬間、私の手が目に映る。大きくなって、硬い手。そこには天使のような柔らかさも、愛らしさもない。
無理だ。無理だ無理だ。
僅かに抱いた薄氷のような希望は砕け散り、代わりにこの思いが、心を占める。
逃げなきゃ。大人になることから。
あぁ、逃げましょう。
コメント
32件
文才がすごいのよやっぱ
雰囲気と言葉の表現がとても好き!!ありがとう......!
凄い良い!めちゃ好き… 胡桃の書く小説ほんと好きだから更新嬉しい!✨ 曲聞いてみようと思う