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「…よし、これで良いっすかね?」
マイズミに似た喋り方といい、一人称と言い…来たばかりで全員自己紹介をしているわけでも無いのにも関わらず、男はトントン拍子で話を進めあっという間に契約書を書き終え、俺に手渡す。
「来てまだそんな時間経ってるわけでもないのにお前…よくここで働きたいとか言ったな…なんか理由でもあんのか?」
契約書を受け取りながら、秘書として働くようになったお岩が淹れてくれた茶を飲み男の顔をじいっと見つめる。
「やだな〜そんな睨まないでくださいよ〜
んまぁ特に理由はないんすけど、ここならそれなりに働けそうだし?それに人も少なそうだし、場所もチンケなところにあるから良いかな〜とか思いまして」
「地味にディスってねぇかお前…
っったく…今日はどれだけディスられる日なんだよ…とりあえず人数が少ないのは言えてるからよ、別に採用にしてやらなくもねーけど…」
“急に来て急に働きたいとか言い出されて、オレもオレで何で同様しないで採用したのか分からねーけど…”
何となく体が動いてしまった。正直自分でもよく分からないし、恐らく今の気持ちとかを含めてマイズミに話してもきっと、
『恐神先輩採用速度鬼速じゃないっすか…?ネット求人バイト検索サイトみたいなところじゃないし、一応危険をも伴う仕事場なんすからもっと慎重にしないと…』
と、説教と共に特に何も理解されないまま会話が終わるのは何となく目に見えている。だがちょっとだけ気にかかるのが―――
「え、ほんとっすか!!やったオレ採用だってよ豆電球ちゃん!!」
「豆電球じゃないけどよかったねぇトマト頭!!」
「 「いえ〜〜〜〜〜〜〜い!!」 」
初対面のはずなのに仲良く喋っていることだ。(コミュ障)(意外と人見知り)
*本人の自覚はない
オレがおかしいのか…?いやいや、此奴らの方が明らかに可笑しいだろ…
初対面で普通こんなに話せるものなのだろうか…
「…恐神先輩、顔怖いっすよ。かの昔に流行っていた番犬ガオガオみたいっす。」
「番犬ガオガオ…あれ懐かしい、ですよね。私が此処に来る前に当てもなくさまよっていたところで、たまたまその玩具見たことあります…」
「オレの顔が番犬ガオガオ…?」
あれ、何だっけな…番犬ガオガオって…年を言い訳にしてでも『教えてちょ(キュルン)』と言いたい。
だがオレは今、マイズミなら“その年でそれは…“と言って引かれることを考慮してでも、なんとしてでも知りたい…
なんだその番犬ブルドッグみたいなやつ…
「え!!そうなんすね〜〜
あの玩具、確か歴代で色々種類あるんすよ」
「すごい…今度皆さんでやってみたいですね…ちょっとわがままかもしれないですが…」
「大丈夫っすよ。恐神先輩のカネ使えばノープロブレムっすから。」
…なんかもう、番犬ガオガオとかどうでも良くなってきたな。(切り替えの早い男)
つか、こんな風に相手に人見知りせず話せているのは一体何なんだろう。
普通はもうちょっとよ、あの黒くてお面付けてて「アア…アア”…」とか言ってる化け物ストーカーみたいな感じで喋るときに困るような発言するだろ。
何でお前達そんな平気そうな顔して話せるんだよ、ひょっとしてあの件以来何か妖怪化なんかに取り憑かれてるのか…?(彼はコミュ障です)
豆電球が先程まで楽しそうにチャラ男ケチャップと話していた男のに、ふとした瞬間にオレに目線が変わる。
「…?恐神?お前、ひょっとこみたいな顔してどうした?
夏祭りにでも行きたくなったのか?」
「いや、違う。オレは魔物などに取り憑かれてなどいない。絶対に。」
いや何だよ、番犬ガオガオみたいって言われた後にちょっと慰めてくれるんじゃねえかとか期待したじゃねぇか。
「…ほう、さてはお主…厨二病に目覚めたか!!そんな年食ってから厨二病に目覚めるとはなかなかの強敵だな!!」
そういって悠寿がオレの首に巻き付くようにしてしがみついてくる。ちょっと息苦しい感じがあるが、この怪力女でもちゃんと手加減は少しはしてくれているのだろう。
天に召されるレベルでは無いから、あとで此奴の大好物の駄菓子を盗み食いしてやる刑で許してやるぜ。
「そういや、なんかこういう妖怪いたよな。なんかろくろ首みたいな…本当に現実にいたら良いのにな。」
でもこういう風に首締められたら、今のこの状況とは比べ物にならないくらい意識が朦朧としてほぼ生と死の瀬戸際に立つような状況に陥るのか。
「確かにそれちょっとわかるかも。
…あ、そう言えば
“最近ムダに仕事の量が増えすぎてて、手が回らないから
ということで企業のお手伝いに来てほしい”
って依頼と、
“深夜になると、下水道に変な化け物が現れて怖いから、調査してほしい”
って依頼が同時に来てたな」
“珍しく一気に2つか…忙しくなりそうだな。”
なんて考えながら目の前に置かれた茶を飲み干す。
「…で、何か助っ人の条件とかあるのか?その仕事に関しては、二人くらいが行けば良い気がするけどよ、深夜の場合…悠寿が別途の仕事あるし…」
「まぁボク一応死神さんだからねぇ…
けど睡眠時間が20分程度取れるなら全然平気。あと、深夜の仕事はちゃちゃっと済ませてこれば、そっちの方も手伝いに行けるよ。」
普段の呑気な態度でそう言うと、悠寿は自分のお気に入りと称して普段から持ち歩いているふ菓子を口に入れて美味しそうな顔をしている。
「そうか。…なら昼間の仕事はオレとマイズミが行って、深夜のは全員…でも平気か?」
「はーい」
全員の賛同を確認し、オレは早速依頼の準備を始めた。