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――小学校五年生。
すちは、相変わらず恋愛小説を読んでいた。
ページの中では、主人公が誰かを好きになっている。
会いたい。
話したい。
一緒にいたい。
相手のことを考えるだけで嬉しい。
そんな言葉が、何度も出てくる。
すちは本を閉じた。
(……俺には、分からない)
「好き」が分からない。
好きな人も分からない。
そもそも、自分が誰かを好きになるということ自体、想像できなかった。
だから。
(……じゃあ、作ればいいのかな)
すちはしばらく考えた。
(好きな人がいる自分を作ってみる)
本に書いてある。
好きな人を見ると、嬉しくなる。
好きな人と話すと、楽しくなる。
好きな人のことを考えてしまう。
なら。
その「好きな人」を、自分で決めてみればいい。
そうすれば、いつか分かるかもしれない。
次の日。
学校。
すちは一人のクラスメイトを見た。
(この人にしよう)
別に、その子が特別だったわけじゃない。
ただ、恋愛小説の主人公に当てはめやすそうだった。
すちは、その子を「好きな人」ということにした。
そして。
演じてみる。
すち「おはよう」
友達「おはよ」
いつもと同じ挨拶。
でも、すちは少しだけ意識する。
(好きな人なら……嬉しいのかな)
相手を見る。
笑っている。
(……嬉しい?)
……分からない。
それでも、笑ってみる。
すち「今日、一緒に帰る?」
友達「いいよ」
(好きな人と一緒に帰ると、嬉しい)
本にはそう書いてあった。
だから、自分も嬉しいことにする。
すち「やった」
笑う。
それらしく。
自然に。
まるで本当に嬉しいみたいに。
帰り道。
隣を歩きながら、すちは考える。
(今、俺は好きな人と一緒にいる)
(……だから、嬉しいはず)
楽しい。
消失
144
#いらすと部屋
クッキー
148
#初心者
巫女都
102
翠
97
それは分かる。
でも。
「好き」は分からない。
その日の夜。
すちはまた恋愛小説を開いた。
今度は、主人公が好きな人のためにプレゼントを選んでいた。
すちはページをじっと見る。
(これも、やってみよう)
翌日。
小さなプレゼントを渡してみる。
すち「これ、あげる」
友達「え? なんで?」
すち「……なんとなく」
友達「ありがとう!」
嬉しそうに笑う。
すちは、その顔を見て笑った。
(……嬉しい)
でも、それは相手が喜んだから。
「好きだから」なのかは、分からない。
だから、また本を読む。
また真似する。
また「好きな人」を作る。
そして、その人を好きな自分を演じる。
何度やっても。
何人作っても。
「好き」は見つからなかった。
それでも、すちはやめなかった。
(いつか分かるかもしれない)
(このまま続けてたら、本当に感じられるかもしれない)
だから。
すちは今日も、
「好きな人がいる自分」
を演じる。
――本当に「好き」を感じられる日が来るまで。
コメント
1件
うわあ…すち、小説で「好き」を勉強して、自分で“好きな人”を決めて演じてるのか。 それが切なくて仕方ないわ。 「嬉しいはず」「楽しいはず」って自分に言い聞かせてる感じ、読んでて胸がぎゅっとなった。 でも、相手が喜んだ顔を見て「嬉しい」って思えたのは、すちの中に確かにあった感情だと思うんだよな。 “好き”の形は人それぞれだし、分からなくてもがいてる姿がすごくリアルで、続きが気になる…! 碧さんの、すちの内面を丁寧に描く文体、めっちゃ好きだわ🔥