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――小学校五年生の冬。
すちは、まだ恋愛小説を読んでいた。
何冊も読んでいるうちに、「好きな人がいる人」の行動にも慣れてきた。
誰かを見て嬉しそうにする。
話せたら喜ぶ。
相手の好きなものを覚える。
ちょっとした変化にも気づく。
そういうことを、すちは一つずつ真似していた。
もちろん、最初からうまくできたわけじゃない。
(このときは……嬉しいってことにする)
(ここは、ちょっと寂しいってことにする)
そんなふうに、本に書いてある感情を自分に当てはめていった。
ある日の休み時間。
友達「すち、何見てんの?」
すち「ん? これ」
友達「また恋愛の本?」
すち「うん」
友達「好きだねー」
すちは一瞬だけ黙った。
すち「……まあね」
笑う。
その笑顔も、もう自然になっていた。
本当は、「好き」だから読んでいるわけじゃない。
どうすれば「好き」が分かるのか知りたいから読んでいる。
でも、それをわざわざ説明する必要はないと思っていた。
放課後。
いつものように、作った「好きな人」と話す。
すち「今日、一緒に帰ろ」
友達「いいよ」
すち「ほんと? やった」
言いながら、すちは考える。
(好きな人と帰れるから嬉しい)
そう思うことにする。
でも、本当に嬉しいのは一緒に帰れることそのものだった。
それが「好き」なのかは、やっぱり分からない。
家に帰れば、また別の自分になる。
父「すち」
すち「はい」
父「これ」
すち「分かりました」
学校では笑う。
家では返事をする。
その切り替えは、いつの間にか当たり前になっていた。
そしてある日。
学校で、友達に言われた。
友達「すちって、恋愛詳しいよな」
すち「そう?」
友達「うん。なんか、好きな人いるやつみたい」
すちは少しだけ笑った。
すち「……そうかもね」
その言葉を口にした瞬間。
自分でも不思議なくらい自然だった。
「好きな人がいる」。
本当は、作っただけ。
本当は、その人を好きだと感じたことなんてない。
でも。
誰かにそう言われても、否定する必要を感じなくなっていた。
(……これでいい)
(こうしてれば、いつか本当に分かるかもしれない)
だから、すちはまた笑った。
作った「好きな人」を。
作った「好き」を。
本物みたいに演じながら。
コメント
1件
うわぁ…この話、めちゃくちゃ胸にくるよ〜😭💦 すちが恋愛小読んで「好き」の気持ちを真似してるところ、切なすぎる…。教科書みたいに感情をなぞって「そう思うことにする」って、読んでて苦しくなった。でも「そうかもね」って自然に出た瞬間は、すちの中で何か変わったのかな?って思わせてくれたね。 家と学校で顔を切り替える描写もリアルすぎて、なんも言えなかった…🥺💔 続きめっちゃ気になるよ!すちの“作った好き”がどう変わっていくのか、見守りたいな🌸