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車の中で救世主とその秘書はハッカーのと連絡をとっていた。
最近話題に上がる銃の受け渡し事件について関与している三人は、ハッカーから救世主に漏洩した情報の始末がついた事を報告していた。
救世主はその画面に映る黒い梟のアクセサリーをつけた少女を見て笑う。
「相変わらず素晴らしい」
《エージェントと知り合いか? 国家に仇名す者を消して回る噂の処刑人がまさかこんな少女だったとは驚きだ》
「さすがは天才ハッカー。博識だな」
《無知があることが嫌いなんだ。だからもっと知りたいことがある》
「報酬だね? 依頼した組織へのハッキングには満足している。十分報いる額を用意しているよ」
《そうじゃない》
「ほう? 何かね?」
《どうして銃取引なんぞに関わる?》
《施しの女神はタブーなしなのか? 機関》
「……無知である方が人は幸福なんだ」
救世主は車についていたボタンを押した。
「何故知りたがる、ハッカー」
《言っただろう、無知であることが嫌いなんだ》
「君の技術は素晴らしい。ハッカーとしては一流だろう。しかしそれ故に人間関係の構築は不向きではないのかな。誰にだって秘密にしたいことはあるさ。それを暴くのは褒められた行為ではないよ」
《無知は罪だ。知識がない故に人は過ちを犯す。学習し、成長する。それが人間の本能であり、霊長の王になった理由だ。だからこそ私は無知を厭悪する》
「確かに人は学び、成長する。しかし、それは常に危険と隣り合わせだ。初めての経験に失敗するだろうが、それが致命的になるのは馴れてきた頃だと私は思っている」
《何が言いたい?》
「ハッカー。君はハッキングや、人の情報を手に入れる成功体験に慣れ過ぎているのではないかな?」
《脅しのつもりか? 探れば殺す、と》
「もう手遅れだよ」
ドカン! と何処かで大きな爆発が起きた。
《残念、外れだ》
「いいや、チェックメイトだ」
《なに? うっ………》
ハッカーの方でトラブルが発生したらしい。物音が響く。そして数分後、今度は加工音声ではない生の肉声がハッカーの通話口から響く。
《こちらドミナント。ターゲットを拘束。どうしますか?》
「銃取引の重要参考人として組織に引き渡す。拘束したまま放置しておいてくれ」
《了解》
「いつも済まないね」
《いえいえ、救世主様のご命令なら構いませんとも。けど、あー、ちょっとアラン機関的には良くないんじゃないんですか? 確かパノプティコン・チルドレンには不干渉が鉄則では? 完全に私兵扱いですけど》
「目の前で君の活躍が見れるのが嬉しくてね。それに君はイレギュラーだ。パノプティコン・チルドレンであるが、しかし既にパノプティコンシステム完成に携わった人間だ。アラン機関の一員と考えても良いだろう」
すると苦笑したような反応が返ってくる。
《確かにそうですけど》
「それにイレギュラーは君が初めてではないよ。戦闘ではない様々な分野でパノプティコン・チルドレンを超えたイレギュラーな人間は産まれてくる。彼ら彼女達はそのままアラン機関の一員として自身のギフトを有効に活用できるように支援している」
《それは、まぁ、考えてみれば当たり前か。この心臓もそうだったり?》
「ああ、人の枠を超えたイレギュラーな医療科学者が作ったものだ」
《イレギュラー……そういえば死神部隊はどうです?》
「世界各地に出没し、増えたり減ったりを繰り返している。人の可能性の否定。特質した才能を持つイレギュラーの排除。相変わらず厄介な存在だよ、君も気をつけるように」
《了解です。では救世主さんもお元気で》
「ああ、君もね。ミス・ドミナント」
プツン、と通話が切れる。
死神部隊。
財団が擁する私設武装組織。
世界各地に現れて、パノプティコン機関を攻撃したり、特別な才能を見つけるために育てて破壊することを繰り返しているイカれている集団だ。
第一次・日本列島防衛戦にて初めて存在が確認され、数年前の第六次・日本防衛戦で千束擁するパノプティコン機関の全力のバックアップを受けたファーストクラス・エージェント大隊、自衛隊、警察の日本防衛連合によって壊滅させた筈だが、また最近メンバーを一新して活動を始めている。
この戦いでパノプティコンシステムならびにパノプティコン機関の兵器開発部門の一部導入することで、エージェントの戦闘能力が大幅に上昇、治安も安定化し、平和な日本は保たれていた。
「神様からのギフトを壊すような存在は必ず破壊する。そして神様のギフトは必ず世の中に送り出す。それがパノプティコン機関としての、いや、私の使命だ。財団。何者かは知らないが、私が生きている間に必ず破壊する」
「お付き合いしますよ」
秘書の言葉に、救世主は少し驚いたような顔をする。しかし微笑を浮かべる。
「ありがとう。頼もしいよ」
近いうちに大きな戦いを起こす。それに死神部隊と財団を誘い込み、根絶やしする。その為の準備を、救世主は始めていた。