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白兎堂のお婆さんに連れていかれたのは、少し離れた場所にある小さな建物だった。

たくさんの服や布が整頓されていたが、その奥には巨大で異質な存在があった。


――2メートルの、ガルルンのぬいぐるみ!!


「でかっ!!」


「あらあら。ご注文通りですよ?」


お婆さんは、にこやかにそう言った。

考えるのと目にするのとでは、やはり印象が違う。それを見越しての台詞だろう。


……それにしても大きいなー。


……それにしてもキモカワイイなー。


……いや、この大きさとキモカワイイの両軸で、何だか凄くエンターテイメント性を感じるなー……。


「すいません、ちょっと触ってみても良いですか?」


「はい、どうぞ。

お代はもう頂いていますので、お好きなようになさってください」


「え、好きなように……?

それでは失礼して――」


ぼふっ!!


ここは迷わず、私の身体よりも大きなぬいぐるみに飛び込むしかないッ!!


……うん、ふかふか!

腕に力を込めても、良い感じの抵抗を伴いながら軽く沈んでいく。


お婆さんが見ているから、あまりはっちゃけたことはできないけど……軽くパンチを入れてみても、なかなか気持ちが良い。

これなら、日頃のストレス発散にしっかりと使っていけそうだ。


そんなことを思いながら、ぬいぐるみから身体を離して、改めて上を仰いで見る。


――うん、でかい!


最初は自分の部屋に置いておこうと思ったけど、想像以上に大きいから……どうしたものか。

アイテムボックスとか、お屋敷の使っていない部屋とか、しまっておく場所は充分にあるんだけど――


……でもこんなに立派なものなら、人の目に触れるところに置いておきたいよね?

そうなると工房に置いていても意味は無いし、それならあとは――


……お店?


ふむ、それはそれでなかなか……!!


「アイナさん、いかがですか?

手直ししたいところがあれば、すぐに対応しますよ」


「いえいえ! とても素敵な感じになっているので、このままで大丈夫です!

それにしても、こんなに大きいものをありがとうございました」


「うふふ、なかなか無いお仕事だから楽しかったですよ♪

ところで、独特な感じのキャラクターですよね。これはアイナさんが考えたんですか?」


「いえ。これは、ガルーナ村というところのセシリアちゃん、っていう子が考えたものなんです」


「ガルーナ村……。

確か先日、疫病が発生したっていう……」


「はい。私も少し滞在していたんですけど、復興するにはまだ時間は掛かりそうで……」


疫病がガルーナ村に残した傷跡は大きい。

そういえば、最近ガルーナ村はどうなっているのかな?


ジェラードの話によれば、王都からたくさんの兵士が派遣されていたらしい。

それは『疫病のダンジョン・コア』を探すのが目的だったらしいんだけど、もう諦めてくれているのかな……?


「やっぱり大変ですよね。私も、何かできることは無いかしら……。

……さて、それではアイナさん。この大きさですけど、アイテムボックスには入れられますか?」


「はい、やってみますね。えいっ」


ヒュンッ


収納スキルを使うと、2メートルの巨体は一瞬にしてアイテムボックスの中に消えていった。

こんな大きさのものを入れるのは、実は初めてだったかもしれない。


「わぁ、凄い。

大きいものをしまっちゃえるなんて、本当に便利ですね」


「はい、本当に!」


便利すぎて、もしも持っていなかったら……と考えると、少し恐ろしくなってしまう。

ここは神様のナイスなチョイスに、しみじみと感謝をしておこう。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




白兎堂に戻ると、エミリアさんとバーバラさんが引き続き服の話で盛り上がっていた。

テーブルの上には伝票のようなものがあるから、注文自体は終わったのだろう。


「ただいま戻りました」


「アイナさん、お帰りなさい! 服の注文は終わりましたよ~♪」


「おー。どんな感じにしたんですか?」


「えへへ、それはあとのお楽しみということで!

折角なので、ふんだんにふりふりしておきました♪」


おお……。

私が超えられなかった壁を……超えようともしなかった壁を、エミリアさんは易々と超えてくるなぁ……。


「それでは、楽しみにしておきます!

用事も済んだようだし、そろそろ行きますか?」


「そうですね、そうしましょう。

バーバラさん、よろしくお願いしますね!」


「はい、楽しみに待っていてください♪」



私とエミリアさんは挨拶をしたあと、白兎堂の外に出た。


「服を作るなんて久し振りだから、わくわくしちゃいます♪」


「たまにはこういうのも良いですよね。

非日常感というか、完成を待つ時間も特別っていうか」


「ですよね、分かります!

ところでアイナさん。ぬいぐるみの方はどうでしたか?」


「はい、ちゃんと受け取ってきましたよ!」


「見せてください!」


……あ。エミリアさんには、ぬいぐるみが2メートルもあるって言ってなかったっけ?

さすがに、外で出すわけにもいかないからなぁ……。


「すいません、ちょっとここではワケがあって出せないんです……!

お屋敷に戻ってからお見せしますね」


「ワケ……? わ、分かりました……?」


折角なので驚かせようと思い、大きさのことはまだ伏せておくことにした。

ふふふ、あとで度肝を抜かすが良い。



「さて、次は冒険者ギルドに行っても良いですか?」


「あれ、珍しいですね。急にどうしたんですか?」


「ガルーナ村から、ガルルンの置物が届いていないかな……と思いまして。

少し時間が経ちましたし、確認をしておきたいんです」


「おー、了解です! 今日はガルルン祭りですね!」


ガルルン祭り……、何だか良い響きだ。

いつの日か、どこかの場所で奇祭として催してみたいかもしれない……っ!




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




冒険者ギルドに行って確認すると、ガルルンの置物が40個届いていた。

以前11個を受け取っていたので、これで大体半分ということになる。


……思い返してみれば、全部で100個というのは、少し多過ぎたかな……?

元々は売るつもりで注文したのに、結局今のところ、全然売ろうとしていないし。


「うーん、40個ですか……。

早く見たいですけど、これもお屋敷に戻ってからですね」


「そうですね、たくさんありますし。

でもまぁ、1つくらいなら開けてみましょうか」


そう言いながら、何となく一番近くにあった包みを開けてみる。


中からは、オーソドックスなポーズと、平均的な大きさをしたガルルンが現れた。

しかしやたらと磨きが掛かっており、今までに見てきたものよりもツヤツヤしている。


「あはは、アイナさんってこういう小技が好きですよね♪」


「ああー、そういえばこんな注文もした気がします……。

時間を空けると客観視しちゃうというか、新鮮な目で見れるから面白いですね」


「あのときは、一気に100個の話をしていましたからね。

……あれ? お手紙がありますね」


エミリアさんが、他の包みに貼り付けられた封筒に気が付いた。


「本当だ。

んー、そろそろお昼の時間ですし、そのときに読んでみましょうか」


「そうですね……っていうか、もうそんな時間ですか!

うぅ、今日は時間が経つのが早いです……」


「確かに!」



楽しい時間は、過ぎるのが早いものだ。

それは嬉しいような、寂しいような。……何だかちょっと、不思議な気分。

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