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昼食は白兎堂から少し歩いた先の、個人営業のパスタ屋さんでとることにした。
そこはこじんまりとしていて、夫婦でやっているお店らしい。
ここら辺は小さなお店が多いのかな? 白兎堂もそんな感じだし。
「素敵なお店ですね!」
エミリアさんが、機嫌良く言った。
いかにも手作り……といった感じの、温かみが感じられる内装。
元の世界であれば、テレビの情報番組でも取り上げられそうな雰囲気だ。
「確かに良い感じですよね。私も好きです!」
店員さんに注文を終えると、話題は早速、先ほどの封筒の話になった。
封筒の端をできるだけ綺麗に切って、中から便箋を取り出す。
「……ああ、ランドンさんからですね」
ランドンさんは、ガルーナ村の村長さん。
ガルルンの置物を送ってもらうなどで、とてもお世話になっている人だ。
「何か、あったんですか?」
「えーっと……。送るのが遅れた謝罪と、その理由が書いてありますね。
私たちはジェラードさんから聞いている内容ですけど、私たちがそれを知っていることは、ランドンさんは知らないので……」
ガルルンの置物を送るのが遅れた理由――
……ガルーナ村で、怪しい宝石の目撃情報があり、それを聞いた王様はたくさんの兵士を派遣した。
そしてその兵士への対応で、ガルーナ村の人々は、しばらく何も出来なくなってしまったのだ。
「……そういえばジェラートさんは、アイナさんの名前は出さなかったんですよね?」
「今にして思えば、出してもらった方が良かったかも……」
かなり、今さらな話ではあるんだけど。
でも、あのときは軽い様子見くらいのつもりだったし……まぁ、仕方が無いか。
「ちなみに、用事はそれだけですか?」
「あとはメルタテオスを発つときに、ガルーナ村に送った手紙のことが書いてありますね。
一緒に送った『野菜用の栄養剤』のお礼と……ああ、その前に渡した栄養剤の結果も書いてあります。
何だか、凄い野菜ができたそうで……?」
「凄い野菜……!?」
「かなりの速さで成長して、かなり美味しく育ったらしいですよ。
……うーん、ちょっと見てみたい」
「ププピップもそうですけど、錬金術って、そのうち食文化に大きく影響しそうですよね……」
確かに。未来の美食は錬金術が担っているといっても過言では無いだろう。
それなら私も、もう少し何かをやりたいかもしれない……?
……うーん、でも色々と手を出し過ぎるのは良くないから、出来たら程度で考えることにしよう。
「ちなみに例の、ふっさふっさふっさの教祖様はまだ来ていないそうです」
「あの方がガルーナ村に来たら、聖地化が進みそう……」
「手紙の最後は……近況が書いてありますね。
村の様子を聞いていった旅人がいたそうなんですが、これは……ジェラードさんのことかな?
あと、派遣された兵士は、何も見つけられないまま帰ったそうです」
「ははぁ……。兵士のみなさんは、ご苦労様でしたね」
……確かに、ご苦労様である。
その怪しい宝石こと『疫病のダンジョン・コア』は、既に私のアイテムボックスに入っていて、いくら探しても見つかることは無いのだ。
「でも、これでガルーナ村の人の手は空いていくのかな?
まぁ、空いたからと言っても復興で大変でしょうけど……」
大変なときに多くの兵士を派遣して、村人を困らせるのはどうかと思う。
でも、王国からガルーナ村へ、少なくても必要な物資とかは送ってくれたんだよね?
ガルーナ村を救ったということで、私だって工房やらお屋敷をもらったわけだし……。
「……っていうか、私の方がもらい過ぎ!」
「え?」
不思議そうに反応するエミリアさん。
ああ、言葉足りずだった……。
それを反省しながら、考えたことを伝えてみる。
「――命に値段はありませんけど、確かに極端な感じはするかもしれませんね。
でも、王族や貴族はそういったところがあるんですよ」
遠くの困った人間より、目の前の英雄を優先する……みたいなものだろうか。
「うーん……。
以前に比べれば、私もずいぶん金回りは良くなりましたし、もう少し援助した方が良いですね」
「それは良い考えです!
でも、あのときだって、ガルルンで復興の手助けをしようとしたのは素敵だと思いましたよ」
「ああ、私のガルルン営業が足りないのが情けない……。
……とりあえずあとで、手紙の返事と一緒に『野菜用の栄養剤』をたくさん送ることにしますかね」
「援助って、現物支給なんですね」
「お金は王国の方から出てると思いますから、ここは私しか出来ないことで攻めていきましょう。
やっぱり主な産業は農業ですし、美味しい食べ物は元気に繋がりますし」
「確かに! そしてあとは、アイナさんのガルルン営業ですね」
「ぐふ……。そういえばガルルンの置物って、『野菜用の栄養剤』と物々交換したんですよね。
だから私からガルーナ村には、直接お金を出していないわけで……。
ガルルンの置物が売れたら、その一部を寄付しようかなぁ……」
何となく真面目な流れになった頃、店員さんが頼んでいたパスタを持ってきた。
「お待たせいたしました!」
明るい声と共に、私たちの前にはお皿が並べられていく。
うん、とっても美味しそうだ。
「とりあえずわたしたちも、美味しいものを食べて元気に繋げましょう!」
「あはは、そうですね。
……それにしても、エミリアさんが頼んだやつ、美味しそうですね」
「そういうアイナさんの方こそ! 少しずつ分けますか?」
「お客様、取り皿をお持ちいたしますか?」
「ありがとうございます、お願いしまーす♪」
「はい、かしこまりました」
そう言いながら、店員さんは素早く取り皿を持ってきてくれた。
「んー、美味しい♪ そっちもこっちも美味しい♪
それに店員さんの気が利いてて、何だかこのお店大好きです!」
「そうですね、私も大好きです!
しっかり場所を覚えておかないと……!」
私も道を覚えるのは得意な方ではないから、しっかりと覚えておかないと。
「ところで、このあとはどうしますか?」
「そうですね、エミリアさんはどこか行きたいところはありますか?
今までに寄った場所は、私が行きたかったところですし。ああ、食べ物以外で――
……あっ!!」
「え? え?
アイナさん、急にどうしたんですか!?」
「今、凄いことを思い付きました!
エミリアさん、たくさん食べるのがバレたくなければ……何件かのお店を、はしごすれば良いんじゃないですか!?」
「……ッ!?
おぉ、その発想はなかったです……!!」
「まぁ、今から他のお店に行くのであれば、私は飲み物だけになりますけど」
「ああん、そうですよね!
でも、せっかく誰かといるのなら、やっぱり一緒に食べたいですよ。だから、今日はやめておきましょう!」
「……『今日は』?」
「あ、はい。そのうちまた、お誘いするかもしれません!」
「……ですよね。素直でよろしいです」
「これぞまさに、天啓!!」
「司祭様がそういったことを気軽に言って良いんですかね……」
「そういえば、そうでしたね……。えっと、そうすると今日は食べ物以外……。
実はわたし、王都には長く住んでますけど、あまり詳しくないんですよね……。
観光地とか信仰関係なら強いのですが」
「それじゃ、このあとも買い物に行きましょうか。
私は素材になりそうなものを買いたいので、また付き合ってもらう形になりそうですけど」
「最近は動くことも減りましたし、わたしは大丈夫ですよ!」
「ありがとうございます!
ああ、そうだ。この前、良さげなアクセサリ屋さんを見つけたんですよ。
メイドさんたちのカフスボタンを買ったところなんです」
「おお、ぜひ教えてください!
そういえばアイナさんがあげたカフスボタン、メイドさんたちが喜んでいましたよ」
「あ、そうですか? それは良かったー」
「特にキャスリーンさんなんて、気が付くと袖をチラチラ見ていましたし。
アイナさん、キャスリーンさんに凄い好かれてますからね……。少し嫉妬です!」
「えぇ……、そうきますか……。
でもエミリアさんは別格なんで、大丈夫? ですよ!」
「本当ですか! やったぁ!」
「だから、ずっと旅に付いてきてください!」
「うわーん、アイナさんがいじめるー!」
エミリアさんが一緒にいてくれるのは、王都を発つときまでだ。
それはもう、何回も聞いて、何回も答えてくれた話。
……それにしても、王都で工房とお屋敷もらっちゃったわけなんだけど、王都を発つのっていつになるんだろう?
そんなときって、実際にいつか来るのかなぁ……。