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第四十五話 選ばれた三枚
「一枚の写真は、誰かの心に届いた瞬間から、本当の意味を持ち始める。」
放課後。
写真部の部室には、
誰一人として話す部員はいなかった。
机の上には、出展候補の写真が並べられている。
顧問の先生は、
その中から三枚を静かに手に取った。
「それでは、発表します。」
部室の空気が張り詰める。
*
「一枚目。」
先生が一枚の写真を掲げる。
夕暮れの海を写した、美しい風景写真。
「二年、山本。」
「……はい!」
名前を呼ばれた部員は、
驚きながらも笑顔を浮かべた。
部室から拍手が起こる。
*
「二枚目。」
今度は、
子どもたちが公園で笑い合う一瞬を切り取った作品。
「一年、小野。」
「えっ……私ですか!?」
目を丸くした一年生は、涙ぐみながら頭を下げた。
「ありがとうございます!」
再び拍手が響く。
*
残るは、一枚。
湊は静かに自分の手を握った。
期待してはいけない。
そう思っていたはずなのに、
胸の鼓動はどんどん速くなる。
先生は最後の写真を持ち上げた。
商店街。
荷物を拾う女子中学生と、おばあさん。
何気ない日常を切り取った一枚。
『つながる心』
見慣れた、自分の写真だった。
「二年、神崎。」
一瞬、時間が止まったように感じた。
「……はい。」
やっと返事をすると、
部室中から温かい拍手が送られた。
蓮が満面の笑みで親指を立てる。
美桜も嬉しそうに拍手を続けていた。
「おめでとう!」
「さすが神崎先輩!」
部員たちの声が重なる。
湊は何度も写真を見つめた。
まさか、自分の写真が選ばれるなんて。
*
部活が終わったあと。
顧問の先生が湊を呼び止めた。
「神崎。」
「はい。」
「どうしてこの写真を撮ろうと思った?」
少し考えてから、湊は答える。
「特別な瞬間じゃなかったんです。」
「でも、その優しさがすごく綺麗だと思って。」
先生は静かにうなずいた。
「その気持ちが、この写真には写っている。」
「技術だけでは撮れない一枚だよ。」
その言葉は、湊の胸に深く残った。
*
帰宅すると、すぐに紬へメッセージを送る。
《選ばれた。》
数秒後。
ビデオ通話の着信。
画面いっぱいに、紬の笑顔が映る。
「おめでとう!」
「ありがとう。」
「やっぱり神崎くんの写真だった!」
「なんで分かったの?」
紬は少し照れながら笑う。
「だって、神崎くんの写真はね。」
「見ると、優しい気持ちになれるから。」
その言葉を聞いた瞬間。
湊は、
自分が写真を撮り続ける理由が分かった気がした。
*
通話を終えたあと。
机の上には、出展が決まった写真が置かれている。
その隣には、紬からもらった海外の街並みの写真。
離れた場所で撮った二枚の写真。
でも、写っているものは同じだった。
「人を想う気持ち。」
湊はそっと写真を手に取り、静かに微笑んだ。
📷 Photo.045『つながる心』
撮影日:10月9日
誰かの優しさに気づける人は、
きっと誰かを幸せにできる。
写真は、
その一瞬を未来へ残してくれる。
コメント
4件
そうなんですよ! その人の見たもの思いが形になったものですからねー!
湊の写真が選ばれた瞬間、すごくじんわりきました。自分じゃ特別じゃないって思ってた日常の一枚が、ちゃんと誰かの心に届いてるって伝わる選考シーン、好きだなあ。紬が「優しい気持ちになれるから」って言ったのも、湊の写真の本質を言い当ててて、すごく温かい気持ちになりました。写真って技術だけじゃないんだなって、改めて思えます。