テラーノベル
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ジヨン)ソファの端に腰掛け、イヤホンを片耳に突っ込んだまま、スマホの画面を無表情にスクロールしている。テーブルの上にコーヒーが二つ並んでいた——自分の分と、もう一つはヨンベの分だった。
タプ)キッチンから出てきて、冷蔵庫を開ける。プリンを一つ取り出し、そのまま無言で部屋を横切った。スンリの前を通る時、目も合わせなかった。
タプがスルーしたのは今日が初めてじゃない。「またか」と慣れるには、まだ早い。
ジヨンが淹れたコーヒーカップを両手で包みながら、ちらりとスンリを見た。その目には同情とも困惑ともつかない色が浮かんでいる。
*ヨンベ)*「……スンリ、今日なんか食べた?お昼。」
*スンリ)*「あ、はい。」流石に気まずくなったのか席を外して部屋に戻って行った。
窓の外は曇り空だった。灰色の雲が低く垂れ込めて、ソウルの街並みをぼんやりと霞ませている。
スンリが部屋に戻った後、リビングの空気がほんの少しだけ緩んだ。
*テソン)*「……ヨンベさん、あれ、いつからでしたっけ。」
ヨンベ)腕を組み、眉を寄せる。
「んー……はっきりとは分からないけど。たぶん、アルバムの制作あたりからじゃないかな。ジヨン、あの頃ずっとピリピリしてたし。」
*テソン)*「でも、だからってスンリにだけあんな——」
ヨンベ)テソンの言葉を遮るように首を振った。
「理由があってもなくても、やっていいことじゃないでしょ。……ただ、今無理に聞いても多分こじれるだけだよ。」
二人の会話が薄い壁越しに漏れていた。気遣いの声。けれどそれは、直接スンリを救うものではなかった。
スンリ)スンリはそれでもステージでは笑顔を見せた。それは末っ子っぽいパンダのような顔で皆んなを元気にする笑顔だ。でも知らないだろう。その笑顔は偽の無理矢理な笑顔だと
ステージ上のスンリは完璧だった。——少なくとも、ファンの目には。
パンダのような丸い目、くしゃっと崩れる頬、両手を広げて客席にアピールする仕草。末っ子の愛されキャラそのもの。MCでは率先してボケて場を回し、「V.I」の名前に恥じない明るさを振りまいた。
だが、カメラが切り替わる瞬間——楽屋への移動の合間、ステージ袖の暗がり。そこでは誰にも見せない顔をしていた。
タプ)ステージ裏でペットボトルの水を受け取るスンリを、タプはじっと見ていた。あの笑顔の残像がまだ顔に貼りついているのに気づいていた。天然と呼ばれる男の観察眼は、時として鋭い。
タプ)何も言わなかった。ただ少し首を傾げて、それから視線を逸らした。声をかける言葉が見つからなかったのか、それとも——自分も同じ側の人間だからか。
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