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女神様はお祓いの仕事に出ていた。
ぼくと美子は境内で掃除をしたり、動植物を見たりしていた。
「ねぇ、これは何て花?」
美子が指差したのはおしべだかめしべだか、真ん中が黄色で花びらが白い毛のようになっている花だ。
「あぁ、これは…」
確か桔梗だ。
そう言おうとすると美子が言った。
「待って」
美子はぱたぱたと神社の中に入った。
そして女神様の花の図鑑を引っ張り出した。
ぼくがここに来て間もない頃の話だ。
境内の掃除をしていたら知らない鳥が神木にとまった。
掃除のあと、女神様の鳥の本を見て、さっきの鳥を調べてみた。
「何してるの?」
女神様が聞く。
「さっき、神木に鳥が来たので種類を調べています」
女神様は何か言おうとして、でもそれをやめてこう言った。
「自分で調べるなんてえらいね」
なぜこのことを急に思い出したのだろう。
でも次の瞬間、ぼくは美子に言った。
「自分で調べるなんてえらいね」
美子は嬉しそうにありがとう、と言って図鑑を見ていた。
以前、女神様の鳥の本を見たときの話をしよう。
本から得た知識をちょっと得意気に女神様に話した。
「普段見かける鳩もドバトとキジバトの2種類いるんですよ」
女神様はまた何か言おうとしたがやはりそれを我慢して言った。
「よく知ってるね」
今考えると、女神様は知ってるよ、と言おうとしたのかもしれない。
女神様の本から得た知識なので当然なのだが。
でも、あえてぼくの言ったことを尊重してくれた。
それがとても嬉しかった。
美子は本からさっきの花を見つけたようだ。
「さっきの花は桔梗だね」
ぼくは笑顔で答えた。
「そうだね、よく見つけたね」
ぼくが女神様からもらった優しさを、そのまま美子にあげることができる。
ぼくが女神様から受け継いだもの、これから受け継ぐもの、すべてを大切にしていきたい。