冷たい風が吹く屋上。3月も中盤へ差し掛かり、春がくるころ。この街はまだ冬の気分なのか、寒い日が続いていた。屋上は野外なため、室内よりさらに寒い。身体にあたる風が冷たく、引き戻そうかとも思った。それでも、ここに惹かれるようにして足を踏み入れるのは、何故だろうか。特別な場所、といえば特別な場所だろう。ただ、もう今はそこまでここが特別となったわけではない。それでも惹かれてしまうのは、やっぱり過去が関係しているのだろう。特別じゃないと思っていても、本当は凄く特別に思っていた、なんてのもある。
(やっぱり、特別、なのかな…)
答えの見つからない問題はそれで良いことにして、フェンスに背を預けて座る。コンクリートの固く冷たい感触が、心を更に寂しくさせる。もう隣には来てくれないであろう愛しい人に思いを寄せながら目を瞑る。もう二度とここにはこない人。でもあの愛らしい笑顔を見せながら、来てくれたりはしないか。そんな叶いもしない希望を抱えていた。
それが、暁山瑞希の中学最後の1年だった。
動画編集やサークル活動は始めたが、やっぱり心情はそんなすぐに変わったりはしない。未だに捨てきれない希望を抱えて、屋上へ来るのを辞められなかった。
初めはこんなにも先輩のことを思うなんて、可笑しいと思ったりもした。でも、先輩が瑞希にしてくれたことは瑞希が1番わかっておる。そしてそれに救われたりもした、ということも。恋をするのも、欲しくて欲しくてたまらないのも、考えれば当然の出来事なのかもしれなかった。
4時限目終了のチャイムが鳴っても、5、6時限目終了のチャイムが鳴っても、待つのは辞められない。希望や期待を抱いて待つ、なんてなんと乙女らしい行動だ。自分で思ってしまうほど、瑞希の行動は可愛らしいものだろう。
(中身も完璧だったら、なんて…)
見た目は可愛らしくても、中身が醜ければ何も意味をなさない。
少しづつ希望や期待と共に胸に残る重たい感情や汚い心。そして、性別。彼は気にしなかったけれど、恋人になるにはそうもいかないだろう。まず、恋人になれるかすら怪しいが。
そうやって、日に日に汚い心や重たい感情を大きくしていきながら、毎日屋上へと惹かれていった。
足が止まることも、瑞希の心が惹かれるのも、終わる日はなかった。中学3年へと進級してから、卒業するまでの間。足を運び日に日に小さくなっていく希望と、日に日に大きくなっていく汚い心を抱えて、ずっと待ち続けた。その姿は、去年愛しい人と『神様』とやらを待ったのと似ているのかもしれない。結局、『神様』とやらは来なかったけれど。
(でも、類はあんな『神様』とは違うし…)
そうやって信じて、待つ。この1年、足音が聞こえることも、その扉が開かれることもなかったけれど。
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