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そして翌日午後。
ミシュルミー川を河口から上流5kmくらいの地点まで歩いて、他に良さそうな釣り場がないかを確認。
ついでに少なくなってきた在庫の流木を補充。
さらに漁業組合の事務所にも行った。
今日新たに見つけた幾つかのポイントについて、バラモさんに話を聞くために。
結果、最初から予定していた事務所から300m下流の、あのアシが水面近くまで生えている場所に決定。
そして時間的な狙い目は、夜の満潮時。
そして潮汐観測魔法によると、今日は大潮で満潮は19時50分頃。
だから俺は午後5時の鐘が鳴る前に現場へ。
午後5時の鐘が鳴る前に、餌のアシを採取。
針を仕掛けて岸近くの水面に浮かせ、ソウギョが来るのを待つ。
そしてポイントに仕掛けを投げて待つ事2時間ちょっと。
ガサガサガサガサ、ガサガサガサガサガサ……
不意に草むらを中型獣がかき分けるような音が響いた。
魔物が出たかと咄嗟に周囲を見回し、そして気づく。
獣ではない。狙っていた魚が草を食む音だ、この音は。
水面を確認。魔法で暗視も透視も可能な俺の視界に、魚が映る。
1m位はありそうなでっかい魚が、水面まで垂れ下がっているアシの葉を囓りつつ泳いでいた。
こいつだ、この魚こそ今回のターゲットだ。間違いない。
さあ来い! 針を仕掛けた葉までもう少しだ!
待って、待って。そして……
竿先が動いた。食ったか!
俺は咄嗟に竿を立てる。竿先から糸が張る。
確かな手応え、間違いなくかかっている!
「フィッシュ、オン!」※
前々から練習していたとおりそう呟いて竿とリールを操る。
今日の竿はこれほどの大物をぶっこ抜けるほど強くない。
糸についてもそこまで信頼できる程の経験を積んでいない。
だから出来るだけ急激なテンションを掛けず、ゆっくり巻いたり竿で寄せたりして、徐々に魚を引き寄せる。
もちろん魚もなかなか素直に寄ってくれない。
寄ったかなと思うとすっと岸を離れてしまう。
このリールのドラグは10kg程度に調整してある。
けれど気を抜くと一気に引っ張られる。
焦って引っ張って糸を切られたらそこで終了だ。
慎重に、寄せられる時に寄せてと。
5分位戦って、ついに岸辺すぐ近くまでやってきた。
そろそろいいだろう。電撃魔法を起動する。
パン!
少し気の抜けたような音がして、水面に火花が散った。
でっかい魚が腹を浮かせた。
死んではいない。気絶しただけだ。
一気に寄せて右手で触れて魔法収納へ。
よし、無事に収納成功、釣り上げに成功だ!
魔法収納に入った魚を俺は確認する。
全長105.4cm位、重さ17,852g。
コイに似ているけれど、ひげがない。
間の抜けた幅広い顔に分厚い唇。結構円筒形な胴体とでっかい鱗、すらっと伸びた背中。
前世で言うところのソウギョだ。間違いない。
こちらの魔法収納は生物用・時間停止タイプ。
だから入れておけば釣り上げた状態そのままだ。
数日後に川にリリース(生きたまま放流する)なんて事も可能だ。
そんな事せずに食べる予定だけれど。
記憶を取り戻してからここまで3日。
前世で釣りをしたいと思ってから、何年になるのだろう。
前世今世あわせてようやく、第1匹目を釣り上げる事に成功したのだ。
それも1m以上の大物を。
確かにソウギョ、釣りのターゲットとしてメジャーではない。
それでもこれだけの大きさの魚を、最後の収納直前まで魔法を使わずに自分の手で釣り上げたのだ。
気分はもう最高。
誰も見ていないのにガッツポーズを取るくらいに。
使用した仕掛けや竿、道具類を全て生物用ではない方の魔法収納へ放り込む。
家へ帰ってじっくり観察して、そして明日にでもさばいて食べるとしよう。
鼻歌交じりで家路を辿りながら俺は思い出す。
記憶を取り戻してからこの1匹に至るまでの、僅か3日だけれど結構色々イベントがあった俺の足取りを。
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※ 『フィッシュ、オン』
釣りをしていて魚がかかった時に叫ぶ定番のかけ声。
他に、
『ヒット!』
『ガットイット!』
等と言う人もいる。
勿論言わない人&言わないケースの方が絶対的多数だけれど、今回は大物がかかったし、まあ気分という事で。
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