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みこまめ
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俺は、昔から『好き』がよく分からなかった。
『好き』という言葉の意味は知っている。
好きな食べ物、好きな場所、好きな人。
みんな当たり前みたいに使っている言葉。
でも、俺にはそれが自分の感情としてどういうものなのか分からない。
嫌いなものなら分かる。
苦手なものも分かる。
楽しいことがあれば笑うし、嫌なことがあれば怒る。
悲しいときはちゃんと悲しい。
だから、感情がないわけじゃない。
ただ、『好き』だけが分からない。
朝。
俺はベッドの中で目を覚ました。
しばらく天井を眺めてから、時計を見る。
すち「……もう起きないと」
布団から出て、制服に着替える。
寝癖を手で直して、リビングへ向かった。
すち「おはよう」
母「おはよう。すち、今日は早いじゃん」
すち「そう?」
母「いつもギリギリまで寝てるのに」
すち「今日は目が覚めたから」
テーブルには朝ごはんが並んでいる。
俺は椅子に座って、パンを一口食べた。
すち「……おいしい」
母「よかった。今日それ、すちが好きそうだと思って買ったの」
俺はパンを見つめる。
(これ、好きなのかな)
前にも食べたことがある。
おいしいと思う。
嫌いでもない。
でも、それだけだった。
(やっぱり、分からない)
母「すち?」
すち「ん?」
母「ぼーっとしてるけど、眠い?」
すち「ちょっとだけ」
母「ちゃんと寝た?」
すち「寝たよ」
母「ならいいけど。遅刻しないようにね」
すち「分かってる」
俺は残りの朝ごはんを食べる。
テレビから流れてくる音を聞きながら、ぼんやりと窓の外を見る。
(好きって、どういう感じなんだろう)
昔から何度も考えている。
(おいしいって思うこと?)
(楽しいって思うこと?)
(もっと一緒にいたいって思うこと?)
どれも、それっぽい。
でも、どれが『好き』なのかは分からない。
考えているうちに、朝ごはんを食べ終わった。
すち「ごちそうさま」
母「はい。学校の準備できてる?」
すち「うん」
母「忘れ物は?」
すち「……たぶん」
母「たぶんじゃなくて確認して」
すち「はいはい」
俺は鞄を開けて、中身を確認する。
教科書。
筆箱。
提出物。
必要なものは全部入っていた。
すち「大丈夫」
母「よし。いってらっしゃい」
すち「いってきます」
玄関を出る。
朝の空気が少し冷たい。
俺は歩きながら、さっきまで考えていたことを思い出す。
(……まあ、今は分からなくてもいいか)
『好き』が分からない。
それは昔から変わらない。
だからといって、毎日困っているわけでもない。
今日もいつも通り学校へ行く。
それだけだった。
コメント
1件
うわあ、これ……すごく静かで、でも奥にざらっとした違和感が残る話だね。 「好き」が分からないって設定、それだけで主人公の輪郭がくっきり浮かんでくる。 朝ごはんのシーン、お母さんの「すちが好きそう」って何気ない一言に、本人が「これ好きなのかな」って戸惑うところ、すごく刺さった。 感情の解像度が高いというか、足りないものを通して描く表現がうまいなあ。 続きめっちゃ気になる。碧さんらしい丁寧な空気感、好きだなこれ🔥