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-登場人物-
黒崎陽菜(40)
くろさきひな
26歳の時から中東を
中心に活躍日本人の
女傭兵。
愛銃はM16A4
サイドアーム
M9。
マリア・デルガド(43)
メキシコ人の女傭兵
スナイパー。
変人だが、狙撃手としての
腕はピカイチ。
愛銃は
TAC-338
サイドアーム
M45A1。
村上史奈(むらかみふみな)
(25)国籍 日本。
日本人の女傭兵
性格は、陽菜と似ている。
変な癖がある
パジャマじゃないと寝られない
何故か素足じゃないと寝られない。
愛銃 AKM(アイアンサイト、レーザーサイト付属)
セカンダリーウェポン
M9(サプレッサー付き)
砂漠北方域・夜明け前
「…また、俺に回ってきたか。」
四十路を迎えた俺――陽菜は、情報局の無人端末に届いた任務文書を見つめた。
M16A4は外装こそ擦り切れ、銃床の一部は欠けているが、作動性は完璧だ。
古びたM9も同じ。金属の光沢は失われて久しいが、撃てば必ず応えてくれる。
誰もいない砂漠の朝焼けに、俺はゆっくりと息を吐く。
**相棒も師も、家族のような存在も……皆、今は遠くにいる。**
それでも、俺の足は止まらない。
反政府武装勢力「ハリマ連盟」主要拠点の制圧
**単独潜入・殲滅・情報奪取**
目的地は、谷底に造られた巨大な地下拠点。
防衛網は強固で、兵力は少なく見積もっても200人以上。
40歳になっての単独ミッション。
若い頃なら鼻で笑った任務だが、今は胸の奥に、わずかな不安が宿る。
「ふん、老け込むのはまだ早ぇよな。」
俺はM16A4の銃床に結びつけた、**マリアにもらった赤いスカーフ**に軽く触れた。
それだけで背筋が伸びる。
■潜入開始
夜明け直前、谷を覆う霧が深くなるタイミングを狙って、俺は尾根から滑り降りた。
敵の巡回は相変わらず散漫。
40歳の脚は若い頃ほど速くはないが、**経験が身体を補う**。
射撃は極力控える。
崖の影、残骸の裏、狭い隙間を縫って、気配を殺し進む。
**敵の背後1メートル。**
俺は低く構えた。
(…昔なら、ここまで静かに動けたか?)
多分、今の方が上手い。
齢を重ねて初めて見える“無駄のない動き”がある。
■第一次交戦
拠点外周の発電建屋前で、敵に発見される。
「そこだッ!」
咄嗟にカバーへ飛び込み、M16A4を肩に当てる。
古びたトリガーが軽く沈み――
**俺の指は迷いなく3点バーストを刻んだ。**
二人が倒れ、残りの敵が散開して突っ込んでくる。
若い奴らの動きは速い。
だが、隙は見るだけで分かる。
遮蔽物の影から首だけ出す兵士をM16で撃ち抜き、
突撃してきた男の銃を蹴り上げ、膝蹴りで崩す。
(まだ、やれんだろ。)
息は少し荒い。
だが、自分の限界はまだ遠くにある。
■地下拠点突入
暗い階段を降りる。
金属の匂い、油の匂い…そして、武器庫の気配。
(ここからが本番だな。)
地下通路には敵が溢れていた。
正面から撃ち合えば長くは保たない。
俺はスモークを投げ込み、白い霧の中を低く突き進む。
「左から来るぞッ!!」
叫び声が聞えた瞬間――
俺は壁を蹴って横にずれ、反射で3点バーストを放つ。
**M16A4は古い。だが、俺を裏切らない。**
弾倉を替えながら、俺は心の中で呟く。
(…ベテランの撃ち方ってやつ、見せてやるよ。)
■指揮官室
爆薬で封鎖を吹き飛ばし、俺は指揮官室へ突入した。
現れたのは全身装甲の男。
肩幅は俺の倍、腕は丸太のようだ。
「ひとりか…お前、馬鹿か?」
「…かもな。でも、俺は慣れてんだよ。孤独ってやつに。」
俺はM9を抜いた。
**――至近距離の死闘が始まった。**
拳が壁を砕き、蹴りが床を歪ませる。
40の身体は悲鳴を上げる。
それでも、俺の動きは鈍らない。
男の懐へ潜り込み、
M9のスライドを押し込みながら一発撃つ。
相手の力が抜け、膝をついた。
(まだ…俺は終わっちゃいねぇ。)
■任務完了後
通信端末に最終報告を送信する。
ふと、夜空を見上げた。
マリアは何処にいる。
ジャッカルは今も旅の途中。
少年は元気にパンを売っているだろうか。
仲間たちは、もう近くにいない。
それでも――
俺は歩き続ける。
40歳になって、初めて気づいた。
孤独は敵じゃない。
俺の人生を作ってきた、ひとつの道だ。
そして、まだ終わらない。
**俺はM16A4を背負い、砂漠へ歩き出した。**
■ 砂嵐の向こうから来る”依頼”
四十三歳になった。
銃の重さは、二十代の頃とは違う意味で肩に乗る。
筋力ではなく――これまで奪ってきた命、守れなかった仲間の重さだ。
砂漠の簡易拠点で、私は古びた **TAC-338** を磨いていた。
銃身の擦り傷は増え、ストックはひび割れている。
それでも、撃てば必ず弾は真っ直ぐ飛ぶ。
伴侶のような銃だ。
そこへ、通信機から歪んだ声が入る。
「……マリア、任務だ。急ぎだ。標的は“砂漠の亡霊”と呼ばれる武装勢力の指揮官。
スナイパーはお前しかいない」
私は息を吸う。
若い頃なら「任せて」なんて軽口を叩いたかもしれない。
でも、今は――静かに、確かに頷く。
「了解。私がやるわ」
荷物をまとめ、古びたM45A1をホルスターに収める。
スカーフを首に巻いて、夜明け前の砂漠へ出た。
■ 標的は“砂漠の亡霊”
標的の名は **サディール**。
伝説級のゲリラで、四十年どの組織にも属さず砂漠を転戦し続けた。
「砂漠の亡霊」と呼ばれる所以だ。
今回は、彼が武器輸送ルートを掌握し始め、周辺集落が襲撃される事件が増えているという。
任務目標はただ一つ。
**――敵指揮官の排除。**
私は地図を開き、砂丘の影を縫って進んだ。
夜風は冷たく、頬を切る。
しかし、この冷たさは私を奮い立たせる。
「四十三になっても、まだ戦ってるとはね…」
独り言を漏らす。
同じ年齢の陽菜は、今頃どこで何をしているだろう。
40歳になった陽菜の背中は、今でも前線に立つ兵士のそれだ。
ふと、胸がチクリとした。
会いたい――そんな気持ちが、砂漠の風に紛れていく。
■ 索敵開始
敵の拠点は古い油井に潜んでいる。
私は夜のうちに高台へ移動し、砂に身体を埋め、TAC-338を構えた。
砂漠の夜は、弾丸の“呼吸”が聞こえる。
遠く、焚き火が揺れた。
監視員が三名。武器はAK系。
その中心に、片腕をスカーフで巻いた大柄な男――
「…あれが“亡霊”ね」
サディールは、まるで気
配がない男だった。
動かない石のようでいて、周囲への警戒は若者の十倍鋭い。
射線を通そうとしても、何度も歩き方を変え、死角に入る。
(厄介ね……)
焦って撃つタイプの敵ではない。
こちらが撃つ瞬間を読んで、平然と避けるような、そんな気配がある。
■ 39秒間の静寂と交戦
砂嵐が来た。
視界が白く煙る。
私は呼吸を整え、**TAC-338 のボルトを引いた。**
――カチリ。
風が止む、一瞬の“間”が訪れる。
その瞬間、サディールの姿が火の光の向こうでぶれた。
焚き火の影が揺れる。
地面の砂がほんのわずかに舞う。
私は読んだ。
(――今、顔を上げる)
その0.2秒後、彼のバラクラバから片目が覗いた。
引き金を絞る。
――ドオオンッ!
砂嵐の中、銃声は消えたように聞こえた。
だが、弾丸は確実に彼の肩を撃ち抜いた。
しかし――倒れない。
サディールは怒りも痛みもなく、ただ静かにこちらの方向を“見た”。
「……バレた?」
次の瞬間、拠点から一斉に銃火が走る。
砂丘が砕け、私の頭上に弾が雨のように降る。
「チッ……!」
私はTACを抱えて横転し、砂に滑り落ちた。
■ 中距離戦 ― 劣化した体力、それでも
敵の増援が丘を登ってくる。
若い頃の私なら一気に走って位置を変えられたが、今は身体が言うことを聞かない。
「歳…かな」
笑うしかない。
でも、逃げる気はない。
私はM45A1を抜いた。
古びたハンドガンは、まだ私の相棒だ。
距離30mの敵一名。
砂煙で視界は悪い。
(撃つより、待つ)
敵の足音。
砂の沈み方が左寄り――
私は横ステップでかわし、至近距離で一発。
――ドンッ!
敵が倒れる。
だが、二人目が背後から迫る。
振り返る間もなく、腕を取られ、砂に押し倒された。
(まずい――)
ナイフが首元に近づく。
反射的に、自分のナイフを抜き、相手の手首を弾いた。
砂煙の中、何度も刃が交差する。
若い傭兵の力は強い。
腕が痺れ、押し負けそうになる。
「…年寄りをなめるんじゃないわよッ!」
私は頭突きを叩き込み、相手の腹に膝を入れる。
隙ができた瞬間、M45A1で胸に一発。
静寂。
荒れた呼吸だけが残る。
■ 最後の射撃 ― そして勝利
丘の上、肩を押さえながらサディールが歩み出た。
落ち着いた、静かな足取り。
「……見事だ、スナイパー」
言葉は低く、砂より乾いていた。
彼は私に向き直り、銃を構える。
「その歳で、まだ戦うのか。人は愚かだ」
「あなたが言うの? 亡霊さん」
サディールは、薄く笑った。
その瞬間――
私はTAC-338を構え直し、息を止める。
0.9秒。
その短い時間の中で、私は彼の動きを読み切った。
サディールが引き金を絞る前に――
私の弾が彼の胸を貫いた。
――静かに、砂に崩れ落ちた。
風が吹き抜け、砂が彼を埋め始める。
私はライフルを下ろし、呟いた。
「四十三歳でも……まだ終わりじゃないのよ」
帰路の中で思う事
任務完了報告を入れ、私は砂漠の夜道を歩いた。
汗と砂で身体が重い。
TAC-338を肩から下ろすと、いつも以上に重心が沈んだ。
ふと、星空を見る。
陽菜、
あなたもどこかで戦っているのよね。
もしまた会える日が来たら――
笑って話せるだろうか。
「私は、まだ戦えるわよ。陽菜」
風の音が返事のように聞こえる。
私は再びスカーフを巻き直し、砂漠を歩き出した。
◆ 出会い
緩やかな丘を越えた瞬間、
風とともに聞き慣れない銃声が響いた。
**バンッ…!**
マリアは咄嗟に砂地へ伏せ、古びたTAC-338を構える。
その先、瓦礫の上で長い銃身の **SVD** を構えた青年が敵を狙撃していた。
美しいフォーム。
無駄のない呼吸。
腕前は若いのに、熟練兵のそれに近い。
「…あの子、只者じゃないわね。」
敵を片づけた青年がこちらに気づき、静かに銃を下ろした。
フードを外したその顔は――
アラブ系特有の端正な横顔、
琥珀色の瞳は深い思慮を宿している。
**20歳ほどの青年。**
若いが、どこか儚い強さがあった。
そして青年が、少し照れたように口を開く。
「もしかして……あなた、
“変人スナイパーのマリアさん”ですよね?」
「…は?」
奇妙な呼ばれ方にマリアは眉をひそめたが、
青年は慌てて手を振った。
「ご、ごめんなさい!尊敬の意味なんです!
僕、あなたの狙撃の噂をたくさん聞いていて……!」
マリアは思わず吹き出してしまった。
「まあ……いいわ。それよりあなた、何者?」
青年は胸に手を当てて名乗った。
**「僕は、アミール。傭兵です。」**
そして少し間を置いてから、
真剣な目で言った。
**「僕は、ある人を探しているんです。
…“陽菜”って名前の、伝説の傭兵を。」**
マリアの心臓が跳ねた。
―陽菜。
43歳になった今でも、互いに離れていたあの相棒の名。
「……陽菜を、知っているの?」
マリアが問うと、青年は静かにうなずいた。
「はい。僕の……大切な恩人です。」
その言葉に、マリアの胸の奥が熱くなる。
◆ 青年の正体
青年――アミールは続けた。
「子供の頃、病気の母を支えるために
町でパンを売っていました。」
アミールは微笑み、しかしどこか切なげに続けた。
「その時、盗っ人から助けてくれた女性がいました。
古いM16A4を持った、
無口で、ちょっと怖いけど……優しい人。」
アミールは照れたように首の後ろをかいた。
「僕が子供みたいに甘えた時も、
“俺はママじゃねぇ”って怒りながら……
でも、お金を取り返してくれて 。」
マリアは思わず笑ってしまう。
(あぁ……陽菜らしいわね。)
青年は続ける。
「母が亡くなってから、僕は兵士になりました。
陽菜さんみたいに強く生きたくて。
…ちゃんと、会ってありがとうを言いたくて。」
その瞳は、真っ直ぐだった。
◆ マリアの胸に走る衝撃
マリアは、青年の誠実な瞳を見つめた。
頬が、ほんの少し熱くなる。
イラクの砂に似た琥珀色の瞳。
くっきり整った瞳。
SVDを扱う姿の美しさ。
―こんな青年にときめくなんて。
43歳の自分が、何をやっているのかと
少し恥ずかしくなる。
しかし、同時に胸のどこかが温かくなる。
(陽菜……あなた、こんなに立派な青年を育ててたのね。)
青年は丁寧に礼をして言った。
「あなたが、陽菜さんの仲間なら…僕も つ
れてってくれませんか?」
マリアはゆっくり息を吸い、
青年の瞳をまっすぐに見た。
「……いいわ。
でも、簡単に会えるとは思わないで。」
アミールは嬉しそうに笑う。
「はい、どこまでもついていきます!」
その笑顔が、またマリアの胸を少し刺した。
陽菜に似た、強さと優しさ。
**マリアは、静かに銃を構え直す。**
「ついてきなさい。
“陽菜の場所”へ行く前に、まずはこの任務を片付けるわよ。」
「了解です、マリアさん!」
砂漠の風が吹く。
古びたスナイパーライフルと、SVDが並ぶ。
**マリア43歳と、アミール20歳。
二人の新しい戦いと、
陽菜へ繋がる新たな物語がここから始まる――。
◆マリアとアミール、共同任務開始
ターゲットは、国境地帯に潜む武装勢力の補給基地。
私たちは協力して襲撃し、物資を破壊する任務に就いた。
作戦前、アミールが突然、声のトーンを落とした。
アミール
「マリアさん。配置につきます。
僕が上から援護しますので…動かないでください」
…さっきまでとまるで別人だ。
甘さのない声。
冷たく研ぎ澄まされた目。
私
「あら。急にプロの顔するじゃない」
アミール
「狙撃の時だけは、素でやらないといけないんです」
さらっと言った青年の横顔は、恐ろしく完成されていた。
──────────────────────────
◆作戦開始。銃声が砂漠を裂く
私が前線へとにじり寄ると同時に、アミールのSVDが低く唸った。
**バンッ!**
一発。
見張りの敵が崩れ落ちる。
**バンッ、バンッ!**
続けざまに狙撃が決まる。
まるで、私が進むコースを先に読んで道を切り開いているようだった。
私
「お見事」
アミール
『前進してください。そのまま左へ五メートル。敵一名、排除済み』
無線越しのアミールの声は冷静で、完璧だった。
──この青年、天才だ。
私は改めてそう実感した。
◆マリア、死角に追い込まれる
補給倉庫へと近づいたその瞬間、敵兵が数名、側面から飛び出した。
私
「っ…しまっ──!」
銃撃を避けきれず、壁に身体を隠す。
TAC-338は狙撃用で取り回しが悪い。
近距離は弱い。
敵兵が距離を詰めてきた。
私
(マズい……!)
ナイフを抜き、反撃しようとしたその瞬間――
**パンッ!**
頭上から弾丸が敵の腕を弾き飛ばす。
続けざまに二発、三発。
敵兵が倒れていく。
アミール
「マリアさん、離れて!」
青年が走り込んできた。
SVDを背負い、ハイパワーを構えて前に出る。
近距離でも、速くて無駄が無い。
こちらが驚くほど落ち着いている。
私
「……助けられちゃったわね。ありがとう」
アミール
「守りたいからですよ。
あなたは…陽菜さんの大切な仲間だから」
心臓が跳ねた。
なんて真っ直ぐなんだ、この青年。
◆マリア、惚れる!?
敵を排除し、作戦が無事に成功した後。
私はアミールの横顔を盗み見た。
SVDを整備する姿は慣れた手つき。
砂漠の風が青年の額の汗を吹き払う。
私
「ねぇ、アミール」
アミール
「はい?」
私
「狙撃の時のあなた…なんか、すごく」
言いかけて、言葉を飲み込んだ。
アミール
「? 僕、なにか変でしたか?」
私
「逆よ。惚れたって
言えば分かる?」
アミール
「…っ!?」
青年の顔が唐突に赤くなった。
狙撃時の鋭さとは真逆の、年相応の反応。
私は吹き出しそうになった。
私
「ふふ……可愛いわね、あなた」
アミール
「そ、そんな……僕は……っ」
その顔が愛おしくて、胸が温かくなる。
──陽菜の面影を追いかけ
生きてきた青年。
その隣で、私はまた “誰かと組む” という感覚を思い出していた。
砂漠の風が二人の間を通り抜ける。
新たな旅路は、ここから始まる。
黄褐色の砂を裂くように、銃声が走った。
任務の道中で、私の足が「グキッ」と跳ねた瞬間、世界が揺れた。
「……っ、しまっ……!」
砂丘の陰に飛び込んだが、足首がまともに動かない。
迫る敵影。
古びたTAC-338はこの距離じゃ扱いにくい――そう判断した瞬間。
**SVDの乾いた発砲音が三つ。**
直後に倒れ込む敵兵達。
煙の向こうに、私を探すような鋭い視線。
「マリアさん! 大丈夫!?」
息を切らしながら駆け寄ってきたのは、同行中の青年傭兵――アミールだった。
彼は20歳。
私より遥かに若いのに、狙撃の腕は異常なほど精密で、癖がある。
狙撃時だけ、性格が豹変するのだ。
普段は礼儀正しく穏やかで、柔らかな笑顔が似合う青年。
だがスコープを覗くと、声色が冷たく、淡々と敵を処理していく。
「…ふぅ。片付いたよ。」
狙撃モードが抜けたのか、彼は優しい顔に戻った。
「足…診せて。」
「い、いいわよ…自分で――」
「マリアさんは人を助けるばかりで、自分のことは後回しにするタイプだろ?」
そう言いながら、アミールは私のブーツを丁寧に外し、手当てを始めた。
触れる指先が、やけに優しい。
――胸が、少しだけざわついた。
「軽い捻挫だよ。歩けるようにする」
砂漠の風が吹き抜ける。
その音が妙に静かに感じられるほど、アミールの横顔は真剣だった。
(まさか、この年齢で誰かにトキめく日が来るなんて…)
思わず顔が熱くなる。
「マリアさん。僕…あなたのこと、守りたいんだ。」
唐突に告げられたその言葉は、銃弾よりも強烈に心臓に刺さった。
「な、なによ突然…!」
「理由は……たぶん、好きだから。」
彼は照れ臭そうに目を逸らした。
青年らしい純粋さ。
でも戦場では誰より鋭い狙撃手。
そんなギャップに――
私は完全に翻弄されてしまいそうだった。
「バカね。惚れたら、戦場じゃ死ぬだけよ。」
「僕が死なないように、マリアさんが隣にいてよ。」
その言葉には迷いがなかった。
胸が熱くなり、言葉が出ない。
■ その後 ― 二人の戦い
敵の拠点に向かう途中も、アミールは私を気遣い続けた。
戦闘が始まれば「狙撃時の冷酷さ」に変わり、
私が撃ち漏らした敵兵を必ず後方から仕留めてくれた。
「任務成功だね、マリアさん。」
「助けられてばっかりね。」
「いいよ。何度でも助けるから。」
砂丘に沈む夕日を背に、アミールの笑顔が眩しい。
私は心のどこかで、ずっと拒んでいたはずだ――
仲間を持つこと
感情を抱くこと
弱さを見せること
けれど、アミールの前ではなぜか、全部がほどけていく。
戦場なのに、心だけは温かくなる。
■ 夜の砂漠にて ― マリアの独白
「私、本当に惚れちゃったのかしら。」
星空を見上げながら、思わず呟いた。
その時、背後からそっと外套がかけられた。
「寒いから。」
振り返れば、アミールが照れたように笑っている。
胸が、ドクンと跳ねた。
(ヤバい……本当に私は、この青年の虜になってる)
――そして二人は、次の任務でもまた共に戦うことになる。
それはもう、単なるコンビでも、仲間でもない。
互いを支え合う「特別」な存在になる。
砂漠の風が、熱と砂塵を巻き上げながら吹き抜ける。
私は岩陰に身を伏せ、TAC-338 の冷えた金属を握りしめていた。
「アミール、敵スナイパーは東の尾根。動きが読めないわ。」
私が囁くと、隣にいたアミールが深呼吸をして、いつもの柔らかな青年の声とは違う、任務時の冷徹な口調になる。
「了解。僕が先に位置を割る。」
その変化は、もう慣れた。
狙撃に入った瞬間、彼はまるで別人のように鋭くなる。
そのギャップに、私はときめきを隠せないでいた。
しかし――そのわずかな甘さを、敵は容赦なく砕いた。
■ スコープを撃ち抜く一撃
「っ!?」
乾いた破裂音と同時に、私の視界を支えていたスコープが砕けた。
衝撃で頬に砂が跳ねた瞬間、焼けるような痛みが肩を走る。
「ぐっ…!」
「マリアさん!!」
アミールが私の肩を押さえて岩陰に引きずり込む。
撃ち抜かれたスコープはひしゃげ、レンズは破片となって砂に散った。
もし覗いていたら――
私は生きていなかっただろう。
「あと少しで……危なかった…」
彼の声が震えていた。
■ アミール、反撃へ
「アミール、無茶しないで…」
「ここで倒れたら、マリアさんが危ない。」
アミールは私の手から TAC-338 を取りあげると、自分の SVD と並べて構える。
彼の目が鋭く細まり、呼吸が静かに、深くなる。
青年ではなく
**“狙撃手アミール”**になった。
「必ず仕留める。マリアさんは動かないで。」
彼が岩の影から身を出そうとした――その瞬間、
■ 敵スナイパーの執拗な狙撃
乾いた一撃が砂嵐の中に響いた。
「うっ…!」
アミールの身体が仰け反り、その胸に赤い滲みが広がった。
倒れながらも、彼の手は必死に SVD を離さない。
「アミール!!!」
私は咄嗟に彼を抱きかかえ、再び岩陰に身を隠した。
胸に手を当てると、失血は少ないが、呼吸が浅い。
「マリアさん…逃げて…敵の増援が…すぐ来る」
「無茶言わないで!置いていけるわけないでしょう!」
彼はかすかな笑みを浮かべ、震える指で SVD を私に押しつける。
「この銃……僕の全部を……託します。
あなたなら……きっと……生き残れる……」
彼の手の温度が、私の指から離れていく。
■ 敵増援の迫る砂漠で
砂の地平線の向こうから、複数の車両音。
敵スナイパーだけでなく、増援部隊がこちらへ向かってくる。
肩の痛みは激しく、TAC-338 は壊れ、アミールは動けない。
「……ッ……!」
決断は残酷だった。
だが、アミールは私の手を握り、震える声で言う。
「僕は……大丈夫……
だから…行って…ください……
生きて……マリアさん…」
「……必ず、また会うわ。絶対に。」
涙が砂に落ちて消えた。
私は、SVD を抱え、アミールを岩陰に残し、
迫りくる敵の包囲網を切り裂くように走り出した。
振り向くことはできなかった。
振り向いたら、あの手を離せなくなるから。
砂漠の風が、私の頬を叩いた。
その痛みよりも胸の痛みのほうが、何倍も苦しかった。
こうして私は――
**再び一人の戦場へ戻っていった。**
右肩の包帯の下で、まだ鈍い痛みが脈打っていた。
アミールのSVD──PSO-1の独特なレティクルが、私の揺れる心を静かに縛りつける。
あの青年が最後に私へ託した重み。
彼の声、彼の手の温度、私の胸に刻まれた「必ず生きろ」という言葉。
あれを無駄にするわけにはいかない。
■ 砂漠の岩地帯《アミールを撃った狙撃手》
敵スナイパーは、この辺り一帯を熟知している。
砂丘の呼吸を読むような、自然と溶け合う射撃スタイル。
アミールが倒れたあの銃声──忘れるわけがない。
*「必ず…見つける…」*
私は岩の陰に身を沈め、SVDを慎重に構える。
肩の傷が叫びだしたが、それを押さえ込むために歯を食いしばる。
“パンッ”
乾いた一発。
砂が私の頬を掠めた。
まだこちらを正確に捉えている。
互いに姿は見えない。
ただ砂と風の音だけが、静かに戦場を満たす。
*「…やるじゃない」*
私の声は、誰に向けたものでもなかった。
■ 長い沈黙の応酬《心理の死闘》
敵スナイパーは挑発するように、定期的に砂丘へ一発撃ち込んでくる。
しかし、決して場所を特定できるミスはしない。
*経験と忍耐…アミール、あんたの相手は相当な手練れよ…*
私は息を殺し、PSO-1のスコープを覗く。
わずかな地形の乱れ。
風の癖。
砂粒の動き。
そのすべてを読み解き、相手の息遣いを探るように意識を集中させる。
時間の感覚が薄れていき、私と狙撃手の世界だけが広がっていった。
やがて──。
砂丘の稜線の、そのまた死角で。
空気が、一瞬だけ不自然に揺れた。
*「そこだ……!」*
■ 決着
私は体重を前に預け、肩の痛みを無理矢理ねじ伏せ、
SVDの引き金を静かに絞った。
“バンッ”
反動で肩が悲鳴を上げる。
視界が揺れたが、私はスコープから目を離さない。
稜線の向こう──
わずかに、砂が舞った。
そして
人影が、ゆっくりと崩れ落ちるのが見えた。
私は長く息を吐き出す。
「アミール…あなたの仇、これで返したわ」
スコープ越しの最後の映像は、砂上に沈む敵スナイパーの影だけ。
余計な血の残像など、私には必要なかった。
■ SVDと歩き出す未来
私はSVDを抱え、静かに砂漠を歩き出した。
10連マガジン×7
古びたM45A1
スモーク
コンバットナイフ
そして、
アミールが遺した想い。
砂丘の風は冷たかったが、不思議と孤独ではなかった。
*「アミール…見ててよ。
私はまだ終わらない」*
マリアは痛む肩を抑えながらも、誇り高い狙撃手の姿勢を崩さず、
ゆっくりと──しかし確かに前へ進んだ。
任務帰りの夕暮れ。
マリアは、沈みゆく太陽の赤橙色を背景に、砂漠地帯の尾根を歩いていた。
風はやや強く、砂粒が頬をかすめる。
その時だ。
背中に、微かな「視線」の重みを感じた。
(つけられている?)
私は振り返らず、歩幅を変え、尾根の影へ入り、SVDをゆっくり下へ構える。
砂漠は静かだが、気配は確実にある。
やがて、距離を詰めてくる足音。
足音の主は、私と同じ方向へ歩き、微妙に距離を保っていた。
「そこ、止まりなさい」
私は振り返った。
夕日を背負って立っていたのは、一人の女傭兵だった。
アフガンストールで顔を覆い、薄い瞳だけが覗いている。
装備は質素だ。
AKMのアイアンサイト。
腰にはマカロフとククリ。
「……尾行のつもり?」
私が問いかけると、女傭兵は肩をすくめた。
「誤解すんなよ、あたいもこっちの道に用があるだけさ。
敵対する理由はねぇ。
そっちこそ、なんでそんなに刺々しいんだい?」
その口調は軽いが、目つきは油断がない。
私もSVDを構えつつ、引き金から指を外す。
「この道を歩く傭兵は珍しいの。
警戒するのは当然でしょう?」
「そりゃそうだねぇ。
けど、あたいはあんたに興味はねぇよ。
ただ、同じ方向ってだけさ」
女傭兵は、顔を覆ったストールの奥で笑ったようだった。
風が吹き、彼女のストールが少し揺れる。
私の手の中で、SVDの象徴的な木製ストックが冷たく鳴った。
やがて沈黙。
二人の間にあるのは、砂漠の広い空気だけ。
その沈黙を破ったのは、女傭兵だった。
女は、AKMを肩にかけ直しながら言った。
「安心しな。
あたいはあんたを撃つつもりはねぇよ。
あたいの狙いは別の奴だ。
そいつがこの道の先にいる」
「ターゲットは?」
「言えるかよ、傭兵の仕事だろ?」
そう言って彼女は、くるりと私に背を向け歩き出した。
砂煙が夕日に照らされ、朱色に染まる。
気配が遠ざかったところで、私は息をひとつ吐いた。
(あの女……ただ者じゃない)
戦場の空気を纏った、危険な匂い。
敵ではないと言っていたが、油断はできない。
ただ、奇妙な話し方と明るさ。
それはどこか、かつての陽菜を思い出させた。
「…陽菜、今どこで何してるのよ」
誰に聞かせるでもなくつぶやく。
答えてくれる仲間はもう、そばにはいない。
私はSVDのスコープを軽く拭き、肩へ担いだ。
砂漠の夜は冷える。
一人で歩くには、あまりに広すぎる。
だが――
私たち傭兵は、いつだって一人だ。
「行きましょう」
私は自分に言い聞かせるようにそうつぶやき、
あたいと名乗った女傭兵とは逆方向へ、静かに歩き出した。
任務の最中、砂丘の風が一瞬だけ止んだ。
その刹那、背筋をなぞるような“気配”が走る。
(…後ろ?)
私は反射的に SVD を半身に構えて振り返った。
**二十歳くらいの日本人らしき女傭兵**だった。
黒髪ショート。
身軽そうな体躯。
そして、こちらを警戒する素振りすら見せない落ち着いた目。
ほんの一瞬、
(陽菜…?)
と胸が跳ねた。
だが違うとすぐ分かる。
陽菜なら、こんな“音も気配も無い距離”に立たれることはない。
女傭兵はただ静かに砂漠の彼方へと歩き去った。
任務はそのあと淡々と進み、
敵拠点の観測と排除を終え、私は帰路につく。
……だが、気配が胸から離れなかった。
◆ 尾行開始
「……少し、調べてみましょうか。」
私は砂丘の陰に身を溶かし、
あの日本人傭兵を尾行することにした。
距離30メートル。
SVD を背に回し、重心を落として追う。
※ 尾行対象
**日本人女傭兵 推定20歳**
* **メイン:AKM(アイアンサイト+レーザー)**
* **サイド:M9サプレッサー付き**
* **装備:コンバットナイフ**
* **身のこなし:軽い、音がしない。訓練歴は長いとみた。**
彼女は気づかない。
というより――気づいた上で、あえてこちらを無視している可能性もある。
何度も立ち止まり、空気を読むように周囲を見渡した。
だが視線は私には向かない。
(…陽菜なら、五歩目で気づいてこちらに突っ込んでくるのに)
思わず苦笑する。
胸の奥がざわめいた。
◆ 無言の狩人
夕暮れ。
日本人傭兵は廃れた井戸の近くで足を止めた。
砂を払い、静かに腰を下ろす。
そして…
手の中のAKMを撫でるように点検し始める。
一つ一つの動作が綺麗で、無駄がない。
「…ちゃんとしてるわね。」
私は遠くの岩陰からつぶやく。
その瞬間だった。
日本人傭兵の視線が――
**まっすぐこちらに向いた。**
気づいていた。
最初から。
だが敵意がない。
ただ、こちらを“観察”している目。
(…妙な子ね)
私は姿を現すことなく、その場を離れた。
◆ 胸に残る影
拠点へ戻る道すがら、
砂漠の風が静かにスカーフを揺らす。
「陽菜……あなたに似ていたわ。
真っ直ぐで、でも影があって」
その声は、自分でも驚くほど弱く、切なかった。
立ち止まって空を見上げる。
(また一人で歩くのね、私もあなたも)
心の奥に沈んだ寂しさを、
私は押し込むように深く息を吐いた。
だが同時に、あの若い傭兵の残した気配が
妙な温度で胸の中に残っていた。
「……また会うことになるでしょうね。
あなたも、あの子も。」
砂漠の夜が始まる中、
私は静かに歩き出した。
◆マリア × 日本人女傭兵・村上史奈
砂漠の黄昏、任務帰り ―
夕日が真っ赤に落ちかけ、砂嵐の影が長く伸びる。
私は〈SVD〉を肩に担ぎ、汗ばむ額を拭った。
「……今日の任務は長かったわね」
その帰路だった。
砂丘の向こう、黒い影がひとつ、こちらに向かって歩いてくる。
私は足を止めた。
――あれは。
影は一直線にこちらへ来る。
やがて距離が縮まり、その輪郭がはっきりした。
黒髪ショート。
鋭い目。
身体を包む黒い戦闘服。
背に〈AKM〉、腰には〈サプレッサー付きM9〉。
昼間見た、日本人らしい女傭兵だ。
史奈「…やっぱり、あんた だったんだ。さっき
後ろにいた スナイパー」
低く澄んだ声だった。
彼女はまっすぐ私の目を見つめてくる。
マリア「…私を尾行していたの?」
史奈「は? あたしが? 逆でしょ。
あたし、あたしの任務の帰り。そしたら…視線を感じただけ」
私は思わず眉をひそめた。
(この子……陽菜に似ている。雰囲気が。
でも、違う――)
史奈は、怖いほど真っすぐ私を見ていた。
まるで私を研究するように。
マリア「…なに? 私の顔に何かついてる?」
史奈「…思ってたより、綺麗なんだな」
マリア「ぶっ…!」
その唐突なセリフに、私の頬が一瞬熱くなる。
マリア「な、何言ってるの…!」
史奈「べつに? ただの感想。
それより…あんた、どこの所属?」
マリア「所属なんて気にする必要ある?」
史奈「あるよ。
砂漠で“あたしの後ろを取れる奴”なんて、そういないからね」
そう言いながら、史奈の手はゆっくりと自分の腰の〈M9〉へ触れる。
敵意ではない。
ただ、反射だ。
マリア「…私はマリア」
史奈「マリア……ああ……噂、聞いたことある」
マリア「噂?」
史奈「“狂気の砂漠スナイパー”」
マリア「だ、誰がそんな――!」
史奈は小さく笑った。
その笑い方が、どこか陽菜の若い頃に似ている。
史奈「そんなに警戒しないでよ。敵じゃない。
今日はただ…あんたを見に来ただけ」
マリア「…なんで?」
史奈「気になったから」
まただ。
心臓が妙に騒がしい。
マリア「…私はあなたに興味なんてないわ」
史奈「ふーん。じゃ、また会ったら、もっと興味持たせてやる」
マリア「は…?」
史奈は、砂の上で軽くターンするように向きを変えた。
その動作は驚くほど滑らかだった。
史奈「またね、マリア。
あたし、村上史奈。
――覚えておきなよ」
そう言い残して背を向ける。
夕日で長い影が伸び、その奥に史奈は消えていく。
私はしばらく動けなかった。
マリア「…何なのよ、あの子」
砂漠の風が吹いた。
どこか懐かしい気配だけを残して。
(陽菜……あなたじゃない誰かが、私の前に現れるなんて)
胸の奥が、不思議にざわついた。
任務を終え、夜気の冷たさを肩に感じながら歩く私の背後で、砂が“サラ…”と鳴った。
振り向くと、そこに立っていたのは——
黒髪ショートで鋭い目をした、あの日本人の女傭兵だった。
「…また、あなた?」
彼女は一歩、迷いなく近づいてきて、私を食い入るように見つめた。
「……あたしの邪魔しなかった。悪いヤツじゃないのね、あんた。」
視線をそらさず、気配も乱れない。
やはり、陽菜に似ている——若いころの、尖っていたあの陽菜に。
胸の奥が、少しだけざわついた。
「……あなた、名前なんて言ったっけ?」
「村上史奈(むらかみふみな)。25歳。日本出身。ちな、あたしは単独行動主義者な。**」
まるで壁を作るような言い方。
でも、その口ぶり、雰囲気……本当に、陽菜に似すぎていた。
◆ 二人の簡易テントでの夜 ◆
史奈は珍しく、自分から歩み寄ってきた。
「夜露が降りる。…しかたないか
テント、借りる。」
そう言って、ずいと中へ入る。
私は仕方なく同じテントに入った。
火は小さく、砂漠の冷たい風が布越しに伝わってくる。
私はスコープを布で拭きながら、史奈を横目で見た。
彼女は背負っていたAKMを丁寧に分解しながら、淡々と言う。
「マリア……あんた、昔誰かと組んでた顔してるね。」
私は少し笑った。
「……ええ。大切な仲間よ。」
「ふーん。」
史奈は興味なさそうに見えて、実は注意深く聞いている。
その仕草もまた——陽菜の若い頃そのものだった。
◆ 奇妙なこだわりが露呈する瞬間 ◆
道具を片付け終えると、史奈は静かにバッグパックを漁り始めた。
取り出したのは——薄い水色の、ふわふわした布。
私は思わず眉を上げる。
「…それ、何?」
「パジャマ。」
「パ、パジャマ……?」
こんな戦場の真ん中で?と聞く前に、
史奈は完全に真顔で言い放った。
「**あたし、パジャマじゃないと寝れないの。
それと、寝るときは素足じゃないといや。靴下も無理。絶対。**」
私は呆れ半分、懐かしさ半分で、口元を押さえた。
「……戦場よ?そんなこだわり…」
「**うるさい!あたしの寝方に文句つけるな!**」
図星を突かれた猫のように、一気に怒り出した。
「誰にも言うなよ!? 絶対だぞ!?
もし言ったら…あんたの銃、全部バレルまでバラしておくからな!」
「…ふふっ。」
その必死さに、私はどうしようもなく“彼女”を重ねてしまう。
陽菜が昔、寝る前に靴をそろえないと落ち着かなかったこと——
あの頃の、あの癖を思い出し、胸が少し疼いた。
◆ 史奈、少し照れる ◆
パジャマに着替え、素足で毛布に潜り込んだ史奈は、私に背を向けたままぼそりと呟いた。
「……別に人に迷惑かけてないだろ。
だから、いいんだよ…あたしの好きなように寝ても…」
その声の小ささに、私は優しく言った。
「ええ。誰にも言わないわ。安心して。」
史奈の肩が、わずかに揺れた。
「……なら、いい……」
赤くなった耳が、なぜかやけに可愛く見えた。
私は毛布を肩まで引き寄せると、薄い灯りの中で静かに目を閉じた。
陽菜を思い出しながらも——
今は、この不器用な若者の存在が少しだけ私を温めてくれた。
◆ そして夜は更けていく ◆
史奈はもう眠ったのか、規則正しい息をしている。
私は天井布を見つめながら、ふっと微笑む。
「……本当に、陽菜に似てるわね。」
でもあの子はあの子で、史奈は史奈。
そう思うと、またひとつ、心の奥に温かさが灯る。
砂漠の夜は静かで、ただ星の光だけが二人のテントを照らしていた。
夜明け前、砂漠の空気は冷え込み、息を吐くたび白く煙った。
私は古びた **SVD** のボルトを静かに引き、動作を一通り確認する。
背後から史奈の声。
テントの灯りで見る彼女のシルエットは、若いのに戦場慣れした落ち着きを帯びていた。
「ある子に託されたの。」
「ふーん。」
依頼主からの任務は単純だ。
**国境越えを目指す武装グループの斥候部隊を、先行して排除すること。**
単純だが、敵の中には高度な訓練を受けたスナイパーが混ざっているとの情報もあった。
「じゃ、行こっか。あんた後ろ頼む」
史奈が先に砂丘を駆け下りる。
その背中は細いが、迷いがない。
“相棒は持たない”と言っていた子が、今は当たり前のように私を頼っている。
不思議な気分だった。
偵察地点に着く頃には太陽が昇り、砂漠の地面が熱を帯びはじめていた。
私はバイポッドを広げ、SVDを砂に固定する。
PSO-1スコープ越しに遠方を見ると、装甲車に守られた敵陣がゆっくりと移動しているのが確認できた。
「こっち側に気付いてる気配は……なし。よし、いける」
史奈は低姿勢のまま、砂上で滑るように移動する。
その身のこなしは軽く、若さというより“生きるために研ぎ澄まされてきた動き”だった。
「史奈、敵斥候が三人。右の岩陰」
「了解。あたしが左から回る。あんた、上から見てて」
「ええ、援護するわ」
史奈が砂に同化するように姿を消す。
その瞬間、岩陰の男の動きがわずかに揺れた。
(気付かれた…?)
スコープ越しに息を殺した時、史奈の影が音もなく後ろに回り込み、ひとりの武装兵の銃を奪い倒した。
それと同時に、残りの敵が銃を構える。
私は引き金を引き、乾いた発砲音が砂漠に散った。
命中。
だが、直後に別方向から銃撃が飛んでくる。
「スナイパーだ、伏せて!」
史奈が叫んだ。
銃声は重く鋭い。
距離は……まだ遠い。
「史奈、下がって!」
「下がれない、あんたの援護頼む!」
私は深呼吸し、スコープを覗き込んだ。
砂嵐の向こう、わずかに光るスコープの反射。
敵の位置を読み切る。
「…そこ」
引き金を絞る。
だが、敵はわずかに体をずらし、弾は外れた。
(やるわね…)
史奈がカバーに飛び込むと同時に、敵の狙撃が砂を跳ね上げた。
「ちょっ、危なっ!? …あんた、どうするの!?」
「正面の岩の裏へ移動する。そこから角度を変えて撃つわ」
「了解! あたしが注意引く!」
史奈は銃声を撒き散らして敵を牽制し、私は砂を蹴り、岩陰へと移動した。
スコープを覗くと、敵スナイパーは史奈の方へ狙いを固定したまま動かない。
(そのまま動かないで…)
私は息を止め、指を静かに引く。
――乾いた銃声。
次の瞬間、敵スナイパーの銃が砂地に落ち、彼の影が崩れた。
「仕留めたわ」
「はぁ…助かった。あんた、やっぱすげえな」
史奈がほっと息を吐く。
私自身も、心拍がようやく落ち着いてきた。
任務は成功。
武装グループは撤退し、私たちは砂丘の上でしばらく休憩を取った。
「相棒は持たない主義だったんだけどさ…」
史奈がぽつりと呟いた。
私は隣でSVDを拭きながら、彼女の言葉を待つ。
「あんたと組むの、悪くねぇや」
「…光栄ね」
史奈は顔をそむけ、
「勘違いすんなよ? べつに懐いたとかじゃねぇし」
と必死に言う。
その姿を見て、私はどうしても微笑んでしまう。
若い頃の陽菜が、相棒なんて要らないと強がり続けていた頃によく似ていた。
「史奈」
「ん?」
「あなた、強がりだけじゃなくて……素直なところも持ってるわよ」
史奈は一瞬目を丸くし、
「……うるさい」
とだけ返した。
だが、その声はどこか嬉しそうだった。
そして、私は確信した。
――この子は、孤独を抱えて生きてきたんだ。
――でも、そういう子ほど、誰かと並んで歩けるようになる。
そんな気がした。
砂漠の風が、ふたりの間を静かに吹き抜けた。
■史奈・任務完了後
砂漠の夜風は冷たかった。
史奈は砂丘をひとつ越え、簡易マップを確認しながら帰路を急いでいた。
「あー……疲れた。早くテント戻って寝たい…」
自分の声に自分で文句を言いながら歩く。
そのとき――
**ザッ……**
誰かが砂を踏む音がした。
史奈は反射的に身構え、AKMを構える。
やがて、闇の中からゆっくりと姿を現したのは――
古びたM16A4を持った、年季の入った装備の傭兵。
(あれ…日本人?)
影が近づいてくる。
その人物は細めた眼で史奈を見つめた。
「……おまえ、こんな所で若いのに一人か」
低い声。
史奈は即座に警戒レベルを最大まで引き上げた。
「あたしに近付くな、おばさん傭兵」
「……おばさん?」
陽菜は苦笑した。
年齢を言い当てられたことよりも、若い頃の自分そっくりの雰囲気に驚いたのだ。
しかし史奈は、陽菜の表情を読み違えた。
(やっぱ怪しい。何者だこいつ……!)
■格闘戦、勃発
史奈は一歩踏み込んで拳を繰り出した。
陽菜は紙一重でかわす。
「おい、待て。戦う気は――」
「黙れ!」
史奈は低く身を沈め、蹴りを放つ。
陽菜は腕で受け止め、わずかに後退。
(動きが…若い頃の俺にほんと似てるな)
陽菜は妙な懐かしさに胸を締め付けられたが、目の前の少女は容赦なく攻撃を続ける。
二人は砂上で組み合い、互角の攻防を繰り返す。
史奈の蹴りは鋭く、陽菜の防御と反撃も熟練されていた。
砂が舞い、息が白く揺れる。
■膠着状態
数分の攻防ののち、二人は同時に距離を取り、呼吸を整えた。
「…強いな、おばさん」
「お前もな。無茶苦茶だ」
一瞬、互いに笑いかけそうになる。
しかし
史奈がすぐに顔を引き締めた。
「なんであたしをつけてきた?」
「つけてない。ただ帰り道だ」
「嘘だ」
史奈は再び構えたが、陽菜は両手を上げ、武器をおさめた。
「もう、やめよう」
「……なんで?」
「お互い、無駄に怪我するだけだ」
陽菜の穏やかな声音に、史奈は戸惑ったように目を細めた。
相手が“殺気”ではなく“心配”を向けてくることが、何故か不思議だった。
「…あんた、変な人だな」
「よく言われる」
陽菜は、砂を払って立ち上がる。
■すれ違う二人
史奈はしばらく沈黙したあと、ふいに背を向けた。
「もういい。帰る。…おばさん傭兵」
「…ああ。気をつけて帰れ」
史奈は一瞬だけ振り返り、陽菜をじっと見た。
その瞳は、どこか寂しさを滲ませていた。
「あんた、強いけど…なんか、優しいんだな」
陽菜は答えず、ただ静かに笑った。
史奈はその笑顔に言いようのない懐かしさを覚え、その場を後にした。
陽菜は史奈の背中が闇に消えていくのを見つめながら、ぽつりと呟く。
「若い頃の俺に……そっくりだ」
■史奈の新任務編
マリアと別れ、史奈は単独で新たな任務へ向かった。
月のない夜、砂漠は深い闇に沈み、風が砂を這う音だけが響いていた。
■任務中の遭遇
史奈はAKMを肩に抱え
岩陰を進む。
「あたし一人で十分……」
そう呟いた瞬間、背後から砂が細かく跳ねる音がした。
振り返るより早く、銃弾が史奈の横を掠めた。
敵兵が四方から押し寄せ、史奈は岩陰へ飛び込む。
「クソッ……数が多い!」
AKMで牽制するも、敵の数は予想以上。
弾倉を交換する間に、背中側へ回り込む影があった。
「しまっ——!」
史奈が振り返るより速く、敵兵がナイフを振り下ろそうとした瞬間。
パンッ——。
砂が舞い、敵兵の手からナイフが弾け飛ぶ。
史奈の横をすり抜けて、一つの影が前へ出た。
「無茶すると死ぬぞ、嬢ちゃん」
低い声。
史奈が驚いて目を見開く。
「…あんた!」
月明かりに照らされたその顔は、確かに知っている。
陽菜だった。
M16A4の銃口から、まだ薄く白い煙が上っている。
一瞬、史奈は言葉を失い、すぐに悔しげに唇を噛む。
「…借り作っちゃっただろ!」
それでも陽菜は落ち着いた声で言う。
「礼はあとででいい。まだ来るぞ」
敵兵がさらに押し寄せ、二人は肩を並べて戦った。
陽菜は的確な射撃で敵の頭上を押さえ込み、史奈はその隙に弾を切り替え反撃。
二人の動きは、まるで昔から相棒だったかのように噛み合っていた。
やがて、砂煙の中で最後の敵兵が倒れる。
■不器用な感謝
肩で息をしながら、史奈は陽菜のM16A4を見つめる。
「あんた、強すぎるんだけど。
助けられたの、初めてなんだけど…。」
「ああ、そうか」
陽菜が苦笑する。
「別に気にするな。俺も昔は似たようなもんだった」
史奈は目をそらし、小さく呟く。
「まあ、一応…ありがとう」
それは史奈にとって最大限の感謝だった。
陽菜はふっと目を細める。
若い頃の自分を見ているようで、胸が少し痛くなる。
「昔な…俺にも相棒がいた。
強くて、しつこくて、アホで…
でも、放っておけない奴だった」
陽菜の脳裏に、赤いスカーフを揺らして笑うマリアが浮かぶ。
「マリア、今どこにいるんだろうな」
ぽつりと漏らすと、史奈が首をかしげた。
「“マリア”って…!! 」
史奈は言い出せ無かった。
「ああ……今は別々だがな」
陽菜は答えず、代わりに小さく笑った。
「お前にも、相棒すぐできるさ」
史奈はむすっとしながらも、少しだけ照れたように頬を赤らめた。
――砂漠の夜風が、二人の間を静かに抜けていく。
陽菜は若い頃の自分を史奈に重ね、史奈は初めて他者への信頼の芽を感じた。
二人はしばらく無言で砂漠を歩き、やがて別れの分岐路にたどり着く。
「また会ったら…借り、一つ返すから」
史奈がそう言うと、陽菜は手を軽く上げた。
「期待しとくよ、嬢ちゃん」
史奈はぷいっと横を向き、しかしどこか嬉しそうに歩き去った。
陽菜は空を見上げる。
満天の星の下で、かつての仲間たち——
ジャッカル、マリアの顔が浮かび、胸がじんわりと熱くなる。
「俺もまだ、やれるな」
陽菜は静かに呟き、自らの旅路に戻っていった。