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■ 再会と報告
薄い夕日が差し込む岩陰の簡易テント。
マリアはSVDを整備しながら、時折、遠くの地平線に視線を向けていた。
──その時。
「…戻ったよ。」
史奈がテントの布を押し上げて入ってきた。
砂埃をかぶったAKMを肩に担ぎ、額に汗をにじませている。
「史奈ちゃん、おかえり。…任務は?」
「あたしは平気。けど──ちょっと、驚く話がある。」
史奈はM9(サプレッサー付き)を外しながら、わずかに目をそらす。
「今日、戦闘の帰りに…陽菜って人に会った。」
マリアの手が止まる。
「陽菜に? 本当に⁉」
「…あんたが言ってた
陽菜かどうかは知らないけど。
敵に囲まれたところを助けられた。あの人…強かった。」
マリアの胸の奥で何かが熱くなる。
若い頃の陽菜の姿が、鮮明に蘇ってくる。
「陽菜…まだ生きてたのね。」
史奈はバツが悪そうに続けた。
「それで…借り作ったのが、なんか悔しくて。
あたし、あの人のこと“おばさん傭兵”って呼んだけど。」
マリアは思わず吹き出した。
「ふふっ…陽菜、怒ってなかった?」
「…苦笑いしてた。あれ、相当場数踏んでる目だった。」
マリアは深くうなずく。
「史奈ちゃん、陽菜はね…本当に強いの。
そして、優しい人でもある。」
史奈の目に、初めて「興味」という色が宿った。
■ 二人の行動開始
翌朝、マリアと史奈は装備を整え、砂漠を進み始めた。
■ マリアの装備
* **SVD(アミールの形見 / PSO-1、バイポッド)**
* **古びたM45A1**
* スモーク
* コンバットナイフ
■ 史奈の装備
* **AKM(アイアンサイト、レーザーサイト)**
* **M9(サプレッサー付き)**
* コンバットナイフ
* 手榴弾
史奈が口を開く。
「あんた、なんでそんなに嬉しそうなの?」
「史奈ちゃんが陽菜に会えたのが、すごく嬉しいのよ。
…あの子は、私の大切な相棒だったから。」
史奈は鼻を鳴らしながら、視線をそらした。
「へぇ…あんたにも、そんな相棒いたんだ。」
「ええ。史奈ちゃんにも、いつかできるかもね。」
「…どうだろね。」
史奈はぶっきらぼうだが、その言葉の奥には微かな寂しさがあった。
マリアはそれを感じ取っていた。
■ 砂丘の罠と戦闘開始
数時間後。
砂丘の向こうから、金属音が響く。
マリアがすぐに手を上げ、史奈を制止する。
「史奈ちゃん、止まって。…感じる?」
史奈は瞬時にAKMのセレクターを確認し、低い姿勢になる。
「…いる。複数。」
次の瞬間、砂の中に隠されていた敵兵が一斉に飛び出した。
「伏兵か!」
マリアは岩陰へ飛び込み、SVDを展開する。
史奈は前へ出て、AKMで牽制射撃。
「史奈ちゃん、下がって!」
「平気! あたしは“前に出るタイプ”なんだよ!」
敵の銃弾が砂を跳ね上げ、灼熱の空気を切り裂く。
史奈は手榴弾を構え、
「くらえッ!」
投擲──爆風で敵の陣形が崩れる。
その隙にマリアがバイポッドを伏せて展開。
「1……2……」
パンッ!
SVDが火を吹き、敵のリーダー格が沈む。
「さすが…あんた、やっぱり只者じゃないね。」
史奈が笑うと、マリアは肩をすくめる。
「年季が違うのよ、史奈ちゃん。」
敵の残党が逃げ始め、戦闘は終わった。
■ 戦闘後の静けさ
荒れ果てた戦場で、二人は短く息を整えた。
史奈がポツリと漏らす。
「ねえ、マリア…
陽菜って人と、また会えると思う?」
マリアは空を見上げる。
「ええ、会える。
陽菜は、いつもどこかで戦っているわ。
史奈ちゃんが望むなら…きっと。」
史奈は照れ隠しにそっぽを向いた。
「別に…会いたいとかじゃないし。
ただ…強かったから、気になるだけ。」
マリアは微笑む。
陽菜と出会ったばかりの頃の、自分を思い出す。
何処か抜けていて、拙くて、孤独で…
けれど、必死に誰かを求めていた頃の自分。
「史奈ちゃん。
あなたはね、陽菜によく似てる。
強がりで、不器用で…優しいところが。」
史奈はムキになって反論する。
「ち、違う! あたしは優しくなんか…!」
「はいはい。」
マリアは笑いながら、史奈の頭に手を置いた。
史奈は真っ赤になって振り払う。
「触んな! この…!」
その様子に、マリアは懐かしさと温かさを感じていた。
■ 次の戦場へ
二人は再び歩き出す。
砂漠の夜風が、静かに彼女たちの背中を押す。
これから先、史奈がどんな道を選ぶのか。
陽菜と再び交わる未来があるのか。
それはまだ分からない。
だが──
**マリアと史奈は、確かに新たな絆で結ばれ始めていた。**
その道の先に、かつての相棒・陽菜の影が見える気がして
マリアは、少しだけ胸を熱くした。
任務を終え、史奈とマリアは砂漠を歩いていた。
空の色は深い琥珀色に染まりつつあり、遠くで砂が風に流れている。
「はぁ…終わったね、史奈ちゃん」
私が言うと、
「あたしは足、もうパンパンだよ…」
史奈がAKMを肩に担ぎながらため息をつく。
それでも、史奈の表情はどこか明るかった。
任務が順調だったからではない。
それは――
**陽菜の存在が頭から離れなかったからだ。**
「史奈ちゃん…本当に、陽菜に会ったのね?」
私が聞くと、史奈は少し気まずそうに髪をかき上げた。
「うん…ぶっちゃけ、あの“おばさん傭兵”、強かったし…
助けてもらったし…その、なんか…いい人、だった。
…あんたの大事な人なんだろ?」
その瞬間、私の胸が熱く締め付けられた。
陽菜の顔が脳裏に浮かぶ。若い頃の、無鉄砲で、真っ直ぐだった姿が。
**—— 会いたい。**
14年前、あの砂嵐の日に別れて以来、ずっと言えずにいた言葉だった。
帰路についたその時だった。
風の向こうで、砂を踏む音がした。
私と史奈は
即座に銃を構える。
SVDのスコープ越しに見えた影はひとつ。
背は少し縮んだ気がする。
髪には砂の白い筋。
古びたM16A4を肩にかけ――
**その目は、昔のままだった。**
「……まさか……」
私の口から声が漏れた。
影がこちらへ歩いてくる。
ゆっくりと。
まるで迷子が帰る家を探すように。
そして、夕日の逆光から姿が現れた。
**陽菜。**
40歳になっても、あの鋭い視線も、強情な佇まいも変わらない。
陽菜は、私を見て――
目を大きく見開き、息を呑んだ。
「マリア……か?」
その声を聞いた瞬間、私の全身の力が抜けた。
「……陽菜……」
名前を呼ぶと、涙がこぼれた。
陽菜はM16A4を地面に置き、ゆっくり近づいてきて――
次の瞬間、私を強く抱きしめた。
砂の匂い、汗の匂い、懐かしい温もり。
胸の奥から張り裂けそうな想いが溢れてくる。
「マリア……お前……生きてたんだな」
陽菜の声が震えている。
「ええ……何度も死にかけたけど……生きてたわ……会いたかった……」
私も同じくらい震えていた。
陽菜が顔を寄せ、かすれた声で言った。
「お互い……歳をとったな…。」
私は涙を拭きながら笑った。
「ホントだわ…しょうがないじゃない」
二人はしばらく抱きしめ合い、声を殺して泣いた。
史奈は、二人を見て立ち尽くしていたが、簡易テントへと
入っていった。
テントの影で、史奈はぽつりと呟いた。
「……いいな。
あたしには誰もいなかったから……ちょっと羨ましい」
彼女の手が、少し震えていた。
陽菜は私の顔を、まるで確認するように見つめる。
「マリア…本当に…お前がいてくれて良かった。」
「陽菜…私もよ」
二人が向き合って笑い合うと、
夕日が完全に落ち、砂漠の夜風が二人の間を通り抜けた。
14年の空白が、静かに埋まっていく。
そして、再び――
二人は同じ砂漠に立った。
これは再会ではなく、第二の始まりだった。
「砂漠の三銃士(トライアングル)作戦」
◆ 作戦開始前
簡易テントの薄い布越しに、乾いた砂嵐が鳴る。
史奈はAKMを分解し、ボルトを真剣な目で磨いていた。
「…よし」
テントの前では、久々に再会した陽菜とマリアが肩を並べて座っている。
陽菜「まさか、3人で任務に出る日が来るとはな…」
マリア「ふふ……悪くないわね。久々に“チーム”って感じがする」
史奈はわざとらしく咳払いをして出てきた。
史奈「…その、あんた達。感傷は任務が終わってからにしなよ」
陽菜「お前も相変わらずツンケンしてんな」
史奈「うるさい、おばさん傭兵」
陽菜「まだその呼び方かよ」
マリアは思わず吹き出す。
マリア「ほら、陽菜。年下から言われると若返った気がするじゃない」
陽菜「その発想は無かったな…」
3人の空気は不思議と心地よい緊張感をまとっていた。
◆ 作戦開始
**目的:武装勢力本拠地に侵入し、通信妨害施設を破壊すること。**
夜の砂漠。
3人は低姿勢で砂丘を越え、灯りの点いた前哨基地を見下ろす。
マリア「敵の狙撃ポイント……3か所。射線は私が切るわ。史奈ちゃん、右側面の砂壁を登って」
史奈「了解」
陽菜「じゃあ俺は
中央突破で騒ぎを起こす。二人が動きやすいように」
史奈「無茶だよ、あんた」
陽菜「昔からこういう役回りなんだよ」
マリアは静かに息を吸う。
マリア「昔の陽菜ね。ほんと変わってない」
陽菜「お前のSVDも、似合ってるぞ」
マリア「うふふ、ありがと!」
◆ 血風、上がる
陽菜がM16A4にA-COGを載せ、呼吸を整え——
**パァンッ!**
最初の一発で哨戒兵のヘルメットを弾き飛ばす。
同時に基地が騒然とし、敵が四方から飛び出す。
陽菜「来いよ…まだまだいける」
M16A4をフルオートで掃射しながら走り抜ける。
レーザーサイトが砂煙の中で閃き、敵を正確に射抜く。
◆ 史奈の影
史奈は砂壁を駆け上がり、低い姿勢のままM9(サプレッサー付き)で静かに敵を落とす。
**シュッ……!**
背後から迫る敵兵は、史奈のコンバットナイフが喉元を切り裂いた。
史奈「甘い…あたしに背中向けるなんて」
その声は、以前より大人で落ち着いている。
◆ マリアの狙撃
敵スナイパーが史奈に照準を合わせていた。
マリアの指がわずかに揺れる。
息を吐く。
**バァン!**
SVDの重い反動。
次の瞬間、敵スナイパーの頭部が弾け、塔の上に倒れ込んだ。
陽菜「ナイスだ、マリア!」
マリア「任せなさい」
だが次の瞬間、後方から迫る影——
◆ 敵増援、百名規模
砂漠を震わせるエンジン音。
陽菜「…やべえな。増援部隊かよ」
史奈「数、多すぎ…!」
マリア「ここで退くわけにはいかないわ」
陽菜は手榴弾のピンを抜く。
陽菜「俺たち3人なら、いける。…だろ?」
史奈は鼻で笑った。
史奈「あたし、一応
まだ生きて帰るつもりなんだけど」
マリア「最後は陽菜がなんとかしてくれるって、信じてるわ」
陽菜「勝手に責任押し付けるなよ…」
だが、3人とも笑っていた。
◆ 三角陣形
陽菜=前衛の突撃
史奈=流動的な左右支援
マリア=後衛狙撃
3人が自然と隊形を形成する。
**敵兵が雪崩のように押し寄せる。**
陽菜のM16A4が火を噴き、史奈のAKMが鋭く走り、
マリアのSVDが一発ごとに敵を地面へ沈めていく。
史奈「陽菜! 左二人!」
陽菜「任せろ!」
陽菜は身を低くし、M9で近距離の二人を沈めた。
マリア「史奈ちゃん、右上! 砂丘の上!」
史奈「もう狙ってる!!」
史奈のAKMの弾が夜空を裂き、砂丘の上の狙撃兵を撃ち落とす。
◆ 通信施設・破壊
史奈が手榴弾を投げ込み、
マリアがカバー射撃。
陽菜が駆け込み、火炎瓶を突っ込み——
**ドォオオオン!!**
巨大アンテナが爆発で折れ、砂漠に崩れ落ちる。
陽菜「撤退するぞ! 予定通り西の岩山へ!」
史奈「了解!」
マリア「急ぐわよ!」
◆ 逃走戦
爆風で敵は混乱しているが、追撃は続く。
3人は砂漠の夜の中を走る。
史奈「ねぇ
陽菜…あんた、昔からこんな無茶ばっかしてたの?」
陽菜「あぁ。マリアのせいだ」
マリア「えっ私なの!?」
陽菜「お前が“陽菜ならやれるわ”って言い続けてきたからな」
マリアは一瞬だけ、涙が滲むほど嬉しそうに笑った。
史奈はそれを横目で見て、小さく微笑む。
史奈「…いいね。あんた達」
◆ 月下の休息
追撃を振り切り、月明かりだけが照らす岩陰で息を整える3人。
陽菜「久しぶりに死ぬかと思った…」
史奈「あんた、最後の突撃おかしいよ」
マリア「ふふ、昔からああなのよ。ほっとくと全部1人でやっちゃうの」
陽菜「おい、聞こえてるぞ」
史奈は少し頬を染めながら言った。
史奈「その、助けてくれて。ありがと。あたし1人じゃ無理だった」
陽菜「礼なんていらねぇよ。仲間だろ」
史奈は驚いたように目を丸くして、視線を逸らす。
史奈「…仲間。か。悪くない」
マリアは二人を見て、静かに言う。
マリア「ねぇ—また3人で組まない?」
陽菜「もちろんだ」
史奈「…考えておく」
マリアと陽菜が同時に笑う。
◆ 終幕
砂漠に昇る朝日。
三つの影が並び、次の戦場へ歩き出していく。
陽菜「さて…戦いはまだまだ続くぞ」
マリア「もちろんよ。まだ終わりじゃないんだから」
史奈「仕方ないな…ついていくよ、あんた達に」
三つの影は、再び戦場という名の世界へ足を踏み入れた。
彼女らにはまだ
**語られるべき物語が、無数に残っている。**
■陽菜と史奈、二人の新任務
その日、俺と史奈は、灼熱の陽光が照りつける砂漠での任務に就いていた。
ターゲットは山岳地帯に潜伏する武装グループの拠点。
史奈のAKMは砂でざらついていたが、彼女は気にした様子もなく、
「あたしに任せなさいってーの」
と言いながら、先行して走る。
俺は古びたM16A4を構え、史奈の背中を追った。
二人での戦闘は想像以上に息が合っていて、史奈の立ち回りは若い頃の俺を思い出させる。
武装勢力が蜂の巣を突いたように飛び出してきても、
史奈はすばしこく位置を変え、正確にAKMの弾を叩き込む。
「おばさん傭兵、後ろ!」
「言われなくても分かってる!」
振り返りながら
俺はM16A4を連射し、
史奈を援護した。
砂煙の中、敵が次々と倒れていく。
やがて最後の一人が崩れ、静寂が戻った。
「…ふぅ。終わったな」
「あんた、まだまだ動けるんだね。ちょっと見直した」
ツンとした顔で言うが、史奈の口元はわずかに緩んでいた。
任務を終え、二人で簡易拠点に戻る途中だった。
砂漠の真ん中で、何かが動いている。
「何かいるよ」
史奈が眉をひそめ、AKMを構える。
俺も警戒してM16A4を向けた――が。
次の瞬間、砂の中からひょこっと誰かの頭が出た。
赤いスカーフ。SVDを背負っている。
「え? ちょっ……マリア?」
マリアは、全身砂まみれで穴の中からズルズルと這い出してきた。
「ふぅ…やっぱり砂の温度層は興味深いわね」
「何してんの!?」
思わずツッコむ俺を無視して、マリアは真剣な顔で言う。
「砂漠の地層を利用した、体温調整と集中力向上トレーニングよ。
“砂漠縦穴呼吸法”。私が考えたの」
史奈は完全に固まっていた。
「は?…え、いや…なにそれ…え? え? ちょっと怖いんだけど」
マリアは砂を払って立ち上がり、史奈の方を向く。
「史奈ちゃんもやってみる?」
「絶対イヤ!!」
史奈が全力で後ずさりした。
俺はもう、こらえきれなかった。
若い頃から変わらない。訓練と称した奇行。
陽炎の向こう、赤いスカーフを揺らしながら穴から出てくる姿に――懐かしい記憶が一気によみがえる。
「…ふっ…ははっ…あははははははは!!」
腹を抱えて笑い転げる俺に、史奈は呆れ顔。
「おばさん傭兵、こんなの笑える要素どこにあるわけ?」
「いや……無理…!! マリア……お前…相変わらずすぎる!!」
マリアは不満げに唇を尖らせる。
「陽菜…笑いすぎよ。せっかく新しい戦闘理論を──」
「理論じゃないから! ただの奇行だから!!」
史奈がさらに追い打ちをかける。
「てかさ…あたし、今までいろんな傭兵見たけど…こんな人初めて見たよ…。」
マリアはむしろ誇らしげに胸を張る。
「でしょ? 史奈ちゃん、ようやく私の魅力が分かったわね」
「分かるかーーい!!」
史奈のツッコミが、砂漠に響いた。
■三人の影、再び並ぶ
日が沈み始め、赤く染まる砂漠。
俺、史奈、マリア――
三つ並んだ影が長く伸びていく。
史奈がぼそりと呟く。
「…あんたら、いいコンビだね」
マリアは微笑んで、俺の肩にそっと手を置く。
「陽菜。戻ってきてくれて本当に良かったわ」
俺は照れくさくて、砂をつま先で蹴った。
「…あぁ。こういうのも悪くねぇ」
三人の笑い声が、静かな砂漠の夜風に溶けていった。
砂漠に夕日が落ちるころ、俺と史奈は任務を終え、ヘトヘトの状態で簡易キャンプへ戻っていた。
「…やっと終わったな。今日は寝るだけだ」
そう呟いたその瞬間だった。
風の向こう、砂丘のてっぺんに…
**奇妙なポーズを決めた女の影。**
片足立ち、両手は太陽へ。
史奈「あ、あれ……なに……!? なんの生物!?」
陽菜「落ち着け。……いや、落ち着けないな、確かに」
影はゆっくりこちらを振り向き——
**マリアだった。**
髪は風に揺れ、SVDを背中に背負いながら、なぜかヨガのポーズ。
マリア「ふふ……砂漠ヨガよ! 久しぶりにやりたくなっちゃってね!」
史奈「……やっぱあんた、変人でしょ…」
陽菜「懐かしいなぁ、お前の変なトレーニング。」
マリアは嬉しそうに手を叩いた。
マリア「陽菜、久しぶりに一緒にやらない?」
陽菜「はぁ? いや、任務明けで疲れて——」
言い終わる前に、マリアが
腕を引っ張る。
マリア「行くわよ。ほら、昔は毎日のようにやってたじゃない」
陽菜「あー…はいはい。分かったよ…」
史奈は、その様子を遠くから見ていた。
史奈「…あたしは絶対やらないからね。あたしは関係ないし!!」
だが、その言葉をマリアは見逃さない。
マリア「史奈ちゃ〜ん?」
史奈「ひっ…来ないで!? 来ないでってば!!」
逃げる史奈。
追うマリアと俺。
砂漠で、謎の追いかけっこが始まる。
■ 砂漠ヨガ強制参加
捕まった史奈は、半泣き。
史奈「いやぁぁぁあ!! ヨガとか無理!! あたし柔軟性ないの!!」
マリア「大丈夫よ。砂漠ヨガは心でやるの」
史奈「心で柔らかくなるかぁぁぁあ!!」
陽菜「はははっ、まぁ、頑張れ」
マリアは真顔で言う。
マリア「まずは“砂漠のサソリ”のポーズ」
史奈「いやその名前からしておかしい!!」
マリアは砂の上に寝そべり、反らせた体で両足を掴む。
陽菜「お前、それヨガじゃないだろ…」
マリア「気にしない気にしない!」
史奈は渋々、同じポーズを真似するが——
史奈「いっ……痛い痛い痛い痛い!! 背中折れる!!」
俺は
腹を抱えて笑い転げた。
陽菜「はははっ…っははっ…! いや無理すんなって!!」
史奈「笑ってんじゃねぇ!! 助けろよ
おばさ……陽菜ァ!!」
マリアは満足げ。
マリア「次は“砂漠のバッタ”」
史奈「もうやだあああぁ!!!」
陽菜「史奈、頑張れ。昔の俺を見てるみたいで…なんか…面白い」
史奈「面白いんじゃなくて助けろ!!」
■ 最後は3人で笑う
しばらくすると、史奈は疲れ果て、砂の上で大の字になった。
史奈「…死ぬ。砂漠で死ぬ…ヨガで死ぬ…」
俺「ヨガで死んだ傭兵なんて前代未聞だぞ」
マリア「でも、ほら…気持ちよかったでしょ?」
史奈「気持ちよくねぇよ!!!!」
史奈は怒鳴ったが、その顔はどこか少しだけ楽しそうだった。
陽菜(…ああ、こういう時間。昔の俺とマリアを思い出すな)
夕日が赤く差し込み、三人の影を長く伸ばす。
史奈「…けどまあ…あんた達といると…不思議と悪くないわ」
陽菜「へぇ、珍しく素直だな」
史奈「うるさい!!」
マリアが笑った。
マリア「さぁ次は“砂漠の月”よ!」
史奈「まだやるのぉおお!!?」
陽菜「ははは! 史奈、覚悟しろ!」
砂漠の真ん中、
三人の笑い声が夜空に響き続けた。
砂漠の夕暮れ。
日が落ち、砂が急速に冷え始めるころ、マリアが奇妙な笑みを浮かべて戻ってきた。
陽菜は、焚き火の側でM16の分解整備をしている。
史奈は、AKMを整備しながら、疲れ切った表情で砂漠ヨガの後遺症に耐えていた。
「…陽菜ぁ。史奈ちゃん。晩ご飯、できたよ」
マリアが得意げに掲げた鍋の中には、
色とりどりの…虫。
砂漠バッタ、甲虫、そして正体の分からない白い幼虫。
さらにその周囲には、枯れ草を煮込んだ謎の液体が湯気を立てている。
陽菜の眉がひくりと動く。
史奈は思わず顔をそむけ、口を覆った。
「ま、マリア…? えっと…これは?」
陽菜が恐る恐る聞く。
「新作料理! “サンド・デザート・ブッシュミックス”!」
誇らしげに親指を立てるマリア。
史奈が即座に突っ込む。
「どこがデザートなのよ!? 虫じゃん! 草じゃん!!」
マリアは胸を張った。
「砂漠の恵みよ。たんぱく質と食物繊維の奇跡のコラボレーション!」
「奇跡っていうか災害の匂いしかしねぇ…」
史奈が小声でつぶやく。
陽菜は一歩下がり、両手をぶんぶん振った。
「む、無理無理無理! 俺は
遠慮するわ! それ、絶対ヤバいって!」
マリアがキッと陽菜を見る。
「ええぇ……陽菜、昔は食べてくれたじゃない」
「食べてない! 一度も食べてないから!」
「えっ? そうだっけ?」
「そう! だから今日も食べない!」
マリアはしばらく沈黙したあと、鍋をじっと見つめ……
目を細めて、不穏な方向へ視線を向けた。
寝袋で横になっている史奈だ。
史奈はまだ食事の時間ではないと油断していた。
砂漠ヨガの疲労で、半分寝落ち状態である。
マリアが鍋を持ち、にじり寄る。
「………マリア。
…ちょっと待て、その目は何だ」
陽菜が戦慄する。
マリアは笑った。
「味見してもらおうと思って♡」
「や、やめろって!!」陽菜が止めようとするものの――
しかし動きは遅かった。
**ぐいっ!!**
「むがぁぁぁああああ!?!?!?」
史奈の口に、虫と枯れ草スープが強制投入される。
史奈、飛び起きる。
「なにすんのよあんたぁぁぁああっ!!
バカじゃないの!? これ毒でしょ!? 毒に決まってんでしょ!?!?」
マリアは満面の笑み。
「どう? おいしい?」
「美味しいわけねぇだろぉぉぉ!!!」
涙目で咳き込む史奈。
陽菜は腹を抱えて笑い出す。
「ふふっ…あははははは!! もうマリア最高…!変わってないわ…!!」
「笑ってる場合じゃないっ……!!
腹が……腹がぁぁあぁ……!!!」
史奈は地面に倒れ込み、砂の上をジタバタ転げ回る。
陽菜は慌てて水筒を差し出す。
「ほら、ほら、水飲んで!」
「水じゃ治らねぇ!! 医療キット持ってこい!! あたし死ぬぅぅぅ!!」
マリアは腕を組んで満足げだ。
「うん。若いっていいわね」
「いや、いいとかじゃないからっ!!!」史奈叫ぶ。
陽菜は涙を流しながら笑い続ける。
「ほんと懐かしい…マリアのこういうとこ」
マリアはしれっと鍋を火にかけ直し、
「じゃ、次は陽菜ね!」
と不吉な笑みを浮かべた。
陽菜は全力で後ずさる。
「ちょ、ちょっと待て! 俺は絶対食べないから!」
史奈は腹を押さえながら、泣きそうな声をあげる。
「陽菜ぁ……逃げろ……これはマジでヤバい…!!」
砂漠の夜に、三人の大騒ぎが響き渡った。
――その後、史奈は丸一日腹を壊した。
マリアはその度胸試しの成功に大満足し、
陽菜は「マリアは相変わらずだなぁ」と懐かしさを覚え、
チームの奇妙な一体感だけは確実に強まったのだった。
◆砂漠水泳、数年ぶりの復活
任務を終えた陽菜と史奈が、砂漠の稜線を越えてキャンプへ戻ってくる。
夕暮れの赤が砂粒に反射し、風はあいかわらず乾いている。
だが。
史奈「…ねぇ、陽菜。あれ…見間違いじゃないよね」
陽菜「…いや、俺も同じものを見てる」
二人の視線の先。
砂漠に掘られた不自然な真っ直ぐの“水泳コース”のような溝。
そして、そこでビキニ姿でクロールを繰り返す人物。
マリア「はっ、はっ……くっ、フォームが少し鈍ったわね…もう一セット!」
陽菜は思わず額を押さえる。
陽菜「ふふ……懐かしい……マリアの砂漠水泳、昔よくやってた。」
史奈「懐かしいって……陽菜
その“昔”ってどんな時代なんですか…。」
史奈は呆れ気味だが、陽菜は胸が熱くなるほど懐かしさに浸っていた。
陽菜「……よし、久しぶりにやるか」
史奈「えっ?」
陽菜は迷いなくバッグを放り、上着を脱ぎ始めた。
タンクトップ、装備、ブーツが砂に落ちていく。
史奈「ちょっ……おばさ……陽菜!? なんでビキニまで装備してんの!?」
陽菜「昔はね、戦地に行くときはいつ水泳トレーニングできるかわからないから常備してたんだよ」
史奈「そんな傭兵いないわよ!!」
それでも
陽菜はビキニ姿になり、マリアの横へ。
マリア「陽菜…! 久しぶりに一緒に泳ぐ?」
陽菜「うん。昔みたいに競争しよ。負けないよ、マリア」
マリア「望むところよ!」
砂漠に、二人の“ザッ、ザッ”というクロールの手の音だけが響く。
史奈は後ずさりした。
史奈「…あたし帰っていい?」
しかしその瞬間、マリアと陽菜の動きが止まり、同時に振り返った。
マリア「史奈ちゃんも来なさい」
陽菜「そうだよ史奈。こういうのは三人でやるもんだよ」
史奈「いやあたし別にそんな伝統いらないから!!」
逃げようとした史奈を、二人が挟み撃ちにした。
陽菜「マリア、左から」
マリア「了解!」
史奈「ちょ、ちょっとほんとにやめっ…!!」
――数十秒後。
史奈はビキニ姿で砂漠に立たされていた。
肩を落とし、目が死んでいる。
史奈「なんであたし…こんな屈辱的な…」
マリア「史奈ちゃん、素敵よ」
陽菜「うん、似合ってる似合ってる」
史奈「慰めになってないから!!」
そして強制的に砂漠水泳がスタート。
史奈「(無言)…」
陽菜「史奈、息継ぎの角度が甘いよ〜」
マリア「腰の回転が固いわね。もっとしなやかに」
史奈「うう……帰りたい…」
夕日が完全に沈み、空が群青に変わるころ。
史奈は砂まみれのまま、ついに力尽きた。
陽菜「ふふっ……また三人でやろうね」
史奈「二度とやらない…」
だがマリアと陽菜の笑い声は、どこか温かかった。
史奈は悔しいが、心の奥で少しだけ――ほんの少しだけ、
“悪くないかも”と思ってしまった。
砂漠の夜風が、三人の笑い声をさらっていった。
薄い夕陽が砂漠の地平へ沈みかけていた。
マリアと陽菜は、史奈の正面に立ち、覚悟を決めたように無言で見つめていた。
「…あたしと、別の道を行くっての?」
史奈は、できるだけ平然とした声を出そうとしたが、喉が微かに震えていた。
マリアは寂しげな微笑みを浮かべ、
「史奈ちゃん……今回の任務は、あなたを巻きこみたくないの」
と、優しく告げた。
陽菜も史奈の肩に手を置き、
「アンタはまだ若い。もっと自分の足で進める道がある。俺たちと一緒にいると、道を奪ってしまう」
と静かに言った。
史奈は笑った。強がりの、いつもの笑い方で。
「はっ、勝手な事言うじゃん、2人とも。好きにすれば?」
だがその目には、ほんの少しだけ滲むものがあった。
マリアと陽菜は同時に、史奈を抱きしめた。
砂漠風が吹き付け、三人の影を揺らした。
「……ありがとう、史奈ちゃん」
「生きて。またどこかで会おう」
2人は振り返らずに歩き出した。
砂漠の地平へ向かい、
その背中はやがて陽炎に揺れ、
ついに見えなくなった。
――そして、史奈はひとり残された。
◆ ひとりの夜
簡易テントに戻った史奈は、無言のまま装備を外した。
AKMのセフティを確認し、M9を磨く。
ナイフの刃こぼれを確かめ、手榴弾の数を数えなおす。
「…まあ、あたしは一人が似合ってるって、ずっと思ってたし」
声に出してみたが、虚しさが砂のように胸に積もっていく。
マリアの奇行――
砂漠水泳、砂漠ヨガ、変な虫料理。
陽菜の豪快な笑い声。
テントの中は、静かすぎた。
笑い声も、怒鳴り声も、何もない。
「あー…くそっ」
史奈は寝袋に背中を倒し、砂漠の天井を見上げる。
ぽつん、と星が滲んだ。
◆ 新たな依頼
翌朝。
キャンプに、無線の呼び出し音が響いた。
『史奈、お前に任務の依頼だ』
「了解。座標送れ」
史奈の声は冷静で、迷いはなかった。
それは“ひとりに戻る”ための儀式でもあった。
任務内容は、反乱軍の通信拠点の破壊。
マリアや陽菜なら笑って請け負うレベルの危険任務。
「いいじゃん。一人でやりがいあるってもんだ」
史奈は装備をまとめ
砂漠に踏み出した。
◆ 潜入 ― ひとりの影
史奈は夜風の流れる砂丘を這うように進む。
AKMを抱え、敵の捜索ライトをやり過ごしながら通信拠点に近づいた。
「相棒はいない。カバーもいない。
全部、あたしがやる」
そう口にすると、逆に落ち着いた。
敵兵の背後を取り、ナイフで静かに息の根を止める。
顔に砂がかかっても拭き取らず、そのまま敵の装備を奪いながら進んだ。
通信塔の脚元に爆薬を仕掛け、点火スイッチを押した瞬間――
背後で銃声。
「ちっ…!」
史奈は身を翻し、AKMで反撃。
数人の敵兵が四方から押し寄せた。
――そのとき。
爆薬が炸裂し、通信塔が崩れ落ち、
闇夜と砂煙が敵をのみこんだ。
その隙に史奈は走り出す。
自分だけを頼りにし、生き延びるために。
◆ 静かな独り言
任務成功を確認し、砂丘に腰を下ろす。
夜風が静かに肌を撫でる。
「…あんたたちがいなくても、ちゃんとできるじゃん」
強がり。
でも、口にしてみると少しだけ胸が温かくなった。
「いつかさ――
胸張って会えるように、もうちょい頑張ってみるよ」
星空が広がり、
砂漠の夜は深く、そして優しかった。
◆ 史奈の新しい物語へ
史奈は立ち上がり、装備を背負う。
「よし。あたしの物語、ここからが本番だ」
一人歩き出す。
背中は強く、孤独が似合っていた。
――けれど。
風の音に混じって、
どこか遠くで、マリアの笑い声が聞こえた気がした。
「…バカみたい」
そう呟きながら、
史奈は夜の砂漠へ消えていった。
その先には、
彼女だけの新しい戦場と、新しい仲間、
そしてまだ知らぬ未来が待っていた。
■ 史奈、新たな章 ――砂漠で出会った奇妙な女傭兵
陽菜とマリアが新たな任務へ向けて砂漠の地平線の彼方に消えていってから、数週間が経った。
史奈は、ぽつりと残された簡易テントの前で、無風の砂漠を睨むように見つめていた。
「…あんたら、勝手すぎんだよ」
そう呟きはしたものの、胸の奥のぽっかり空いた感覚は簡単には埋まらない。
しかし彼女は唇を噛み、銃を背負い直し、歩き出した。
「一人が合ってる…あたしはそういう人間なんだよ」
そう自分に言い聞かせるように。
■ 奇妙な“遭遇”
史奈は単独任務を受け、数日間にわたり敵拠点を奇襲、破壊し、最終的には東側の砂漠地帯を抜けて撤退するルートを選んだ。
任務自体は成功。
敵の追撃も撒き、史奈は砂漠の夜を歩いていた。
だが――
「…あ?」
砂の丘の向こうに、人影がしゃがみ込んでいるのが見えた。
近付くにつれ、その人物が地面をじっと見つめていることが分かる。
――サソリだ。
それを凝視して微動だにしない。
暗がりの中、長い黒髪が風に揺れている。
その姿は妙に既視感があった。
(あのアホみたいな奇行……まさか、マリア?)
史奈は半ば呆れた苛立ちを覚えつつ、慎重に声をかける。
「……なにサソリ見てんだよ、あんた」
すると、女性が驚いて顔を上げた。
――全くの別人だった。
大きな琥珀色の瞳。
日焼けした肌。
背中には**MK14スナイパーライフル**、腰には**M1911**、肩からは**マチェーテ**。
彼女は、なぜか満面の笑みで立ち上がった。
「気付かれちゃった。初めまして! 私、レイラ。トルコ人
。傭兵やってます!」
勢いよく自己紹介を始める。
史奈は完全に呆然とした。
「…いや、誰だよあんた」
「私? レイラ! それ以外はないです!」
「そういう意味じゃねぇよ!」
しかし、レイラは全く気にしていないようだった。
「あなた、傭兵ですよね? AKMとM9……戦い慣れた足取り。しかも砂漠装備がすごく自然。ねえねえ、あなた名前は?」
距離をゼロにして顔を覗き込んでくる。
「……史奈(ふみな)だよ。ていうか距離近ぇって」
「史奈! いい名前ですね!」
――なぜ元気いっぱいなんだ、この女。
■ レイラ、勝手についてくる
史奈はさっさと立ち去ろうと背を向けた。
が、足音が後ろから付いてくる。
「……ついてくんな」
「え? ついてきてます? 私?」
「お前以外に誰がいんだよ!」
「えっと……史奈が危なっかしい雰囲気してたから、護衛しようかと思って」
「……あたし、傭兵歴何年だと思ってんだ!」
史奈は顔をしかめながら言い返したが、レイラの表情は変わらなかった。
「私、一人は嫌いなんです。だから、史奈と一緒に行きます」
「断る!」
「断られてもついていきます!」
「お前…どこの大型犬だよ…」
史奈の肩がガックリ落ちる。
しかし、ふと気付く。
――この強引さ、どことなく懐かしい。
マリアが砂漠に穴を掘っていたり、陽菜が砂漠水泳に巻き込んでくれたりした時の、あの強烈なペースを。
胸が少しだけ締め付けられた。
(やめろよ…今思い出すと、余計キツイんだから)
史奈は深くため息をつき、レイラを睨んだ。
「…あーあ
好きにしろ。邪魔だけはすんなよ」
「はーい! よろしくね、史奈!」
「テンション高すぎんだよ…」
新たな同行者は、あまりにも自由だった。
しかし史奈は少しだけ、孤独が薄れた気がした。
■ 砂漠の夜を進む二人 ――史奈、新たな物語の始まり
夜の砂漠に二人の影が伸びる。
史奈はAKMを肩に、レイラはMK14を軽々と担ぎ、月明かりの下を歩く。
「史奈、サソリって可愛いですよね」
「…可愛いわけねぇだろ」
「ちっちゃい手が可愛い」
「やっぱ変人だな、あんた」
「よく言われます!」
「自慢すんな!」
どこか噛み合っていない会話。
だが史奈は、不思議と嫌な気分ではなかった。
(――まあ、いいか。どうせこの砂漠じゃ、一人は危険だしな)
史奈は自分にそう言い聞かせる。
しかし胸の奥では、分かっていた。
レイラの存在が、少しだけ救いになっていることを。
砂漠の風が二人を撫でる。
こうして、
**史奈の“新しい旅路(ストーリー)”が静かに動き始めた。**
■「1.6キロの死線」
夕陽が砂漠に沈みかけ、影が長く伸びる中――史奈は岩陰に身を押し付けていた。
呼吸は荒く、汗は砂と混じり、喉が焼けるほど乾いている。
**敵兵との激しい交戦はすでに30分を超えていた。**
AKMの弾倉は残りわずか。
M9はサプレッサー越しに3発。
手榴弾は1つ。
そして何より最悪なのは――
「くそ…スナイパーの位置、最悪すぎ…」
見晴らしのいい遠距離。こちらは遮蔽物の裏。
ほんの数センチでも身を出せば即死。
**完全な膠着状態**。
敵スナイパーは明らかに狙撃に慣れたプロ。
史奈は、これ以上動くことも反撃することも出来ず、歯ぎしりしながら耐えるしかなかった。
その時だった。
――パァン。
乾いた、しかし異様に芯のある銃声が遠方から響き渡った。
敵スナイパーの銃口がこちらに向いた瞬間――
**頭が弾け飛ぶように倒れた。**
「は…?」
史奈は一瞬、何が起きたのか理解できなかった。
**1.6キロはある。**
この距離から頭を正確に撃ち抜ける狙撃手など、普通はいない。
「まさか…マリア…? いや、あの人は…」
史奈は息をのみ、双眼鏡を構えた。
砂漠の地平線上、蜃気楼のようにひとりの人物が浮かび上がる。
**長いスコープのMK14。
黒髪を後ろで束ね、砂の中でも微動だにしない。
そして冷徹な目。**
――レイラだった。
史奈は思わず声が出ないままその場に立ち尽くした。
レイラはゆっくりとこちらへ歩み寄り、何も言わずに倒れた敵兵の装備を淡々と漁り始めた。
まるで、史奈など存在しないかのように。
「…おい」
呼び止めても、レイラは反応しない。
その姿は、以前砂漠で“サソリをじっと見つめていた変わった女”とはまるで別人だった。
瞳の奥には一片の感情もなく、笑いも怒りもない。
そこにあるのは――
**戦場に最適化された殺意と冷徹さだけ。**
史奈は背筋に寒気を覚えた。
「あんた…どんな化け物みたいな腕してんのよ」
その呟きにすら、レイラは何の反応も示さない。
ただ、敵兵のポーチから新品の弾倉を取り出し、自分のベルトに無感情に挿しながら、ぽつりと言った。
**「動けるなら、帰れ。
ここ、もうすぐ増援が来る。」**
史奈は思わず息を呑んだ。
(声まで…冷たい。別人みたいじゃん…)
けれど、史奈は悟っていた。
――この冷徹さこそが、
――この狙撃能力こそが、
彼女を戦場で生かし続けているのだと。
レイラは史奈を見ることなく歩き出した。
その背中は、砂漠の闇に溶ける刃のように、ただ静かで鋭かった。
史奈はAKMを握りしめ、呆然とその後ろ姿を見つめていた。
「…あたし、また変なのに目ぇ付けられたかも」
けれど不思議と嫌ではなかった。
**ゾッとするほど怖いのに、
負けん気が湧いてくる――
あの背中に、追いつきたいとすら思う。**
マリアと陽菜がいなくなったあと、ぽっかり空いた心の穴。
そこに入り込むように、レイラという“謎”が現れた。
史奈の旅路は――
ここからさらに激しさを増していく。
**灼熱の任務**
史奈は、単独任務を終えたばかりだった。
敵拠点に侵入し、情報端末を奪取。そこからの脱出では激しい銃撃戦となり、AKMを握る手が汗で滑るほどだった。
「…ふぅ。あんたら、しつこいにも程があるっての…!」
跳弾が砂を跳ねる中、M9を抜きながら近距離で三人を仕留め、そのまま走り抜けた。
背後で爆発が上がる。任務は完了――だが帰路は油断できない。
灼熱の砂漠を進みながら、史奈は汗を拭った。
「ったく、一人は気楽だけどよ…こういう時だけは、誰か居りゃなって思っちまう…」
そう呟き、はっと自分で首を振る。
「…あたしは単独主義なんだよ。甘えんなって…!」
心に言い聞かせながら歩く。
だが、そんな彼女の前に――また“奇妙な光景”が現れた。
陽炎の向こう、砂地にしゃがみ込む影がひとつ。
長い黒髪、黒いコンバットスーツ。背中にはMK14。
砂の上の小さな虫をじぃっと凝視している。
史奈は、息を呑んだ。
「…は?」
その姿が、まるで昔のマリアの奇行そのものだったからだ。
「ちょ、マリア…? いや、違う…?」
慎重に近づくと、女性がふいに顔を上げた。
その瞳は氷のように無機質だ。
「……あ、あなたですね。昨日の。」
「!?」
昨日―そう、1.6km先から敵スナイパーを無言で吹き飛ばし、敵の死体を漁って去っていった冷徹な狙撃手。
トルコ人女傭兵 **レイラ** だった。
だが、今日の彼女は全く別人のように柔らかい声で続けた。
「この虫、見てください。とても珍しい種類なんです。名前は――」
「いや、知らねぇよ! なんで虫の解説なんだよ!」
史奈は完全に引いた。
昨日の冷徹無表情スナイパーと同じ人間とは思えない。
レイラは気にせず、虫を両手でそっと包みながら微笑む。
「私はこう見えて、砂漠の生態系を研究していて。」
「昨日の冷徹な狙撃はどこ行った!?」
「昨日? ああ……仕事ですから。」
レイラの目が、一瞬だけ氷のように沈んだ。
そしてまた、柔らかな笑みへ戻る。
その“切り替わり”があまりに自然で、逆に恐ろしくなる。
史奈は一歩下がった。
「……あんた、二重人格とかじゃねぇよな?」
レイラは首を傾げた。
「よく言われます。でも違いますよ。仕事の時は、感情を切るだけです。」
「切りすぎなんだよ!!」
レイラは砂を払って立ち上がると――
なぜか当たり前のように史奈の横へ並んだ。
「では帰りましょう。任務は終わったのでしょう?」
「え、いや、なんでついて来んの?」
「私たち、仲間ですよね?」
「いつ仲間になったんだよ!!」
史奈のツッコミが砂漠に虚しく響いた。
**任務の残滓**
そのまま史奈はレイラとともに歩くことになった。
レイラは無表情で歩きながら、ときおり史奈を横目で見た。
「あなた、動きが無駄なくて、近距離も強い。良い兵士ですね。」
「…褒めてんのか? なんなんだよ、あんた。」
「評価です。」
「評価とかいらねぇよ…!」
レイラはふと、史奈のAKMを覗き込む。
「そのAKM、手入れが甘い。砂噛んでますよ。」
「あ? 昨日の銃撃戦で――」
「貸してください。」
レイラは道端でしゃがむと、信じられない速さで分解・清掃を始めた。
史奈は呆然と見つめる。
「…なんでそんな器用なんだよ。」
「習慣です。砂漠では、武器の整備が生死を分けます。」
きっちりと組み上げ、史奈に戻す。
「はい。」
「……あ、ありがとう。」
自分でも驚くほど素直に礼が出た。
レイラは微笑んだ。
「どういたしまして。あなたは一人で生きるには、優しすぎる。」
史奈の心臓が一度だけ跳ねた。
「な…何言ってんだよ…!」
「本当のことです。」
静かに歩くレイラ。
昨日の冷酷な狙撃手の面影はない。
史奈は小さく呟いた。
「……なんだよ、あんた……掴めねぇ……」
だが、その掴めなさが――
どこか、マリアを思い出させた。
**砂漠に落ちる影**
二人が歩く夕暮れの砂漠は、静かで広い。
史奈は、ふと思い出す。
陽菜とマリアが去り、一人になったあの日。
“あんたは強いよ。自分の道、行きな。”
そう笑ってくれた陽菜の顔。
ひょいっと穴に飛び込み、砂漠ヨガを始め、虫料理を作り、
全部めちゃくちゃだったけど――
温かかった日々。
(あたし一人でやっていくんだ、って決めたけどよ…
やっぱ…少しだけ、寂しいんだよな。)
そんな思いを胸にしまい込んだ時。
レイラが突然、足を止めた。
「史奈。」
呼び捨てで。初めてだ。
史奈は驚く。
「な、なんだよ。」
レイラは、一歩近づき――まっすぐに見つめてきた。
「あなたは、一人じゃない。私は……少なくとも、あなたを仲間だと思っています。」
史奈の胸が、ドクンと強く鳴る。
「…っ。なんでだよ。昨日までほぼ他人だろ。」
「…昨日、あなたを助けた時に思いました。」
レイラの瞳が、夕陽に照らされて揺れる。
「“あの距離でも、守りたいと思ったのは初めてだ”と。」
「!!?」
史奈は顔を真っ赤にした。
「なっ…ば、ばか言うな!! あたしは別に守られたくて…!」
「はい。」
「聞けよ!!」
しかし
レイラは柔らかく微笑む。
「これからも……私のそばにいてください。史奈。」
「ど、どういう意味だよその言い方!!」
レイラの表情が一瞬だけ、スナイパーの冷たい顔に戻る。
「文字どおりの意味です。…逃がしませんよ?」
「ひっ…!! こ、こえぇんだよあんた!!」
レイラはまた、ふっと柔らかい笑顔へ戻った。
「砂漠の虫、次はもっと珍しい種類をご紹介しますね。」
「虫かよ!!!」
笑いながら――
史奈は、自分の中の何かが少しだけ温かくなるのを感じていた。
史奈とレイラ、奇妙な始まり
砂漠の夕陽の中、二人の影が長く伸びる。
マリアでもない。
陽菜でもない。
けれど――
史奈の新しい物語には、また新たな“変わり者”が加わった。
「はぁ。あんた、本当に変なヤツだよ、レイラ。」
「よく言われます。」
「でも…悪くねぇ。」
レイラはくすっと笑う。
「あなたも十分に変です。」
「ほっとけ!!」
こうして、
**史奈とレイラの奇妙で危なっかしい新コンビの物語**がスタートするのだった。
◆砂漠の帰路──史奈が見た“異様な光景”
激戦任務を終え、史奈は砂漠の帰路を一人歩いていた。
喉は乾き、砂嵐は頬を叩き、銃声の余韻がまだ耳に残っている。
その時だった。
**「……?」**
丘の斜面。
砂色の岩に伏せた細い影。
黒髪を後ろで束ね、MK14を低く構える後ろ姿。
史奈は息を飲む。
**(あれは……レイラ……?)**
昨日とは別人のように冷たく無表情で――
銃の向こうにだけ存在する“狙撃手の世界”に没入していた。
史奈は声をかけようとしたが、
その瞬間、レイラの右手がわずかに動いた。
指がトリガーに触れる。
**パァン……!**
乾いた音。
しかし――
その衝撃は、距離1km以上離れた場所のスナイパーを正確に貫いた。
史奈は
双眼鏡で着弾地点を覗き込む。
**敵スナイパーのヘルメットが、風に揺れながら吹き飛んだ。**
史奈
「…まただよ……嘘でしょ…」
レイラは何の感慨もなく、スコープを閉じた。
体を起こし、砂を払った。
**まるで、“蚊を叩いた”程度の表情。**
戦いに勝った兵士の顔ではない。
兵士がそこにいたことさえ、特別な意味を持たない――
そんな静寂があった。
◆レイラの新任務──“影”を狩る狙撃手
レイラが背負っていた任務は、
**砂漠北部に巣食う高難度傭兵集団“イフリート・カンパニー”の狙撃手排除**。
腕利きぞろいの狙撃チームで、
中でも“紅いスカーフの男”と呼ばれるエースは、
これまでレイラと同等の腕を持つ狙撃手として知られていた。
レイラは単独で砂漠へ潜入し、
熱波と砂嵐の中、深い岩場に身を伏せる。
**(風速:3.4m。距離:1420。熱波の揺れ……補正0.2。)**
感情のない瞳が、数字だけを見て世界を分解する。
その時――
**敵の銃口の反射光が光った。**
レイラ
「…………」
食い違いは一瞬。
敵スナイパーが撃つ。
レイラの頬をかすめる弾丸。
砂が舞い上がる。
だが、レイラはまばたきすらしなかった。
**トリガーにかけた指だけが静かに沈む。**
**パンッ……!**
音は乾いて小さい。
しかし結果は致命的だった。
敵スナイパーは反撃する暇もなく、
額に一発、完璧なセンターヒットを食らい崩れ落ちた。
レイラ
「…“影”は消えた。」
風の中で、その言葉だけが残った。
◆偶然の再会──レイラの“素の顔”
任務を終え、レイラが砂漠を歩く。
史奈は同じ帰路を歩きながら、遠くでその姿を見つけた。
史奈
「昨日と違って…なんか、普通…?」
レイラは完全に別人だった。
昨日の冷たさが嘘のように、
砂漠の小さな虫――殻の透明な甲虫をじっと見つめている。
レイラ
「見てください史奈。
この虫、砂の温度で動きが変化するんです。
脚の関節がほら…」
史奈
「いや……また、虫見てんの…?」
レイラ
「かわいくありませんか?」
史奈
「どこが!!」
史奈は昨日の“冷酷狙撃手”とのギャップに心臓がキュッとなった。
あまりにも
落差が激しすぎる。
レイラは無邪気な子供のように虫を観察し、
無表情のまま嬉しそうに解説を続ける。
**“昨日のあの女”はどこへ消えたのか。**
史奈
(……怖いけど……あの狙撃……本物だ。)
◆静かに始まる“史奈とレイラ”の物語
虫を手のひらに乗せたレイラが、ふと史奈を見上げた。
レイラ
「史奈。
あなた…傷、ありますね。
手当てしましょう。」
史奈
「え…あ、いや……触んなよ…!」
レイラは聞いていない。
勝手に史奈の腕を取り、無表情で包帯を巻き始める。
史奈
「昨日のあんた、どこいったの……?」
レイラ
「昨日……?
ああ、狙撃中のことですか。
あれは……“必要な顔”です。」
史奈
「…怖すぎるわ。」
レイラ
「でも、あなたを守ったのも“あの私”ですよ?」
史奈
「……!?」
レイラは笑わない。
けれど、どこか優しい声だった。
史奈は胸の奥がザワつく。
**(…こいつ…もしかして…)**
“あの寂しい砂漠で、一人ぼっちじゃないのかもしれない”
気付いた瞬間、史奈は喉が熱くなった。
レイラ
「史奈。また任務…一緒に行きますか?」
史奈
「あたしは、単独主義なんだよ…!」
(…でも…悪くないかもな…)
砂嵐の彼方で、
二人の影がゆっくり重なるように伸びていった。
――新たな“相棒未満の絆”が、砂漠で静かに芽生え始めていた。