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#王馬小吉
あい
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!!
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ろろさゔ @よつばリスナー
55
しいな
70
一度設定集をご覧した上で閲覧下さい。
多分その方が分かりやすいです。
イメージソングも聴いて下されば尚良し!
最原 「」
王馬 『 』
雨上がりの朝は、世界の音がよく響く。
鳥の声も、風の抜ける音も、滴る水も、まるでここにしか存在しないかのように。
壊れた街の一角。
倒壊しかけたビルの谷間に挟まるように建っている二階建ての民家が、僕と王馬くんの“家”になっていた。もとは誰かの暮らしていた、ただのボロ家。壁紙は所々剥がれ、玄関のドアは歪んで閉まりが悪い。それでも、雨風は凌げるし、王馬くんが『ここがいい!』と笑ったから、それでいいと思えた。
キッチンの時計は、もう何年も前に止まったままだ。
けれど、僕は毎朝、同じ時間に目を覚ます。太陽の位置で時間を測るのにも慣れた。外の気配を確認して、ゾンビの唸り声が近くにないか耳を澄ませる。
今日は静かだ。だから今日は、連れて行っても良い。
「……おはよう、王馬くん」
二階の部屋のドアをそっと開けると、薄暗い部屋の中で、膨らんだ布団がもぞもぞと動いた。
子供みたいな寝癖をつけた王馬くんが、継ぎ接ぎだらけの毛布から顔だけ出して、眠たそうに目を擦る。無造作に落ちた前髪の隙間から、紫色の瞳が覗いた。
『……ん〜〜、さいはらちゃん……おはよ』
その声は、かつての彼の声とは少し違っていた。
張り詰めた糸がぷつんと切れて、残ったやわらかい部分だけでできたような、甘ったるい響き。
それを聞くたびに、胸が痛む。でも僕は、それを笑顔で受け止める役だから。
「おはよ。今日はね、ショッピングへ行こうか」
『……しょっぴんぐ?』
「うん。久しぶりにね。外、晴れてるよ」
王馬くんの目が、ぱっと輝いた。
壊れた世界の朝なんて、まぶしいわけがないのに。彼にはやっぱり、“普通の街”が見えているみたいだ。
きっと、そうだ。僕がそう見えるように、彼の周りだけを塗り替えているから。
『やった〜〜!! お買い物だぁっ!』
「ふふ、そんなに喜ばなくても」
王馬くんが毛布から飛び出して、裸足のまま床をぱたぱた走り回る。この部屋だけは、他よりも綺麗にしてあった。
昔みたいに、嘘を並べて騙す彼ではない。今の王馬くんは、根元がぐらぐらと揺れた、見せかけだけの残骸でしかないんだ。
僕は、寝癖だらけの髪を割れた全身鏡の前で整えている彼の背中を見つめながら、心の奥に沈殿したものを更に押し込めた。
あの日から、ずっと。ずっとだ。
出かける準備のふりをして、僕は一人、玄関脇の収納へ向かう。
そこには小さなリュックと、整備しきれていないナイフ。そして、小型の拳銃。
弾はもう残り少ない。でも今日は大丈夫だ。今日のルートには、そんなに多くは出ないはず。何度も偵察して、あらかじめ“安全”にしてあるから。
『最原ちゃん、早く〜!』
「はいはい、ちょっと待ってね」
玄関のドアノブを握る手の感触が、嫌いだ。
外は、死と腐臭と絶望で満ちている。
それでも、彼にとっては、“お気に入りのパン屋さん”が並ぶ明るい通りなんだ。
「……よし。行こうか」
『うんっ!』
王馬くんが無邪気に僕の腕を掴む。
この“温もり”が、何よりも痛い。僕が守っているのは、彼の命じゃない。彼の見ている“日常”なんだ。
外に一歩踏み出すと、風が肌を撫でた。
錆びついたガードレール、ひび割れた道路、絡まった草の匂い。
本当なら、人間の死体の残骸や、朽ちた建物が目に映るはずのこの世界が、王馬くんにはどう映って見えているんだろう。
『ねぇねぇ、さいはらちゃん。あそこのパン屋さん、こないだは売り切れだったでしょ? 今日はあるかなぁ。』
「…うん、あるといいね」
“パン屋さん”。そこは実際には、ゾンビパニックに巻き込まれて崩壊したコンビニ跡地だ。
彼の視界に映る“理想”に、僕も乗っかる。だって、それが僕の役割だから。
『パンケーキもあるかなぁ〜。ボク、クランベリーのジャムで食べたい!』
王馬くんが歌うように呟いた。
ふと、鼻先をくすぐるような声色に、胸が締め付けられる。
……そのジャムを、彼はもう何年も口にしていない。
でも、彼の中では、“まだそこにある”のだ。
「あるよ。今日は、きっと」
僕は笑って答える。
その瞬間、通りの角で、かすかな“呻き声”が聞こえた。
ゾンビだ。
でも、王馬くんにその姿は見させない。彼を怯えさせることは許されないから。
「あ、王馬くん。鳥が飛んでるよ」
『わ〜〜!鳥さんっ!』
鳥なんて、もうほとんど飛んでいない。
でも彼は無邪気に、まるで本当に鳥が舞っているかのように空を見上げる。
僕はその隙に、ナイフを抜いて音の主を仕留めた。
首筋を貫いた瞬間、湿った音がした。生き物とはまた違って、深く濁っている。
『ねぇさいはらちゃん、どうかしたの?』
「…鼠がいたんだよ」
『そっかぁ〜』
嘘を吐くのは、僕の役目になった。
崩れたコンビニの前。王馬くんは酷く楽しそうだった。
倒れた鉄骨を「ショーケース」、崩れた天井を「豪華な灯り」、扉の外れた冷蔵庫を「店員のお兄さん」に見立てて、きゃっきゃと声をあげている。
……ほんとうに、楽しそうに。
『ねぇねぇ、さいはらちゃん! 見て! パンケーキ残ってるよ!』
「うん、よかったね」
その手に掴んでいるのは、ただの埃にまみれた空き袋だ。
でも僕は、そのパンケーキを受け取るように微笑んだ。
壊れているのは、僕なのか、彼なのか。
……たぶん、そのどちらでもある。
『じゃあ、これ買って帰ろうね!お気に入りだから、明日の朝も食べるんだぁ〜!』
「うん」
“買う”という行為は、もうとっくに失われた。
それでも、彼の“おままごと”には付き合う。破れたスーパーの広告を「お札」に見立てて。
むしろ、彼がその言葉を言うたびに、僕はほんの少しだけ、救われるような気がするのだ。
壊れた世界の中でたった一つだけ残った“彼”だから。
帰り道、王馬くんは楽しそうに歌う。
彼のお気に入りの曲を、「クランベリーのジャムでも作ろうね」なんて。
彼の声は、この世界は壊れてなんかいないみたいに響く。
僕はその横顔を見つめながら、ふと心の中で呟いた。
「(……ねぇ、王馬くん。もう、何もないんだよ)」
勿論、声には出さない。
彼にとっての“当たり前”は、僕が守るものだから。
ゆらゆらと陽炎のように揺れる王馬くんの笑顔は、僕の罪そのものだ。
けれど、手放せない。
壊れても、終わっても、この笑顔を守るのが、僕のせめてもの“償い”なのだから。
コメント
1件
うわあ……これ、すごく好きだわ。 最原が王馬に嘘の日常を見せてるの、優しさと罪悪感が入り混じっててもう胸がぎゅっとなる。「鼠がいたんだよ」ってゾンビを片付けながら笑うところとか、空き袋をパンケーキとして受け取るシーン、全部が痛いけど温かい。 守るための嘘がここまで切ないって、やばいな。続き、絶対読みたい🔥